広頚筋
広頚筋 分類
部位
頚部の筋
ラテン名 platysma 英名 platysma |
広頚筋(こうけいきん)は頸部にある筋肉の一つ。下顎骨の下縁から、上胸部にわたる頚部の広い範囲の皮筋であることから名づけられた。首
「首位」「首領」「党首」「船首」などというように、本来の漢語における「首」という字はもっぱら、“トップ”、“かしら”、またそれらの原義としての“あたま”、“頭部”を意味する[1]。 これに対して“頸部”を意味する本来の漢字は「頸」であり、「頸部」「頸動脈」「長頸竜」などのように熟語にも用いられる。
ところが日本語では、“頸部”・“頭部”の双方を「くび」と呼ぶ。
もともと日本語「くび」は“頸部”を指す語だったが、戦闘や刑罰において“頸を斬って頭を落とす”斬首・馘首(かくしゅ)の慣習が日本にあったことから、やがて“切り落とされた頭部”自体をも「くび」と呼ぶようになり、さらには(胴体と離れているか否かにかかわらず)“頭部”一般を指す用法が生まれたものとされている。ただし、“頭部”と"頸部"両方を意味する「くび」の用例と、斬首の習慣がいつ頃から普及したかを調べることが、本説の証明に必要と思われる。またその結果として、やがて漢字も混用され、一種の国訓として、本来は“頭部”の意味であった「首」の字を“頸部”の意味に俗用することが非常に多くなった。しかしながら学術用語を含む漢熟語類にはこうした用法は存在せず、
また、日本以外の漢字文化圏では一切見られない用法でもあることには注意されたい。
本項では「頸部」について主に解説するが、最初に、文化や日本語にまつわる事象について、「“頸部”を意味する「くび」」、「“頭部”を意味する「くび」」に分けて、簡単にふれておく。
上述のとおりこの言葉の原義であり、また、いわゆる身体語として現代日本語の基礎語彙を構成する単語。 上のような経緯から漢字は「首」をあてることが多いが、文学的な表現などでは「頸」を用いることもある。 「手首」「足首」、「琵琶の首」、「徳利の首」、「青首大根」というように、比喩的にも広く使われる。
慣用句には「首」にまつわるものも多いが、「首を長くする」「首に縄をつける」「首を洗って待つ」といったいくつかは「首」を“頭部”とすると意味が通らず、“頸部”の意味でこの言葉を用いているものと考えられる。
前述のとおり日本語では「くび」という言葉が“切り落とされた頭部”を意味するようにもなり、「斬首」「馘首」をはじめとする漢語の用例から「首」の字があてられた。 後に語義は“頭部全般”を意味するものへと広がった。 とはいえ現在ではやや廃れた用法であり、「首を突っ込む」「首が飛ぶ」といった慣用句に用いたり[2]、「乳首」(=乳頭)、「生首」(なまくび=斬首や事故などにより体から切り離されたばかりの頭部)、「首実検」(=顔を見て犯人などを見極めること)などの成語・複合語に化石的な形態素として見られるほかは、あまり用いられなくなっている。
「首肯」( = うなずくこと)という漢熟語が示すように、「首( = 頭)を縦に振る」ことは肯定を意味し、また、「横に振る」と否定の意味になる。 こうした通念は世界の一部を除き[3]、多くの文化圏に共有されているものである。
|
Gray's Anatomy首と頭部 図1194
ヒトを含む哺乳類の脊柱の頸部は7つの堆骨で構成される。これらを頸椎という。頸椎は、典型的に C-1 (CI) から C-7 (CVII) で参照され、各々の堆体の間には盤状の軟骨性の椎間板がある。首は頭の重量を支え、脳から下って体に至る神経束を保護する。さらに、首は高度に柔軟であり、頭部を回し、あらゆる向きに曲げることができる。脊柱は、頂上から底部まで、前方に向かって凸なかたちでゆるやかに(S字状に)湾曲する。その湾曲は脊柱のあらゆる曲線のなかでもっとも目立たないものである。
