亜急性脊髄連合変性症
アキュウセイセキズイレンゴウヘンセイショウ
【英】subacute combined degeneration of the spinal cord
【独】funikula¨re Myelose
【仏】de´ge´ne´rescence combine´e subaigue¨ de la moelle, scle´roses combine´es
ビタミンB12の欠乏により生ずる脊髄疾患.悪性貧血*
悪性貧血 アクセイヒンケツ 【英】pernicious anemia 【独】pernizio¨se Ana¨mie 【仏】ane´mie pernicieuse 同義語:アジソン・ビールメル貧血Addison‐Biermer anemia, Addisonian anemia,Biermer‐Ana¨mie
胃内因子*の分泌障害に基づくビタミンB12*(VB12)吸収障害のためにVB12の欠乏をきたし,幼若造血細胞のDNA合成が阻害されることにより起こる貧血.成人型と先天型に分けられる.先天型は胃粘膜の萎縮は伴わずに胃内因子の産生のみが先天的に欠如する病型で,きわめてまれである.胃全摘後VB12を補充しないとVB12の欠乏をきたして同様の貧血が起こる.成人型は白人に多く,黄色人種,黒人の順に頻度は低下する.好発年齢は60歳代,20歳以下の発症はきわめてまれである.〔臨床所見〕 貧血症状のほかに消化器症状(舌の疼痛・発赤・乳頭萎縮,食欲不振,下痢,便秘など),神経・精神所見(しびれ感などの知覚異常,腱反射の減弱,位置覚・振動覚の減弱など),黄疸,出血,毛髪異常などがある.〔検査所見〕 末梢血で大球性高色素性貧血を呈する.好中球の過分節が認められ,好中球数,血小板数の減少を示すこともある.骨髄像では赤芽球系の過形成,巨赤芽球を認める.顆粒球系細胞も大型となり,とくに後骨髄球において著明である.多核の巨核球を認めることもある.このような巨赤芽球性造血を示す骨髄では,血球の成熟過程の途中で崩壊し(無効造血*),末梢血中に流出する血球数が減少している.無効造血の反映として血清ビリルビン(とくに間接型)の上昇,尿中・糞便中のウロビリノーゲン排泄増加,血清LDHの上昇が認められる.血清VB12の低値,メチルマロン酸の尿中排泄増加などのVB12欠乏の所見が認められる.最大刺激による胃液検査で無酸症を示し内因子分泌は著明に低下している.内視鏡*,生検などにより胃粘膜の萎縮像が認められる.シリングテスト*Schilling testでは内因子欠乏の所見を呈する.胃の自己免疫現象として内因子抗体が60%の症例に,壁細胞抗体が90%症例に認められる.〔治療〕 VB12の投与により造血病態は正常化するが,胃粘膜病変は不変である. |
胃内因子 イナイインシ 【英】gastric intrinsic factor
胃内因子の名称は,胃液中に含まれる抗悪性貧血因子anti‐pernicious anemia factorとして,食物中に含まれる外因子に対して,Castle(1929)により命名されたものである.内因子intrinsic factor,キャッスル因子 Castle's factorともいう.分子量44,000の糖タンパク〔質〕*で胃体部粘膜に広く分布する壁細胞から分泌される.ビタミンB12*(VB12,外因子に相当する)は胃内因子と結合して複合体を形成し,回腸粘膜のレセプターに到達して吸収される.胃液の中には分子量がより大で電気泳動速度が速いVB12結合タンパクのRタンパクが存在するが,VB12の腸管吸収とは関係がない.胃内因子‐VB12複合体はレセプターに付着すると,内因子を外してVB12のみ粘膜細胞内に入るか,あるいは複合体のまま粘膜細胞内に入り,そこで内因子からVB12が遊離し,門脈血に移行する.非生理的大量のVB12を投与すると内因子なしにきわめて少量が拡散作用により吸収される.胃内因子分泌病態は次の3型に分けられる. 1)先天性内因子分泌不全症:胃粘膜組織像および塩酸分泌は正常で,内因子のみが分泌障害を示す.2歳までに巨赤芽球性貧血*を発症する. 2)異常内因子症:生物学的に不活性な内因子を分泌するもの. 3)萎縮性胃炎*,胃萎縮:胃粘膜が後天的に萎縮性病変を起こすことによる壁細胞の消失,無酸症*,内因子分泌低下が認められるもの(William Bosworth Castleはアメリカの医師,1897生). |
巨赤芽球性貧血 キョセキガキュウセイヒンケツ 【英】megaloblastic anemia 【独】megaloblastische Ana¨mie
