悪性萎縮性丘疹症

アクセイイシュクセイキュウシンショウ

【英】malignant atrophic papulosis

 

=デゴス病

デゴス病

デゴスビョウ

【英】Degos' disease

同義語:悪性萎縮性丘疹症malignant atrophic papulosis

 

体幹や上肢に,淡紅色ないし淡黄白色のエンドウマメ大までの丘疹を多発し,数日以内に中央部が萎縮性となり,外縁が堤防状に隆起して,鋭利な内縁で浅い陥凹部を囲む特異な形態をとる.陥凹部は白陶色である.自覚症状はない.組織学的には血管閉塞と壊死を認める.予後不良の重篤疾患で,数週~数年後に,突然消化管(小腸が多い)の穿孔を起こし,急性腹〔部〕症*(急性腹〔部〕症

キュウセイフクブショウ

【英】acute abdomen

【独】akutes Abdomen

 

急激な腹痛を主症状とする腹部疾患にして,早急に手術を行う必要がある疾患を総括して急性腹症という.この際にはたとえ診断が確定しなくても診断のために時間を費やすことなく,早期に開腹して診断を下したうえ,適切な処置を施行すべきであるという概念から生まれた呼称である.主な症状は自発痛(持続痛,仙痛,放散痛など),圧痛,腹壁緊張,鼓腸*(鼓腸

コチョウ

【英】meteorism

【独】Meteorismus

【仏】me´te´orisme

 

腸管内または腹腔内にガスがたまって,腹部が膨隆した状態をいい,鼓脹とも表記する.腸管内にガスが貯留する腸性のものが大部分で,これは腸運動の減弱あるいは消失,腸管の閉塞,循環障害による腸内ガスの吸収不良,呼吸器疾患によるガス排出障害などによって起こる.ガスの貯留は腸管全体にみられることも限局性にみられることもある.まれに,腸管穿孔や,腹膜炎,気腹後などで腸管外に(腹腔内)ガスが貯留して起こるものがある.),腸管硬直,蠕動不穏*(安)(蠕動不穏

ゼンドウフオン

【英】visible peristalsis

【独】peristaltische Unruhe

 

腸の蠕動*が腹壁を通してみえること.幽門狭窄〔症〕*(幽門狭窄〔症〕

ユウモンキョウサクショウ

【英】pyloric stenosis, pyloristenosis, pylorostenosis

【独】Pylorusstenose

【仏】ste´nose pylorique

【ラ】stenosis pylori

 

胃幽門部の内腔狭窄状態を総称し,器質性と機能性の幽門狭窄がある.前者は先天性の幽門筋肥厚による乳児幽門肥厚症のほか,幽門部の潰瘍性か腫瘍性病変に続発し,また幽門部周囲の炎症や腫瘤などの圧迫で生じる.後者は胃・十二指腸潰瘍,神経性疾患,代謝疾患でみられる.〔症状〕 胃の排出障害であるため嘔吐を主徴とし,ときに代謝性アルカローシス*を認め,食欲不振,体重減少,脱水,栄養不良を伴う.X線検査で器質性狭窄は胃の拡張と特異な幽門部狭窄像を認めるが,機能性狭窄は,幽門に狭窄性病変がなく胃の緊張,運動亢進,逆蠕動など刺激胃の状態を示す.〔治療〕 原疾患の治療によるが,高度の潰瘍性狭窄や腫瘍性狭窄は胃切除や胃腸吻合術*などの外科的手術の適応となる.乳児幽門肥厚症(→〔乳児〕肥厚性幽門狭窄症)に対しては内科的には鎮痙薬の投与,外科的には幽門筋切開術が行われる.)や腸の慢性閉塞の場合にみられるが高位小腸閉塞や急性閉塞では通常認められない.幽門狭窄では,胃の膨隆が左上腹部から右方へ移動するのがみえる.腸の慢性閉塞では,閉塞の部位によってみえる部位は一定しない.なお腹壁のうすい人では正常でも腸の動きがみえることがある.)などである.診断上,X線検査は必要である.急性腹症として取り扱われている主な疾患は, 1)炎症:腹膜炎*(腹膜炎

フクマクエン

【英】peritonitis

【独】Peritonitis

【仏】pe´ritonite

【ラ】peritonitis

 

