秋疫

アキヤミ

【英】autumnal fever

→レプトスピラ症

レプトスピラ症

レプトスピラショウ

【英】leptospirosis

【独】Leptospirose

【ラ】leptospirosis

 

病原性レプトスピラは一括してLeptospira interrogansというが,その中で血清学的に異なるものは血清型serovarといい,180余りに及ぶ.わが国に存在する主なレプトスピラ症と病原レプトスピラの血清型との関係は,黄疸出血性レプトスピラ症*(ワイル病)はserovars icterohaemorrhagiae, copenhageni, 秋季レプトスピラ症serovars autumnalis, hebdomadis, australis,イヌ型レプトスピラ症はserovar canicola, 沖縄ではserovars pyrogenes, javanicaなども分離されている.自然界におけるレプトスピラの主な保有動物はネズミであるが,イヌや家畜も重要である.レプトスピラはネズミやイヌなどに感染すると,それらの尿細管に長期間保持され,尿中に排泄される.したがって,それらの尿で汚染された水や土壌を介して主として経皮的に感染するが,汚染された飲食物により経口的にも感染する.重症型の代表は黄疸出血性レプトスピラ症(ワイル病)で,黄疸,出血,タンパク尿を三主要徴候とするが,一般に,秋季レプトスピラ症やイヌ型レプトスピラ症ではそれよりも軽症で,発熱や髄膜刺激症状*を主徴とするものが多い.秋季レプトスピラ症は,七日熱(なぬかやみ)・八日熱(福岡県),秋疫・用水熱・天竜疫(静岡県),波佐見熱*(長崎県),作州熱(岡山県),アッケ病(大分県),伊万里熱(佐賀県)など,異なった病名で古くから風土病的に知られているが,そのほかの地方にも田園地帯や山間部に広く分布している.後発症として,解熱後1ヵ月ないし半年位の間に硝子体混濁が出現することがあり,俗に「あがり目」といわれる.確定診断法として,病原レプトスピラの証明は,第1病週の血液や髄液,第2病週以後の尿を材料として,モルモットの腹腔内接種,あるいはコルトフ培地などへの直接培養法による.血清学的診断には顕微鏡的凝集反応が用いられる.〔治療〕 ストレプトマイシンが最も有効で,第4病日までに開始することが望ましい.乏尿,無尿,高度の黄疸,意識障害,嘔吐,しゃっくりなどが持続し,尿素窒素が100mg/dL以上を示す場合は重症で,200mg/dLに達した時は腹膜透析*または血液透析*を行う.予防ワクチンはきわめて有効である.

黄疸出血性レプトスピラ症

オウダンシュッケツセイレプトスピラショウ

【英】leptospirosis icterohaemorrhagica

【仏】leptospirose icte´rohe´morragique

【ラ】leptospirosis icterohaemorrhagica

同義語:ワイル病Weil's disease, WeilKrankheit, maladie de Weil

 

〔病原・疫学〕 病原体は,Leptospira interrogans serovar icterohaemorrhagiaeserovar copenhageniで,1914年に稲田龍吉と井戸泰によって発見された.病原レプトスピラは,ドブネズミなどの尿細管に長期間保持されており,尿に排泄されるので,それに汚染された水や土壌を介して主として経皮感染,時に経口感染もする.患者は農業や飲食店従事者などが多い.〔臨床所見〕 潜伏期間は214日,多くは57日.経過は3期に分け,第1病週を発熱期,第2病週を発黄期(黄疸期),第3病週以後を回復期とする. 1)発熱期:発病は急激で,悪寒を伴って高熱を発する.初発症状のうちもっとも特徴があるのは眼球結膜の充血,次いで筋肉痛,腰痛,高度の全身倦怠感などである.第45病日から,黄疸,出血傾向が現れる.発熱期間は 78日で渙散*状に解熱するが,全身症状は高度となる. 2)発黄期:黄疸と出血傾向が顕著となる.重症例では出血傾向が強く,また,腎不全,心不全,神経症状,消化器症状が高率にみられ,もっとも危険な時期である. 3)回復期:黄疸や出血は消退しはじめるが,重症例では回復に23ヵ月を要する.第 1316病日頃に 34日間の発熱をみることがあり,これを後発熱という.発病初期からみられる重要な臨床検査所見は,1 タンパク尿,2 赤沈の高度促進,3 白血球増加で,尿素窒素の著しい増加は重症例にみられる.GPT*,GOT*, LDH(乳酸脱水素酵素*),膠質反応は軽度の上昇に止まる.〔診断〕病原レプトスピラの証明は,第1病週では血液,髄液,第2病週以降は尿からの培養,モルモットへの接種.特異抗体の証明は顕微鏡的凝集反応などによる.〔治療〕ストレプトマイシンがもっとも有効で,第5病日までに適切な治療を開始した場合の致死率は 10%以下であるが,それ以後では 2040%に及ぶ.〔予防〕ワクチンはきわめて有効である.→レプトスピラ症

髄膜刺激症状

ズイマクシゲキショウジョウ

【英】meningeal irritation sign

【独】Meningealreizerscheinung

 

クモ膜下出血あるいは各種髄膜炎による炎症などによって髄膜が刺激された時にみられる症候の総称で,項部硬直*,ケルニッヒ徴候*Kernig's sign,ブルジンスキー徴候*Brudzinski's signなどの徴候のほか頭痛,羞明,悪心・嘔吐その他がみられる.頭痛や意識障害を呈する症例には必ずこれら髄膜刺激症状の有無を検査することが大切であり,これを示す場合は脳炎*,髄膜炎*,クモ膜下出血*,脳出血(高血圧性脳内出血*)など髄液に異常がみられる疾患が大多数を占める.

