経穴学考察です。

 胃の構造

◆胃は消化管中最も膨大した部分で,食道から送られて来た食べ物を胃液と混ぜながら
  一時的に貯めて,最終的にお粥状に分解した食べ物を少しずつ十二指腸へ送り出す。
食道に続く袋状の臓器で,前・後壁と上・下縁及び入・出口があり,前壁はやや
  前上方に,後壁は後下方に向いている。
食道に連なる胃の入口を噴門,十二指腸に連なる胃の出口を幽門と言う。
✤上縁は短小で凹縁をなし,右上方へ向いていており,小弯という。
小弯は下方(胃体と幽門部の境)で屈曲し,角切痕というくびれをつくる。
✤下縁は上縁より4~5倍長く凸縁をなし,左下方へ向いていており,大弯という。
食道末端の左縁と胃大弯の起始部で作る鋭角(50~80 )を噴門切痕という。
胃の区分 
◆胃は噴門部,胃底部,胃体部,幽門部(幽門洞,幽門管)に区分される。
噴門に近い部を噴門部というが,胃体との境界は明瞭でない。
噴門から水平に線を引いた上方に位置し,左上方に膨隆した部を胃底という。
胃底部には通常約50mlの空気が溜まっており,これを胃泡という。
胃底部に引き続く小弯角切痕までの中央の大部分を胃体という。
小弯角切痕より遠位の胃体部に続く幽門口までの胃の終部を幽門部という。
幽門部は大弯側にあるあまり明瞭ではない浅いくびれ(中間溝)によって吻側の幽門洞と
  尾側の幽門管に分けられる。
幽門部は角切痕付近の小弯側と共に消化性潰瘍や癌の好発部位である。
幽門部と十二指腸上部との境界には輪状の浅い溝があり,幽門前静脈が走る。 
◆胃の大部分は上腹部の左外側部に,小部分は上腹部の内側部にある。
噴門は第11胸椎体の左側にあり,幽門は第1腰椎体の右側に位置する。
前壁は右側では肝臓の左葉に,左側では横隔膜の肋骨部と前腹壁に覆われている。
胃の前壁の下部には直接前腹壁に接触している領域があり,ここを胃三角という。
後壁は網嚢を挟んで横隔膜,脾臓,膵臓,左腎,左副腎,横結腸などに接している。
胃の接触面  
◆胃の内面には多数の粘膜ヒダがあり,特に小弯側には小弯に平行する4~5本の
  縦ヒダがある。
小弯側の縦ヒダは食道ヒダの連続であり,縦ヒダ間の縦溝を胃道或は胃体管という。
満腹状態でビールを飲むと,ビールはこの胃道を抜けて十二指腸へ流れる。
幽門部の粘膜は十二指腸との境で幽門括約筋に押し上げられ,輪状の粘膜ヒダ
 (幽門弁)として内腔に隆起し,幽門口を取り囲んでいる。
胃粘膜のひだ
◆胃壁は内側から粘膜,粘膜下層,筋層,漿膜の4つの層に分かれている。 
)粘膜の表面には無数の小さい陥凹(胃小窩)があり,その底には胃腺が開口している。
✤粘膜上皮は単層円柱上皮で構成されており,胃小窩の上皮と連なっている。
粘膜上皮細胞頂部の細胞質には粘液性(中性)の分泌顆粒が充満している。
背の高い円柱状の細胞で,卵円形の核は細胞の基底部に位置している。
上皮細胞は不溶性中性粘液を分泌するので,表層粘液細胞とも呼ばれる。
不溶性粘液は粘膜の表面に薄い粘液層を作り,胃酸から粘膜を保護する。
胃粘膜は常に胃酸など様々な刺激にさらわれており,傷害を受けた場合,すばやく
  増殖し欠損を置換する防御能力を備えている。
粘膜上皮細胞は胃小窩底部の胃腺峡部にある増殖細胞帯で新生され,約3日の寿命で
  胃内腔に脱落していく。
胃壁の構造
✤粘膜固有層には多数の胃腺があり,胃小窩底部に開口し,胃液を分泌する。
胃腺と胃腺の間には少量の疎性結合組織と平滑筋線維がある。
胃腺には噴門腺,胃底腺(固有胃腺)及び幽門腺がある。 
▲胃底腺は胃底部や胃体部にある単一管状腺で,胃液は胃底腺から分泌されるものが
