悪循環
アクジュンカン
【英】vicious cycle, vicious circulation
【独】fehlerhafte Kreisbahn, Zirkelschluss
【ラ】circulus vitiosus
同義語:錯誤循環,失調循環ataxic circulation
胃切除術*を行わずに
胃切除術 イセツジョジュツ 【英】gastric resection, gastrectomy 【独】Magenresektion 【仏】gastrectomie 【ラ】resectio ventriculi, gastrectomia
胃の各種疾患に対し,胃を切除し摘出する術式の総称である.多くは胃癌*(胃癌イガン 【英】gastric cancer, cancer of the stomach, gastric carcinoma 【独】Magenkrebs 【仏】cancer d'estomac
胃の悪性腫瘍*(悪性腫瘍アクセイシュヨウ 【英】malignant tumor 【独】bo¨sartige Geschwulst,maligner Tumor 同義語:悪性新生物malignant neoplasm 腫瘍(新生物)を良性腫瘍と悪性腫瘍に二大別し後者をいう.悪性腫瘍はさらに,上皮性悪性腫瘍と非上皮性悪性腫瘍に分類する.前者を癌*(癌 ガン 【英】cancer(Ca),carcinoma(Ca) 【独】Krebs 【仏】cancer(Ca),carcinoma(Ca) 同義語:癌腫 悪性腫瘍*のうち上皮性悪性腫瘍を癌(癌腫)と呼ぶ.癌が占居する臓器の名前を付して使用することが多い(例えば,胃癌,皮膚癌,膀胱癌など).組織学的には,腺癌*,扁平上皮癌*,移行上皮癌,未分化癌*などと分類する.また,癌の発育に従って,微小癌*,早期癌*,進行癌advanced cancerなどとも分類することができる.癌は,一般人を対象とする場合,広義に解釈して,悪性腫瘍の同義語として使用することもしばしば行われる.癌研究所,癌センターでいう場合の癌は非上皮性悪性腫瘍(すなわち肉腫)をも含めた悪性腫瘍全体の意味である.もし癌を狭義の悪性上皮性腫瘍に限定して用いていることを強調したい場合は,癌腫という用語を使用する.ヘパトーマhepatoma(肝細胞癌*),コランギオーマcholangioma(肝内胆管癌),Grawitz腫(腎細胞癌*)などと癌であっても,特定の名称が付されている場合がある.癌腫は初期や早期においては転移を示さないことが多いので,腫瘤そのものを切除すれば治癒することが多い.また,ある程度進行している癌であっても腫瘍切除とともに,リンパ節の郭清を行えば治癒することが少なくない.癌を実験的に作製したのは山極勝三郎(1863‐1930)で世界に先がけてウサギの耳にコールタールを反復塗布することにより成功した(1915).これによって癌の原因をVirchowの刺激説に求めうるとされたが,後年コールタールから多数の化学物質が精製され化学発癌の出発点となった.)または癌腫,後者を肉腫*と呼ぶ.すなわち,悪性腫瘍は主として癌と肉腫からなる.ただし,一般の人を対象にする場合は,癌という言葉は悪性腫瘍の意味で使用する.したがって,癌研究,癌センターなどは悪性腫瘍全体の研究や診断・治療を行うことを意味する.悪性腫瘍は良性腫瘍と異なり,放置すれば次第次第に増大して周囲の組織に浸潤していく.これを浸潤性増殖という.悪性腫瘍は腫瘍そのものを切除するのみならず,そのまわりの組織も共に切除する必要がある主な理由である.悪性腫瘍の多くは遅かれ早かれ転移をきたす.この場合,腫瘍の近くのリンパ節にリンパ行性に転移したり,他の臓器,例えば肝・肺などに血行性に転移する.胃癌*の場合は腹腔に癌細胞*が散布されることも少なくない.この転移の形式を播種*という.悪性腫瘍の性格によって,転移を早期に起こすものもあれば,非常に進行しても転移をきたさないものもあるが,一般には腫瘍が進行すればするほど転移する率が高くなる.転移の予防あるいは転移巣の治療が完全に可能となれば,悪性腫瘍はそれほど恐ろしい病気でなくなるので,そのメカニズムの研究や予防・治療の進歩が望まれる.悪性腫瘍と良性腫瘍の境界を良性悪性境界領域病変,あるいは単に境界病変borderline lesionと呼ぶ.