亜急性甲状腺炎

アキュウセイコウジョウセンエン

【英】subacute thyroiditis

【独】subakute Thyreoiditis

【仏】thyro i¨ dite subaigue¨

 

全経過が数週から数ヵ月に遷延する甲状腺炎thyroiditisで,原因はウイルスと考えられるが同定はされていない.組織学的には,変性した濾胞が巣状にみられ,その間を巨大細胞を含んだ肉芽組織が占めている.あらゆる年齢で罹患するが,子供はまれである.女と男の比率は36 1である.頚部痛,耳への放散痛および嚥下痛を伴う硬い甲状腺腫*

甲状腺腫

コウジョウセンシュ

【英】goiter

【独】Struma, Kropf

【仏】goitre

【ラ】struma

 

正常人の甲状腺は,約20 gの重量を有し,蝶形であるが,それ以上に大きく触知されるときに甲状腺腫という.触診により,推定重量何gという表現で記載される.触知により,全体に均一にその形体のまま大きく触知される場合,びまん性甲状腺腫diffuse goiter,一部または多数の結節を触知する場合を結節性甲状腺腫nodular goiterという.甲状腺ホルモン分泌増加を伴うときを中毒性toxicといい,増加していない場合を非中毒性nontoxicという.甲状腺腫の大きさおよびその性状は,甲状腺シンチグラムや,甲状腺超音波検査などにより推測される.

で片葉または両葉が触知される.中等度の熱発,全身倦怠を伴う.赤沈の亢進,123I‐甲状腺24時間摂取率の著しい低下を認める.初期には炎症による組織破壊のため血中サイロキシンおよびサイログロブリン*

サイログロブリン

サイログロブリン

【英】thyroglobulin

【独】Thyreoglobulin

【仏】thyroglobuline

同義語:チログロブリン,チレオグロブリンthyreoglobulin

 

サイログロブリンは甲状腺濾胞細胞で合成される分子量660,000糖タンパク〔質〕*

糖タンパク〔質〕

トウタンパクシツ

【英】glycoprotein

【独】Glykoprotein

【仏】glycoprote´ine

 

タンパク〔質〕*に糖が共有結合した物質の総称(ただし,プロテオグリカンを除く).糖とタンパク質との結合様式により2群に大別する. 1N‐グリコシド型(血清型).N‐アセチルグルコサミンとアスパラギンとの結合,(マンノース)3‐(N‐アセチルグルコサミン)2 の基本骨格をもつ.1 高マンノース型(チログロブリン),2 複合型(トランスフェリン),3 混合型(オボアルブミン)の3種がある.ドリコール‐リン酸‐糖を介して糖鎖の基本骨格が合成される. 2O‐グリコシド型.1 ムチン型(アルカリ不安定型),N‐アセチルガラクトサミンとセリン(またはトレオニン)との結合(胃液ムチン).2 コラーゲン型(アルカリ安定型),ガラクトースとヒドロキシリジンとの結合(コラーゲン).糖ヌクレオチド*sugar nucleotide

糖ヌクレオチド

トウヌクレオチド

【英】sugarnucleotide

【独】Zuckernukleotid

 

糖の還元基がヌクレオシド‐5′‐二リン酸の末端リン酸基とエステル結合したもの(シアル酸のみ一リン酸(CMP)に結合している).結合している糖は単糖*であるが,例外的に二糖や硫酸化またはリン酸化されたものがある.自然界には60種以上見出されている.あらゆる生物体の細胞の主として可溶画分に存在する.本物質の生合成は, 1)単糖がヘキソキナーゼで糖‐1‐リン酸になり,次いでピロホスホリラーゼの作用で,〔ヌクレオシド‐5′‐三リン酸+糖‐1‐リン酸 ┻ ヌクレオシド‐5′‐二リン酸‐糖+ピロリン酸〕の反応により行われる, 2)糖ヌクレオチドレベルにおける糖の変換反応または修飾反応によって行われる(後述).糖ヌクレオチドには次の生理的役割がある. 1)二糖以上の糖鎖の生合成において,グリコシルトランスフェラーゼglycosyltransferaseの基質すなわち糖残基の供与体となる. 2)グルクロン酸抱合*glucuronate conjugation.ビリルビンや薬物はUDP‐グルクロン酸からグルクロン酸が転移されると水に対する溶解性が高まり解毒される. 3)糖の変換反応および修飾反応による新しい糖残基の生成.次の反応がある.1 エピメリゼーション(UDP‐グルコース ┻ UDP‐ガラクトース).2 酸化(UDP‐グルコース→UDP‐グルクロン酸).3 脱炭酸(UDP‐グルクロン酸→UDP‐キシロース).4 還元的異性化(GDPD‐マンノース→GDPL‐フコース).5 置換,その他.