波佐見熱

ハサミネツ

長崎県の波佐見地方における秋季レプトスピラ症で, Leptospira interrogans serovar autumnalisおよびserovar hebdomadisを病原とする.開業医小鳥居らにより波佐見熱と称し報告された.→レプトスピラ症

腹膜透析

フクマクトウセキ

【英】peritoneal dialysisPD

【独】Peritonealdialyse

【仏】dialyse pe´ritone´ale

同義語:腹膜潅流peritoneal lavage

 

末期腎不全の治療法の一種で,腹膜(1 m2)を半透過膜として溶質の拡散を行い,腹腔内に注入する潅流液の浸透圧差を用いて水分と溶質を除去する方法である.この方法は1959年に, Maxwellが腹膜潅流液の基本組成を開発して以来,臨床応用され,現在でも尿毒症*の治療法となっている.その間にTenckhoffらの腹腔内留置カテーテルの開発,自動腹膜透析装置の開発などがあり,血液透析*法が十分普及していなかった時期には,中心的な末期腎不全の治療法であった.この方法には,間欠的腹膜透析法(IPD*)と持続的外来腹膜透析法(CAPD*)とに大別される.血液透析法と比較すると特別の装置も必要とせず,抗凝固薬の使用もなく,安価に透析治療が可能である.しかも中分子量以上の尿毒症性物質の除去効率がよく,水・電解質の調整にも優れた効果を示す.欠点は操作が煩雑で,長時間かかること,タンパクの漏出や腹膜炎*の発生があり,普及の妨げとなっている.

 

血液透析

ケツエキトウセキ

【英】hemodialysisHD

【仏】he´modialyse

 

この原理は血液と透析液の間で半透膜を介した拡散diffusionによる物質輸送と限外濾過圧(陽圧または陰圧)による水分除去からなる.血液透析法が臨床的に応用されたのは,1943年アメリカのKolffによるのが最初である.尿毒症*患者に対して,セロファンチューブを巻いた回転ドラム型の透析器が使用された.以来血液透析療法は急速に進歩・普及し,透析器の改良,血液を体外に導き出すシャントの改良,抗凝固薬の改良,透析液の変遷などが行われてきている.わが国の血液透析療法の黎明は1960年代の後半からであり,1970年代には慢性腎不全*患者の治療法として普及し,一般化した.1984年の慢性血液透析患者は6万人を超え,最長透析患者は20年に至っている.近年の透析患者は,慢性腎炎を基礎疾患とした腎不全以外に,糖尿病性腎症や腎硬化症*による腎不全の比率が増加し,年々,導入患者の平均年齢も高齢化してきているという特徴がある.血液透析療法の治療では,透析器(ダイアライザー*dialyzer),透析液(dialysate),体外循環時の抗凝固法,ブラッドアクセス*blood access(シャント)などが必須の項目である.透析器の種類にはコイル型,平板型,中空糸型の区別があるが,わが国では90%以上が中空糸型の透析器が使用されている.この透析膜に使用される半透膜も,当初のセロファンからセルロース系の膜,合成高分子膜へと変遷してきている.これは物質の除去効率,水透過性以外に,近年では生体適合性の良好な膜が好まれているためである.透析液の組成も近年では多様化し,透析中の不快な症候の発現(透析困難症*)を防止する目的もある.腎不全のアルカリ化のために従来は酢酸塩が用いられていたが,近年では再び重曹が好まれている.これは患者の高齢化や糖尿病患者などのアセテート不耐症acetate intoleranceの患者の増加と関係がある.ブラッドアクセスも慢性透析患者では内シャントが一般化しているが,長期化により内シャントの機能不全(狭窄や閉塞による血流確保の困難)の例もあり,人工血管の使用も余儀なくされる場合もある.→血液濾過法,人工腎,透析療法

透析困難症

トウセキコンナンショウ

透析治療中に生じる血圧低下,嘔気・嘔吐などにより治療の継続が困難となる病態を総称した用語である(わが国の造語で対応する外国語はない).透析治療中あるいは透析後に認められる不均衡症候群*も透析困難症の中に含むことができる.この原因にはさまざまな因子が考えられている.透析液のアルカリ化剤であるアセテートacetate(酢酸塩)を原因として,血圧低下が起こることが知られ,とくにアセテートの代謝が障害されている糖尿病*や高齢者において顕著に認められたものであり,アセテート不耐症acetate intoleranceといわれる.1回の透析治療の除水量の過剰によっても血圧低下,嘔気・嘔吐,筋肉の痙攣(足のつれ)などは認められ,単位時間当たりの除水量が多い場合にも,このような症候の出現を認める.高齢者や糖尿病を基礎とした腎不全*患者では,通常の透析療法*では血圧の維持が困難なことが多く,重曹透析法bicarbonate hemodialysis,濾過透析法hemodiafiltration,高ナトリウム透析法high sodium hemodialysisなどが試みられる.