胃亜全摘術 イアゼンテキジュツ 【英】subtotal gastrectomy →胃切除術 |
胃切除術 イセツジョジュツ 【英】gastric resection, gastrectomy 【独】Magenresektion 【仏】gastrectomie 【ラ】resectio ventriculi, gastrectomia
胃の各種疾患に対し,胃を切除し摘出する術式の総称である.多くは胃癌*と胃潰瘍*がその対象となる.切除範囲により,胃を全部切除する胃全摘術*total gastrectomyとそうでない胃部分切除術partial gastrectomyの2つに分けられ,後者はさらに幽門側胃切除術distal partial gastrectomyと噴門側胃切除術proximal gastrectomyに分けられる.これらの中で幽門側胃切除術は胃癌と胃十二指腸潰瘍gastric and duodenal ulcerの治療法として考案,改良され,現在広く普及している術式である.胃十二指腸潰瘍手術では,減酸効果を得るため,塩酸分泌を促すガストリン*分泌細胞領域の幽門洞部と,塩酸を分泌する壁細胞領域の胃体部を含め,胃の約70%を切除する広範囲胃切除術conventional partial gastrectomyがよく行われる.胃癌の手術では癌を体内に残さないため,大網,小網と小弯高位のリンパ節郭清を含めた幽門側胃切除術が行われるが,癌腫の位置,大きさ,進行程度により,胃切除の範囲が80%以上になる.この場合は胃亜全摘術subtotal gastrectomyと呼ぶ.幽門側胃切除後の再建には,ビルロートI法かII法が用いられる.噴門側胃切除術は噴門部の潰瘍,粘膜下腫瘍,癌などに対して行われる.癌の場合は噴門部に限局するもの,漿膜浸潤のないもの,幽門上下リンパ節転移のないものに限って行われる.切除範囲が小さい場合は幽門形成を付加した食道胃吻合が行われ,大きい場合は逆流性食道炎防止のため,食道・残胃間に空腸間置やdouble tract法,ニッセン法Nissen operationが行われる. →図 |
胃潰瘍 イカイヨウ 【英】gastric ulcer(GU) 【独】Magengeschwu¨r 【仏】ulce`re gastrique 【ラ】ulcus ventriculi(UV)
胃粘膜表面の組織欠損を示す病変である.組織の欠損の深さによりUl I~Ul IVに区分している.Ul Iは粘膜層のみに限局しているためにびらん(糜爛)あるいはびらん性胃炎erosive gastritisとして取り扱われることがある.また,Ul IIは粘膜下層,Ul IIIは筋層,Ul IVは筋層を穿通した潰瘍として定義しており,内科的治療対象はUl IIIまでである.原因は粘膜を障害する因子と粘膜の強さ(防御因子)を障害する因子の2通りに分けて考えている.前者には胃液に含まれる塩酸やペプシンおよび外因としてアルコール,刺激性食品,薬剤,化学物質による直接的な粘膜障害がある.後者には粘膜の防御能力と粘液による粘膜保護能力が関与する.この前者には粘膜血流や内因性のプロスタグランジン*が関係しており,後者には粘液層の厚さと性質および粘膜からの重炭酸イオンの分泌による中和機能が関係しているといわれている.これらのバランスに異常が起こると胃潰瘍が発生する.最近は原因として細菌のヘリコバクター*Helicobacterが産生するアンモニアが大きく関与しているといわれている.潰瘍の症状は心窩部痛,食欲不振,膨満感などが多いが,無症状で検診などで発見されることも少なくない.時には吐血,下血*や穿孔による腹膜炎などで発見されることがある.他覚的症状は心窩圧痛,筋性防御や穿孔の場合にはブルンベルグサイン(ブルンベルグ徴候*)Blumberg sign,X線で横隔膜下ガス像を認めることがある.検査法はバリウムによるX線検査,内視鏡検査が行われる.内視鏡的には潰瘍の治癒の状態によりA(active stage), H(healing stage), S(scaring stage)としてそれぞれを1, 2の程度に分けて治癒状態の内視鏡的記載基準(崎田・三輪分類)としている.通常胃潰瘍はAからSにと治癒に向かうが,時としてS(瘢痕)に至らず長期間治療に抵抗する難治性潰瘍例がある.また,難治性潰瘍intractable ulcerとして悪性サイクル*(癌が良性潰瘍としての内視鏡的および肉眼所見の経過を示す)の潰瘍を治療していることがある.治療法は攻撃因子抑制を目的として,制酸薬,抗コリン薬,抗ガストリン薬,抗ペプシン薬,ヒスタミンH2受容体拮抗薬,プロトンポンプ阻害薬*などがある.最近ではヘリコバクターに対して抗生物質が使用される.粘膜防御薬としては胃粘膜血流改善薬,プロスタグランジン増加,粘膜保護などの薬剤が使用されている. |