顎の下の正中線上に舌骨体、その直下には「のどぼとけ」と呼ばれる女性よりも男性で顕著な甲状軟骨の突起を感じることができる。さらに下には容易に輪状軟骨を、それと頸切痕のあいだには気管と甲状腺峡部が形作られていることを感じとれるだろう。胸骨甲状筋の外縁部はもっとも目立つ特徴である。それは前頸三角と後頸三角を分割する。前者の上部は顎下腺を含み、顎下腺は顎にある後者本体の半分の真下に横たわる。総頸動脈および外頸動脈は胸鎖関節から下顎角へ向かって伸びる。
第XI脳神経あるいは脊髄副神経が描くラインは、下顎角と乳様突起の中点から胸骨甲状筋後縁の中央まで、そしてそれゆえ後頸三角を横断して僧帽筋の深層面に至る。外頸静脈はふつうに皮膚を透して見ることができる。それは顎の隅から鎖骨の中央へと引かれる一本の線の上を走る。その近くにはいくつかの小さなリンパ腺がある。前頸静脈は、より小さく、首の正中線から1センチ半ほど下に走る。鎖骨は首の下限を成し、首から肩への横方向の外見上の勾配は僧帽筋に起因する。
首は、その中に上行大動脈(血管)、気道、食道、神経、頸椎(骨)が通っている。
首は頭部と肩の間の脊椎骨の範囲を指す。これを魚類で見ると、この部位は鰓蓋に覆われた部位である。魚類ではこの部分は特に細くはなく、その可動性も限定的である。つまり両生類の段階で鰓が失われたことで首が生じ、その部分の可動性が大きくなったと考えられる。ただし両生類では首を縦に振ることしかできない。爬虫類ではこの可動性はより大きくなり、恐竜では雷竜、化石爬虫類では首長竜のような多数の頸骨を持つ細長い首を持つ例もある。
鳥類の多くは長い首を持つ。これはこの類では胴体がコンパクトにまとめられ、脊椎骨などに互いに癒合があり、可動性が少ないことを補うものと考えられ、逆説的に飛行への適応と考えられる。つまり飛行運動のために胴体がまとまった一体であることを求められることから、それによる前足と後ろ足の運動性が犠牲になることから、これを補うために頭が様々な方向へ動ける必要があり、それが首を長くする方向の進化を促したと見られる。
なお、首長竜などでは頚骨が多数であったから首はよく曲がったと考えられているが、哺乳類であるキリンでは頚骨は他の哺乳類と同じ7つであり、首はくねるようには曲がらない。
上記のような定義からすれば、首は無脊椎動物には存在しない。しかし、実際には頭部と胴部とつなぐ部分は比喩的に首と呼ばれる例がある。また、この部分は頭部の運動性を決めるため、特にくびれていたり細長くなっている例があり、それぞれの動物の特徴となる。そのため、首をその名に持つ例があり、以下のようなものがある。
· 昆虫:クビナガムシ・クビボソゴミムシ・ツルクビオトシブミ
· 甲殻類:ナガクビムシ
首は頭を自由な方向に動かせるために大きな可動範囲を持つが、たとえばヒトは真後ろを向くことはできない。しかし、たとえばフクロウ類はその可動性がさらに広くて、顔面を真後ろに向けることも、顔を上下さかさまに近い位置に曲げることもできる。
このような動きは、それができれば楽なことが多いから、日常的に無理に首を曲げようとして苦心することが多い。逆に、それが可能になったのを見ることは、それが異常なことであるのがわかりやすいために恐怖や嫌悪を感じさせる。映画『エクソシスト』では悪魔憑きの少女の首が真後ろを向き、日本では妖怪にろくろ首がある。なお、哺乳類の頚骨の数では、首はくねれないから、ろくろ首は実在すれば哺乳類とはみなしがたい。
