悪液質性紫斑

アクエキシツセイシハン

【ラ】purpura cachectica

=老人性紫斑

老人性紫斑

ロウジンセイシハン

【英】senile purpura, scurvy of old age

【ラ】purpura senilis

同義語:悪液質性紫斑purpura cachectica

 

60歳以上の老人に起こる.性差はない.加齢により真皮結合組織と皮下脂肪組織の減少と変性による血管保護作用の低下と,血管壁が脆弱になるために生ずる.機械的刺激をうけやすく,かつ,日光露出部である手背,前腕伸側ときに下腿伸側,足背,顔面,頚部に暗紫色の境界の明瞭な不整形の斑状出血および点状出血が出現する.自覚症状はない.数日後消退して色素沈着*

色素沈着

シキソチンチャク

【英】pigmentation

【独】Pigmentierung

【仏】pigmentation

 

生体内にメラニン*,

メラニン

メラニン

【英】melanin

【独】Melanin

【仏】me´lanine

同義語:メラニン色素melanin pigment

 

ヒト生体内のメラニンには黒色メラニンと黄色メラニンがあり,混在している.皮膚,毛,眼,脳軟膜などに存在する色素,メラニンは,アミノ酸チロシンtyrosineからチロシナーゼ*tyrosinaseの酸化作用により生じるド〔ー〕パ*DOPA,次いでドーパキノンdopaquinoneを経て生成されるが,アルカリ難溶性の黒色メラニン(ユーメラニンeumelanin)は,5,6‐ジヒドロキシインドール5,6dihydroxyindoleが主となった重合体である.メラニンの生成はメラノサイト*melanocyte内でメラノソームと呼称されるチロシナーゼを含有する細胞内小器官中で行われる.メラノソームはその成熟過程でメラニン生成を行い,これを自己の内部構造に沈着させる.したがって生体内では黒色メラニンはメラノソームという細胞内小器官の構成成分として存在している.黒色メラニンは光線に対する防御作用を有している.黄色メラニンはドーパキノンよりシステイン,グルタチオン*,γ‐glutamyltranspeptidase(γ‐GTP)の関与のもとに別の代謝路を経てシステイニールドーパcysteinyl dopaを主中間代謝物として生成され,アルカリ易溶性のフェオメラニンpheomelaninである.黒人は黒色メラニンが多く,北欧の白人ほど黄色メラニンの割合が多い.

チロシナーゼ

チロシナーゼ

【英】tyrosinase

【独】Tyrosinase

【仏】tyrosinase

 

カテコールオキシダーゼcatechol oxidaseともいう.1, 2benzenedioloxygen oxidoreductase 1 とmonophenoldihydroxy phenylalanineoxygen oxidoreductase 2 の両者をさす.後者はCu2+を必要とする.メラニン合成細胞においては,前駆体LDOPAはチロシン水酸化酵素によってでなく,チロシナーゼによって合成され,さらに酸化されてDOPAキノンを経て,メラニンに至る.本酵素の欠損症が白子albinismである(チロシナーゼ陽性の白児症*

白児症

ハクジショウ

【英】albinism

【独】Albinismus

【仏】albinisme

同義語:白皮症leukopathia,先天性メラニン欠乏症congenital melanine deficiency, kongenitaler Melaninmangel, de´ficience conge´nitale en me´lanine

 

メラニン色素生成に関する先天的な異常である.眼,毛髪,皮膚の色素が減少または消失する眼皮膚型では眼振,羞明,視力低下,日光照射に伴う紅斑を示す.メラニン細胞での色素生成に関与するチロシナーゼ*の欠損または低下は,1) チロシナーゼ陰性型,2) 黄色変異型で認めるが,本酵素活性の存在する,3) チロシナーゼ陽性型,4) Che´diakHigashi, HermanskyPudlak, Crossなどの症候群に伴うものが知られており,これらはいずれも常染色体性劣性遺伝を示す.このほかに視力症状を示さず,常染色体性優性遺伝を示す眼皮膚型類白児症がある.色素欠損は,1) で最も著明で透明な虹彩,乳白色の皮膚,黄白色の毛髪を示す.網膜色素上皮の色素欠損または減少と羞明,眼振,視力低下を示すが皮膚毛髪は正常,眼型はX染色体性劣性(一部常染色体性劣性)遺伝を示す.皮膚毛髪の部分的色素欠乏を認める皮膚型では常染色体性優性遺伝を示す.