腹膜の炎症性疾患で,その経過により急性,慢性,また病変の範囲により汎発性,限局性に分けられる.最も重篤なものは胃,腸,虫垂,胆嚢などの内腔性臓器の穿孔により内容が漏出し腹膜の刺激,感染が惹起された穿孔性腹膜炎perforative peritonitis, Perforationsperitonitis, pe´ritonite par perforation, peritonitis perforativaであり,急性汎発性腹膜炎acute generalized peritonitis, peritonitis acuta diffusa所見を呈する.急性虫垂炎*,胃・十二指腸潰瘍穿孔が多いが,高齢者では大腸憩室炎,大腸癌*の穿孔も多くみられる.外傷による管腔臓器の破裂も同様の所見を呈する.激烈な痛みがあり初期は穿孔部に限局するがその後腹部全体に広がる.腹壁は板状硬となり,腸麻痺をきたすと腹部膨満を呈する.一定時間たつと脱水,電解質のアンバランス,循環障害,ショックとなり開腹手術など適切な処置が行われぬかぎり,敗血症*を併発,予後不良である.穿孔部が大網の被覆あるいは周囲との癒着により炎症が腹腔内に限局されたもの,また非穿孔性の炎症が局所にとどまるものを急性限局性腹膜炎acute localized peritonitis, peritonitis acuta circumscriptaという.これは前者に比し一般に症状は軽度であるが,腹痛もあり,病巣部に一致して圧痛,抵抗を認め弛張熱をきたす.急性虫垂炎では限局性腹膜炎を呈する場合手術適応となる.慢性のものとして結核性腹膜炎*tuberculous peritonitisがある.肺などの結核性病巣より血行性またはリンパ行性に腹膜に炎症をきたし,徐々に発病することが多い.滲出性,癒着性とがあり,後者は腫瘤を形成することがある.本来の炎症とは異なるが腹腔内臓器の癌が腹膜に及んだものを癌性腹膜炎*(癌性腹膜炎

ガンセイフクマクエン

【英】peritonitis carcinomatosa

【独】karzinomato¨se Peritonitis

【仏】pe´ritonite carcinomateuse

同義語:腹膜癌〔腫〕症peritoneal carcinomatosis

 

原発性のものはきわめて少なく,大多数は胃,腸,卵巣などの腹部臓器の悪性腫瘍,ことに癌腫が腹腔内に播種され,着床発育して小結節あるいは腫瘤を形成するもので,腹水*は初期には濾出液,後には血性または漿液性の滲出液となる.末期にはきわめて大量の腹水が貯留することもあり,播種された癌腫も徐々に発育して,ところどころに大小の腫瘤として触知されるようになる.症状は悪液質が進展し,やせ(るいそう*)が著明になるとともに,腹部は徐々に膨隆してくるが,発熱はなく腹壁緊張が少なく,腹水中に印環細胞や腫瘍細胞を認める.癌腫の腹膜播種は比較的早期からダグラス窩*にシュニッツラー転移*を起こし,腫瘤を触れることもあるので直腸内指診を試みることが大切である.予後は不良で,腹水穿刺などの対症療法を行う.制癌剤や免疫賦活剤の腹腔内注入により腹水の減少をみることもある.)carcinomatous peritonitisと称する.通常癌細胞を含む腹水*(腹水

フクスイ

【英】ascites

【独】Aszites

【仏】aszite

【ラ】ascites

 

腹腔内に貯留した液体を腹水という.一般に淡黄色透明な液体であることが多いが,悪性腫瘍や結核による場合に血性のことがあり,また炎症性のものでは混濁がしばしばみられ,リンパ系の閉塞を伴うと乳糜状を呈する.漏出性の場合は比重は1.018以下でタンパク含量も少ない(4 g/dL以下)のに対し,滲出液の場合は高比重,高タンパク性となり, Rivalta反応は陽性を呈する.〔原因〕原因は複雑で,種々の因子が影響しているが,血漿浸透圧の低下,静脈圧の上昇,肝でのリンパ液生成増加あるいは腹腔での再吸収の低下,アルドステロンを介する腎でのNa,水排泄抑制,腹膜の炎症や腫瘍による腹膜毛細血管透過性の亢進などがあげられる.漏出性の腹水をきたす疾患としては肝硬変*症が最も多く,うっ血性心不全,ネフローゼ症候群*(ネフローゼ症候群

ネフローゼショウコウグン

【英】nephrotic syndromeNS

同義語:ネフロージスnephrosis

 

ネフローゼ症候群は臨床的な概念であり,尿中に多量の血清タンパク成分を喪失するときにみられる共通の病態をいう.わが国では以下の診断基準が行われている. 1)タンパク尿*:13.5 g以上の尿タンパク量を持続する. 2)低タンパク血症*:血清総タンパク量は6.0 g/dL以下,または血清アルブミン値3.0 g/dL以下, 3)高脂血症*:高コレステロール値250mg/dL以上, 4)浮腫*.このうち上記の尿タンパク量と低タンパク血症hypoproteinemia(低アルブミン血症*)が必須条件となっている.)などがこれに次ぐ.滲出液貯留は,腹膜癌症(癌性腹膜炎*)によるものがきわだって多い.〔治療〕基本的には原因の究明と除去が必要であるが,対症的には,安静,減塩食,利尿薬投与,血漿アルブミン補充などが中心となる.治療に抵抗性の腹水には濃縮腹水再輸注なども試みられる.)を有している.),虫垂炎*,胆嚢炎,膵炎,子宮付属器炎, 2)穿孔破裂:胃十二指腸穿孔 ,胆嚢穿孔 ,子宮外妊娠 ,外傷による腸管穿孔 ,肝腎損傷, 3)閉塞:閉塞性イレウス, 4)血行障害:絞扼性イレウス*,腸間膜血栓症,卵巣・S字状結腸の茎捻転などである.)で死亡する例が半数に達する.血管閉塞の原因は不明で,治療法は知られていない(Robert Degosはフランスの皮膚科医,1904生).