亜急性甲状腺炎
アキュウセイコウジョウセンエン
【英】subacute thyroiditis
【独】subakute Thyreoiditis
【仏】thyro i¨ dite subaigue¨
全経過が数週から数ヵ月に遷延する甲状腺炎thyroiditisで,原因はウイルスと考えられるが同定はされていない.組織学的には,変性した濾胞が巣状にみられ,その間を巨大細胞を含んだ肉芽組織が占めている.あらゆる年齢で罹患するが,子供はまれである.女と男の比率は3~6 対 1である.頚部痛,耳への放散痛および嚥下痛を伴う硬い甲状腺腫*
甲状腺腫 コウジョウセンシュ 【英】goiter 【独】Struma, Kropf 【仏】goitre 【ラ】struma
正常人の甲状腺は,約20 gの重量を有し,蝶形であるが,それ以上に大きく触知されるときに甲状腺腫という.触診により,推定重量何gという表現で記載される.触知により,全体に均一にその形体のまま大きく触知される場合,びまん性甲状腺腫diffuse goiter,一部または多数の結節を触知する場合を結節性甲状腺腫nodular goiterという.甲状腺ホルモン分泌増加を伴うときを中毒性toxicといい,増加していない場合を非中毒性non‐toxicという.甲状腺腫の大きさおよびその性状は,甲状腺シンチグラムや,甲状腺超音波検査などにより推測される. |
で片葉または両葉が触知される.中等度の熱発,全身倦怠を伴う.赤沈の亢進,123I‐甲状腺24時間摂取率の著しい低下を認める.初期には炎症による組織破壊のため血中サイロキシンおよびサイログロブリン*
サイログロブリン サイログロブリン 【英】thyroglobulin 【独】Thyreoglobulin 【仏】thyroglobuline 同義語:チログロブリン,チレオグロブリンthyreoglobulin
サイログロブリンは甲状腺濾胞細胞で合成される分子量660,000の糖タンパク〔質〕*
で,分子量330,000の2つのサブユニットよりなる.このタンパクを合成する遺伝子は人間では染色体8番のq24という位置にあることが確かめられている.TSH*が作用すると,geneが活性化し,mRNA(メッセンジャーRNA*)
を経てサイログロブリンが合成される.甲状腺細胞に集められたヨードは,ペルオキシダーゼ*peroxidaseの働きによりサイログロブリンをヨード化し,分子内でT4(サイロキシン*)やT3(トリヨードサイロニン*)に合成される.サイログロブリンは甲状腺濾胞に貯えられている.甲状腺が刺激されると,サイログロブリンは細胞内に取り込まれ,タンパク分解酵素の働きで分子がこわれ,T4やT3が特異的にホルモンとして分泌される. |
の上昇がみられ,甲状腺中毒症状を認める.その後一過性に甲状腺ホルモンの低下があり正常化する.罹患者の10%以下に持続性の甲状腺機能低下症*
甲状腺機能低下症 コウジョウセンキノウテイカショウ 【英】hypothyroidism 【独】Hypothyreoidismus 【仏】hypothyroi¨die
甲状腺ホルモン*の合成,分泌が低下し,血中甲状腺ホルモン濃度が減少してホルモンが組織に作用しなくなった結果生ずる病態をいう.甲状腺組織自体に原因がある場合,原発性甲状腺機能低下症*という.成人では自己免疫異常による萎縮性甲状腺炎(慢性甲状腺炎*の一部)によるものがもっとも多い.甲状腺機能亢進症*
治療後(手術,131I,抗甲状腺剤),ヨード欠乏,癌,アミロイドの浸潤などが原因となる.一時的には,慢性甲状腺炎の経過中,silent thyroiditisの一時期に,また慢性甲状腺炎で分娩後(分娩後一過性甲状腺機能低下症)に生ずることがある.TSH分泌に障害がある場合,下垂体性甲状腺機能低下症といい,汎下垂体機能低下症の一部として,またTSH単独欠損症として発生する.視床下部でのTSH*(TSH刺激ホルモン)の欠損による視床下部性甲状腺機能低下症もある.臨床症状は種々な程度があるが,もっとも典型的なものを粘液水腫*という.甲状腺ホルモンによる熱産生が低下するため患者は寒がりで,皮膚は白く冷たく皮下組織に酸性ムコ多糖類が貯留して浮腫状だが圧痕を残さない.アキレス腱反射時間は遅延する.軽度な甲状腺機能低下症では臨床症状を呈さず,サイロキシン*(T4)の軽度な低下,TSH上昇を示すのみである(潜在性甲状腺機能低下症).新生児期に甲状腺機能低下症が発現するとクレチン病*として区別する.甲状腺ホルモンの合成分泌は正常でも,体組織に先天的異常があってホルモンに反応せず,甲状腺機能低下症と同じ症状を示す場合,甲状腺ホルモン不応症thyroid hormone refractorinessという. |
を認める.自然に治癒するが,再燃しやすく数ヵ月以上治癒にかかる.〔治療〕 対症療法で,アスピリン*,ステロイドホルモン*を使用する.