もある).β‐チロシナーゼとは,大腸菌などに存在し,チロシン+HO→フェノール+ピルビン酸+NH3を触媒するピリドキサル酵素,Ltyrosine phenollyaseをさす.

→図図

ヘモグロビン*

ヘモグロビン

ヘモグロビン

【英】hemoglobinHb

【独】Ha¨moglobin

【仏】he´moglobine

同義語:血色素

 

ヒトヘモグロビンの種類は2個のα鎖*

α鎖(ヘモグロビンの)

アルファサ1

【英】α‐chain

【独】α‐Kette

【仏】chai^ ne α

 

ヒトヘモグロビン分子のサブユニットで141個のアミノ酸*からなる.非α鎖と結合してそれぞれHb A(α2 β2), Hb F(α2 γ2), Hb A2(α2 δ2)およびHb Gower 2(α2 ε2)を形成するので,α鎖の異常は上記4種類のヘモグロビンに同時に異常を生ずる.ヘム鉄は,N末端から87番目のヒスチジンのイミダゾールとの間で固定されている.α鎖の遺伝子は,第16染色体短腕に2個(α1遺伝子,α2遺伝子)あり,胎生3週の早期から卵黄嚢で産生される.

β鎖(ヘモグロビンの)

ベータサ

【英】β‐chain

【独】β‐Kette

【仏】chai^ ne β

 

ヒトヘモグロビン分子のサブユニット*

サブユニット

サブユニット

【英】subunit

【独】Untereinheit

【仏】sousensemble

 

複数個の構成単位が共有結合によらずに結合してある特定の四次構造をとり,その結果固有の生理機能を発現できる生体粒子あるいは生体高分子を形成するとき,個々の基本構成単位をサブユニットという.同一のサブユニットからなる場合もあるし,複数種のサブユニットの集合体のこともある.ヘモグロビン*は一次構造が異なるα鎖およびβ鎖各2本のペプチドからなる四量体(一般にオリゴマーoligomerとも呼ぶ)である.ヘモグロビンの場合のように各1本のα鎖およびβ鎖を基本単位と考える場合には,これをプロトマーprotomerと呼ぶこともあるが,サブユニットとの区別は必ずしも厳密ではない.サブユニットの解離,会合が機能の発現と密接に関連する場合がある.例えばタンパク合成を行っているrRNA(リボソームRNA*)は大サブユニット(真核細胞で60 S,前核細胞で50 S)と小サブユニット(真核細胞で40 S,前核細胞で30 S)の2種から構成されるが,タンパク合成開始複合体を形成する際には各々が解離している必要があり,またタンパク合成が終了すると再び解離する.一方,機能を全く異にするサブユニットが構成単位となっている場合もある.アスパラギン酸トランスカルバミラーゼはCTPなどのピリミジンヌクレオチド生合成の初発段階を触媒するアロステリック酵素*として知られているが,大腸菌のこの酵素は分子量1.7万および3.3万のサブユニット各6個から構成される12量体である.しかし,酵素の活性中心は分子量3.3万サブユニットにのみ存在し(触媒サブユニットcatalytic subunit),これのみで実際に触媒活性を示す.これに対して分子量1.7万サブユニットは触媒活性を示さないが,CTPATPなどのアロステリックエフェクターallosteric effectorの結合部位(アロステリック部位allosteric site)をもつ調節サブユニットregulatory subunitで,両サブユニットが会合することによって初めてアロステリック酵素としての性質を発現することができる.