プロスタグランジンE1, E2, F2α プロスタグランジン 【英】prostaglandin(PG)E1, E2, F2α 【独】Prostaglandin E1, E2, F2α 【仏】prostaglandine E1, E2, F2α
プロスタグランジンは分子内のほぼ中央に5員環を有し,2本の側鎖(α鎖またはカルボキシル側鎖,ω鎖またはアルキル側鎖)をもつ炭素数20個の不飽和モノカルボン酸であり,生体内でより不飽和度の高い3種類の脂肪酸(ジホモ‐γ‐リノレン酸,アラキドン酸,エイコサペンタエン酸)より酵素的に生合成される一連の生理活性物質である.5員環の修飾の違いにより,これまでにDからIまでのプロスタグランジンが天然に発見されている.広義では同じ前駆体より生成され,5員環の代わりに酵素を含む6員環をもつトロンボキサンもこの仲間に加えられる.体内の各臓器,組織に広範囲に含まれ,ヒトでは精液,子宮内膜,脱落膜,月経血,羊水,分娩中の母体血,甲状腺,副腎髄質,肺などに分布する.F2α, E2またはE1とその誘導体はおもにその平滑筋収縮作用から薬剤として用いられている.この平滑筋収縮作用を消化管を例にとってみると,F2αは輪状筋と縦走筋をともに収縮させるのに対し,Eは縦走筋は収縮させるが,輪状筋は逆に弛緩させるように働く.またEの作用として,刺激に対する神経線維末端からのカテコールアミン*の放出への関与があげられ,カテコールアミン放出に対し負のフィードバック作用を示す.F2α, E2は臨床で分娩促進と誘発,子宮頚管軟化,人工妊娠中絶および開腹手術後の腸管麻痺に対して,E1は四肢虚血性潰瘍,肺動脈血栓塞栓症,肺高血圧症*pulmonary hypertensionに対して応用されている. |
カテコールアミン(カテコラミン) カテコールアミン 【英】catecholamine 【独】Katecholamin 【仏】cate´cholamine
カテコール核をもつ生理活性アミンのことでド〔ー〕パミン*dopamine,ノルアドレナリンnoradrenaline(ノルエピネフリン*),アドレナリンadrenaline(エピネフリン*)の総称.とくにアルカリ性で不安定.生体内においてはL‐チロシンからチロシン水酸化酵素によりL‐ド〔ー〕パとなり,ド〔ー〕パ脱炭酸酵素によりドパミン,さらにドパミン‐β‐水酸化酵素によりノルアドレナリン,最後にフェニルエタノールアミンN‐メチル基転移酵素によりアドレナリンに至る経路で合成される.三者ともモノアミン酸化酵素とカテコール‐O‐メチル基転移酵素によって代謝される.神経末端から遊離されたカテコールアミンは主としてO‐メチル化の経路により代謝される.ドパミンの主要代謝産物はホモバニリン酸(HVA)とジヒドロキシフェニル酢酸(DOPAC),ノルアドレナリンとアドレナリンのそれはバニリルマンデル酸(VMA)と3‐メトキシ‐4‐ヒドロキシフェニルエチレングリコール(MHPG,MOPEG)である.三者とも脳内神経伝達物質(モノアミン系ニューロン:ドパミンは黒質‐線状体に,ノルアドレナリンは青斑核にとくに多い)として存在する以外に,末梢においてもドパミンは腎臓のオータコイド*,ノルアドレナリンは交感神経の伝達物質,アドレナリンは副腎髄質ホルモンとして重要である.それぞれ特有の受容体を介して作用する.すなわち,ドパミン受容体にはD1, D2,ノルアドレナリンとアドレナリン受容体は共通でαとβ,それぞれにさらにα1,α2,β1,β2のサブタイプがある.ノルアドレナリンはα作用が強くアドレナリンはβ作用が強い.薬物としてドパミンは血圧を上昇させるが腎動脈は収縮させないのでショックに対し特徴的な効果があり,ノルアドレナリンは低血圧やショックに,アドレナリンは気管支喘息や局麻薬と併用して用いられる.→副腎髄質ホルモン |
