アオバアリガタハネカクシ

アオバアリガタハネカクシ

【英】rove beetle

【独】Raubka¨fer, Kurzflu¨ger

【ラ】Pederus fuscipes Curtis, 1826

鞘翅目Coleopteraのハネカクシ科Staphylinidaeに属する昆虫で,体長6.57.0mmの細長いカラフルな甲虫である.一見したところアリの形をしていて,膜状の後翅が前翅(翅鞘)にたたみこまれているのでこの名がある.頭部と尾端は黒色.翅鞘は藍色,その他の部分は黄褐色,全国的に分布し,水田,畑,池や河の岸辺の地表面に生息し,成虫は67月に多い.夜間灯火に飛来し,人家内に侵入する.皮膚にとまった虫を払ったり,つぶしたりして体液がつくと,約2時間後にそう痒感,発赤,小水疱を生じ,さらに膿痂疹となり,ついには線状のみみず腫れのようになる.このため,線状皮膚炎*dermatitis linearisと呼ばれる.治療には約2週間を要する.有毒物質は体液中に含まれるpederineで,分子式はC25H45NO9.予防としては,網戸を張って侵入を防ぐこと,叩きつぶさないこと.治療としては,抗生物質軟膏の貼付を行い,二次感染を予防する.副腎皮質ホルモン外用薬や抗ヒスタミン薬もよい.

→図

→画像

線状皮膚炎

センジョウヒフエン

【英】linear dermatitis

【独】lineare Dermatitis

【ラ】dermatitis linearis

 

体長約7mmでアリに似た昆虫アオバアリガタハネカクシ*Paederus fuscipesの体液成分pederinにより生じる接触〔性〕皮膚炎*.夏季夜間灯火に飛来した虫が露出部皮膚に付着し,それを払い除けるとき体液が付着し,線状の紅斑,小水疱が形成される.皮疹は数時間後に生じ,痒痛あるいは灼熱感がある.

接触〔性〕皮膚炎

セッショクセイヒフエン

【英】contact dermatitis

【独】Kontaktdermatitis

【仏】dermatite de contact

【ラ】dermatitis venenata

 

皮膚に接触する外界物質の機械的刺激,化学的刺激,あるいはその物質に対するアレルギー反応の結果として生じる皮膚の延焼で俗に「かぶれ」ともいう.一次刺激性とアレルギー性とに分類される.一次刺激性接触性皮膚炎は接触条件が十分であれば誰にでも生じ得るもので,酸,アルカリ,有機溶剤,洗剤などがその原因となる.刺激の程度によりさらに蓄積傷害性と急性毒性とに分けられる.前者の代表は主婦の手荒れ(主婦湿疹*housewives' eczema)であり後者の極端なものが化学薬品による「ただれ」(化学熱傷*chemical burn)である(毒物性皮膚炎dermatitis venenata).アレルギー性〔接触性〕皮膚炎(アレルギー性皮膚炎*)は大部分が IV型反応であるが,まれにI型反応(接触じんま疹*)がみられる.IV型反応の成立には表皮内ランゲルハンス細胞が重要な役割を演じると考えられる.原因物質は無数で,ウルシ,ニッケル,ゴム製品添加物など日常生活環境中にも多数存在する.感作個体では接触後12日たって皮疹を生じる.その症状は急性~慢性の湿疹,皮膚炎であり,原則として原因物質と接触する部位に限局してみられるのが特徴である.アレルギー性接触性皮膚炎を疑えば,診断の確定と原因物質究明のため貼布試験(パッチテスト*)を行う.治療と再発防止には原因物質を明らかにし,それとの接触を避けることが必須である.接触物とともに光が関与するものを光接触皮膚炎*photocontact dermatitisという.光毒性と光アレルギー性とがあり,診断と原因物質究明には光貼布試験を行う.

