亜急性脊髄視神経ニューロパシ(チ)ー
アキュウセイセキズイシシンケイニューロパシー
【英】subacute myelo‐optico‐neuropathy(SMON)
=スモンSMON
スモンSMON
スモン
【英】subacute myelo‐optico‐neuropathy
同義語:亜急性脊髄視神経ニューロパシ(チ)ー
亜急性脊髄視神経ニューロパシーsubacute myelo‐optico‐neuropathyの英文の頭文字をとった病名で,その本態は整腸薬として使用されたキノホルム*chinoformの副作用による中毒性神経障害と考えられている.1955年頃から各地に発生し始め,1970年にキノホルムの使用が禁止されるまで,約1万人が罹患したわが国最大の薬害である.諸外国からの報告はまれである.臨床症状は,下痢・便秘・腹痛などの腹部症状が先行し,引き続き,急性あるいは亜急性に下肢にジンジンした耐え難いしびれ感と感覚障害が出現して上行する.併せて他の脊髄症状(痙性麻痺,腱反射亢進,バビンスキー徴候,膀胱直腸障害)と視神経障害(視力低下,失明)を伴うことが多く,意識障害や痙攣などの脳症状が出現することもある.主病変は脊髄後根神経節,後索,側索,視神経,末梢神経に及ぶ.キノホルム使用禁止以後は新規の発生はないが,有効な治療法がないために,今なお多くの患者が後遺症に苦しんでいる.
キノホルム キノホルム 【英】chinoform 【独】Chinoform 【ラ】chinoformum 同義語:iodochlorhydroxyquin,クリオキノールclioquinol,chloroiodoquie, clioquinolum
C9H5ClINO.淡黄色~淡黄褐色の粉末.ブドウ球菌,レンサ球菌,大腸菌,アメーバなどの原虫に対し殺菌または静菌効果を示す.臨床上は消化管内殺菌または腸内異常発酵,腸性先端皮膚炎などに使用された.外用では皮膚創傷面の殺菌防腐に軟膏として用いられた.水に不溶性のため界面活性剤carboxymethyl celluloseや逆性石ケンsapamineなどと配合して安全な薬として繁用された.ところが以下に述べるとおり本薬物はスモン病の原因であることがわかり,発売停止となった.1899年に合成され,わが国では1935年ごろより使用されてきたが,1955年ごろより下痢症を伴う脳脊髄炎症などが問題になりはじめ,1963年には戸田橋周辺に同様の症状の患者が多発し,戸田橋病と名づけられた.これには視力障害,知覚異常,運動障害を伴うのがつねであった.この神経症状をsubacute myelo‐optico‐neuropathy(スモンSMON*)と呼んだが,原因は不明だった.一方,1934年に赤痢患者にキノホルムを投与すると緑色の油状便がみられることが報告されていたが,SMONの患者には必ず緑色の舌苔*
が出現し,尿中にも緑色の物質が排泄されていた.さらに,貧血性SMON患者に鉄剤を投与したところ尿中に緑色の物質が多量に排泄され,これがキノホルム鉄キレートであることが化学的に証明された.また,入院中のSMON患者はすべてキノホルムを毎日1.2 g以上服用しており,重症の者ほど多量に使用していたことがわかった. |