胃癌 イガン 【英】gastric cancer, cancer of the stomach, gastric carcinoma 【独】Magenkrebs 【仏】cancer d'estomac
胃の悪性腫瘍*には上皮性腫瘍*と非上皮性腫瘍があるが,胃癌は上皮性の悪性腫瘍である.胃における悪性腫瘍の大部分が癌である.わが国における癌死亡の第1位であるが,近年増加率の低下がみられている.これは胃癌検診の普及による成果と考えられている.組織学的には主に腺癌*であるが,細胞および組織構造の分化により分類されている.すなわち, 1)一般型:乳頭腺癌papillary adenocarcinoma,管状腺癌tubular adenocarcinoma,低分化腺癌poorly differentiated adenocarcinoma,印環細胞癌*,粘液癌*, 2)特殊型:腺扁平上皮癌adenosquamous carcinoma,扁平上皮癌*,カルチノイド腫瘍, 3)そのほかの癌,などである.進行胃癌の肉眼的形態分類は,0型(表在型):病変の肉眼形態が,軽度な隆起や陥凹を示すにすぎないもの.1型(腫瘤型):明らかに隆起した形態を示し,周囲粘膜との境界が明瞭なもの.2型(潰瘍限局型):潰瘍を形成し,潰瘍を取り巻く胃壁が肥厚し周堤を形成する.周堤の周囲粘膜との境界が比較的明瞭なもの.3型(潰瘍浸潤型):潰瘍を形成し,潰瘍を取り巻く胃壁が肥厚し周堤を形成するが,周堤と周囲粘膜との境界が不明瞭なもの.4型(びまん浸潤型):著明な潰瘍形成も周堤もなく,胃壁の肥厚,硬化を特徴とし,病巣と周囲粘膜との境界が不明瞭なもの.5型(分類不能):上記0~4型のいずれにも分類しがたい形態を示すもの,の5型に分類している.一方,臨床的には癌組織の浸潤が粘膜に止まっているものを早期胃癌*として区別して取り扱っている.検査法はX線撮影法,内視鏡検査および生検による組織学的検査,症例によっては血液検査でCEA(carcinoembryonic antigen)の高値などが診断に有力である.臨床症状として胃癌特有な症状はないが,吐血,嘔吐*,狭窄などの随伴症状により発見されることがある.治療法は外科的切除可能な場合には根治切除を原則とする.しかし,他臓器への転移や切除不能症例および高齢者患者のQOL(quality of life)の点などから内視鏡的切除や内視鏡下レーザー照射,化学療法,放射線治療などが行われる. |
悪性腫瘍 アクセイシュヨウ 【英】malignant tumor 【独】bo¨sartige Geschwulst,maligner Tumor 同義語:悪性新生物malignant neoplasm
腫瘍(新生物)を良性腫瘍と悪性腫瘍に二大別し後者をいう.悪性腫瘍はさらに,上皮性悪性腫瘍と非上皮性悪性腫瘍に分類する.前者を癌*または癌腫,後者を肉腫*と呼ぶ.すなわち,悪性腫瘍は主として癌と肉腫からなる.ただし,一般の人を対象にする場合は,癌という言葉は悪性腫瘍の意味で使用する.したがって,癌研究,癌センターなどは悪性腫瘍全体の研究や診断・治療を行うことを意味する.悪性腫瘍は良性腫瘍と異なり,放置すれば次第次第に増大して周囲の組織に浸潤していく.これを浸潤性増殖という.悪性腫瘍は腫瘍そのものを切除するのみならず,そのまわりの組織も共に切除する必要がある主な理由である.悪性腫瘍の多くは遅かれ早かれ転移をきたす.この場合,腫瘍の近くのリンパ節にリンパ行性に転移したり,他の臓器,例えば肝・肺などに血行性に転移する.胃癌*の場合は腹腔に癌細胞*が散布されることも少なくない.この転移の形式を播種*という.悪性腫瘍の性格によって,転移を早期に起こすものもあれば,非常に進行しても転移をきたさないものもあるが,一般には腫瘍が進行すればするほど転移する率が高くなる.転移の予防あるいは転移巣の治療が完全に可能となれば,悪性腫瘍はそれほど恐ろしい病気でなくなるので,そのメカニズムの研究や予防・治療の進歩が望まれる.悪性腫瘍と良性腫瘍の境界を良性悪性境界領域病変,あるいは単に境界病変borderline lesionと呼ぶ.また,悪性腫瘍のうち悪性度の低いものを低悪性の腫瘍tumor of low grade malignancyと呼び,予後は良好である.これに対し悪性度の高いものを,高度悪性の腫瘍highly malignant tumorと呼び,予後は一般に不良である. |