主婦湿疹

シュフシッシン

【英】housewives' eczema

【独】Handekzem

同義語:家婦湿疹

 

主婦の手に生ずる湿疹*(手湿疹hand eczema)である.結婚,出産などで水仕事が増加したときに発生しやすい.これには接触〔性〕皮膚炎*,進行性指掌角皮症*keratodermia tylodes palmaris progressiva,発汗異常性湿疹eczema dyshidrosiformeなども含まれる.接触皮膚炎の原因としては洗剤,界面活性剤,石ケン,ゴム手袋,野菜,合成樹脂など多数がある.それらの多くは脱脂作用,角層障害作用などをきたすが,アレルゲン*として作用する場合もある.手掌,指腹部では潮紅,角質増殖,亀裂などをきたし,手指背では貨幣状湿疹様となることが多い.進行性指掌角皮症では利き腕の指先部から手掌にかけて拡大する角質増殖,乾燥,亀裂,指紋の消失などがみられる.発汗異常性湿疹は角質増殖,水分による角層の膨化などにより汗孔が狭くなり,汗の排泄が阻害され,汗が汗管内に貯留した際に生ずる.指腹部,指の側面に小水疱の集族(簇)としてみられる.多汗症*の人に多い.治療は水仕事の中止,尿素軟膏*,副腎皮質ホルモン軟膏,白色ワセリンなどの外用による.

湿疹

シッシン

【英】eczema

【独】Ekzem

【仏】ecze´ma

【ラ】eczema

同義語:皮膚炎dermatitis

 

表皮を主な場とする炎症性変化である.皮膚炎を同義語とするには反論もあるが,湿疹皮膚炎群eczematous dermatitisgroup〕として一括されることが多い.外来刺激と生体側の異常,体質的要素などとの相互作用によって発症する.外来刺激としては種々の化学物質,香粧品,金属,洗剤,薬物などをはじめ植物,微生物,昆虫などの生物学的因子,日光,温熱,寒冷,乾燥などの物理的因子など多彩である.生体側の因子としては発汗,皮脂の分泌異常,角化異常など局所的異常のほかに,アトピー素因,感染病巣,消化器障害,腎障害,内分泌障害などの全身的異常も関連する.発症機序としてはアレルギーと非アレルギーに大別され,前者による典型にはアレルギー性接触皮膚炎が,後者には一次刺激性接触皮膚炎がある.しかし他の病型ではいずれの機序によるかは明確ではない場合が多い.皮膚症状は原則として図に示した湿疹三角の経過をたどるが,例外もある.また丘疹,小水疱などの点状状態と紅斑,丘疹,痂皮など多彩な皮疹要素の混在,すなわち多形性およびそう痒が三徴候とされている.慢性化すると皮膚症状は単調となり,苔癬化と浸潤が著明となる.組織学的には表皮の海綿状態が最も重視され,ほかに不全角化,表皮肥厚,真皮のリンパ球,組織球,ときには好酸球,好中球浸潤などが種々の程度で認められる.慢性病巣では表皮肥厚が特徴的となる.湿疹は接触〔性〕皮膚炎*contact dermatitis,アトピー性皮膚炎*atopic d.,脂漏性湿疹*seborrheic d.,貨幣状湿疹*nummular eczema,自家感作性皮膚炎*autosensitization d.,ビダール苔癬*などに分けられ,接触皮膚炎の特殊型として主婦湿疹*,進行性指掌角皮症,おむつ皮膚炎diaper dermatitisなどがある.他にびまん性神経皮膚炎,うっ滞性皮膚炎,感染性湿疹様皮膚炎,口囲皮膚炎なども湿疹皮膚炎群に加える分類もある.〔治療〕 原因を除き,外用薬,主として副腎皮質ホルモンを塗布することによるが,その選択には十分慎重でなければならない.そう痒の著しい場合には抗ヒスタミン薬,化学伝達物質遊離抑制薬の内服などの併用が必要となる.