アミノ酸

アミノサン

【英】amino acid

【独】Aminosa¨ure

【仏】aminoacide, acide amine´

 

タンパク〔質〕*を構成しているのがアミノ酸であり,20種類存在する.これら20種類のアミノ酸がいろいろな配列をするため,多種多様なタンパク質が形成される.各アミノ酸に共通する構造は,1個の炭素原子にアミノ基とカルボキシル基が1つずつと,さらに水素1個と側鎖が結合していることである.このためその炭素(α位)は不斉炭素となって光学的にL‐体,D‐体の2種類の異性体を生じるが(→光学異性体),高等生物に存在するのはすべてL‐体である.タンパク質では構成単位の各L‐アミノ酸のαアミノ基とαカルボキシル基がアミド結合(ペプチド結合peptide linkage)をして重合している.各アミノ酸は少なくとも1個ずつのアミノ基とカルボキシル基をもつため,両性電解質*である.さらに側鎖がもつ電荷により,中性,酸性,塩基性に分類される.中性アミノ酸としてグリシン,アラニン,セリン,トレオニン☆,バリン☆,ロイシン☆,イソロイシン☆,システイン,メチオニン☆,フェニルアラニン☆,チロシン,プロリン,トリプトファン☆,アスパラギン,グルタミンがあり,酸性アミノ酸にはアスパラギン酸とグルタミン酸があり,塩基性アミノ酸にはアルギニン☆,リジン☆およびヒスチジン☆がある.各アミノ酸は生体内においてアミノ酸プールamino acid poolを形成して,タンパク質合成や生理活性物質合成に利用される.アミノ酸のうち8種(小児では10種)は生体内で合成されず食物から摂取する必要があるため,必須アミノ酸*essential amino acids(☆印)と呼ばれる.またアミノ酸は種々の生理活性物質の前駆体*でもあり,例えばチロシンから甲状腺ホルモンやカテコールアミンが,トリプトファンからNAD+やセロトニンが,グリシンからヘムおよびプリン塩基が,アスパラギン酸からピリミジン塩基が,さらにアルギニンからポリアミンなどが合成されている.

→図図

146個のアミノ酸*からなる.非α鎖の代表でヘム鉄はN末端から92番目ヒスチジンのイミダゾールとの間で固定され,93番目システインのSH基は活性で酸化されてSS結合を形成し,ヘモグロビン変性に関係する.遺伝子は第11染色体短腕上に1個あり,産生は胎生6週から始まり,30週までゆっくり増加し,生後急速に増加する.α鎖とHb A(α2 β2)を,またβ鎖の四量体Hb H(β4)を形成する.

2個の非α鎖(β, γ, δ鎖)からなる四量体で,α2 β2(Hb A), α2 γ2(Hb F)およびα2 δ2(Hb A2)で構成される.分子量は64,400,5.0×5.5×6.4nmの球状の水溶性タンパクである.α鎖,非α鎖を構成するアミノ酸の75%はαヘリックスを形成し,N末端から順にA, B, CHと命名されている.これらのαヘリックスは曲がりくねって特異な三次構造をとり,疎水性アミノ酸の大部分は分子内面に埋もれ水を隔離し,親水性アミノ酸は分子外面にあり,溶媒と接している.ヘム*はヘリックスEFの屈曲部の隙間(ヘムポケット)にあり,第5配位座でFヘリックス8番目のヒスチジンのイミダゾールと結合し,第6配位座で酸素などと結合・解離する.α鎖では19,β鎖*では21個のアミノ酸側鎖とヘム辺縁との間に水素結合しヘム‐グロビン複合体を安定化する.4個のサブユニット*は,α鎖同士の接触,β鎖同士の接触,隣のα鎖とβ鎖の接触(α鎖16個とβ鎖18個のアミノ酸の結合),対角線上のα鎖とβ鎖の接触(酸素型でα鎖10個,β鎖9個;脱酸素型でα鎖11個,β鎖9個のアミノ酸の弱い結合)によりヘモグロビン分子を安定化し,酸素との結合解離の機能を保持し,酸素運搬の機能を果たしている.ヘモグロビンは一部の植物,無脊椎動物,脊椎動物と,広く生物界に分布している.これらはヘモグロビン相同タンパク質共通の祖先から由来し,機能的には酸素の貯蔵から運搬へと進化した.