首が命とつながって考えられる理由は、個体の命を頭が握っているためである。個体の生命はそれを構成する細胞の生命に基づくが、高等な動物ではそれを統括する役割を神経系と内分泌系、およびその役割の中枢としての脳が果たしている面が大きい。しかし、実際にその体を養っているのは消化系や循環系などであり、それはほぼ胴体が担っている。そのため、頭部を胴部と切り離せば個体の生命は維持できない。つまり、それらをつなぐ部分である首を切り離すことは、確実に個体の生命を失わせる行為である。
頸部には、頭部からは
が、また胴体からは
· 心臓から脳へ向かう動脈
が、狭くなった部分に含まれる。したがって、首は強度的には他の部分より劣った弱点である。例えば首の周りを締め付けることは、呼吸を止めたり血行を止めたりすることでたやすく相手を制圧することができる。このためにひもを首に巻くような首を絞めるというのは、きわめて有効な手段であるが、あまりにも致命的であるために格闘技においては禁じ手である場合が多い。また、自殺する場合にもこれは有効であり、自らの体重が首にかかるよう、輪の中に首を入れ、ひもでぶら下がることで自らの首を絞めて自殺することを首吊り自殺という。格闘技などにおいては首の強化は重要なものである。柔道の絞め技は、血行を止めることで相手を昏倒させることを目的とする。
より確実に殺す方法としては首を切り落とすのがきわめて有効である。「首を切る」は「命を奪う」とほぼ同意義と扱われる。世界各地でも死刑の方法として首を切る例は多い。ギロチンはそのための専用機器である。日本の武士の伝統的自殺法である切腹も、実際には介錯と称して首を切る介添え役がついて、実質的にはこちらが有効だった。腹を切る振りだけで介錯のみが行われた事例も多いという。
1. ^ “頭部”から“トップ”“首長”への意味変化は多くの言語に見られるもので、たとえば英語の captain や chief も元来は“頭部”を意味した語から来ている。日本語の「かしら」も、本義は“頭部”のことである。
2. ^ なお、「首にする/なる」(※「打首にする/なる」より)「首を切る」「首が繫がる」など、“頸部”を指すのか“頭部”を指すのか判然としないような慣用句もある。こうした成句は元来の斬首・馘首の慣習に起源をもつものに多く、こうした場面で使われる際の語義の曖昧さが原因で、結果的に語義の変化や混乱を生むこととなった。
· 喉頭隆起
· 甲状腺
· 首長族
· 胸鎖乳突筋
· ろくろ首
· 解雇
o 懲戒解雇
の表面に皺を関連する筋膜を緊張させ、口角を下方に引く働きを持つ。
下顎骨
ヒトの下顎骨は、上顎骨と対になっている骨であり、頭蓋の顔面骨の中で一番大きく、強い骨である。下顎の歯を釘植する。水平のU字状上に曲がっている下顎体と、その両端に垂直につく二つの下顎枝からなる。 下顎体下顎体は蹄鉄のように曲がっている。 下顎骨の外側面は、発生の初期に二つの骨が結合したことによって生じる弱い隆起がある(下顎骨は元々二つの骨なのが癒合して一つとなる[1])。この隆起は下で別れ、三角形のオトガイ隆起を取り囲む。ちょうど切歯の下の部分にある結合の横には窪みがあり、これを切歯窩といい、オトガイ筋や、口輪筋の一部の起始となる。両側の下顎第二小臼歯の下、下顎体の上下の中間に、オトガイ動脈、オトガイ静脈、オトガイ神経が出るオトガイ孔がある。両側のオトガイ結節から後上方へ弱い隆起が走る。これを斜線といい、下唇下制筋や口角下制筋の起始となる。その下部は広頚筋の起始となる。 内側面は左右に凹面である。結合の下部近くに、一組の左右に並んだ棘があり、これをオトガイ舌筋棘と言い、オトガイ舌筋の起始となる[2]。このすぐ下に二組目の棘があり、これをオトガイ舌骨筋棘といい、オトガイ舌骨筋の起始となる[2]。