ヒステリー
ヒステリー
【英】hysteria
【独】Hysterie
【仏】hyste´rie
心因性の動機によって,意識障害や人格の統合性の喪失,あるいは運動・知覚機能の障害が生じ,これらの障害によって患者にとって心理的・象徴的意味を有することがあるような現象をヒステリーという.主として意識障害を示すものを解離型,運動・知覚障害をみるものを転換型(転換ヒステリー conversion hysteria),退行現象が目立つものを退行型などという.解離型では,もうろう状態,健忘,遁走のほか,二重人格,多重人格,ガンザー症候群*,道化症状群*などの症状がみられ,転換型では,失立,失歩,失声,痙攣発作,後弓反張,知覚鈍麻,知覚過敏,視野狭縮,種々の疼痛などがみられる.また,これらの症状の訴えが演技的,誇張的で,暗示に影響されやすいとされる.国際分類ICD‐10ではヒステリーという用語は用いず,解離性(転換性)障害dissociative disordersとしている.DSM‐IV分類では,同じくヒステリーという言葉は放棄され,そこで含まれる状態を,身体表現性障害と解離性障害の2つの項目に分けて分類されている.ヒステリーの発現機序については,生物学的に原始的な状態,あるいは病的状態に退行することによって,内的葛藤や不安を解消しようとするものであり,ある意味での疾病への逃避であると考えられている.診断は,身体疾患との鑑別が重要であり,治療としては,精神分析*療法,暗示療法*,支持的精神療法のほか,抗不安薬*,抗精神病薬*などの薬物療法を行う.ヒステリーの現象は,古代ギリシャでは,言葉の由来が示すように,体内に子宮が動き回る婦人病とされていたが,19世紀後半からのJ. W. Charcot,H. Bernheim,J. Babinski,P. Janet,S. Freudなどの業績により,心因性障害としてのヒステリーの本態が明らかとなり,さらにヒステリー研究を通して,神経症*neurosisの概念や理論が確立されてきた.