  主体である。
胃底腺は主に壁細胞,主細胞,副細胞及び内分泌細胞で構成されている。
胃底腺 
①壁細胞:好酸性細胞で,細胞内に細胞内分泌細管を備えている。
円形又は三角形の細胞で,円形の核は細胞の中央部に位置し,しばしば二核の
  細胞が存在する。
細胞内分泌細管は胃底腺腔面の細胞膜が細胞質に深く切れ込んで形成される。
細胞内分泌細管の管腔内には多数の微絨毛が突出しており,塩酸分泌のための
  表面積を拡大させている。
細胞内分泌細管の周囲には滑面小胞体と粗面小胞体が比較的多く見られる。
細胞質には大量のミトコンドリアがあり,プロトンポンプを動かすためのATPを供給する。
壁細胞は塩酸やビタミンB12の回腸での吸収を助ける内因子を分泌する
胃底腺の細胞 
②主細胞:好塩基性細胞で,頂部の細胞質には酵素原顆粒が充満している。
円柱状或は円錐状の細胞で,円形の細胞核は細胞の基底部に位置している。
基底部の細胞質内には粗面小胞体がよく発達し密集している。
粗面小胞体の間にはミトコンドリア,核の上方にはゴルジ装置が見られる。
主細胞は主にペプシノーゲンを分泌する。
ペプシノーゲンは胃液中の塩酸又は既に活性化されたペプシンにより活性化され
  ペプシンとなる。
ペプシンは蛋白質をペプトン(アミノ酸と蛋白質の中間生成物)に分解する。
③副細胞:頸部粘液細胞ともいい,水溶性酸性粘液を分泌し,胃液の成分となる。
副細胞頂部の細胞質には粘液性(酸性)の分泌顆粒が充満している。
円柱又はフラスコ形細胞で,円形の扁平な核は細胞の基底部に位置している。 
④内分泌細胞:胃底腺と幽門腺に散在しており,消化管ホルモンを分泌する。
基底部の細胞質内には多くの分泌顆粒があり,基底顆粒細胞とも呼ばれる。
顆粒内容(ホルモン)は刺激により,基底部細胞膜から毛細血管内に放出さる。
ECL細胞:ヒスタミン【組織胺】を分泌する。
ヒスタミンは壁細胞のH2受容体に結合して胃酸分泌を促進するとともに
  ガストリンやアセチルコリンに対する壁細胞の反応性を高める。
D細胞:ソマトスタチン【生長激素釈放抑制激素】を分泌する。
ソマトスタチンは胃酸,ペプシノーゲン,ガストリン,セクレチンの分泌を抑制する。
EC細胞:セロトニン(5-HT)を分泌する。
セロトニンは胃酸分泌を抑制し,蠕動運動を亢進させる。
G細胞:幽門腺のみに存在し,ガストリン【胃泌素】を分泌する。
ガストリンは胃酸,ペプシノーゲン,内因子の分泌を促進し,蠕動運動を亢進させる。
胃腺の内分泌細胞
▲噴門腺は噴門部にある単一管状腺又は分枝管状腺で,水溶性中性粘液を分泌する。
噴門腺は粘液細(胃底腺の副細胞に類似)のみで構成されている。
▲幽門腺は幽門部にある分枝管状腺で,水溶性アルカリ性の粘液を分泌し,
  胃酸で酸化した食べ物を中性にする。
幽門腺は主に粘液細胞(胃底腺の副細胞に類似)で構成されており,G細胞などの
  内分泌細胞も散在している。
✤粘膜筋板:内輪・外縦の2層平滑筋からなり,腺細胞分泌物の胃内腔への
  放出に関与する。
)粘膜下層:疎性結合組織で,血管やリンパ管が豊富で,粘膜下神経叢がある。
)筋層:内斜走筋,中輪状筋,外縦走筋の3層平滑筋で構成されており,中輪状筋層と
  外縦走筋層の間にはアウエルバッハ神経叢がある。
斜走筋は噴門と胃底から斜めに扇状に分散し,前壁と後壁に分布するが,
  幽門部には達していない。
輪状筋は食道の内輪筋層からの続きで,3層の内で最もよく発達している。
幽門では輪状筋が特に発達し肥厚して,幽門括約筋となり,幽門弁として働く。
縦走筋は胃の長軸方向に走っており,特に小弯と大弯でよく発達している。