また,悪性腫瘍のうち悪性度の低いものを低悪性の腫瘍tumor of low grade malignancyと呼び,予後は良好である.これに対し悪性度の高いものを,高度悪性の腫瘍highly malignant tumorと呼び,予後は一般に不良である.)には上皮性腫瘍*と非上皮性腫瘍があるが,胃癌は上皮性の悪性腫瘍である.胃における悪性腫瘍の大部分が癌である.わが国における癌死亡の第1位であるが,近年増加率の低下がみられている.これは胃癌検診の普及による成果と考えられている.組織学的には主に腺癌*であるが,細胞および組織構造の分化により分類されている.すなわち, 1)一般型:乳頭腺癌papillary adenocarcinoma,管状腺癌tubular adenocarcinoma,低分化腺癌poorly differentiated adenocarcinoma,印環細胞癌*,粘液癌*, 2)特殊型:腺扁平上皮癌adenosquamous carcinoma,扁平上皮癌*,カルチノイド腫瘍, 3)そのほかの癌,などである.進行胃癌の肉眼的形態分類は,0型(表在型):病変の肉眼形態が,軽度な隆起や陥凹を示すにすぎないもの.1型(腫瘤型):明らかに隆起した形態を示し,周囲粘膜との境界が明瞭なもの.2型(潰瘍限局型):潰瘍を形成し,潰瘍を取り巻く胃壁が肥厚し周堤を形成する.周堤の周囲粘膜との境界が比較的明瞭なもの.3型(潰瘍浸潤型):潰瘍を形成し,潰瘍を取り巻く胃壁が肥厚し周堤を形成するが,周堤と周囲粘膜との境界が不明瞭なもの.4型(びまん浸潤型):著明な潰瘍形成も周堤もなく,胃壁の肥厚,硬化を特徴とし,病巣と周囲粘膜との境界が不明瞭なもの.5型(分類不能):上記0~4型のいずれにも分類しがたい形態を示すもの,の5型に分類している.一方,臨床的には癌組織の浸潤が粘膜に止まっているものを早期胃癌*として区別して取り扱っている.検査法はX線撮影法,内視鏡検査および生検による組織学的検査,症例によっては血液検査でCEA(carcinoembryonic antigen)の高値などが診断に有力である.臨床症状として胃癌特有な症状はないが,吐血,嘔吐*,狭窄などの随伴症状により発見されることがある.治療法は外科的切除可能な場合には根治切除を原則とする.しかし,他臓器への転移や切除不能症例および高齢者患者のQOL(quality of life)の点などから内視鏡的切除や内視鏡下レーザー照射,化学療法,放射線治療などが行われる.)と 胃潰瘍*()がその対象となる. 切除範囲により,胃を全部切除する胃全摘術*total gastrectomyとそうでない胃部分切除術partial gastrectomyの2つに分けられ,後者はさらに幽門側胃切除術distal partial gastrectomyと噴門側胃切除術proximal gastrectomyに分けられる.これらの中で幽門側胃切除術は胃癌と胃十二指腸潰瘍gastric and duodenal ulcerの治療法として考案,改良され,現在広く普及している術式である.胃十二指腸潰瘍手術では,減酸効果を得るため,塩酸分泌を促すガストリン*分泌細胞領域の幽門洞部と,塩酸を分泌する壁細胞領域の胃体部を含め,胃の約70%を切除する広範囲胃切除術conventional partial gastrectomyがよく行われる.胃癌の手術では癌を体内に残さないため,大網,小網と小弯高位のリンパ節郭清を含めた幽門側胃切除術が行われるが,癌腫の位置,大きさ,進行程度により,胃切除の範囲が80%以上になる.この場合は胃亜全摘術subtotal gastrectomyと呼ぶ.幽門側胃切除後の再建には,ビルロートI法かII法が用いられる.噴門側胃切除術は噴門部の潰瘍,粘膜下腫瘍,癌などに対して行われる.癌の場合は噴門部に限局するもの,漿膜浸潤のないもの,幽門上下リンパ節転移のないものに限って行われる.切除範囲が小さい場合は幽門形成を付加した食道胃吻合が行われ,大きい場合は逆流性食道炎防止のため,食道・残胃間に空腸間置やdouble tract法,ニッセン法Nissen operationが行われる. →図 |
胃腸吻合術*のみを行った場合,
