あがり目
アガリメ
→レプトスピラ症
レプトスピラ症
レプトスピラショウ
【英】leptospirosis
【独】Leptospirose
【ラ】leptospirosis
病原性レプトスピラは一括してLeptospira interrogansというが,その中で血清学的に異なるものは血清型serovarといい,180余りに及ぶ.わが国に存在する主なレプトスピラ症と病原レプトスピラの血清型との関係は,黄疸出血性レプトスピラ症*(ワイル病)は
黄疸出血性レプトスピラ症 オウダンシュッケツセイレプトスピラショウ 【英】leptospirosis icterohaemorrhagica 【仏】leptospirose icte´rohe´morragique 【ラ】leptospirosis icterohaemorrhagica 同義語:ワイル病Weil's disease, Weil‐Krankheit, maladie de Weil
〔病原・疫学〕 病原体は,Leptospira interrogans serovar icterohaemorrhagiaeとserovar copenhageniで,1914年に稲田龍吉と井戸泰によって発見された.病原レプトスピラは,ドブネズミなどの尿細管に長期間保持されており,尿に排泄されるので,それに汚染された水や土壌を介して主として経皮感染,時に経口感染もする.患者は農業や飲食店従事者などが多い.〔臨床所見〕 潜伏期間は2~14日,多くは5~7日.経過は3期に分け,第1病週を発熱期,第2病週を発黄期(黄疸期),第3病週以後を回復期とする. 1)発熱期:発病は急激で,悪寒を伴って高熱を発する.初発症状のうちもっとも特徴があるのは眼球結膜の充血,次いで筋肉痛,腰痛,高度の全身倦怠感などである.第4~5病日から,黄疸,出血傾向が現れる.発熱期間は 7~8日で渙散*状に解熱するが,全身症状は高度となる. 2)発黄期:黄疸と出血傾向が顕著となる.重症例では出血傾向が強く,また,腎不全,心不全,神経症状,消化器症状が高率にみられ,もっとも危険な時期である. 3)回復期:黄疸や出血は消退しはじめるが,重症例では回復に2~3ヵ月を要する.第 13~16病日頃に 3~4日間の発熱をみることがあり,これを後発熱という.発病初期からみられる重要な臨床検査所見は,1 タンパク尿,2 赤沈の高度促進,3 白血球増加で,尿素窒素の著しい増加は重症例にみられる.GPT*, GPT ジーピーティー 【英】glutamic pyruvic transaminase 同義語:グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ
アラニンアミノトランスフェラーゼalanine aminotransferase(ALT)とも呼ばれている酵素で,L‐アラニン+α‐ケトグルタル酸 ┻ ピルビン酸+L‐グルタミン酸の反応でアミノ基の転移を触媒している.GPTもGOT*と同様ピリドキサルリン酸(PLP)が補酵素として必要で,アポ型,ホロ型酵素が存在する.GPTの生体内における分布はほぼ肝特異性といわれるほど肝臓に限局している.細胞内局在として細胞上清のs‐GPTとミトコンドリア局在のm‐GPTが存在する.→ALT
GOT*, GOT ジーオーティー 【英】glutamic oxaloacetic transaminase 同義語:グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ
aspartate aminotransferase(AST)とも呼ばれている酵素で,アミノ酸とα‐ケト酸との間のアミノ基転移反応を触媒するトランスアミナーゼの一つである.GOTはL‐アスパラギン酸+α‐ケトグルタル酸 ┻ オキザロ酢酸+L‐グルタミン酸の反応を触媒している.GOTの触媒作用は補酵素として酵素タンパクに結合したピリドキサールリン酸(PLP)とピリドキサミンリン酸の間の可逆的変換を介して行われている.このためにGOTには補酵素であるPLPと結合し,酵素活性を示すホロ型酵素と,補酵素と結合しておらず酵素活性を示さないアポ型酵素とが存在している.GOTの生体内における分布は心筋,肝臓,骨格筋などに高濃度に含まれており,細胞内局在としては細胞上清(supernate)分画のs‐GOTと,ミトコンドリア分画に存在するm‐GOTのアイソエンザイムisoenzymeが知られている.→AST AST エーエスティー 【英】aspartate aminotransferase 同義語:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