胃の筋層 
)外膜:漿膜(臓側腹膜)で,前壁と後壁を被う漿膜は小弯と大弯で合流して漿膜の
  二重層を作り,前者には小網,後者には大網が付着する。
漿膜(広義)は表面の中皮(単層扁平上皮)とこれを直下で支える漿膜下組織(薄い
  疎性結合組織層)で構成されている。
肝胃間膜,肝十二指腸間膜,胃結腸間膜胃脾間膜胃横隔間膜などは食道及び
  十二指腸と共に胃の位置を固定している。
胃の動脈腹腔動脈の3つの枝及び左下横隔動脈から来る。
✤左胃動脈:腹腔動脈から起こり,左上方に向かって噴門に至り,食道枝噴門枝を出し,
  次いで胃小弯に沿って肝胃間膜の中を右に走り,右胃動脈と吻合する。
左胃動脈は途中で多数の小枝を出し,胃前壁と後壁に分布する。
✤右胃動脈:固有肝動脈から起こり,胃幽門部の上縁に向い,次いで肝胃間膜の中を
  胃小弯に沿って左に走り,左胃動脈と吻合する。
右胃動脈は途中で多数の小枝を出し,胃前壁と後壁に分布する。
✤左胃大網動脈:脾動脈から起こり,脾胃間膜の中を通り,次いで大網膜前葉の2枚の
  腹膜の間を胃大弯に沿って右に走り,右胃大網動脈と吻合する。
左胃大網動脈は途中で多数の小枝を出し,胃前壁と後壁及び大網に分布する。
✤右胃大網動脈:胃十二指腸動脈から起こり,大網前葉の2枚の腹膜の間を胃大弯に
  沿って左に走り,左胃大網動脈と吻合する。
右胃大網動脈は途中で多数の小枝を出し,胃前壁と後壁及び大網に分布する。
✤短胃動脈:3~5本あり,脾動脈や脾動脈の脾枝から起こり,脾胃間膜の中を通り,
  胃底部に分布する。
✤後胃動脈:脾動脈から起こり,胃後壁の上部(胃横隔間膜の付着部)に分布する。
✤左下横隔動脈の食道噴門枝:食道の下部,胃の噴門部と胃底部に分布する。
左下横隔動脈の噴門食道枝は左胃動脈の食道枝噴門枝(図2)と吻合する。
胃の動脈 
胃の静脈:ほぼ同名の動脈に伴行し,直接或は上腸間膜静脈や脾静脈を経由して
  門脈に流入する。
左胃静脈と右胃静脈は直接門脈に流入する。
右胃大網静脈は上腸間膜静脈に流入する。
左胃大網静脈と短胃静脈は脾静脈に流入する。
左下横隔動脈の食道噴門枝に伴行する静脈は食道噴門静脈叢と吻合する。
左下横隔静脈は2本あり(),1本は横隔膜の直下で下大静脈に流入し,もう一本は
  左副腎静脈と合流し左腎静脈に流入する。
胃の静脈 
◆胃のリンパ管は左右胃リンパ節,左右胃大網リンパ節,幽門リンパ節,脾門リンパ節
  などに流入する()。
◆胃の神経:交感神経と副交感神経(迷走神経)の二重支配を受けている。
交感神経:腹腔神経節と腹腔神経叢から起こり,腹腔動脈及びその分枝に沿って走り,
  動脈とともに胃に分布する。
副交感神経:迷走神経前幹は前胃枝と肝枝に,後幹は後胃枝と腹腔枝に分れて
  胃に分布する。
胃壁内には漿膜下神経叢(胃体のみ),筋層間神経叢粘膜下神経叢が存在する。
◆食後の胃の運動機能:近側胃と遠側胃とで大きく異なる。
✤近側胃は胃底部と胃体部の口側1/3を含み,食べ物を一時的に蓄える
  貯蔵庫として働く。
近側胃では主に受容性弛緩(適応性弛緩)が行われる。
✤遠側胃は胃体部の幽門側2/3から幽門部を含み,主に蠕動運動が行われる。
蠕動運動は腸管内在神経系(ENS)と自律神経の二重支配を受ける。
蠕動運動によって食べ物は胃液と混ざり合いながら細かく砕かれ,ドロドロの
  お粥状になり,少しずつ十二指腸へ送り出される。
胃酸の生成:壁細胞の基底部膜にはNa+K+-ATPaseがあり,K+を細胞内に取り込み,
  Na+を細胞外に排出する。