→図

アトピー性皮膚炎

アトピーセイヒフエン

【英】atopic dermatitis

【独】endogenes Ekzem, konstitutionelle Neurodermitis

【仏】dermatite atopique

【ラ】dermatitis atopica

同義語:ベニエー痒疹prurigo diathe´sique Besnier,汎発性神経皮膚炎neurodermatitis diffusa

 

アトピー素因の個体に発生しやすい湿疹様変化である.乳児期では滲出傾向の強い鮮紅色斑で始まり,頭,顔,頚などから体幹,四肢へと拡大する.漿液性丘疹,落屑,痂皮などを伴うが,重症例ではびらん,浸潤などをきたす.加齢と共に鮮紅色調は薄れ,乾燥傾向,毛孔性角化,粃糠様落屑などが目立つようになる.時には貨幣状湿疹様局面,痒疹結節などの散在性の多発をみる.慢性に経過し,完成された病巣では苔癬化が著明であるが,機械的刺激を受けやすい部位が侵されやすい.そう痒*は常に著しく,しばしば発作的である.皮疹は季節的消長を示すことが多い.また他のアトピー性疾患と一定の関連をもって増悪,軽快をくり返すことがある.多くは思春期前に軽快するが,1020%の症例は成人後に持ち越すことになる.末梢血好酸球増多,高IgE血症,特異IgE抗体の出現などがみられる.感染症に罹患しやすい症例も多い.発症機序としては食物アレルギー,家塵,ダニなどに対する即時型反応(I 型アレルギー反応*)および遅延型反応(IV 型アレルギー反応*)などが注目されている.脂漏性湿疹*,神経皮膚炎,手の湿疹などとの鑑別が問題となるが,異同も明らかではない.副腎皮質ホルモンの外用,抗ヒスタミン薬,化学伝達物質遊離抑制薬の内服などにより治療される.しかし成長期の子供に長期間使用することになるため,副作用に対する細心の注意が必要である.卵,牛乳,大豆などを除去する食事療法の効果も小児科医により指摘されている.

I 型アレルギー反応

イチガタアレルギーハンノウ

【英】type I allergic reaction

同義語:即時型アレルギー反応immediate type hypersensitivity

 

GellCoombsは組織に障害を及ぼすアレルギー反応をIIV型に分類した.I型アレルギー反応は即時型アレルギー反応またはアナフィラキシー型反応ともいわれ,抗原と反応して1520分で病変が出現する.I型アレルギーに関与するのは主にIgEクラスの抗体(レアギン*)であり,Fc部分で肥満細胞*や好塩基球表面のFc受容体*に結合する.抗原(アレルゲン*)が再度体内に侵入すると,細胞表面のIgEクラスの抗体と反応し抗体間に架橋が形成される.これが引き金となって肥満細胞や好塩基球の脱顆粒が起こり,顆粒中に含まれた化学伝達物質が細胞外へ放出される.化学伝達物質としてはヒスタミン*,セロトニン*,SRSA*, ECFA, PAF,ヘパリン*,キニン,プロスタグランジン*などがあり,毛細血管の透過性亢進,平滑筋収縮,外分泌腺刺激などの薬理作用を示し病変を形成する.I型アレルギー反応によって発症する疾患にはアナフィラキシーショック*,気管支喘息*,アレルギー性鼻炎(鼻アレルギー*),じんま疹*,アトピー性皮膚炎*,薬剤アレルギー(薬物過敏症*)などがある.皮膚反応*,喘息患者の吸入誘発試験などもI型アレルギー反応でありアレルゲンの検索に用いられている.I型アレルギー反応は抗体により正常個体へ移入することが可能であり,これを用いたプラウスニッツ・キュストネル反応*PrausnitzKu¨stner reaction, PCApassive cutaneous anaphylaxis;受身皮膚アナフィラキシー)反応によりレアギンの存在を確かめることができる.

レアギン

レアギン

【英】reagin

 