従来からGOT*(glutamic oxaloacetic transaminase)と呼ばれている酵素で,アミノ酸とα‐ケト酸との間のアミノ基転移反応transamination(アミノ基転移*)を触媒する酵素である.国際酵素委員会ではASTの名称を用いることを推奨している.ASTはL‐アスパラギン酸+2‐オキソトランスフェラーゼ ┻ L‐グルタミン酸+オキサロ酢酸の反応を触媒している.この触媒作用は補酵素としてピリドキサールリン酸*(PALP)が必要である.ALT*と同様,生体内ではPALPと結合して酵素活性を示すホロ酵素*と,PALPと結合せず酵素活性を示さないアポ酵素*が存在している.通常の検査ではホロ型酵素活性のみ測定している.肝細胞,心筋,骨格筋に高濃度で存在するが,その他の臓器にも分布している.肝機能検査(肝機能検査法*)と呼ばれることがあるが,実際は細胞の傷害(壊死,変性)によって血中に逸脱する逸脱酵素leaking enzymeの一つである.血中の酵素活性値を測定することで,細胞傷害の有無の判定検査として用いられる. LDH(乳酸脱水素酵素*),膠質反応は軽度の上昇に止まる.〔診断〕病原レプトスピラの証明は,第1病週では血液,髄液,第2病週以降は尿からの培養,モルモットへの接種.特異抗体の証明は顕微鏡的凝集反応などによる.〔治療〕ストレプトマイシンがもっとも有効で,第5病日までに適切な治療を開始した場合の致死率は 10%以下であるが,それ以後では 20~40%に及ぶ.〔予防〕ワクチンはきわめて有効である.→レプトスピラ症 |
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渙散 カンサン 【英】lysis 【独】Lyse 【仏】lysis 【ラ】lysis
熱の下がり方の一種で,ある日突然短時間の間に平熱以下に下降する分利*crisisに対して,持続した高熱が数日の間に次第に低下して平熱に復する型をいう.多くの熱性疾患はこの型で解熱する.以前は腸チフス*の解熱が代表的であった. 分利 ブンリ 【英】crisis 【独】Krise 【仏】crise 【ラ】krisis
熱の下がり方の一つで,持続する高熱が数時間~半日のうちに正常体温まで急速に下降することをいう.多くは発汗を伴い,脈拍数や呼吸数は正常となり,患者は爽快感を覚える.大葉性肺炎*などでみられる. →図 大葉性肺炎 ダイヨウセイハイエン 【英】lobar pneumonia 【独】loba¨re Pneumonie 【仏】pneumonie lobaire
大葉性肺炎は肺炎*の形態学的分類のうち,炎症部分の広がり方による分類によって区別された呼び名であり,巣状肺炎focal pneumoniaに対応するものである.肺炎球菌による肺炎のときに最も定型的にみられるもので,クループ性肺炎croupous pneumonia,真性肺炎echte Pneumonie,線維素性肺炎fibrinous pneumonia,顆粒性肺炎granula¨re Pneumonieなどの名称もある.小児や老人に多い巣状肺炎と異なって,青壮年者が罹患するものであった.短時日に急速に肺一葉全体へ広がるのが特徴である.その経過中に死亡することがなければ,感染の成立に始まってその病巣は充血期にはいり,肝変期,融解期と経過する.肝変期の中期に肉眼的に灰白色を呈する時期があり,滲出物の中に多量の線維素を含んでいる.大葉性肺炎はこの病期が著しいので線維素性肺炎とも呼ばれるもので,クレブシエラ肺炎でもみることがあるがまれである.第二次世界大戦後,化学療法時代に入って以来,この型の肺炎はほとんどみられなくなっているが,免疫抑制療法下の患者で,ときにこれに近い肺炎があり注意を要する. |