由来色素,胆汁色素*

胆汁色素

タンジュウシキソ

【英】bilepigment

【独】Gallenfarbstoff

【仏】pigment biliare

 

胆汁中に含まれる色の色素で主体はビリルビン*

ビリルビン

ビリルビン

【英】bilirubinbili

【独】Bilirubin

【仏】bilirubine

同義語:ヘマトイジン,類血素hematoidin

 

C33H36NO6.ビリルビンはヘモグロビン*,ミオグロビン*または呼吸酵素(シトクロム*,カタラーゼ*など)からくるヘムの最終産物である.生成されるビリルビンの約80%は成熟赤血球の崩壊に由来するが,それ以外に起因するものは早期またはシャントビリルビン*と呼ばれる.ヘモグロビンの崩壊は網内系細胞で行われ,ヘムからビリルビンへの変換はミクロソームヘム酸素添加酵素によってIXαビリベルジンになり,さらにビリベルジン還元酵素によってIXαビリルビンに変換する.生成された非抱合型(間接型)ビリルビン(脂溶性)は血清中でアルブミンと結合して肝の類洞(シヌソイド*)よりディッセ腔*Disse spacesに運ばれる.肝細胞内ではアルブミンから離れてYタンパク,Zタンパクと結合して運搬され,肝細胞内でミクロソーム分画中の滑面小胞体*に含まれるビリルビンUDPグルクロニルトランスフェラーゼによってグルクロン酸抱合を受け,抱合型(直接型)ビリルビン(水溶性)となり,毛細胆管内にジグルクロニドの型で分泌される.

→図図

である.ヘモグロビン*やシトクロム*類のようなヘムタンパクの代謝によって生じる.網内皮細胞のミクロソーム酵素系により,プロトヘムからビリベルジンが生じ,さらにNADPHの存在下,ビリベルジン還元酵素によりビリルビンとなる.これは胆汁中に最も多く存在する色素で,生理的pHでは難溶で血漿中ではアルブミン*と結合して存在する.ビリルビンは腸内細菌により無色のウロビリノーゲン*に還元され,さらに,ウロビリンに酸化され糞便中へ排泄される.ビリルビンが血漿中に異常に増加すると黄疸となる.

,リポフスチン*

リポフスチン

リポフスチン

【英】lipofuscin

【独】Lipofuscin

同義語:脂褐素,消耗色素Abnutzungspigment

 

難溶性脂質を含むため光沢感を与える黄褐色ないし褐色の細顆粒状色素で,通常高齢者や消耗性疾患患者の萎縮細胞の核近傍に出現する.そのため加齢色素age pigmentあるいは消耗色素とも呼ばれるが,高齢に至らずともみられるという.褐色萎縮を示す臓器,例えば心臓や肝臓の実質細胞のほか,骨格筋,副腎皮質,脳の神経細胞などのものが日常よく観察される.このものの化学組成や形成過程については必ずしもよくわかっていないが,細胞内で変性した糸粒体(ミトコンドリア*)

ミトコンドリア

ミトコンドリア

【英】mitochondria

【独】Mitochondrien

【仏】mitochondrie

【ラ】mitochondrion

同義語:糸粒体

 

細胞質内に存在する球形ないし棒状形の小体であり,旺盛に酸素を消費しながらATPを合成する役をになうために「細胞の呼吸装置」とも称される.糸粒体は自身の限界膜である外糸粒体膜,これに1020nmの細隙をへだてて対向する内糸粒体膜(この膜内に電子伝達系と酸化的リン酸化系の諸酵素が組み込まれる),および糸粒体基質(クエン酸回路*の酵素群がここに存在)

クエン酸回路

クエンサンカイロ

【英】citric acid cycle, tricarboxylic acid cycle

【独】Zitronensa¨ureZyklus, Tricarbonsa¨ureZyklus

【仏】cycle d'acid citrique, cycle tricarboxylique

 

