漢方医学では、「気」「血(けつ)」「水(すい)」と呼ばれる3要素が体の中を常に巡っており、それによって心と身体の健康を保っていると考えられています。
「気」とは大気や食物から取り込まれ、体の正常な働きに必要なエネルギー源として体を巡る生命エネルギー(代謝・運動等のエネルギー)のことです。
「血」は血液および血液によってもたらされる栄養分であり、酸素や栄養素を全身の細胞に運びます。
「水」は血液以外の全ての体液(汗、唾液、尿、関節液など)をあらわし、老廃物を体外に排出しながら体に必要な水分のバランスを保ちます。
「気」が運動性の高い「陽」とすると、「血」「水」は「気」が体内で変化してつくられ「気」の力によって体を巡る運動性の低い「陰」と考えることも出来ます。
漢方では「気」「血」「水」三要素の過不足や滞りの結果バランスが崩れることで病気が起こると考えられており、主に以下の6つに分類されることが多いです。
「気逆」「気うつ」「気虚」「お血」「血虚」「水毒」
「気」「血」「水」は相互に関連し合うためそれぞれの変調が複合して現れることも多く、特に日本人女性は「気虚」を主に「血」や「水」の異常を合併するケースが多いです。
①「気」が上がったままの状態 =「気逆(上衝)」
【主な症状所見】
「気」は通常中枢から末梢、つまり頭から手足先へ下降しますが、「気」が頭や上半身に逆流すると、激しい頭痛や冷えのぼせ、ホットフラッシュ、イライラ、発汗、動悸、驚きやすい、パニック発作、急な腹痛などの症状をきたしやすい。
【頻用漢方】
桂枝を含む苓桂朮甘湯、桂枝湯など
②「気」が滞っている状態 =「気うつ(気滞)」
【主な症状所見】
症状は「気」が滞っている部位により変化し、のどや胸が詰まった感じ、呼吸が苦しい、お腹が苦しい、不眠、抑うつ気分、不安感などの症状をきたしやすく、精神的ストレスにより自律神経に乱れが生じやすい。
【頻用漢方】
気の巡りを良くする理気剤である半夏厚朴湯や香蘇散、女神散など
③「気」が不足している状態 =「気虚」
【主な症状所見】
胃腸の消化吸収不良などによる「気」の産生低下や過労・ストレスなどによる「気」の消費の増加により、「気」の絶対量が不足し、疲労感や倦怠感、気力低下、日中の眠気、風邪をひきやすい、手足の冷え、低体温、食欲不振、胃もたれ、下痢といった症状をきたしやすい。
【頻用漢方】
不足した気を補う補気剤である補中益気湯、六君子湯、四君子湯など
④「血」が滞っている状態 =「お血(血滞)」
【主な症状所見】
ストレスや冷え、他の「気・血・水」異常が原因で「血」がスムーズに流れず局所で停滞することで、頭痛、生理痛、狭心痛などの「痛み」、子宮筋腫、卵巣嚢腫などの「しこり」、目の下のクマ、舌・唇に暗紫色の「黒ずみ」などの症状をきたしやすい。
【頻用漢方】
「血」の停滞を除去する駆お血剤である桂枝茯苓丸、桃核承気湯、当帰芍薬散、加味逍遥散など
⑤「血」が不足している状態 =「血虚」
【主な症状所見】
偏食やダイエットなどにより全身に必要な栄養を運ぶ「血」が十分に作られなかったり、月経過多や妊娠・出産などで「血」の消耗が激しかったりと、「血」の量および機能が不足している状態で、過小月経、顔色不良、肌荒れ、髪や爪が傷みやすい、かすみ目、こむら返り、眼瞼痙攣、動悸、浅眠多夢、驚きやすいなどの症状をきたしやすい。
【頻用漢方】
「血」を補う補血剤である四物湯や駆お血作用を有する当帰芍薬散、「気虚」を合併するケースには気血双補剤である十全大補湯、人参養栄湯など
⑥「水」が滞っている状態 =「水毒(水滞)」
【主な症状所見】
「水」(体液)の流れが滞り体液の分布が不均衡な状態。停滞している部位によって症状は様々で以下のような症状をきたしやすい。
全身→むくみ、体が重だるい感じ、発汗過多
頭部→頭重感、めまい、耳鳴り、立ちくらみ
胸部→胸水、水様性鼻汁・喀痰、咳嗽
