アキレス腱反射
アキレスケンハンシャ
【英】Achilles tendon reflex, ankle jerk
【独】Achillessehnenreflex(ASR)
【仏】re´flexe achille´en
下腿三頭筋の伸張反射(下腿三頭筋反射triceps surae reflex),単シナプス反射の代表的なものとしてあげられる.脊髄の反射中枢はL5, S1で脛骨神経に支配される.検査は一般に仰臥位で,対側の膝を屈曲し,その上に検査側の膝をのせ,下腿三頭筋をやや緊張を保つ位置におき,アキレス腱部を叩打する.正常では足関節は底屈する.これは叩打により下腿三頭筋が伸張され筋紡錘の興奮が反射弓を介して同筋の収縮が起こるためで,この反射に要する潜時は成人で30msec程度である.脊髄疾患,椎間板ヘルニア*
椎間板ヘルニア ツイカンバンヘルニア 【英】herniated intervertebral discs 【仏】hernia discale 同義語:髄核ヘルニアherniated nucleus pulposus, nuclear herniation
椎間板ヘルニアは,頚椎,胸椎,腰椎のどこにでも発生するが,下部腰椎の2椎間に発生するものがほとんどであるので,椎間板ヘルニアというと腰部のものをさすことが多い.頚椎椎間板ヘルニアcervical disc herniationは四肢不全麻痺を,胸椎椎間板ヘルニアthoracic disc herniationは両下肢麻痺を呈する.一方,腰椎椎間板ヘルニアlumbar disc herniationは,神経根の刺激症状を,時に馬尾神経麻痺を呈する.すなわち,腰部のヘルニアは,腰痛症*
と坐骨神経痛*の原因疾患としての頻度が高く,若年者から,高齢者にまで広く発生する.その診断は,神経学的所見のほかに下肢伸展挙上試験(ラゼーグテストLase`gue test,SLR(straight leg raising)test)が陽性であることからなされる.画像診断は今まではミエログラフィーによっていたが,最近はMRI*検査により診断が容易になった反面,無症候性のヘルニアが多数見つかる問題も生じている.腰椎椎間板ヘルニア例の多くは,安静,投薬,骨盤牽引で症状の改善が得られるが,それが無効な例や頚椎や胸椎のヘルニア例は,しばしば手術的治療が行われる. |
,運動ニューロン疾患*などでは腱反射が減少または消失するため,責任病巣のレベルの診断に役立つ.上位運動ニューロン障害では筋緊張が亢まり,しばしば足クローヌスankle clonus現象として現れる.→腱反射
腱反射 ケンハンシャ 【英】tendon reflex, tendon jerk 【独】Sehnenreflex 【仏】re´flexe tendineux
腱や筋肉を鋭く叩打すると脊髄反射*によって攣縮様の筋収縮を起こす.伸張反射*stretch reflexともいう.膝蓋腱反射*やアキレス腱反射*などが例としてあげられ,前者では大腿四頭筋の収縮で膝関節,後者では下腿三頭筋の収縮で足関節の伸展が各々起こる.腱反射は一般に伸筋において発達している.屈筋でも同様に腱反射が起こるが,屈筋の場合は関節の屈曲を起こして引っ張り反射pluck reflexと呼ぶ.腱反射の受容器は腱ではなくて,骨格筋束間に散在する筋紡錘*である.腱が叩打されることによって筋に張力がかかり,筋肉が伸張されて筋紡錘中のらせん形終末に興奮が起こり,その興奮はIa群線維*を通って脊髄に至る.これらの線維は同一筋を支配する運動ニューロン群に興奮性の信号を送り,同期して多数の運動ニューロン*を興奮・発火させる.運動ニューロンの興奮は支配筋に伝わり,攣縮様の強い収縮を起こす.すなわちこの反射の反射弓は感覚ニューロンと中枢神経系内に細胞体をもつ運動ニューロンによって形成され,1回のシナプス伝達を介する単シナプス反射である.受容器である筋紡錘と効果器が同一の器官(筋肉)にあるので,受容器を自己受容器,この反射を固有反射*proprioceptive reflexあるいは自己受容反射と呼ぶ.反射の効果は原則として伸張された筋に限局して現れる.臨床医学的には,脊髄と上位中枢および末梢神経と筋の働きを調べるために利用され,腱反射の消失は,末梢神経,脊髄後根,脊髄前角,神経・筋伝達部,筋肉の障害を示唆し,反射の亢進は錐体路障害を示唆する. |