糖,脂肪酸,多くのアミノ酸などの炭素骨格を完全に酸化するミトコンドリア*のマトリックスにある代謝回路(図).トリカルボン酸が関与するのでトリカルボン酸回路tricarboxylic acid cycleTCAサイクルTCA cycle),Krebs1937)が提案したのでクレブスサイクルKrebs cycleとも呼ばれる.アセチルCoA*とオキサロ酢酸との縮合によるクエン酸の生成に始まり,イソクエン酸の酸化的脱炭酸,2‐オキソグルタル酸の酸化的脱炭酸,スクシニルCoA*からのCoAの脱離,コハク酸の脱水素,フマル酸*の加水,リンゴ酸の脱水素によってオキサロ酢酸が生成することにより,アセチルCoAのアセチル基は完全に酸化される.このあいだに生成する還元型補酵素は酸化的リン酸化系によりATP(アデノシン三リン酸*)を生産し,CoAの脱離はATP生産と共役しているので,一回転で12個のATPが生産される.この回路はまた生合成にも関与している.2‐オキソグルタル酸,オキサロ酢酸はそれぞれグルタミン酸,アスパラギン酸の生成に利用され,スクシニルCoAはヘム合成に使われる.またオキサロ酢酸はホスホエノールピルビン酸となり糖新生に利用される.このように中間代謝物が生合成に利用されると,オキサロ酢酸が不足するようにみえるが,これはピルビン酸カルボキシラーゼがアセチルCoAによって活性化されることによって供給される.ATPNADHの濃度が高くなるとイソクエン酸の酸化は押さえられ,クエン酸は細胞溶質に出てアセチルCoAカルボキシラーゼを活性化するとともに,アセチルCoANADPHを供給して脂肪酸合成を促進する.このようにこの回路は糖,脂肪,アミノ酸の合成・分解の調節点である.

→図図

からなる.内糸粒体膜の一部分が基質に向かいヒダ状または盲端管状に伸び出したものがクリスタcristaである.基質内に直径3050nmの顆粒が少数存在するが,これはCa2+,Mg2+などを含有し基質のイオン組成調節にあずかるとされる.糸粒体はDNA*と各種RNA*をそなえ,自己増殖能とタンパク合成能を示すことから,一つの生物体とみなすことができる.糸粒体は大きさや形の上でも細菌に似ており,細胞質内に寄生したある種の細菌がそのまま細胞内小器官として定着したものにほかならないとの見方がある.

の膜物質やリソソーム酵素により消化しきれなかった残渣物に由来する不飽和脂肪酸やリン脂質の自己酸化によって生じた過酸化物がタンパク質と強固に結合して形成されるとの見方が有力である.リポフスチンはヘモフスチン*hemofuscinやセロイド*ceroidと共に脂肪色素*に属して自家蛍光を発するが,これらの物質間の脂溶性色素などに対する染色性には一応の差異があるもののなお釈然としない部分が残されている.

などの色素が病的に増加することをいうが,一般的にはメラニン色素の病的増加をさす.メラニン沈着症には表皮性沈着と真皮性沈着とがある.前者は境界明瞭なびまん性褐色色素沈着で肝斑*

肝斑

カンハン

【英】moth patches, melasma

【独】Leberfleck

【仏】tache he´patique

【ラ】chloasma

 

主として思春期以後の女子の顔面,とくに額部,眉毛直上,頬,頬骨部に左右対称性に好発.限局性の境界明らかな褐色斑.組織学的には表皮細胞のメラニン*含量が増加.妊娠時の卵胞ホルモン,MSH*(メラニン細胞刺激ホルモン)

MSH

エムエスエッチ

【英】melanocyte stimulating hormone

【独】melanozytenstimulierendes Hormon

【仏】me´lanostimuline, me´lanotropine

同義語:メラニン細胞刺激ホルモン

 

ACTH関連ペプチドの一つ.ACTHと共通の前駆体であるproopiomelanocortinPOMC)が酵素分解をうけるとACTH*とβ‐LPHとに分かれ,さらにACTH139)からα‐MSH113)とCLIP1839)が,β‐LPH191)からγ‐LPH158)とβ‐endorphin6191)が生じ,さらにγ‐LPH158)よりβ‐MSH4158)が生じる.POMC(プロオピオメラノコルチン*)のN端側にはγ‐MSHの構造が存在する.ヒト以外の多くの脊椎動物の下垂体には中葉が存在してMSHを産生するが,ヒトでは中葉は痕跡的であり,MSHの産生はみられない.MSHの分泌は弓状核に発するドパミンニューロンによって直接的に抑制されており,強力なMSH分泌抑制作用を示すProLeuGlyNH2は生理的に重要なMSH分泌調節因子でないとされている.MSH放出因子の存在も推測されているが本体はまだ不明である.種々の動物の皮膚などにメラニン細胞(変温動物ではメラノフォアmelanophoreと呼ぶことが多い)があり,細胞質中のメラノソームでメラニン*という黒色色素を産生している.またメラニン細胞は体色の変化に関与しており,メラノソームの凝集・拡散を調節して体色の暗化と明化を行っている.この過程はMSH,メラトニンなどのホルモンと色素胞神経によって支配されている.メラニンは過剰の光線に対する防御機構として役立っている.