ただし、オトガイ舌骨筋棘は、正中にできる隆線や痕跡である事が多く、オトガイ舌筋棘も融合していたり、存在せず、粗面となっていたりする事もある。オトガイ舌筋棘の上の正中に、孔や溝が存在することがある。これらは骨が結合したラインを示す。オトガイ舌骨筋棘の下の正中線の両側は顎二腹筋前腹のために楕円形の窩がある。これを二腹筋窩という[2]。両側の癒合部下部から後上方へ伸びているのは顎舌骨筋線で、顎舌骨筋の起始となっている。顎舌骨筋線の後部の部分は歯槽縁の近くで、上咽頭収縮筋の一部の起始となっており、翼突下顎縫線へと続く。顎舌骨筋線前部の上方には滑らかな三角形の区画があり、これを舌下腺窩といい、そこに舌下腺が入り、後部の下方には楕円形の顎下腺窩があり、顎下腺が入る。 上部の歯槽隆起では、歯を入れるための大きな穴があいている。穴の数は十六で、深さや大きさは入る歯のサイズによって異なっている。両側の下顎第一大臼歯の有る付近の歯槽隆起には頬筋が起始する。下縁は丸みを帯びており、上縁より長く、正面は後方よりも厚い。下顎体と下顎枝の連結部の下部に外側の顎動脈のための浅い溝がある事もある。 下顎枝下顎枝は四辺形で、2つの突起を持つ。 外側面の表面は水平で、下部で傾斜した隆線が確認できる。そのほぼ全面が咬筋の停止である。 内側面では、その中央に下歯槽動脈、下歯槽静脈、下歯槽神経の入り口である下顎孔がある。下顎孔の周囲はでこぼこしており、その正面の顕著な隆起は、下顎小舌といい、 蝶下顎靱帯が付く。そしてその後下方には顎舌骨筋神経溝が前下方へ向けて走り、そこを顎舌骨筋動脈や顎舌骨筋神経が走る。この溝の後ろは、内側翼突筋が停止するための粗面となっている。下顎管は下顎枝内を前下方に、下顎体を平行に走行し、歯槽の下で小さな管をだして歯槽と交通している。切歯の所まで到着すると、二本の切歯との交通のために二本の管を残して、オトガイ孔と交通するために戻っていく。骨の後ろ2/3では下顎管は下顎骨の内側面近くに、前方1/3では外側近くに位置している。これは下歯槽動脈、下歯槽静脈、下歯槽神経を含んでおり、その枝(歯枝)がそれぞれの歯に向かう。 下顎枝の下縁は厚く、直線的で、下顎体の下縁と連続している。連結部後縁は下顎角といい、その内側面、外側面ともに隆線や斜走隆線で著しく、咬筋や内側翼突筋が停止する。茎突下顎靱帯は両筋肉の間で下顎角につく。前縁は上方が薄く、下方が厚くなっており、斜線で連続している。後縁は厚く、なめらかで、丸まっており、耳下腺が覆っている。上縁は薄く、2つの突起を持っている。前方の筋突起と後方の関節突起であり、間にある深い凹面は下顎切痕という。筋突起は薄く、左右に平らな三角形で、形や大きさは異なっている。筋突起の前縁は凸面で、下顎枝の前縁と連続している。後縁は凹面で、下顎切痕の前縁を作る。側面はなめらかで、側頭筋や咬筋が停止する。内側面は側頭筋が停止し、隆線が頂点近くから、一番後方にある大臼歯の内側へ前下方へ走る。この隆線と前縁との間に三角形の溝があり、これを臼後三角といい、その上部は側頭筋が停止し、下部は頬筋の一部の起始となる。関節突起は筋突起より厚く、二つの部分から成る。下顎頭とそれを支える下顎頸である。下顎頭は顎関節の関節円板と関節面を示す。 筋突起側面の末端では、顎関節の外側靱帯が付く小さな結節がある。下顎頸は筋突起後部では平らであるが、前部、並びに側面では、下に行くにしたがい隆線が強くなる。後面は凸面となっており、前面は凹面となっており、これを翼突筋窩といい、外側翼突筋が停止する。下顎切痕は半月状の陥没で、咬筋動脈や咬筋神経が通る。 画像·
|
笑筋