MRI
エムアールアイ
【英】magnetic resonance imaging
同義語:磁気共鳴映像法
磁気共鳴映像法(MRI)とは静磁場と変動磁場(勾配磁場やラジオ周波数波)を用いて生体の任意の方向の断層像を得ることのできる画像診断*法で,1970年代後半よりイギリスのアバディーン大学とノッチンガム大学で最初に医学応用が開始された.当初は静磁場を作るのに常電導磁石が使用されていたが,1980年代になって人体を入れることのできる超電導磁石の開発がなされ,画質の著しい向上が可能になりMRIの普及は一段と高まった.また1.5テスラ(T)以上の静磁場が作れる超電導磁石の導入によってプロトン(水素原子核)以外の核種,すなわちリン(31P)やナトリウム(23Na)のスペクトロスコピーや映像法が可能になり,生体の解剖構造の描出のみならず多くの組織あるいは臓器の機能診断も可能となった.MRIには上記の核磁気共鳴nuclear magnetic resonance(NMR*)のほかに,将来医学に応用される可能性を有する電子スピン共鳴electron spin resonance(ESR*)が含まれている.
ESR イーエスアール erythrocyte sedimentation rateの略. →赤血球沈降速度赤血球沈降速度 セッケッキュウチンコウソクド 【英】erythrocyte sedimentation rate(ESR) 【独】Bultsenkungschwindigkeit(BSG) 【仏】vitesse de se´dimentation globulaire 同義語:赤沈,血沈
抗凝固剤(抗凝血薬*抗凝血薬 コウギョウケツヤク 【英】anticoagulant 【独】Antikoagulant 【仏】anticoagulant 同義語:抗凝固薬
血液が凝固するのに必要な時間を遅らせる作用をもつ薬剤であり,血栓症*を予防する目的で用いられる.代表的な薬剤としては,ヘパリン*heparinと,クマリン系またはインダンジオン系のいわゆる経口抗凝血薬(ワルファリンカリウム*が最も広く用いられている)がある.ヘパリンは速効性で原則として静脈内注射または皮下注射により用いられる.その作用機序は血中の生理的な凝固阻止物質であるアンチトロンビンIII*(トロンビン*または活性第X因子と結合してその作用を中和し,凝固を阻止する)と結合し,アンチトロンビンIIIがトロンビンや活性第X因子と結合してこれを中和する速度を速めることによっている.一方,経口抗凝血薬は,経口的に投与され,遅効性であるが持続的に安定した抗凝固作用をもっている.その作用機序は,ビタミンK*と拮抗し,プロトロンビン*,第VII因子*,第IX因子*,第X因子*の各凝固因子の産生を低下させることである. )を加えた血液を,赤沈専用の細長いガラス管ないしはディスポーザブルのプラスチック管に入れて垂直に立てると赤血球は自然沈降する.一定時間経過後,赤血球層の上に分離した血漿層の厚さを測定し,赤沈値とする.赤沈は,多くの因子により規定される非特異的な反応であり,特定の疾患を診断することはできないが,主として赤血球と血漿タンパク成分が変化する病態を反映している.貧血*,アルブミン*の減少,フィブリノーゲン*の増加,γグロブリン*の増加などで赤沈は亢進し,DICなどでフィブリノーゲンの減少した場合や多血症polycythemia(赤血球増加症*)で赤沈は遅延する.赤沈の方法と臨床的意義の見直しは不定期にICSH(International Council for Standardization in Haematology;国際血液学標準化委員会)でなされており,1988年,1993年の勧告案では,HIV, HBVなど感染の危険性のある場合にはルーチンにこの検査をすべきではないとされている.わが国でも赤沈は汎用されているが,急性期タンパク質*の定量など炎症マーカーが使用可能な状況では,今後,その適応はかなり限定されてくるであろう. |