serovars icterohaemorrhagiae, copenhageni, 秋季レプトスピラ症serovars autumnalis, hebdomadis, australis,イヌ型レプトスピラ症はserovar canicola, 沖縄ではserovars pyrogenes, javanicaなども分離されている.自然界におけるレプトスピラの主な保有動物はネズミであるが,イヌや家畜も重要である.レプトスピラはネズミやイヌなどに感染すると,それらの尿細管に長期間保持され,尿中に排泄される.したがって,それらの尿で汚染された水や土壌を介して主として経皮的に感染するが,汚染された飲食物により経口的にも感染する.重症型の代表は黄疸出血性レプトスピラ症(ワイル病)で,黄疸,出血,タンパク尿を三主要徴候とするが,一般に,秋季レプトスピラ症やイヌ型レプトスピラ症ではそれよりも軽症で,発熱や髄膜刺激症状*を主徴とするものが多い.秋季レプトスピラ症は,七日熱(なぬかやみ)・八日熱(福岡県),秋疫・用水熱・天竜疫(静岡県),波佐見熱*(長崎県),作州熱(岡山県),アッケ病(大分県),伊万里熱(佐賀県)など,異なった病名で古くから風土病的に知られているが,そのほかの地方にも田園地帯や山間部に広く分布している.後発症として,解熱後1ヵ月ないし半年位の間に硝子体混濁が出現することがあり,俗に「あがり目」といわれる.確定診断法として,病原レプトスピラの証明は,第1病週の血液や髄液,第2病週以後の尿を材料として,モルモットの腹腔内接種,あるいはコルトフ培地などへの直接培養法による.血清学的診断には顕微鏡的凝集反応が用いられる.〔治療〕 ストレプトマイシンが最も有効で,第4病日までに開始することが望ましい.乏尿,無尿,高度の黄疸,意識障害,嘔吐,しゃっくりなどが持続し,尿素窒素が100mg/dL以上を示す場合は重症で,200mg/dLに達した時は腹膜透析*または血液透析*を行う.予防ワクチンはきわめて有効である.
髄膜刺激症状 ズイマクシゲキショウジョウ 【英】meningeal irritation sign 【独】Meningealreizerscheinung
クモ膜下出血あるいは各種髄膜炎による炎症などによって髄膜が刺激された時にみられる症候の総称で,項部硬直*,ケルニッヒ徴候*Kernig's sign,ブルジンスキー徴候*Brudzinski's signなどの徴候のほか頭痛,羞明,悪心・嘔吐その他がみられる.頭痛や意識障害を呈する症例には必ずこれら髄膜刺激症状の有無を検査することが大切であり,これを示す場合は脳炎*,髄膜炎*,クモ膜下出血*,脳出血(高血圧性脳内出血*)など髄液に異常がみられる疾患が大多数を占める.
項部硬直 コウブコウチョク 【英】nuchal rigidity, stiff neck 【独】Neckenstarre 【仏】raideur de la nuque
項部硬直は髄膜刺激症状*meningeal irritation signの一つとされ,クモ膜,軟膜への炎症などの刺激(髄膜炎*,クモ膜下出血*)で出現する.仰臥位にて枕を外し,後頭部に両手を当てて頭をゆっくり持ちあげさせると,陽性では項筋が収縮して筋の異常緊張が起こり,時に患者は痛みを訴え,下顎が前胸部につかなくなる.高齢者,変形性頚椎症cervical spondylosis,パーキンソン病*ではしばしば陽性となるが,前後のみでなく,左右への運動でも同様な頚部運動制限があるので注意を要する.
ケルニッヒ徴候 ケルニッヒチョウコウ 【英】Kernig's sign 【独】Kernig‐Zeichen 【仏】signe de Kernig
髄膜刺激症状*の一つで,患者を仰臥位にさせ一側股関節を直角に曲げた状態で膝を押さえながら下肢を被動的に伸展していくと,抵抗を感じ下肢が十分に伸展しない現象をいう.一般には膝の角度が135°に達しないものを陽性とする.1907年ケルニッヒが報告したのでケルニッヒ徴候(症状)と呼ばれる.髄膜炎*,クモ膜下出血*などの髄膜刺激をきたす疾患がある場合に項部硬直*,ブルジンスキー徴候*Brudzinski's signと共に重要な徴候である(Vladimir Kernigはロシアの内科医,1840‐1917).