アスピリン アスピリン 【英】aspirin 【独】Aspirin 【仏】aspirine 【ラ】aspirinum 同義語:アセチルサリチル酸acetylsalicylic acid(ASA)
サリチル酸*の酢酸エステルで,白色の結晶,粒,粉末,無臭,わずかに酸味があり,水には溶けにくい.製剤としては,散剤,錠剤,坐剤があり,解熱,鎮痛および抗炎症薬として使用される.プロスタグランジン*生合成抑制,生体高分子との相互作用などにより抗炎症(抗リウマチ)作用を,痛覚刺激によるインパルス発生の抑制,プロスタグランジン生合成抑制,発痛物質の活性抑制などの末梢作用と,中枢神経系(おそらく視床下部*)の抑制の中枢作用により鎮痛作用を,視床下部の体温中枢に作用し,末梢血管の血流増大による熱放散の増加,プロスタグランジンの生合成抑制などにより解熱作用を現すと考えられる.経口投与の場合,主として小腸上部で吸収され,アスピリン自身の半減期は15~20分といわれ,サリチル酸として2~5時間である.〔副作用〕 軽度の胃障害,過量投与によるサリチル酸耳鳴り,過敏症(アスピリン喘息*など),ライ症候群*
との関連性などが指摘されている.〔用量〕 (経口)成人1日1.0~4.0 g. |
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ステロイドホルモン ステロイドホルモン 【英】steroid hormone 【独】Steroidhormon 【仏】hormone ste´roi¨dienne
ステロイドとはシクロペンタノフェナトレン環を共通の母核として有する天然物の総称であるが,副腎皮質,性腺から分泌されるホルモンはこのような化学構造を有し,一括してステロイドホルモンと称される.その基本的分類としてプレグナンpregnane,アンドロスタンandrostane,エストランestraneの3種があり,副腎皮質から分泌されるグルココルチコイド,ミネラルコルチコイド*,および主として黄体,胎盤から分泌されるプロゲステロン*はプレグナンに,精巣(睾丸),副腎皮質から分泌されるアンドロゲンandrogenはアンドロスタンに,卵巣から分泌されるエストロゲン*はエストランに属する.これらステロイドホルモンの生合成は,臓器は異なっても,すべてがコレステロールに始まり,特定の酵素が順序立って作用する共通の過程を経て産生される.その調節は,下垂体からの刺激ホルモンがコレステロールからプレグネノロンへの最初の過程を律速することにより行われる.ステロイドホルモンは,血中では大部分が血漿タンパクと結合し,一部が遊離して存在するが,結合型にはホルモン作用がなく,遊離型のみがホルモン作用を有する.作用機序は,標的器官の細胞内に取り込まれ,場合により変換,活性化され,核内に存在する特異的なレセプターと結合し,これにより新規の(de novo)タンパク生合成を刺激することによると考えられている.代謝は,主として肝により行われ,グルクロン酸ないし硫酸抱合型として尿中に排泄される.また,脂肪組織などの末梢組織ではアンドロゲンの一部がエストロゲンに変換される. |