運動ニューロン疾患
ウンドウニューロンシッカン
【英】motor neuron disease(MND)
【独】motorische Neuron‐Krankheit
【仏】maladies des nerfs moteurs
随意運動神経系のみが選択的に侵される疾患群の総称.知覚,感覚,自律神経系は健在で,他の内臓系統も侵されない.神経系の退行性疾患で疾病により進行度は異なるものの増悪する傾向が強い.上位運動ニューロン系,下位運動ニューロン系,脳神経系,脊髄神経系など責任病巣によって病名が異なる.また,原因不明の例がほとんどである.筋萎縮性側索硬化症
筋萎縮性側索硬化症 キンイシュクセイソクサクコウカショウ 【英】amyotrophic lateral sclerosis(ALS) 【独】amyotrophische Lateralsklerose 【仏】scle´rose late´rale amyotrophique 【ラ】sclerosis lateralis amyotrophica
運動ニューロンの選択的変性がみられる,いわゆる運動ニューロン疾患*motor neuron diseaseの代表的疾患である.本症は中年以降に発症し,男性にやや多い.有病率は10万当たり2~6とされているが,わが国では紀伊半島に,世界的にはグアムで多発している.原因は不明である.〔症状〕 二次ニューロン障害としての小手筋の筋力低下,筋線維束性攣縮,筋萎縮などから始まり,四肢筋に及ぶ.感覚障害はみられない.一次ニューロン障害としての深部腱反射亢進,Babinski徴候などの病的反射出現という錐体路徴候*が認められる.また,舌の萎縮,構語・嚥下および呼吸障害などの球麻痺*症状が出現する.〔予後〕 きわめて不良で,治療法はなく5年以内に球麻痺症状の悪化によって死亡する.最近は,人工呼吸器などの使用によって,呼吸管理が容易となり,延命が可能になった.1974年,難病(特定疾患)*に指定. |
*,脊髄性進行性筋萎縮症*,家族性痙性麻痺,シャルコー・マリー足(シャルコー・マリー・トゥース病*
シャルコー・マリー・トゥース病 シャルコーマリートゥースビョウ 【英】Charcot‐Marie‐Tooth disease(CMT) 【独】Charcot‐Marie‐Tooth Krankheit 【仏】maladie de Charcot‐Marie‐Tooth 同義語:神経性進行性筋萎縮症neural progressive muscle atrophy
優性または伴性劣性遺伝性疾患で,20歳以下の男子に多い疾患で,下肢前角細胞より末梢神経の脱髄,軸索変性を伴う神経原性筋萎縮性疾患である.筋萎縮は下肢遠位部に始まり,その分布から逆champagne bottle型下肢萎縮(またはstork leg型)を示す.経過により上肢に筋萎縮が出現する.顔面・体幹・肢帯筋は侵されない.下垂足(垂れ足)のため歩行は鶏歩を示し,つまずきやすい.深部腱反射の消失,末梢性感覚鈍麻,振動覚減弱があるが,膀胱・直腸障害はない.まれにCPK活性値の上昇,onion balb形成をみる(Jean Martin Charcotはフランスの神経科医,1825‐1893;Pierre Marieはフランスの医師,1853‐1940;Howard Henry Toothはイギリスの医師,1856‐1925). |
),進行性球麻痺progressive bullar paralysis,若年性一側上肢筋萎縮症(平山病)などが含まれている.代表的な筋萎縮性側索硬化症 amyotrophic lateral sclerosis(ALS)は,中年以後に発病,四肢遠位筋の筋萎縮に始まり,数年間で全身に及び球麻痺*にまで至る進行性疾患であるが,眼輪筋と尿道括約筋が最後まで侵されないのが特徴とされている.いずれの疾患も現在のところ,根治療法は見出せない.