巨赤芽球性造血のために起こる貧血の総称.末梢血では大球性貧血*が必発.好中球の過分節や数の減少,血小板数の減少が認められることもある.骨髄*では造血細胞の幼若な段階でDNA合成障害に基づく核の成熟障害があり,RNAおよびタンパク合成は障害されないために,細胞のサイズは大きくなり核*,原形質*間の成熟不一致が主要な形態学的異常として認められる.このような異常赤芽球を巨赤芽球という.顆粒球系では,大型で核が馬蹄形をした巨大後骨髄球,同じく大型の巨大桿(杆)状核球が認められる.これらの細胞は骨髄内において成熟途中で崩壊しやすい.これを無効造血*という.このような特徴を有する骨髄の病態を巨赤芽球症という.巨赤芽球性貧血の主な原因はビタミンB12*欠乏症,葉酸*欠乏症である.前者は胃内因子欠乏(悪性貧血*),胃全摘,吸収不良症候群*,後者は低栄養,癌,妊娠,溶血性貧血*などの需要増大などにより起こる. |
に合併して現れる.病理学的には脊髄白質に病変の主座があるが,末梢神経にも変性が起こる.髄鞘の脱落が生じ,これに比較すると程度は軽いが軸索の変性も認められる.脊髄白質の中では後索,側索が対称的に侵され,胸髄に最も強い変化が生ずる.臨床的には40~60歳代に多く,知覚・運動障害がさまざまな割合で認められる.知覚障害は足底から上行する異常知覚で手の方にはかなり遅れてから現れる.振動覚,位置覚が高度に障害される.運動障害として両下肢の痙性の亢進,脱力がみられ,下肢腱反射は通常亢進を示し,バビンスキー徴候(バビンスキー反射*)
バビンスキー反射 バビンスキーハンシャ 【英】Babinski's reflex 【独】Babinski‐Reflex 【仏】re´flexe de Babinski 同義語:バビンスキー徴候,バビンスキー現象,伸展性足底反射
1896年バビンスキーにより報告された反射で,足底の外側部を針やハンマーの柄などで踵から足趾の方へこすり上げると,母趾が背屈し,しばしば他の足趾が扇を広げた時のように開く(開扇現象funning sign)ものをいう.病的反射の中でもっとも重要かつ基本的な反射であり,その出現は同側の錐体路障害を意味する.この反射のもっとも基本的な反応は母趾の背屈であり,正常者にみられる底屈(flexor plantar response)に対しextensor plantar responseと呼ばれる.この反射は神経発育の未熟な乳児期には正常にみられるが,成長と共に通常1歳ぐらいでみられなくなる.この反射をひき出す手技には種々の変法があり,チャドック反射*Chaddock reflex,ゴードン反射Gordon r.(ゴードン現象*),ゴンダ反射Gonda r.,オッペンハイム反射Oppenheim r.,シェーファー反射*Schaeffer r.などと呼ばれている(Joseph Francois Fe´lix Babinskiはフランスの神経学者,1857‐1932). |
を証明し得る.末梢神経障害が強い時,下肢の腱反射は減弱,消失する.膀胱障害,視力低下,軽度の知能異常を呈することもある.検査所見では血清中のB12濃度の低下,Schilling試験(シリングテスト*)
シリングテスト シリングテスト 【英】Schilling test 【独】Schilling‐Test 【仏】test de Schilling 同義語:ビタミンB12吸収試験vitamin B12 absorption test
1953年R. F. Schillingにより考案されたビタミンB12(VB12)の消化管吸収能の測定法.原理は,吸収され組織に分布した放射性VB12の大部分を後に非経口的に投与する大量の非放射性VB12により尿中に排泄させ,その尿中放射能より吸収率を求めるものである.方法は,放射性コバルト(57Co,58Co,60Co)で標識したVB12カプセル(0.5~1 μg, 10~20 kBq)を空腹時に経口投与し,1~2時間後に非放射性VB12 1,000 μgを筋肉内に注射する.以後24時間の全尿を採取し,尿中の放射能の投与量に対する割合から吸収率を算出する.正常値は10~30%で7%以下は吸収障害とする.このとき,数日後に内因子intrinsic factorを標識VB12と同時に投与して再び同様に測定すると,内因子障害による悪性貧血や胃全摘術後の吸収障害は,改善されることが証明できる.内因子結合57Co‐VB12と非結合の58Co‐VB12を同時に投与し,両者の分離測定をγ線スペクトル分析によって行う二重トレーサ法double tracer methodもある. |
陽性,ヘモグロビン値の異常,無酸症を認めるが髄液は正常である.ビタミンB12の筋注が有効である.