により合成される.生物界に広く分布し,細胞・組織を構築し,また情報伝達,レセプターまたは抗原性などの生理活性を有する.

で,分子量330,0002つのサブユニットよりなる.このタンパクを合成する遺伝子は人間では染色体8番のq24という位置にあることが確かめられている.TSH*が作用すると,geneが活性化し,mRNA(メッセンジャーRNA*)

メッセンジャーRNA

メッセンジャーアールエヌエー

【英】messenger RNAmRNA

同義語:伝令RNA

 

遺伝子DNA上の情報を細胞質のタンパク質合成装置へ伝えるRNAをいう.原核生物では,5′側先導配列の終わりにリボソーム*の結合を指令するSD配列(→シャイン・ダルガノ配列)をもち,続いてAUGで始まる遺伝暗号子が並び最後に終止(結)コドン*

終止(結)コドン

シュウシコドン

【英】termination codon

同義語:ターミネーションコドン

 

遺伝暗号子の中で,タンパク質合成の終結を指令する信号に当たるもの. UAG(アンバーコドンamber codon), UAA(オーカーコドンochre codon)およびUGA(オパールコドンopal codon)の3つがある. mRNA(メッセンジャーRNA*)に,この配列が現れると,これらに対応するアンチコドン*をもつ転移RNAは通常存在せず,代わりに翻訳終結因子が結合して,ペプチド鎖を転移RNAから切り離し,リボソーム*をmRNAから解離させる.→開始コドン

開始コドン

カイシコドン

【英】initiation codon

【独】Initiationscodon

 

mRNA(メッセンジャーRNA*)上でタンパク質合成の開始を指令するコドン*.これはAUGの三連子であり,ここにはリボソームの小亜粒子が結合し,メチオニン(大腸菌ではホルミルメチオニン)を結合した開始転移RNAが結合し,合成されるタンパク質の第一のアミノ酸を提供する.しかし完成したタンパク質では,このメチオニンは取り除かれることが多い.→終止(結)コドン

3′側後続配列がある.そしてしばしば次のSD配列と新しいタンパクの情報が続く.これをポリシストロニックmRNA polycistronic mRNAという.mRNAはリボソームと結合し,その遺伝暗号は転移RNA(アンチコドン*をもつ)によって解読されて,指定されたアミノ酸配列をもつタンパク質が合成される.真核生物ではタンパク質の情報は,多くの場合DNA上では介在配列(イントロン*)によって中断されており,mRNA前駆体はイントロンとエクソン*(mRNAとして残る部分)が交互に組み合わされた巨大なものとなる(hnRNA).さらに5′末端には特殊なキャップ構造*と,3′末端にはポリA鎖が付き,これらと相前後してイントロン部分が切り出され,エクソンのみが正しい順序に繋がって(これをスプライシング*という)成熟したmRNAとなる.真核mRNAにはSD配列はないが,5′側から最初のAUGから翻訳*が始まることが多くキャップ構造と5′先導配列の構造がこれを決めているらしい.原核生物では,急変する環境に即応するため,mRNAの寿命は通常短いが,真核生物では,分化した細胞が,続けて多くの特異的タンパク質を作るため,mRNAの寿命は比較的長いものが多い.分化した細胞は,それぞれ異なるmRNA集団をもっており,それらが細胞の形質を決定していると考えられている.

を経てサイログロブリンが合成される.甲状腺細胞に集められたヨードは,ペルオキシダーゼ*peroxidaseの働きによりサイログロブリンをヨード化し,分子内でT4(サイロキシン*)やT3(トリヨードサイロニン*)に合成される.サイログロブリンは甲状腺濾胞に貯えられている.甲状腺が刺激されると,サイログロブリンは細胞内に取り込まれ,タンパク分解酵素の働きで分子がこわれ,T4やT3が特異的にホルモンとして分泌される.

