髄液検査
ズイエキケンサ
【英】cerebrospinal
fluid examination
【独】Untersuchung
der Cerebrospinalflu¨ssigkeit
【仏】examen du
liquide ce´phalo‐rachidien
X線CT・MRIが導入された現在でも,中枢神経系の炎症性疾患(脳炎,髄膜炎)に対する診断・治療効果判定には必須の検査である.通常,左側臥位で両下肢を屈曲させ,局所の消毒・麻酔下に第3~4(成人)または第4~5(幼小児)腰椎間で腰椎穿刺*lumbar puncture(spinal tap)を行う.穿刺局所の炎症や脊髄ブロックのとき後頭下穿刺(大槽穿刺)suboccipital punctureを用いる.まず髄液圧(クモ膜下腔圧)上昇の有無を調べる(髄液圧測定cerebrospinal fluid pressure measurement).患者に緊張を解くよう指示し,両下肢を伸ばし腹圧を解除した状態で,髄液を穿刺針に連結したガラス管に導き測定する.正常値は初圧70~180mmH2Oであり,200mmH2O以上は病的上昇と判定する.初圧測定後必要最少量の髄液を採取する.明らかな圧上昇時はガラス管にたまった髄液以上の採取を控える.また癒着性クモ膜炎*など脊髄レベルの髄液通過障害を疑った場合,クェッケンシュテット試験Queckenstedt test(クェッケンシュテット徴候*)を試みる.採取した髄液の性状(外観,細胞数と種類,タンパク,糖,クロールなど)から病態や疾患を明らかにする.禁忌は脳実質内病変による著明な頭蓋内圧亢進*(両側うっ血乳頭),後頭蓋窩腫瘍,穿刺部位の感染・菌血症*・出血性疾患,使用薬剤に対するアレルギーなどがあげられる.髄液採取後は頭痛など低髄液圧症候群intracranial hypotension syndromeを回避するため,1~2時間の腹臥位安静を保つ.
癒着性クモ膜炎
ユチャクセイクモマクエン
【英】adhesive
arachnitis, adhesive arachnoiditis
【独】adha¨sive Arachnitis
【仏】arachnite
adhe´sive
【ラ】arachnitis
adhaesiva
梅毒,結核,その他の慢性炎症または頭部外傷,髄腔内への薬物注入,ミエログラフィー*により惹起されることがあるが,原因不明のことも多い.クモ膜は厚くなり,さまざまな程度の慢性炎症細胞反応が認められる.後頭蓋窩や視交叉付近が好発部位である.前者では後頭蓋窩腫瘍と類似した症状を呈し,脳底クモ膜下槽を通る髄液潅流を障害すると,交通性および非交通性の水頭症*を惹起することもある.後者では視力障害や不規則な視野欠損をきたすことがあり,視交叉クモ膜炎optochiasmatic arachnoiditisと呼ばれる.癒着が大脳皮質の一部に限局すると,種々の局所症状をきたす.焦点性てんかん発作の原因となることもある.髄液はキサントクロミー,タンパク高値を示す.〔診断〕
脳槽・脳室造影が用いられる.CTスキャンも有用である.局所診断が確実なものは外科的に癒着の除去を行う.〔治療〕
癒着,肥厚の予防にはステロイドホルモンが用いられることもある.
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ヤコビー線
ヤコビーセン
【英】Jacoby
line
【独】Jacoby‐Linie
【仏】ligne
de Jacoby
両側腸骨稜crista
iliacaを結ぶ線.成人においては第4腰椎棘突起を通過するので脊椎麻酔の穿刺部位の目安となる(Abraham Jacobyはアメリカの医師,1830‐1919).
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腰椎穿刺
ヨウツイセンシ
【英】lumbar
puncture(LP)
【独】Lumbalpunktion
【仏】ponction
lombaire
腰椎穿刺による髄液検査*の目的は髄膜炎,脳炎,クモ膜下出血,脳腫瘍その他で髄液の性状,病原体,生化学的検査のために実施するほか,髄腔内の薬剤注入,気脳写のため行われる.近時CTの普及により,脳・髄膜の炎症性病変の際の細菌,真菌,ウイルスの検出,抗体価の測定などが主な目的となり,麻酔を除いて薬物注入を行うことはきわめてまれとなってきた.実施実技は所定の消毒を行ったのち,左右の腸骨棘の上端を結ぶヤコビー線*Jacoby lineを目標として成人(または小児)用穿刺針を用いる.第3~4,または第4~5腰椎間で正中線上前方(やや頭側方向)に6~7cm(小児では2~4cm)穿刺すると,硬膜を通過する抵抗が触知される.検査の手順は予想する疾患により多少異なるが,液性状のみを見る場合は排出する1滴で十分のこともあり,検査に必要な量を採取する.小脳腫瘍などでは採液,液圧下降は危険を招くことがあり注意が必要で,液圧測定もできない.穿刺孔からの髄液漏出は30~50 mLに及び,髄液圧低下症*が起こり激しい頭痛,嘔吐が数日続くことがあるために,採液後は腹臥位にして30分間安静として,当日はベッド上臥床させるのがよい.脳・髄膜の炎症が疑われ,細胞数を測定する場合には,その1滴をその場でFuchs‐Rosenthal計算盤に入れて計数することが望まれ,その際ノンネ・アペルト反応*,パンディー反応*を同時に行えばギラン・バレー症候群*Guillain‐Barre´
syndromeにみる細胞タンパク解離現象の有無も判明する.近時普及したCT検査は髄液検査適応を減じたが,必須時の的確な対応が望まれる.
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