癌 ガン 【英】cancer(Ca),carcinoma(Ca) 【独】Krebs 【仏】cancer(Ca),carcinoma(Ca) 同義語:癌腫
悪性腫瘍*のうち上皮性悪性腫瘍を癌(癌腫)と呼ぶ.癌が占居する臓器の名前を付して使用することが多い(例えば,胃癌,皮膚癌,膀胱癌など).組織学的には,腺癌*,扁平上皮癌*,移行上皮癌,未分化癌*などと分類する.また,癌の発育に従って,微小癌*,早期癌*,進行癌advanced cancerなどとも分類することができる.癌は,一般人を対象とする場合,広義に解釈して,悪性腫瘍の同義語として使用することもしばしば行われる.癌研究所,癌センターでいう場合の癌は非上皮性悪性腫瘍(すなわち肉腫)をも含めた悪性腫瘍全体の意味である.もし癌を狭義の悪性上皮性腫瘍に限定して用いていることを強調したい場合は,癌腫という用語を使用する.ヘパトーマhepatoma(肝細胞癌*),コランギオーマcholangioma(肝内胆管癌),Grawitz腫(腎細胞癌*)などと癌であっても,特定の名称が付されている場合がある.癌腫は初期や早期においては転移を示さないことが多いので,腫瘤そのものを切除すれば治癒することが多い.また,ある程度進行している癌であっても腫瘍切除とともに,リンパ節の郭清を行えば治癒することが少なくない.癌を実験的に作製したのは山極勝三郎(1863‐1930)で世界に先がけてウサギの耳にコールタールを反復塗布することにより成功した(1915).これによって癌の原因をVirchowの刺激説に求めうるとされたが,後年コールタールから多数の化学物質が精製され化学発癌の出発点となった. |
肉腫 ニクシュ 【英】sarcoma 【独】Sarkom 【仏】sarcome 【ラ】sarcoma
肉腫は,ギリシャ語のsarkos(肉)という語からでた名称であり,肉眼的にこの腫瘍が,肉のような外観を呈することから称された.しかし, Virchowによって,今日の肉腫の概念が定められ,非上皮性組織に起源をもつ悪性腫瘍の総称となった.したがって,悪性腫瘍は上皮性組織から発生する癌腫とこの肉腫に二分されることになる.肉腫には線維肉腫*,粘液肉腫,脂肪肉腫*,軟骨肉腫*,骨肉腫*,平滑筋肉腫*,横紋筋肉腫*,血管肉腫*,リンパ管肉腫などが含まれる.そのほかに神経鞘細胞由来の悪性腫瘍も含ませることがある.肉腫は,一般に速やかな発育を示し,その発育は浸潤性,組織破壊性である.癌腫に比べると若年者に発生するものも多くみられ,また,癌腫以上に悪性度の高いものがある. |
線維肉腫 センイニクシュ 【英】fibrosarcoma 【独】Fibrosarkom 【仏】fibrosarcome 同義語:線維形成肉腫fibroplastisches Sarkom
線維芽細胞*に由来する悪性腫瘍.組織分析の手段に乏しかった過去では,類似の形態をしめす肉腫が過剰に線維肉腫として診断される傾向にあったが,診断技術が発達するにつれて厳選されるようになってくると,その発生頻度は従来考えられていたほど高くなく,軟部悪性腫瘍の約7%とされている(遠城寺,1982).30~50歳代に多く発生,男に多いとする報告と性差はないとする報告がある.四肢,肩,体幹に多く,頭頚部は少なく,後腹膜や内部臓器にはまれ.肉眼的には境界は比較的不鮮明,灰白色の軟らかい腫瘍で,出血,壊死を伴い浸潤性に増殖している.組織学的には,紡錘形の腫瘍細胞*が束状に交錯し,特徴的な杉綾模様herringbone patternを示す.多核や奇怪核の巨細胞はみられない.細胞間には膠原線維*や格子〔状〕線維*が形成され,鍍銀標本(鍍銀法*)では太い嗜銀線維が,個々の細胞を取り囲む.高分化型線維肉腫と低分化型線維肉腫の2型に分けられている.高分化型は,腫瘍細胞が良く分化し,膠原線維に富み,予後は比較的良い.低分化型は腫瘍細胞の異型性が強く,核分裂像が多く,肺転移をきたしやすく,予後不良である.この他,乳幼児に発生し成人例に比較して予後良好な乳児型線維肉腫もある. |