腹部→腹水、胃内停水(胃がチャプチャプ)、腹重感、消化不良
関節→関節の炎症・痛み・こわばり
【頻用漢方】
「水」の偏在を矯正する利水剤である五苓散、猪苓湯、真武湯など
検査結果や数値を重視する西洋薬に対し、漢方薬では患者さんの体質を重視します。人によってはやせ細っていて抵抗力の弱そうな人がいれば、がっちりしていて抵抗力の強そうな人もいます。
他にも、いつも暖かそうにしていて暖に支配されている人がいれば、冷え性などによって寒に支配されている人もいます。これが体質の違いです。
このように患者さんごとの体質の違いを見極めて漢方薬が使用されます。そして、このような体質の違いを証(しょう)と呼びます。
虚実(きょじつ)
証を考える上で分かりやすいものとして虚実があります。この虚実を簡単に考えれば「患者さんの見た目」になります。
ぱっと見た感じでいいので「やせ細っていて抵抗力のなさそうな人」は虚証の人となります。それに対して、「体格ががっちりして抵抗力のありそう人」では実証の人となります。漢方薬には虚証向きの薬があれば、実証の人に合う漢方薬もあります。
ただし、実際には患者さんを見ても、その患者さんが虚証か実証かを見極めることが難しいこともあります。その場合、効果がマイルドで副作用の心配も少ない虚証向けの漢方薬を使用します。
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このように、「見た目などによっても患者さんの体質に合わせて漢方薬を使い分ける」という事が理解できれば問題ありません。
気血水(きけつすい)
漢方薬の使用を考える上で重要となる事柄として、患者さん自身の体質があります。この体質の中でも、最も頻繁に使われる概念として気血水があります。
「気」とは体内を流れる目に見えない生命エネルギーの事を指します。元“気”であったり、やる“気”であったりする意味で「気」が使われます。
また、「血」とは体内を流れる血液のことです。血液は体を巡ることで酸素や栄養を与える潤滑油としての働きがあります。
そして三つ目に「水」があります。簡単に考えれば水分のことであり、リンパ液や消化液、唾液など血液以外の体液がこれに該当します。
漢方の概念では、これら気・血・水がバランスよく循環している状態で健康となります。それに対して「気・血・水のうちどれか一つでも不足していたり流れが悪かったりすると体の不調が表れる」と考えます。
例えば、「気」の流れが不足している状態を気虚(ききょ)と呼びます。この状態では「なんとなく気がだるい」、「やる気が起こらない」などの症状が表れます。
そこで、気が不足しているので漢方によって気を補う必要があります。このような気を補う生薬としては人参(にんじん)や黄蓍(おうぎ)と呼ばれるものがあります。これらの生薬を服用することによって、不足している気を補うことができます。
他にも、「気」の流れが悪く滞っている状態もあります。このような状態を気滞(きたい)と呼びます。気の流れが悪くなると「イライラ」や「落ち込み」などの症状が表れます。
そこで、これらの症状を改善するためには気の流れをスムーズにする必要があります。この働きをする生薬として厚朴(こうぼく)や柴胡(さいこ)があります。
このように、気・血・水の状態がどうなっているかによって使用する漢方薬を考えます。
今回の例として出したように、「気」が不足しているのであれば漢方薬によって「気」を補う必要があります。その逆に、「気」が多すぎていることによって流れが悪く滞っているのであれば、「気」を減らして正常な状態にする生薬を使用します。
このようにして、漢方薬では気血水の概念を利用します。
・「気」の状態
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気虚:なんとなく気がだるい、やる気が起こらない など
