悪性肝腫瘍
アクセイカンシュヨウ
【英】malignant tumor of the liver
→肝腫瘍
肝腫瘍
カンシュヨウ
【英】tumor of the liver
【独】Lebertumor
【仏】tumeur de foie
肝臓に生ずる新生物を肝腫瘍と総称している.良性肝腫瘍benign tumor of the liverと悪性肝腫瘍malignant tumor of the liverとがあり,後者には肝臓に原発するものと,他の臓器よりの転移性のものとがある.良性腫瘍の代表は肝細胞腺腫liver cell adenomaと肝血管腫*hemangioma of the liver(肝血管腫
カンケッカンシュ
【英】hemangioma of the liver
【独】Leberha¨mangiom
【仏】he´mangiome de foie
肝における血管より構成される腫瘍で,肝臓の良性腫瘍の中で最も頻度の高い腫瘍である.血管腫には, 1)毛細血管腫capillary angioma, 2)海綿状血管腫cavernous hemangioma,および3)血管内皮腫*hemangioepithelioma(血管内皮腫 ケッカンナイヒシュ
【英】hemangioendothelioma
【独】Ha¨mangioendotheliom
【仏】he´mangio‐endothe´liome
血管内皮細胞由来の腫瘍の一型であり,内皮細胞が1層とは限らず2層,3層にも増殖し,血管腔がしばしば不鮮明となるものをさし,良性型と悪性型とがある.良性型血管内皮腫は,小児,とくに乳幼児の頭頚部に好発し,成長するに従って自然退縮することもある.悪性血管内皮腫malignant hemangioendotheliomaは,広義の血管肉腫*(血管肉腫
ケッカンニクシュ
【英】angiosarcoma
【独】Angiosarkom
【仏】angio‐sarcome
同義語:悪性血管内皮腫malignant hemangioendothelioma
血管原性の悪性腫瘍で,悪性血管内皮腫と悪性血管外皮腫malignant hemangiopericytomaに大別されるが,通常前者をさす.軟部腫瘍中では,比較的まれなものの一つである.成人男性に好発する.好発部位は頭頚部,下肢,体幹などの皮膚や,軟部組織,乳房,内臓(肝,脾など),骨である.組織学的には,分化型では異型内皮細胞が単層,または多層の配列を示して増殖し,不規則に吻合する小血管腔を形成するが,未分化型では明らかな血管内腔を認めず,未熟な異型内皮細胞の均一性,充実性の増殖をみる.)のうちの一型で成人にみられ,頭頚部,下肢,体幹などの軟部組織,乳腺,肝,脾などに発生する.)がある. 1)は平坦な形をとり,皮膚などの血管腫に合併することが多い. 2)は肝血管腫のなかで最も頻度が高く,女性に多い.ときに腫瘍内の血管内凝固により血液凝固障害(カサバッハ・メリット症候群*Kasabach‐Merritt syndrome)を呈する. 3)は小児期にみられる例が多い.)であり,原発性悪性腫瘍の代表は肝細胞癌*liver cell carcinoma(hepatocellular carcinoma)(肝細胞癌
カンサイボウガン
【英】hepatocellular carcinoma(HCC),liver cell carcinoma
【独】hepatozellula¨rer Krebs, Leberzellenkrebs
同義語:ヘパトーマhepatoma, Hepatom
肝に原発する上皮性悪性腫瘍の一つの型で,肝細胞に似た腫瘍細胞からなる.実質性の軟らかい腫瘍で,肉眼的に結節型,塊状型およびびまん型の3型に分類されている.通常,肝に多数の腫瘤を形成している.腫瘤は出血や,変性・壊死を起こす傾向が強く,その色調は白色,黄色(脂肪浸潤による),暗赤色(出血による),緑色(胆汁産生とそのうっ滞により,ホルマリン固定後に顕著となる)など多彩である.肝の表面に生じた腫瘤は半球状に突出することが多く,一般には癌臍umbilicationを認めない.転移性肝癌では癌臍を認めることが多いのに対して,留意すべき特徴である.また,肝血管内に増殖・進展する傾向が強く,しばしば門脈に腫瘍栓を形成する.わが国を含めてアジア,アフリカ地域に多発し,肝硬変*(肝硬変
カンコウヘン
【英】cirrhosis
【独】Leberzirrhose
【仏】cirrhose
