精神分裂病
セイシンブンレツビョウ
【英】schizophrenia
【独】Schizophrenie
【仏】schizophre´nie
その易傷性(脆弱性)に遺伝的要因が関与しているとされる内因性精神病*ないし機能〔性〕精神病*の一つであり,罹病危険率はおおよそ0.8%とその頻度がきわめて高い精神疾患である.E. Kraepelinは1896年,それまで記載されてきた一連の精神病,すなわちK.L. Kahlbaumの緊張病catatonia,E. Heckerの破瓜病hebephreniaおよび妄想性痴呆dementia paranoidesを,進行性で特有の人格荒廃状態(痴成化)に至るという経過の共通性に基づいて一つの疾患単位であるとし,これに早発性痴呆dementia praecoxという名称を与えた.その後1911年,E. Bleulerは早発性痴呆が必ずしも若年に発病するとは限らず,またすべてが痴成化するわけではないという点に注目して早発性痴呆という病名に異議をなげかけるとともに,横断的病像に注目して,それが思考,感情,意欲,および自己の人格に対する主観的感情の「分裂」にあると考えられること,および単一疾患とは考えられないという理由によって精神分裂病〔群〕と呼びかえたが,これが現今も続いている精神分裂病の概念である.主要な症状は連合弛緩,感情鈍麻,意欲減退,言語性幻覚*(幻声),被害妄想*,自我障害*,緊張病性興奮(→興奮)・昏迷*などであるが,どの症状群もしくは状態像が前景化するかは病期によって異なり,急性期には幻覚妄想状態や緊張病性興奮(もしくは昏迷)状態が,慢性期には情意減弱状態ないし欠陥状態がその主要なものである.経過はシュープSchub(急性期病像の再燃)を繰り返しながら漸次慢性期病像を付け加えていく型が多いが,発病の当初から慢性期病像が急速に進行していく型もある.従来は破瓜型,緊張型,妄想型という3亜型分類,あるいはそれに単純型を加えた4亜型分類が用いられていたが,互いに移行しあうことも多く,現在では用いられることは少ない.成因に関してはかつては未知の生物学的な「病的過程Prozess」が進行していくというプロセス・モデルprocess modelがとられていたが,近年は遺伝的に規定された易傷性(脆弱性)を有する個体に種々の心因が作用して発病するという脆弱性‐ストレス・モデルvulnerability‐stress modelが採用されてきている.幻覚妄想状態や緊張病状態などの急性期病像に有効な抗精神病薬*はいずれもド〔ー〕パミン受容体遮断作用を有すること,逆にド〔ー〕パミンを含むモノアミン再取り込み抑制作用を有する覚醒剤*(アンフェタミンamphetamine)によって妄想型分裂病に類似した状態が生じることなどより,少なくとも急性期病像にはド〔ー〕パミンの過剰活動が関与しているのではないかという仮説(ド〔ー〕パミン仮説hyperdopaminergic hypothesis)が提唱されているが,いまだ確定されたとはいいがたく,種々の脳内伝達物質の関与が探究されている.