気滞:イライラ、落ち込み など
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・「血」の状態
血虚:冷え性、不眠、集中力低下、立ちくらみ など
お血:イライラ、不安、月経痛 など
・「水」の状態
状態 |
名称 |
使用される生薬 |
「水」が不足している |
津虚(しんきょ) |
「水」を補う: |
「水」が過剰で滞っている |
水毒(すいどく) |
「水」を減らす: |
津虚:睡眠不足、胃腸虚弱、皮膚に潤いがない など
水毒:むくみ、めまい、吐気 など
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東洋医学では、人体を構成する成分を気血水 と
言い、この「気」「血」「水」の巡りがスムーズ
に、かつ相互に作用しながら、体のバランスを保
っているのです。
「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」のバ
ランスが崩れると以下のような問題が起きてきま
す。
「気」の未病 ⇒ 気虚・気滞
「血」の未病 ⇒ ?血・血虚
「水」の未病 ⇒ 陰虚・水毒(湿)
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わたしたち人間や動物、植物、昆虫にいたる
まで、全ての生き物はみな呼吸をしています。
呼吸が停止してしまうと、それは「死」を
意味します。
中国の医学書『医門法律』には、
「気が集まればすなわち形を成し、
気が散ればすなわち形を亡くす」と
記されています。
「気」は東洋医学の上でも最も重要なものです。
いわゆる「気」は、動力の源であり、筋肉の弾力性です。
筋肉が伸びたり縮んだりするのは、わたしたちが呼吸をしているからなのです。
「気」には、多くの表現形式があります。最も基本的なのは「元気」です。
「正気(せいき)」ともいい、「邪気(病邪)」の反対語です。
「元気」は「先天性の気」(腎臓の精気エネルギー)からきています。
そして、わたしたちは、食物(水穀の気)や空気(肺気)などの「後天的な「気」」にも
頼っているのです。
「正気(元気、腎臓の精気エネルギー)」は、身体の各臓器と経絡に分散され、それ
ぞれ異なる効力を発揮します。
①人体の一切の生理活動や新陳代謝を促進させ、栄養物質を全身に運ぶ。
②体を強壮にすることで、抵抗力・免疫力を高め、ウイルスや細菌などの邪気
を寄せ付けないようにする。
③血液が血管の外に流出しないようにし、汗や尿が必要以上に体液に流失しな
いようにする。
「正気存内、邪不可干(せいきそんない、じゃふかかん)」の意味
「正気」(エネルギー)が体に満ちていれば、抵抗力・免疫力が高まり、身体が丈夫に
なります。
体が健康で丈夫であれば、外邪(細菌やウイルスなど)の侵入に悩まされることはあり
ません。
東洋医学の養生療法は、「正気(せいき)」を体内に保存させ、病になる機会を
減少させることにあるのです。
『気』に関わる未病
◎気滞(きたい)
気が全身に運ばれる時、どこかが滞っている状態で、各種の痛みを発症します。
これはストレスや強い感情の変動、緊張によって、「気」が滞ることが多く、
張り、凝り、痛みなど、多くの病徴(病の症状)が生じると考えられます。
例えば、月経痛、腹痛、胸苦しさ、げっぷ、動悸などです。
また、イライラしたり、気分が落ち込んだりもします。
「気滞」から、「瘀血(おけつ)」も起こります。
いつも毎日楽しい気持ちでいることがとても大切と言えます。
◎気虚(ききょ)
気の量が不足した状態、あるいは気の働きが低下した状態をいいます。
長い間、患っているとか、過労、加齢、摂食障害、臓器・器官の機能の衰退な