笑筋(しょうきん)は人間の頭部の浅頭筋のうち、口唇周囲にかけての口筋のなかで笑窪を作る筋肉である。筋肉の一方が皮膚で終わっている皮筋である。 人間において、笑筋の起始は広頚筋顔面部上、及び耳下腺筋膜より起こる。 画像· 笑筋の位置。赤色で示す 関連項目· 顔
|
、口角下制筋、
口角下制筋
口角下制筋(こうかくかせいきん)は人間の頭部の浅頭筋のうち、口唇周囲にかけての口筋のなかで上唇と口角を下方にひく筋肉で、表情筋の一つ。筋肉の一方が皮膚で終わっている皮筋である。別名、オトガイ三角筋(triangularis muscle)。顔面神経頬筋枝により支配される[1]。人間において、口角下制筋の起始は下顎骨下縁と広頚筋であり、モダイオラスに停止する[2][3]。胎生27週でも口角下制筋が認められると報告されている[4]。 追加画像口角下制筋の位置。赤で示す。
· 下顎骨の外側面。左下の"Triangularis"と書かれている赤丸部分が口角下制筋の起始。
· 頭部の筋肉と血管。右下に"Triangularis"と書かれているのが口角下制筋。 |
下唇下制筋
|
に停止する。支配する運動神経
運動神経運動神経の細胞 運動神経(うんどうしんけい、ラテン語: nervus motorius)とは、体や内臓の筋肉の動きを指令するために信号を伝える神経の総称である。頭部では脳神経、体部では脊髄神経として、中枢から離れて、 末梢に向かうので、遠心性神経という名称でも、呼ばれる。 概要運動神経が最終的に支配する筋肉には、頭・体部の骨格筋と、感覚器や内臓・血管の内臓筋とがある。 体性運動神経 骨格筋を支配する神経は、体性運動神経と呼び、多くの本では「随意運動」に関係すると記されることが多いが、実際の運動の際に同時的に起こる多数の骨格筋の収縮は、小脳や脳幹での統合的な働きの結果として起こされるのであって、真に意識されるとは限らない。 内臓運動神経 他方、内臓や感覚器の平滑筋や心筋の収縮は、内臓運動神経として自律神経により自動的に行われるが、無論中枢全体の感情的な動きと無関係ではなく、いずれかに接続点を持っている。このため、怒りや興奮に伴い、瞳孔散大筋、胃腸平滑筋、心筋などの全てが影響を受ける事が生ずる。なお、体の諸部を走る神経は、純粋に運動神経束より成ることはなく、多くの場合は混合性である。 関連項目· 運動音痴 · 感覚神経 |
は顔面神経頚枝
顔面神経
第I脳神経 – 嗅神経 |
第II脳神経 – 視神経 |
第III脳神経 – 動眼神経 |
第IV脳神経 – 滑車神経 |
第V脳神経 – 三叉神経 |
第VI脳神経 – 外転神経 |
第VII脳神経 – 顔面神経 |
第VIII脳神経 – 内耳神経 |
第IX脳神経 – 舌咽神経 |
第X脳神経 – 迷走神経 |
第XI脳神経 – 副神経 |
第XII脳神経 – 舌下神経 |
|
顔面神経(がんめんしんけい、facial nerve)は、12ある脳神経の一つで第七脳神経(CNVII)とも呼ばれる。
狭義の顔面神経は、顔面に分布し主として表情筋の運動を支配する。この神経と内耳神経の間に中間神経と呼ばれる神経があり、広義にはこれを含めて顔面神経と呼ぶ。内耳神経と一緒に側頭骨の錐体を貫き、さらに単独で顔面神経管という弓状の骨の管を通り、茎乳突孔から出てきて顔面全体に分岐する。顔面神経管を通る途中から涙腺、唾液腺の分泌、味覚(舌の前部3分の2)などに関係する枝が出て骨の細管を通り抜け関連する神経節や舌神経などに入っていく。顔面神経の神経線維には4種類あり、特殊内臓遠心性線維(special visceral efferent fiber, SVE) 、一般内臓遠心性線維 (general visceral efferent fiber, GVE) 、特殊内臓求心性線維 (special visceral afferent fiber, SVA) 、一般体性求心性線維 (general somatic afferent fiber, GSA) と呼ばれる。