ブルジンスキー徴候 ブルジンスキーチョウコウ 【英】Brudzinski's sign 【独】Brudzinski‐Zeichen 【仏】signe me´diopubien de Brudzinski
髄膜刺激症状*の一つであって,患者を仰臥位にさせ検者は一側の手を患者の頭の下へ,他側の手を胸の上に置き,躯幹が挙上しないようにして頭部を被動的に前屈させると,伸展していた両下肢が自動的に股関節と膝関節で屈曲し立膝になる徴候をいう.1908年ブルジンスキーが報告したのでブルジンスキー徴候と呼ばれるが,彼はこの時もう一つの徴候をも報告しており,狭義にブルジンスキー徴候と呼ばれる上記のものはブルジンスキー項徴候と呼ばれるべきものである.もう一つの徴候は対側下肢徴候と呼ばれ,一側下肢を股関節で屈曲すると伸展位にあった反対側下肢が屈曲し,また一側下肢を他動的に強く屈曲すると屈曲位にあった反対側下肢が伸展する現象をいう.いずれも髄膜炎*,クモ膜下出血*などの髄膜刺激症状としてみられるが,脊髄障害や根障害時にみられることもある(Jo´zef Brudzinskiはポーランドの医師,1874‐1917). 波佐見熱 ハサミネツ 長崎県の波佐見地方における秋季レプトスピラ症で, Leptospira interrogans serovar autumnalisおよびserovar hebdomadisを病原とする.開業医小鳥居らにより波佐見熱と称し報告された.→レプトスピラ症 |
腹膜透析 フクマクトウセキ 【英】peritoneal dialysis(PD) 【独】Peritonealdialyse 【仏】dialyse pe´ritone´ale 同義語:腹膜潅流peritoneal lavage
末期腎不全の治療法の一種で,腹膜(1 m2)を半透過膜として溶質の拡散を行い,腹腔内に注入する潅流液の浸透圧差を用いて水分と溶質を除去する方法である.この方法は1959年に, Maxwellが腹膜潅流液の基本組成を開発して以来,臨床応用され,現在でも尿毒症*の治療法となっている.その間にTenckhoffらの腹腔内留置カテーテルの開発,自動腹膜透析装置の開発などがあり,血液透析*法が十分普及していなかった時期には,中心的な末期腎不全の治療法であった.この方法には,間欠的腹膜透析法(IPD*)と持続的外来腹膜透析法(CAPD*)とに大別される.血液透析法と比較すると特別の装置も必要とせず,抗凝固薬の使用もなく,安価に透析治療が可能である.しかも中分子量以上の尿毒症性物質の除去効率がよく,水・電解質の調整にも優れた効果を示す.欠点は操作が煩雑で,長時間かかること,タンパクの漏出や腹膜炎*の発生があり,普及の妨げとなっている. 血液透析 ケツエキトウセキ 【英】hemodialysis(HD) 【仏】he´modialyse
この原理は血液と透析液の間で半透膜を介した拡散diffusionによる物質輸送と限外濾過圧(陽圧または陰圧)による水分除去からなる.血液透析法が臨床的に応用されたのは,1943年アメリカのKolffによるのが最初である.尿毒症*患者に対して,セロファンチューブを巻いた回転ドラム型の透析器が使用された.以来血液透析療法は急速に進歩・普及し,透析器の改良,血液を体外に導き出すシャントの改良,抗凝固薬の改良,透析液の変遷などが行われてきている.わが国の血液透析療法の黎明は1960年代の後半からであり,1970年代には慢性腎不全*患者の治療法として普及し,一般化した.1984年の慢性血液透析患者は6万人を超え,最長透析患者は20年に至っている.近年の透析患者は,慢性腎炎を基礎疾患とした腎不全以外に,糖尿病性腎症や腎硬化症*による腎不全の比率が増加し,年々,導入患者の平均年齢も高齢化してきているという特徴がある.血液透析療法の治療では,透析器(ダイアライザー*dialyzer),透析液(dialysate),体外循環時の抗凝固法,ブラッドアクセス*blood access(シャント)などが必須の項目である.透析器の種類にはコイル型,平板型,中空糸型の区別があるが,わが国では90%以上が中空糸型の透析器が使用されている.この透析膜に使用される半透膜も,当初のセロファンからセルロース系の膜,合成高分子膜へと変遷してきている.これは物質の除去効率,水透過性以外に,近年では生体適合性の良好な膜が好まれているためである.透析液の組成も近年では多様化し,透析中の不快な症候の発現(透析困難症*)を防止する目的もある.腎不全のアルカリ化のために従来は酢酸塩が用いられていたが,近年では再び重曹が好まれている.これは患者の高齢化や糖尿病患者などのアセテート不耐症acetate intoleranceの患者の増加と関係がある.ブラッドアクセスも慢性透析患者では内シャントが一般化しているが,長期化により内シャントの機能不全(狭窄や閉塞による血流確保の困難)の例もあり,人工血管の使用も余儀なくされる場合もある.→血液濾過法,人工腎,透析療法 |