腫瘍細胞 シュヨウサイボウ 【英】tumor cell 【独】Tumorzelle, Geschwulstzelle 【仏】cellules tumorales
腫瘍を構成する細胞を腫瘍細胞というが,この際,腫瘍の部分である腫瘍間質を構成する細胞は含めない.すなわち腫瘍実質を構成する細胞である.腫瘍細胞は程度の差こそあれ異型*atypiaを示す.良性腫瘍細胞では異型性が少なく,正常細胞との差を見出すのに難しい場合もある.悪性腫瘍細胞,すなわち癌細胞*や肉腫細胞では異型性が強く,この異型性を利用して臨床的に細胞診*clinical cytologyが行われている.腫瘍細胞は遺伝子のレベルで変化をきたしその変化は不可逆なものと考えられている. |
胃全摘術 イゼンテキジュツ 【英】total gastrectomy 【独】totale Magenresektion 【仏】gastrectomie totale 【ラ】gastrectomia totalis 同義語:胃全切除術
噴門から幽門まで胃をすべて切除する術式である.対象疾患は胃の悪性腫瘍が大部分であるが,びまん性腺腫症,胃噴門部潰瘍,ガストリノーマgastrinomaなどによる胃酸過剰分泌状態なども対象となることがある.胃癌*では,噴門部胃癌,胃全体に広がる癌,あるいは胃体部以下に中心があっても噴門近くにまで広がる癌に対して行われる.根治目的の胃全摘術では周囲のリンパ節も切除に含まれるのが一般的である.癌の広がりによっては,さらに脾臓や膵臓の尾部も合併切除される.切除は開腹のみ,左開胸で横隔膜切除,開胸と開腹,胸腹連続切開などの切開創で行われる.再建は,ビルロートII法型(ビルロート胃切除術*),Roux‐en‐Y法(ルー Y型腸吻合*),空腸間置法jejunal interpositionなどの胃空腸吻合で行われるのが一般的である.空腸脚および間置空腸の長さは逆流性食道炎reflux esophagitis(→食道炎)を防ぐ意味で40cm程度が適当といわれている.食道空腸吻合は,端側 end‐to‐sideあるいは端々end‐to‐endで行われ,吻合器が用いられることも多い.食物貯留機能確保の目的でブラウン吻合*,β吻合,ρ吻合などが行われることもあるが,操作が複雑となり手術時間の延長,吻合数の増加をもたらすわりに効果が少ないので,あまり一般的でない.再建空腸を食道と吻合するに当たって,横行結腸の前方を挙上する方法(結腸前経路antecolic)と横行結腸間膜にあけた穴を通して挙上する方法(結腸後経路retrocolic)があり,胃癌の根治的全摘術の場合は結腸後経路が一般的である. |
ビルロート胃切除術 ビルロートイセツジョジュツ 【英】Billroth's operation 【独】Magenresektion nach Billroth 【仏】ope´ration de Billroth 同義語:ビルロートI法 Billroth I operation,ビルロートII法 Billroth II operation
ウィーン大学のBillrothが行った胃切除術を原法として改良され,今日世界的に最も普遍的となった胃の手術法で,一般に再建法を含めた幽門側胃部分切除術のことをさす.十二指腸断端と残胃を吻合するビルロートI法と十二指腸断端を閉鎖して残胃と空腸を吻合するビルロートII法がある.両者とも胃癌*,胃十二指腸潰瘍gastric and duodenal ulcer,その他胃切除術の対象疾患に対して用いられる.II法の改良法は数多く,それらは主として残胃と空腸の吻合部位,空腸と結腸の前後関係,空腸の蠕動方向,空腸のブラウン吻合*の有無に関するものである.I法の長所は食物の通過が生理的な点であるが,短所は吻合部の狭窄や縫合不全の危険性が高い点である.II法の長所と短所はI法の逆である.最近はI法の短所が改善されて,I法の方がよく行われている(Christian Albert Theodor Billrothはドイツの外科医,1829‐1894). →図 |