運動神経線維であり、表情筋、広頸筋、頬筋、アブミ骨筋、顎二腹筋後腹などを支配する。この神経線維の細胞体は橋尾側にある顔面神経運動核に存在する。顔面神経運動核はさらに背内側核・腹内側核・中間核・外側核に分けられ、それぞれ異なる筋群を支配している。背内側核からの線維は後耳介神経となって耳介筋と後頭筋(前頭後頭筋の一部)を支配する。腹内側核から出た繊維は顔面神経頸枝として広頸筋を支配している。内側核の中にはアブミ骨筋を支配するものもあると考えられている。顔面神経側頭枝と頬骨枝は中間核から出て前頭筋(前頭後頭筋の一部)と眼輪筋、皺眉筋および頬骨筋を支配する。外側核からの線維は顔面神経頬枝となって頬筋と頬唇筋を支配している。他の動物と比較すると、ヒトの顔面神経運動核では頬唇筋を支配する外側核が顕著に発達しており、一方内側核群はかなり小さくなっている。
を出た後の特殊内臓遠心性線維(運動線維)の分布
これらの遠心性線維は顔面神経運動核から出てまず第四脳室底面のある背内側に向かう。正中を走る内側縦束とやや外側にある外転神経核の間を通り、外転神経核を巡るように鋭角に折れ曲がる(ここが第四脳室底の顔面神経丘の直下である)。ここから腹外側に向かい、三叉神経脊髄路の内側、上オリーブ核の外側を通り、橋の最尾側(小脳橋角部と呼ばれる)で脳幹から外に出る。外転神経を巡るループの事を運動神経内膝 (internal genu of facial nerve) という。末梢に出た繊維は顔面神経管に入って顔面神経外膝で折れ曲がり、はじめ外側へ走行した後に下行する。顔面神経管の中でアブミ骨筋への枝を分枝し、茎乳突孔から顔面に出てそれぞれの支配筋へと分枝する。
顔面神経運動核への投射には以下のようなものがある。三叉神経脊髄路核からの二次性ニューロン、これは角膜反射などの三叉神経顔面反射にかかわる。皮質延髄路からの直接投射、これは左右両側性に投射する。皮質延髄路から網様体を経由した間接投射も存在する。交叉性の赤核延髄路からの投射は背内側核と中間核(すなわち上部顔面筋を支配する部位)にのみ投射している。中脳の網様体からも同側性に投射がある。聴神経の二次あるいは三次ニューロンも顔面神経核に投射すると考えられている。これは聴性顔面神経反射(突然大きな音を聞いたときに目をつぶったり、アブミ骨筋が収縮して耳小骨の振動を抑制する反射)に関係している。
・内耳の構造と運動神経・内耳神経
1.前庭神経
2.蝸牛神経
3.顔面神経
4.膝神経節(顔面神経外膝)
5.鼓索神経
6.蝸牛管
7.半規管
8.つち骨
9.鼓膜
10.耳管(ユースタキー管)
小脳橋角部から狭義の顔面神経と内耳神経(より正確には前庭神経)の間を走行して末梢に出てくる。この神経はSVA、GSA、GVEの各繊維を含んでいる。SVA・GSAの各求心性神経線維は膝神経節 (geniculate ganglion) に神経細胞体を持つ。
SVAは舌の前3分の2からの味覚を鼓索神経 (chorda tympani nerve) を通って伝達する(後ろ3分の1については舌咽神経の支配)。中枢でこの線維は延髄の孤束核 (solitary nucleus、味覚中枢とも呼ばれる) に投射する。
GSAは外耳道や耳介、耳の後ろ部分の表在感覚を伝達する。中枢では三叉神経脊髄路核に投射する。