どが原因で、「正気」(エネルギー)が不足すると、免疫力が低下し、心(しん)の
働きが弱まるため、めまい、動悸、息切れ、倦怠感、耳鳴り、冷え症、食欲不振
や不安で寝付きが悪いなど多種の症状を引き起こします。
また、風邪を引きやすくなったり、月経量が多くなったり、皮下出血、失禁、
のぼせ、下痢など、上記に記した『気』の働きに関係した症状も表われやすく
なります。
精神不安を鎮める作用のある『桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれい
とう)』を用います。
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『血』に関わる未病
◎瘀血(おけつ)
血液がドロドロで、流れにくくなってい
る状態を言います。
瘀血は女性がなりやすい症状で、手足の
冷えやめまい、便秘などが起こり、この
症状が進むと、更年期障害や生理痛、
子宮筋腫など女性特有の病の原因ともなり得ます。
「気」が滞ると、血管も収縮します。
瘀血とは、 血液がドロドロになり、滞っている状態で、女性がなりやすい未病
です。生理不順、生理痛、子宮筋腫など、婦人病の原因ともなり得ます。
また、手足の冷え、めまい、のぼせ、イライラ、便秘、肩こり、不眠などの
症状が表われますが、その多くが更年期障害の不定愁訴と似ていて、重なるた
め、女性にとっては厄介なものです。
「活血化瘀(かっけつかお)」という治療を行います。
『冠元顆粒(かんげんかりゅう)』で血液をサラサラにし、血と気の流れをス
ムーズにします。
◎血虚(けつきょ)
何らかの原因で心の血が消耗すると、血色が悪い、目がかすむ、動悸、めまい
寝つきが悪い、夜中に目が覚めて眠れない、月経量が少ないなどの症状が表わ
れます。
血を補い、安神作用のある、『酸棗仁湯(さんそうじんとう)』と『四物湯
(しもつとう)』を併用します。
「水」とは、体内液の総称で、津(しん)液とも呼ばれます。
津液は体液以外に、汗、胃液、唾液、腸液、尿などが含まれます。
津液の働きは、皮膚や頭髪、粘膜に滋養を与え、筋肉、悩、骨の栄養となり、関節
を滑らかにし、脳髄や骨格などに栄養を与えます。
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『水』に関わる未病
◎陰虚(いんきょ)
人体には、陰と陽の二極があることは、すでに陰陽五行学説でご説明しました。
「陽」は、身体機能を表し、「陰」は、血液、涙、唾液、精液、内分泌液、及び
油脂を含む津液(有用な水分/体液)を表します。
陰虚とは、津液や油脂の消耗から、体全体のバランスを崩し、体の水分が不足し
潤いがなくなっている状態です。
また、極度の陰虚の人は、逆に陽(身体機能)が旺盛ということになります。
その結果、体内液が燃焼され、目や鼻や口が乾いたり、のどが痛くなったり、皮
膚がかさついたり、髪がパサついたり、便が硬くなったり、尿の量が少なくなっ
たり、不眠やのぼせなどの虚熱の症状が表れます。
また、貧血にもなりやすく、いつも手足が氷のように冷たいのが特徴です。
陰虚で不眠の方には、安神作用のある『天王補心丹(てんのうほしんたん)』が
有効です。
◎水毒 / 湿(しつ)
津液(しんえき)は、血管外に出ることが出来る性質のため、関節や皮膚に停滞
し、むくみや腫れの原因になったりします。
この様な病理的な水分、不要な水分を「湿」といいます。
また、気温や湿度が高く、ジメジメした環境下では、新陳代謝が損なわれやすい
ため、体内に「湿」が停滞しやすくなります。
体内に「湿」が溜まると、「気」の流れが阻害されるため、特に「脾」と「胃」
(どちらも消化器系)の機能が崩れやすくなります。
その結果、気分がスッキリしない、食欲がない、体がだるい、疲労倦怠感、胃腸
の働きが悪くなるなどの症状が出て来ます。