壁細胞内の代謝で出来たCO2及び血液から取り込んだCO2は炭酸脱水素酵素により
  H2Oと反応してH2CO3になり,H2CO3はHCO3-とH+に分解される。
HCO3-はCl-/HCO3-交換輸送によって細胞外(血液側)に排出され,血液側からCl-
  細胞内に取り込まれる。
細胞内分泌細管の微絨毛膜にはK+チャンネルとCl-チャンネルがあり,壁細胞に酸分泌刺激が
  加わるとこれらのチャンネルが活性化され,多量のK+とCl-が分泌細管腔内に移動する。
細胞内分泌細管の微絨毛膜にはH+K+-ATPaseがあり,K+を細胞内に取り込み,
  H+を分泌細管腔内に排出する。
H+とCl-は細胞内分泌細管絨毛の表面で結合してHClとなり,分泌細管腔を経て
  胃底腺腔に分泌される。
アセチルコリン(頭相),ガストリン(胃相)及びヒスタミンなどは胃酸の分泌を促進する。
ソマトスタチンやプロスタグランジン(PG)E2セクレチンなどは胃酸の分泌を抑制する。
胃酸分泌の模式図 
◆表層粘液細胞は自発的な開口放出反応により不溶性の中性粘液を分泌している。
自発的な開口放出反応には低頻度で数時間継続するタイプと高頻度で2分前後で
  粘液性分泌顆粒を全て放出するタイプがある。
通常は低頻度ながら自発的な開口放出により粘液を分泌しており,粘膜上皮細胞の
  表面は常に薄層(1mm程度)の粘液層(粘液バリヤー)に覆われている。
食べ物などの機械的刺激を受けると,高頻度な開口放出反応で粘液を分泌する。
粘液(糖蛋白)は強い粘性を持ち,潤滑物質として食べ物の流れをスムーズにしたり,
  食べ物などの機械的刺激から胃粘膜を保護する。
粘膜層は胃腔内イオンの胃粘膜への逆拡散速度を遅くし(防止することは出来ない),
  塩酸やペプシンの化学的刺激から胃粘膜を保護する。
副細胞,噴門腺細胞及び幽門腺細胞は迷走神経を興奮させたり,ガストリンの刺激
  などにより粘液を分泌する。
胃粘膜に含まれているプロスタグランジン(PG)E2は胃粘液の分泌促進,胃粘膜の血流量
  増加及び胃酸の分泌を抑制する。
非ステロイド性抗炎症薬はPGE2の生成を抑制し,粘膜上皮細胞のPGE2量を減少させ,
  消化管障害を引き起こす。
胃粘膜関門 
◆胃粘膜には胃腔内のH+の粘膜内への逆拡散と粘膜内のNa+の胃腔内への流入を
  阻止する性質がある。
胃粘膜関門(粘膜バリヤーは粘膜上皮細胞頂部の細胞膜と隣り合う粘膜上皮細胞を
  繋ぐ密着結合で構成されている。
アスピリン,胆汁酸やアルコールなどは粘膜関門を破綻させ,H+の粘膜への逆拡散を
  増加させる。
H+の粘膜への逆拡散が増加すると,胃酸とペプシンノーゲンの分泌を促進させると
  ともに粘膜下層の肥満細胞を刺激し,ヒスタミンを分泌させ,びらんや出血などの
  胃粘膜障害を生じる。
◆視床下部)自律神経の中枢であるとともに,内分泌系の上位中枢でもある。
強いストレスを感じると,交感神経が働き,胃粘膜はアドレナリンによる血管収縮の
  ために,血流が低下し虚血状態になる。
強いストレスを受けると,副腎皮質から糖質コルチコイド(糖皮質H)が多量に分泌され,
  胃粘液の分泌を抑制する。
糖質コルチコイドはガストリンやアセチルコリンに対する壁細胞や主細胞の反応性を高め,
  胃酸やペプシノーゲンの分泌を促進する。
交感神経が強く働く時には,生体のバランスを保つために,自律神経自体の働きで
  迷走神経の働きも強まり,胃液の分泌と蠕動運動が促進される。
深い失意を感じたり,憂うつな精神状態が続くと,交感神経,副交感神経とも機能が
  低下し,食欲や睡眠にも支障を来すようになる。