副交感線維である。橋背外側の網様体に散在するアセチルコリン作動性ニューロンからなる上唾液核から出る。このニューロン群は橋から延髄まで続いており、延髄では下唾液核(舌咽神経の核)や迷走神経背側運動核につながっている。副交感節前線維は末梢に出ると顔面神経外膝の近傍で二つに分岐する。一方は大錐体神経となって翼口蓋神経節に達する。他方は顔面神経管内で顔面神経から分岐して鼓索神経となり、舌神経(三叉神経第III枝下顎神経のさらに枝神経)の枝として顎下神経節に達する。各神経節で節後線維とシナプスを形成し、節後線維は翼口蓋神経節から涙腺・鼻粘膜・口腔粘膜の分泌および血管作動線維になる。また顎下神経節からの節後線維は、顎下腺および舌下腺に達する(より詳しい機能については自律神経系を参照)。
顔面神経の走行
別名、顔面神経麻痺(がんめんしんけいまひ)。末梢性の顔面神経麻痺は病変の部位によって顔面筋の運動麻痺、知覚障害、自律神経障害などを起こす。
1. 鼓索神経分岐より末梢、茎乳突孔付近での病変では顔面神経運動枝の完全麻痺が起きる。病変のある側で、額のしわ寄せができない、目をつぶれない、歯をむけない、口がすぼめない、また眼裂がひろがる、鼻唇溝(唇と頬の間にある溝)が浅くなる、口角が下がるなどの症状が見られる。患側では角膜反射が消失するが、角膜の感覚は保たれる(感覚は三叉神経支配のため)。
2. 膝神経節よりも末梢、鼓索神経分岐よりも中枢側に病変があると、上記の症状に加えて舌の前3分の2の味覚が障害され、顎下腺および舌下腺の分泌障害、聴覚過敏が起こる。聴覚過敏は、アブミ骨筋の麻痺によって耳小骨の振動を抑制できなくなり、患側で異常に大きな音に聞こえる。
3. 膝神経節よりも中枢側に病変があると上記のすべての症状に加え、涙腺の分泌障害が起こる。この部分で完全麻痺が起こると、舌の前3分の2の味覚が永久に失われる事がある。SVA線維は再生できないためである。一方副交感節前線維は再生するが、その際しばしば誤った再生をすることがある。障害前は顎下神経節に向かっていた線維が翼口蓋神経節に向かって再生する事がある。この結果、食事などの唾液腺刺激に対して涙が出てしまう現象がある(ワニの涙症候群)。膝神経節が水痘・帯状疱疹ウイルスによって冒されるラムゼイ・ハント症候群では、耳痛や外耳道・耳介の水疱形成に続いて上記のような症状が現れる。
特発性末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺、運動成分のみが麻痺する疾患)の病因はほとんどわかっていないが、顔面神経管内での何らかの原因による神経の腫脹によるものと考えられている。
中枢性の顔面神経麻痺は、皮質延髄路や皮質網様体路など上位運動ニューロンの病変で起こる。中枢性と末梢性の顔面神経麻痺の最大の鑑別点は、中枢性の場合は額のしわ寄せが保持でき、眼輪筋の麻痺も程度が軽いことである。これは顔面神経のうち顔面の上半分の表情筋だけは両側の大脳皮質に支配されているため、一側の中枢に病変があっても麻痺が起こらないのである。そのため、顔面神経麻痺がある場合、額のしわ寄せができなければ、鑑別診断の中から、大脳および中脳における脳梗塞などの脳血管障害はまず除外してよいことになるが、小脳橋角部から顔面神経運動核に至るまでの間で脳血管障害が起きた場合は、小脳橋角部は膝神経節よりも中枢側に位置するため、額のしわ寄せができなくなる上に、前述したような末梢性顔面神経麻痺の種々の症状が発現し得る。ただし、この場合はウイルス感染ではないため、ラムゼイ・ハント症候群にみられる外耳道や耳介の水疱形成は生じない。また顔面神経には情動性支配というものがあり、経路は未知であるが運動野とは別の中枢にも支配されているため、皮質延髄路の途中に病変がある場合でも感情的刺激には反応して健側と同じように表情筋が動かせることがある。
· 脳神経
· ベル麻痺
である。