烏口骨(うこうこつ、coracoid)は、四肢動物の肩帯を構成する骨の一つである。烏喙骨(うかいこつ)、烏啄骨(うたくこつ)とも呼ばれる。
進化
魚類から両生類に進化するに当たって、肩甲骨の腹側に化骨中心が形成され、肩甲骨と新たに形成された骨との交点に上腕骨との関節窩が形成されるようになった。爬虫類になるとその骨の後方にさらに化骨中心が形成され、肩帯の構成要素の一員となる。広義にはこの二つの骨をまとめて烏口骨(それぞれ anterior coracoid / posterior coracoid とされる)と呼ぶ。ただし狭義には烏口骨と呼ばれるのは爬虫類になって付加された後部の骨だけで、前部の骨は前烏口骨(ぜんうこうこつ、procoracoid)と呼ばれて区別される。
前烏口骨
両生類で現れた広義の烏口骨は狭義には前烏口骨であり、ながらく肩帯の腹側成分として機能していた。爬虫類になって狭義の烏口骨が現れたが、単弓類以外の多くの系統でその狭義の烏口骨は退化してしまい、現生の爬虫類や鳥類で『烏口骨』と呼ばれているものは狭義の呼称では前烏口骨である。
烏口突起
哺乳類として原始的な形質を残している単孔類では、前烏口骨・烏口骨ともに残存しているが、有袋類・有胎盤類では前烏口骨は完全に消滅し、烏口骨は肩甲骨と癒合してその一部となっている。ヒトの肩甲骨などに残る烏口突起(coracoid process)がそれで、かつての烏口骨の名残である。ヒトなどでは鳥のくちばしのような形をしているためにその名が付いた。
烏口突起の名称の変遷
杉田玄白はオランダ語のRaavendeksを訳してカラスの嘴を意味する「烏喙」という名称に翻訳した。杉田玄白がいた当時は「喙」という漢字はポピュラーであったが、時代がくだり「喙」という漢字は徐々に使われなくなった。昭和になり石川啄木の影響もあり誤って「喙」を「啄」と間違え烏啄骨(うたくこつ)と呼ばれることが増えた。あまりにもその勢力がふえたため、昭和16年に日本解剖学会の用語委員会は烏喙骨(うかいこつ)から烏啄骨(うたくこつ)に改定した。しばらくその用語が使われていたが、戦後の漢字簡略化の動きで用語委員会は「喙」という言葉を捨てて「烏口突起」を正式に採用した。