の増加など,内分泌変調が基礎にあるといわれ,日光により増強する.妊娠で生じるもの(妊娠性肝斑*),子宮,卵巣疾患があって発症するもの(子宮肝斑chloasma uterinum),癌の末期に生ずるもの(悪液質肝斑chloasma cachexia)などもあり,また経口避妊薬連用によっても生ずる.

が代表的なもので,後者は先行する炎症などで表皮細胞のメラニン貪食保有能が失われ,メラニン顆粒melanosomeの真皮内滴落沈着をきたし,境界不明瞭な網状の紫褐色色素沈着としてみられリール黒皮症*

リール黒皮症

リールコクヒショウ

【英】melanosis Riehl, Riehl's melanosis

同義語:女子顔面黒皮症melanosis faciei feminis,戦争黒皮症Kriegsmelanose

 

第一次世界大戦直後,Riehlがとくに誘因なく成年男女に発症する粃糠様落屑を伴う紫褐色の色素沈着と,毛孔拡大,毛孔性丘疹,面皰(ざ瘡*)

ざ瘡

ザソウ

【英】acne

【独】Akne

【仏】acne´

【ラ】acne

同義語:にきびacne vulgaris

 

毛孔に一致した慢性炎症性変化を示すものの症状名で,通常は尋常性ざ瘡acne vulgarisを意味する.尋常性ざ瘡は俗ににきびともいわれ,思春期頃より発症する毛包脂腺系の慢性炎症性疾患で脂腺性毛包が侵される.本症は面皰comedo形成が初発疹であり,ついで炎症が惹起される.赤い丘疹,膿疱,硬結,嚢腫,瘢痕などの皮疹が混在してみられ,脂漏を伴うことが多い.本症の病因は, 1)アンドロゲンの脂腺刺激作用による皮脂の分泌亢進, 2)毛漏斗部の角化障害による毛孔の狭窄, 3)毛漏斗部の常在菌の存在などが重要な発症要因で,このほか遺伝的因子,年齢,食事性因子,機械的刺激,ストレス,化粧品などの内的・外的諸因子も複雑に関与する.とくに面皰壁の破綻による炎症惹起にPropionibacterium acnesの役割が重視されている.本症の治療は, 1)増悪因子を見出し,それを除去するように日常生活での患者の指導, 2)面皰に対する局所療法(面皰圧出器による面皰内容物の圧出,イオウを含むローション剤の塗布など), 3)重症例には抗生物質(テトラサイクリン系)による全身療法を行う.

を主変とするものを報告し,食糧不足のため食べたド〔ー〕パに富むトウモロコシ粉などによる発生の可能性を論じた.一方,わが国でも第二次世界大戦頃より戦後にかけて増加したが女子に圧倒的に多く,毛孔性丘疹を伴うものが少なく色素沈着*も網目状のほかにびまん性を示すものも多くみられた.現在では日光露出部に主に種々の化粧品成分が接触アレルゲンとなって起こった色素沈着型化粧品皮膚炎hypermelanotic cosmetic dermatitisと考えられており,組織学的に基底細胞液状変性,色素失調が認められる.近年,アレルゲンとなりうる成分の使用が著しく減ったため,本症の発生はまれになっている(Gustav Riehlはオーストリアの皮膚科医,18551943).

Riehl's melanosisが代表的なものである.

を残す.毛細血管抵抗の減弱をみる.治療は血管強化薬を用いるがあまり効果がない.