I〕 1921年, PrausnitzKu¨stnerはタラ(鱈)に対する過敏性が患者の血清を正常人の皮内へ注射することにより伝達できることを示した(→プラウスニッツ・キュストネル反応PrausnitzKu¨stner reaction).この血清中に存在する過敏性を伝達する能力のある抗体がレアギンと呼ばれた.レアギンの特徴は受身感作に要する至適時間が24時間と長いこと,感作後1週間以上その局所にとどまることである.レアギンの本態はそれが血液中にごく微量にしか存在しないため40年以上も不明であったが,1966年石坂夫妻はレアギンがそれまで知られていなかった新しい免疫グロブリンIgEに属することを証明した(→IgE).皮膚感作抗体skin sensitizing antibody,同種細胞感作性抗体*homocytotropic antibodyもレアギンと同義語として用いられているが,前二者は厳密にはIgGクラスの抗体をも含む.〔II〕 類脂体抗原を用いる梅毒血清反応の抗体のことを過去に「レアギン」または「ワッセルマン・レアギンWassermann reagin」と呼んだ.梅毒血清反応,とくに沈降反応では,はたして真の抗原抗体反応なのか,それとも類脂体を安定化する血清中の因子の質的ないし量的変化による非特異的現象であるのかの論議が絶えなかった.当時は,タンパク質以外は抗体を産生できないと考えられていたので,類脂体(完全抗原ではなく,ハプテン*と考えられた)とin vitroで反応する因子に対しても「抗体」とはいわずに「反応物質」を意味する「レアギン」という名を用いたのである.

プラウスニッツ・キュストネル反応

プラウスニッツキュストネルハンノウ

【英】PrausnitzKu¨stnerPK reaction

【独】PrausnitzKu¨stner Reaktion

【仏】re´action de PrausnitzKu¨stner

同義語:PK反応,被動性転嫁passive sensitization,受身伝達passive transfer

 

ヒトのIgE抗体(レアギン*)を検出する反応.ある抗原(アレルゲン*)に対するIgE抗体を有する患者血清を健常人皮内に注射すると,この抗体は皮膚内の肥満細胞*表面のレセプターに結合する.2448時間後に同じ皮膚の部分に抗原を注射すると,抗原がIgE抗体と結合し,肥満細胞よりヒスタミン*やSRSA*(ロイコトリエンC4,D4,E4)などが放出される.結果として皮膚の発赤,膨疹がみられる(受身皮膚アナフィラキシーpassive cutaneous anaphylaxisPCA).肝炎やAIDSなどの伝染の危険性,特異的IgE抗体測定法の開発により,近年では本反応を臨床検査に使用することは少なくなっているが,患者血中IgE抗体検出のため患者家族(健常人)の皮膚を用いることがある(Otto Carl Willy Prausnitzはドイツの衛生学者,18761963Heinz Ku¨stnerはドイツの婦人科医,18971963).

肥満細胞

ヒマンサイボウ

【英】mast cell

【独】Mastzelle

【仏】mastocyte

【ラ】granulocytus basophilus textus

同義語:肥胖細胞

 

ヘパリン,ヒスタミン,セロトニン,白血球招集因子,グルクロン酸分解酵素,ヘキソースアミン分解酵素などを含有する分泌顆粒*を細胞質内に充満させるという特徴を示す間葉由来性の遊走細胞*であるが,小血管壁に沿う位置にとくに多く存在する.肥満細胞は体内に侵入した異物を検出すると顆粒を放出し,体内のアレルギー反応と局所的炎症反応の引き金役を果たす.

分泌顆粒

ブンピカリュウ

【英】secretory granule

【独】Sekretionsgranula

【仏】grain de se´cre´tion

 

内・外分泌腺で生産される分泌物は顆粒状になることが多く,この名がある.下垂体前葉細胞,膵の内・外分泌腺,唾液腺などにみられる開口分泌exocytosisにおいてよく知られる.分泌タンパク(→シグナルペプチド)はリボソーム*ribosomeで合成され,ゴルジ装置(内網装置*)に集まって糖と結合し,限界膜に包まれて顆粒状となる.分泌にあたり,分泌顆粒は細胞の遊離表面に近づき,限界膜と細胞膜*が融合して,その部が開口して内容物が細胞外へ出る.限界膜はそのまま細胞に残る.

線状皮膚炎

センジョウヒフエン

【英】linear dermatitis

【独】lineare Dermatitis

【ラ】dermatitis linearis

 

体長約7mmでアリに似た昆虫アオバアリガタハネカクシ*Paederus fuscipesの体液成分pederinにより生じる接触〔性〕皮膚炎*.夏季夜間灯火に飛来した虫が露出部皮膚に付着し,それを払い除けるとき体液が付着し,線状の紅斑,小水疱が形成される.皮疹は数時間後に生じ,痒痛あるいは灼熱感がある.