の上昇がみられ,甲状腺中毒症状を認める.その後一過性に甲状腺ホルモンの低下があり正常化する.罹患者の10%以下に持続性の甲状腺機能低下症*

甲状腺機能低下症

コウジョウセンキノウテイカショウ

【英】hypothyroidism

【独】Hypothyreoidismus

【仏】hypothyroi¨die

 

甲状腺ホルモン*の合成,分泌が低下し,血中甲状腺ホルモン濃度が減少してホルモンが組織に作用しなくなった結果生ずる病態をいう.甲状腺組織自体に原因がある場合,原発性甲状腺機能低下症*という.成人では自己免疫異常による萎縮性甲状腺炎(慢性甲状腺炎*の一部)によるものがもっとも多い.甲状腺機能亢進症*

甲状腺機能亢進症

コウジョウセンキノウコウシンショウ

【英】hyperthyroidism

【独】Hyperthyreoidismus

【仏】hyperthyroi¨disme

同義語:甲状腺中毒症thyrotoxicosis

 

甲状腺においてホルモンの合成と分泌が増加し,そのために甲状腺ホルモン過剰の症状が出現している状態を甲状腺機能亢進症という.臨床的には, 1) 甲状腺中毒症の諸症状のあること, 2) 血中甲状腺ホルモンが増加していること, 3) 放射性ヨード甲状腺摂取率が増加して,甲状腺におけるホルモン合成の増加が裏づけられることにより診断できる.甲状腺機能亢進症を起こす原因として,わが国ではバセドウ病*(Graves病)が圧倒的に多い.この疾患は自己免疫性甲状腺疾患の一つで,TSH*(甲状腺刺激ホルモン)受容体に結合してこれを刺激する抗体が産生されるために機能亢進が起こると理解される.抗甲状腺剤で甲状腺ホルモンの合成を抑制することにより,131Iで甲状腺組織を破壊することにより,あるいは外科的に甲状腺亜全摘術を行うことにより治療する.バセドウ病以外には機能亢進性の腺腫ができて自動的にホルモンを過剰に合成分泌する場合(プランマー病*)

プランマー病

プランマービョウ

【英】Plummer disease

同義語:結節性甲状腺中毒症toxic adenomatous goiter

 

1928年,Plummerにより報告された.腺腫様甲状腺腫*に甲状腺中毒症を伴う場合をいう.原因は不明.5070歳に起こりやすい.症状は一般に軽いが,心不全,心房細動*,頻脈により発見されることもある.バセドウ病眼症状を伴わない.123I‐スキャンでは1個,または数個の結節状の123Iの集積を認める.〔治療〕甲状腺腫が小さいときは131I療法を,大きい場合は抗甲状腺薬服用後に手術摘除する(Henry Stanley Plummerはアメリカの医師,18741937).

があるが頻度は少ない.またヨード欠乏地域に急にヨードがゆきわたると,それまでヨード欠乏に適応していた甲状腺が過剰にホルモンを産生して甲状腺機能亢進症が多発することがある(ヨードバセドウ〔病〕*).また北欧では,甲状腺機能亢進症をきたす病因としてバセドウ病以外に多結節性甲状腺腫が多いとされている.これは腺腫様甲状腺腫に近い病態で甲状腺ホルモン*が過剰に産生されるものと考えられる.このほか,まれな疾患として,下垂体TSH産生腫瘍によるもの,視床下部TRHの産生過剰によるもの,胞状奇胎*,絨毛上皮癌で過剰産生されるHCGの甲状腺刺激作用による甲状腺機能亢進症が知られている.

治療後(手術,131I,抗甲状腺剤),ヨード欠乏,癌,アミロイドの浸潤などが原因となる.一時的には,慢性甲状腺炎の経過中,silent thyroiditisの一時期に,また慢性甲状腺炎で分娩後(分娩後一過性甲状腺機能低下症)に生ずることがある.TSH分泌に障害がある場合,下垂体性甲状腺機能低下症といい,汎下垂体機能低下症の一部として,またTSH単独欠損症として発生する.視床下部でのTSH*(TSH刺激ホルモン)の欠損による視床下部性甲状腺機能低下症もある.臨床症状は種々な程度があるが,もっとも典型的なものを粘液水腫*という.甲状腺ホルモンによる熱産生が低下するため患者は寒がりで,皮膚は白く冷たく皮下組織に酸性ムコ多糖類が貯留して浮腫状だが圧痕を残さない.アキレス腱反射時間は遅延する.軽度な甲状腺機能低下症では臨床症状を呈さず,サイロキシン*(T4)の軽度な低下,TSH上昇を示すのみである(潜在性甲状腺機能低下症).新生児期に甲状腺機能低下症が発現するとクレチン病*として区別する.甲状腺ホルモンの合成分泌は正常でも,体組織に先天的異常があってホルモンに反応せず,甲状腺機能低下症と同じ症状を示す場合,甲状腺ホルモン不応症thyroid hormone refractorinessという.