線維増生と再生結節で特徴づけられる肝臓のびまん性疾患である.過去に何らかの原因で肝細胞に壊死が起こり,その結果増生した線維が,結節性に再生した肝実質を取り囲んだ像をいう.壊死の原因はいろいろであるが,終末像は同じである.結節形成のない線維化,線維化のない結節形成は肝硬変と呼ばない.病因別,組織形態別の分類がなされている.Sherlock(1984)は病因別に次のように分類している.viral hepatitis(ウイルス性肝炎*)(ウイルス性肝炎
ウイルスセイカンエン
【英】viral hepatitis
【独】Virushepatitis
【仏】he´patite a` virus
肝炎ウイルスの感染による肝臓の炎症で,急性肝炎*(急性肝炎
キュウセイカンエン
【英】acute hepatitis(AH)
【独】akute Hepatitis
【仏】he´patite aigue¨
【ラ】hepatitis acuta
肝臓の急性に経過するびまん性の炎症性疾患である.原因としては,肝炎ウイルス*(HAV,HBV,HCV)〔HEV,HDVは日本ではほとんどみられない〕や薬物によるものがあげられる.重症度や臨床経過により定型的急性肝炎,劇症肝炎*,さらに亜急性肝炎*などに分類される.また急性肝炎は,輸血による血清肝炎(輸血後肝炎*)と経口感染による流行性肝炎,散発性肝炎とに分けることができる.肝組織像では種々の程度の肝細胞の変性・壊死(劇症肝炎では広範壊死,亜急性肝炎では亜広範壊死),門脈域や小葉内の細胞浸潤,クッパー細胞の増生と腫大,さらには胆汁色素や胆栓などの胆汁うっ滞の所見がみられるが,線維化はみられない.臨床的には肝炎ウイルスによるものでは発症初期にはウイルス感染症としての全身性の症状が前駆し,次いで全身倦怠感,食欲不振,悪心,嘔吐,黄疸などの肝炎症状が出現する.薬物によるものでは,とくに薬剤アレルギーによるものでは発疹がしばしば先行する.検査所見としては血清GOT・GPTの著しい上昇と血清総ビリルビン値(直接型優位)の上昇があり,ビリルビン値の上昇のみがとくに目立ち,1ヵ月以上持続する型として急性肝内胆汁うっ滞*がある.薬物によるものでは好酸球増多がみられる.)と慢性肝炎*(慢性肝炎
マンセイカンエン
【英】chronic hepatitis
【独】chronische Hepatitis
【仏】he´patite chronique
【ラ】hepatitis chronica
同義語:慢性ウイルス性肝炎chronic viral hepatitis
わが国では次のような肝組織診断基準(第11回犬山シンポジウム,1979)が用いられている.慢性肝炎とは,6ヵ月以上肝臓に炎症が持続,あるいは持続していると思われる病態である.組織学的には門脈域を中心とした持続性の炎症があり,円形細胞浸潤と線維の増生により,門脈域の拡大がみられ,活動性と非活動性に区分される.活動性ではpiecemeal necrosisが著明で,小葉内細胞浸潤と肝細胞の変性ならびに壊死(spotty necrosis, bridging necrosis)を伴う.非活動性では上記の変化はいずれも軽微である. 〔付則〕 1)ここにいう慢性肝炎とは,主としてウイルス性肝炎*と想定されるものを対象としている. 2)著明なbridging necrosisを伴う活動性の慢性肝炎は急速に肝硬変*に移行する頻度が高い. 3)慢性肝炎の中には,門脈域に円形細胞浸潤があるが,線維増生を伴わないものがあり,組織病変の進展がみられない場合はpersistent hepatitisとする. 4)活動性の一部は非活動性に移行するものもあり,またこの逆もあり得る.原因はB型,C型肝炎ウイルス*の持続感染*によるものである.B型肝炎ウイルス*による慢性肝炎では血中のHBs抗原は6ヵ月以上陽性で,HBc抗体が高力価を示す.C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎では,HCV抗体*が持続陽性である.PCR〔法〕*により血中ウイルスの存在を証明すれば確診できる.臨床的には6ヵ月以上,肝機能検査の異常や自覚症状の続くものをいう.)とがある.起因ウイルスには,A型,B型,C型,D型,E型が確認されている.A型とE型は経口感染し,B型,C型,D型は血液を介して感染する.すべての型が急性肝炎を起こし,B型,C型は慢性肝炎患者に持続感染している.D型は常にB型と共存する.急性肝炎では発症初期にはウイルス感染症としての全身性の症状が前駆し,次いで,食欲不振,全身倦怠感,悪心,嘔吐,黄疸などの肝炎症状が出現する.