胃腸吻合術 イチョウフンゴウジュツ 【英】gastroenterostomy 【独】Gastroenterostomie 【仏】gastroente´rostomie 【ラ】gastroenterostomia 同義語:胃空腸吻合術gastrojejunostomy 胃と小腸の間に新しい交通路を造設する手術であり,通常,胃体部と空腸の吻合が行われる.主として切除不能な胃幽門部癌,十二指腸癌*
膵頭部癌,胆道系癌や先天性十二指腸閉塞症に対して施行されるが,幽門狭窄〔症〕*
を伴う潰瘍の治療に迷走神経切断術*(迷走神経切断(切離)術 メイソウシンケイセツダンジュツ 【英】vagotomy 【独】Vagotomie 【仏】vagotomie 1911年Exnerらにより脊髄癆性胃部疼痛に対する除痛手術として初めて行われた.消化性潰瘍*の治療法としては1943年Dragstedtらにより再提唱された方法である.現在では主に十二指腸潰瘍*に対して行われるもので,胃液分泌を減少させ,また同時に胃運動亢進および痙攣をとることを目的としている.大きく3つの術式がある. 1)全迷走神経切断術truncal vagotomy:前幹,後幹を切断するもので,経腹的にも経胸的にも行われる.この場合,前幹より分枝する肝枝,幽門枝,後幹より分枝する腹腔枝も切断してしまうことになり,胆道系,幽門機能などの障害による下痢,膨満などのいわゆるpostvagotomy syndromeが発現する.そのため本法は現在ではあまり行われない. 2)選択的迷走神経切断術sele ctive vagotomy:前述の不快な副作用を軽減させるため,胃に分布する神経枝のみを切断し,肝枝,幽門枝,腹腔枝を温存させる方法である. 3)選択的近位迷走神経切断術sele ctive proximal vagotomy:胃枝のみを切断するが,その中で前庭部に分布している前庭枝を残存する方法で,これによって胃酸分泌の抑制,同時に前庭部の運動機能を残そうという考えで行われる.以上の迷走神経切断術において,それぞれ程度の差こそあれ,なお胃内容の停滞による胃液塩酸分泌の増加があることから,drainage operation(胃腸吻合術*,幽門形成術*)あるいは幽門前庭部切除術を併施することが多い.)と併用して行われることもある.代表的な術式は結腸前胃前壁空腸吻合術(ウェルフレルWo¨lfler法,1881)と結腸後胃後壁空腸吻合術(ハッカーHacker法,1885)である.前者の場合には輸入脚が長いため輸出脚の狭窄などにより輸入脚に胃内容が排出されると膨大し,それが輸出脚を圧迫して輸出脚への排出をさらに障害するばかりでなく,内容物が十二指腸を経て再び胃内へ逆流するという悪循環が生じやすいので,これを予防するためにブラウン吻合*が必要となる.吻合法には順蠕動性と逆蠕動性があるが,逆蠕動性にすると食物が輸入脚に流入しやすいので,順蠕動性の方がよく用いられる.トライツ靱帯*から40~50cmの空腸係蹄を結腸前に挙上して胃前壁と順蠕動性に吻合した後,空腸脚間にBraun吻合を行う.後者の場合は悪循環をきたす可能性がないのでBraun吻合を加える必要はないが,深部操作のため手技がやや煩雑であり,また将来,癌浸潤による狭窄の可能性のある場合には適当でない.結腸間膜を切開し胃後壁を下方にひきだし最も上位の空腸係蹄と吻合口が胃の長軸と直交し,かつ逆蠕動性になるように吻合した後,腸間膜裂孔を胃壁に縫着して内ヘルニア*の発生を予防する. →図 |
胃内容が輸出脚空腸へ流出せず,輸入脚空腸から十二指腸,さらに胃へと逆流循環することがあり,これを悪循環という.輸入脚の拡張と内容の停滞のため腹痛,嘔吐が起こる.胃腸吻合前後の輸入脚と輸出脚間に側々吻合(ブラウン吻合)を
ブラウン吻合 ブラウンフンゴウ 【英】Braun's anastomosis 【独】Braun‐Anastomose 【仏】anastomose de Braun
結腸前胃空腸吻合術の後に,胃内容が主として空腸輸入脚に流入し胃内に逆流してくることがある.この胃内容の停滞という悪循環*vicious cycleの発生を予防するため,その吻合口から10~15cmはなれて空腸輸出・輸入脚に側々に行う吻合術をいう.この吻合口を通って,十二指腸内容は胃に逆流することなしに下部腸管に送られることになる(Heinrich Braunはドイツの外科医,1847‐1911). |
行うと悪循環は予防される.一般には2つ以上の状態が相互に他の病態に悪影響を与え,病態がさらに悪化していく場合にも,悪循環という語が用いられる.