を認める.自然に治癒するが,再燃しやすく数ヵ月以上治癒にかかる.〔治療〕 対症療法で,アスピリン*,ステロイドホルモン*を使用する.

アスピリン

アスピリン

【英】aspirin

【独】Aspirin

【仏】aspirine

【ラ】aspirinum

同義語:アセチルサリチル酸acetylsalicylic acid(ASA)

 

サリチル酸*の酢酸エステルで,白色の結晶,粒,粉末,無臭,わずかに酸味があり,水には溶けにくい.製剤としては,散剤,錠剤,坐剤があり,解熱,鎮痛および抗炎症薬として使用される.プロスタグランジン*生合成抑制,生体高分子との相互作用などにより抗炎症(抗リウマチ)作用を,痛覚刺激によるインパルス発生の抑制,プロスタグランジン生合成抑制,発痛物質の活性抑制などの末梢作用と,中枢神経系(おそらく視床下部*)の抑制の中枢作用により鎮痛作用を,視床下部の体温中枢に作用し,末梢血管の血流増大による熱放散の増加,プロスタグランジンの生合成抑制などにより解熱作用を現すと考えられる.経口投与の場合,主として小腸上部で吸収され,アスピリン自身の半減期は1520分といわれ,サリチル酸として25時間である.〔副作用〕 軽度の胃障害,過量投与によるサリチル酸耳鳴り,過敏症(アスピリン喘息*など)ライ症候群*

ライ症候群

ライショウコウグン

【英】Reye syndrome

【独】ReyeSyndrom

 

小児にみられる急性脳症*である.発病初期では高アンモニア血症*,低血糖症*がみられ,引き続いて血清高GOT, GPT,プロトロンビン値低下などの肝機能障害が認められる.肝生検所見でのKupffer細胞の腫大,小脂肪滴の散在などを特徴とする.1963Reyeによって報告された.脳波は非特異的な徐波を示し,脳脊髄液に異常はない.剖検例での大脳には脳浮腫,乏血性変化,ニューロンの消失を特徴的所見とする.生化学的な異常内容と肝での電子顕微鏡所見からミトコンドリアの異常が病態の中心をなしていると考えられている.原因因子として,ウイルス感染,中毒,尿素サイクルの代謝異常があげられているが,すべての例を一つで説明できない.症候は重度であり,しばしば死亡したり,重篤な後遺症を残す.わが国に古くからあり,病理所見に類似性の多い疫痢*との鑑別がかつて重要であったが,生化学的な病態がやや異なるとみられている.〔治療〕 特効的なものはない.体液バランスの維持,エネルギー機能の維持・補給,血漿交換などが行われている.

との関連性などが指摘されている.〔用量〕 (経口)成人11.04.0 g

ステロイドホルモン

ステロイドホルモン

【英】steroid hormone

【独】Steroidhormon

【仏】hormone ste´roi¨dienne

 

ステロイドとはシクロペンタノフェナトレン環を共通の母核として有する天然物の総称であるが,副腎皮質,性腺から分泌されるホルモンはこのような化学構造を有し,一括してステロイドホルモンと称される.その基本的分類としてプレグナンpregnane,アンドロスタンandrostane,エストランestrane3種があり,副腎皮質から分泌されるグルココルチコイド,ミネラルコルチコイド*,および主として黄体,胎盤から分泌されるプロゲステロン*はプレグナンに,精巣(睾丸),副腎皮質から分泌されるアンドロゲンandrogenはアンドロスタンに,卵巣から分泌されるエストロゲン*はエストランに属する.これらステロイドホルモンの生合成は,臓器は異なっても,すべてがコレステロールに始まり,特定の酵素が順序立って作用する共通の過程を経て産生される.その調節は,下垂体からの刺激ホルモンがコレステロールからプレグネノロンへの最初の過程を律速することにより行われる.ステロイドホルモンは,血中では大部分が血漿タンパクと結合し,一部が遊離して存在するが,結合型にはホルモン作用がなく,遊離型のみがホルモン作用を有する.作用機序は,標的器官の細胞内に取り込まれ,場合により変換,活性化され,核内に存在する特異的なレセプターと結合し,これにより新規の(de novo)タンパク生合成を刺激することによると考えられている.代謝は,主として肝により行われ,グルクロン酸ないし硫酸抱合型として尿中に排泄される.また,脂肪組織などの末梢組織ではアンドロゲンの一部がエストロゲンに変換される.