軽症のものでは症状が自覚されないこともある(不顕性肝炎inapparent hepatitis).肝機能所見としては血清トランスアミナーゼの著しい上昇と多くの場合,血清総ビリルビン(直接型優位)の上昇をみる.A型肝炎ウイルス*やB型肝炎ウイルス*による急性肝炎は慢性化することはないが,C型肝炎ウイルス*によるものは遷延化ないし慢性化する頻度が高い.慢性肝炎はB型, C型肝炎ウイルスによるもので,臨床的には6ヵ月以上,肝機能異常や自覚症状のあるものである.なお,起因ウイルスの研究は日進月歩しA~E型以外(G型など)も報告されている.),alcoholic hepatitis(アルコール性肝炎*),metabolic,cholestasis,hepatic venous outflow block,immunological,toxins & drugs,Indian childhood,cryptogenicである.肉眼所見ではmicronodular,macronodular,mixedの3型に分ける.組織学的にはportal,postnecrotic,biliary,venous outflow obstructive,hemochromatoticなどである.現在までに種々の分類が試みられ,やや混乱気味であった.それは成因と病理形態,臨床を明確に分離しなかったことによる.病態は肝細胞障害と門脈圧亢進症とに基づく.前者は黄疸*,腹水,肝性脳症*,低アルブミン血症*,出血傾向など,後者は脾腫*,食道静脈瘤などで表現される.これら症状の有無により代償性と非代償性に分ける.わが国では,HBV陽性20%,HCV陽性50%,アルコール性12%,その他18%程度である.予後は成因により異なる.死因は肝性脳症,静脈瘤破綻,肝癌合併が主であるが,前二者の治療法の発達で生存率が高まり,肝癌死する頻度が増加しつつある.→肝線維症)が併存していることが多い.)と肝内胆管癌intrahepatic cholangiocarcinoma(cholangiocellular carcinoma)である.転移性悪性腫瘍は胃癌,大腸癌,膵癌,胆嚢癌よりの転移例が多い.→肝癌(肝癌
カンガン
【英】hepatoma
【独】Hepatom
【仏】carcinome he´patocellulaire
【ラ】hepatoma
原発性肝細胞癌primary hepatocellular carcinoma,肝内胆管癌intrahepatic cholangiocarcinoma,その混合型,転移性肝癌*metastatic cancer of the liver(転移性肝癌
テンイセイカンガン
【英】metastatic cancer of the liver
【独】metastatischer Leberkrebs
【仏】carcinome me´tastatique du foie
肝臓は悪性腫瘍の血行性転移を最も受けやすい臓器である.すべての癌の1/3は肝臓に転移するといわれる.門脈支配領域にある胃,大腸,膵臓,食道,胆嚢のほか肺,乳房の癌,黒色腫などの転移が多い.栄養血管は肝動脈であるからその閉塞術や抗癌剤注入が有効である.結節型,塊状型,浸潤型がある.多発性が多い.肉眼的には黄灰白色を呈し,中心部の壊死により癌臍umbilicationを形成する.組織所見は原発巣のそれに類似する.→肝癌)などの総称であるが,一般に肝癌といえば,原発性肝細胞癌をさす.おおむね肝硬変*cirrhosisに合併する.HBV陽性肝癌は減少の傾向にある.HCV抗体の検査が可能になりアルコール性肝硬変患者の大部分がHCV感染者であることがわかり,純粋なアルコール性肝癌は減りHCV陽性肝癌が激増している.わが国ではHBV陽性20%,HCV陽性70%,両者陰性10%である.肉眼的分類は結節型,塊状型,びまん型(Eggel)の3型を基本としているが,肝硬変合併の有無,被膜の有無,門脈腫瘍塞栓の有無,増殖様式などを考慮して種々の分類が可能である.診断はαフェトプロテイン*,超音波検査,CT,血管造影,腹腔鏡などで行う.小肝癌small liver cancer(直径2cm以下)の発見率が高まり,肝切除術が広く行われるようになった.肝動脈塞栓術transcatheter arterial embolization(TAE),化学療法,アルコール局注法などがある.転移性肝癌は,肺癌,胃癌,膵癌,大腸癌,胆嚢癌,乳癌,食道癌,子宮癌,腎癌などの順で多い.原発巣の種類と進展の程度によって切除や化学療法が行われる.)