カイロプラクティック
カイロプラクティック (Chiropractic) とは、1895年にアメリカのダニエル・デビッド・パーマーによって創始された手技療法。名前の由来は、ギリシャ語で「カイロ」は「手」、「プラクティック」は「技術」を意味する造語。[1]WHOでは補完代替医療[2]として位置づけている。
発祥国のアメリカや、イギリス、カナダ、オーストラリア、EU諸国などの一部の国(およそ40か国)においては、主に筋骨格系の障害を取り扱う脊椎ヘルスケアの専門職として法制化されているが、現在の日本においては法的な資格制度は存在せず、民間療法として誰もが自由に開業、施術が出来得る状態にある。職業としては法的資格制度のない医業類似行為として保健医療やサービス業に分類されている[3]。
目次
概要
世界保健機関の定義では、「筋骨格系の障害とそれが及ぼす健康全般への影響を診断、治療、予防する専門職である[1]。治療法として手技による関節アジャストメントもしくは脊椎マニピュレーションを特徴とし、特にサブラクセーションに注目している」[1]とされている。
但し、カイロプラクティックの定義は、様々な団体や教育機関によって異なる場合も多い。また、中には疾病の原因が脊椎などの椎骨(運動分節)の構造的、機能的な異常(サブラクセーション)にあるとの考え、そしてその異常(サブラクセーション)を手で調整することで疾病を治療することがカイロプラクティックだと考える人がいるかもしれない。しかし、カイロプラクティックの定義や考えの違いはあるにせよ、現在の法律のもとで実際に行われているカイロプラクティックとは、その国や州の法律に基づくものである。例えば米国カイロプラクティック協会(en:American Chiropractic Association
)が定義するカイロプラクティックとは、筋骨格系と神経系疾患に特化した医療であるとされている。カイロプラクターは薬物/手術療法はせず、独自の手技療法を治療の主な手段とし、検査、診断と治療を行っている。カイロプラクターは幅広い診断知識を有し、手技療法に加え、理学療法やリハビリ、栄養/食事指導や生活習慣の指導も行っている。州の法律に規定された業務範囲以外の治療や検査が必要な場合、他の医療機関を紹介する。アメリカでは"ドクター"としてこのような社会的役割を果たしているのがカイロプラクティックの現状である。しかし、日本においては法律がないので、現在、国内で行われている自称カイロプラクティック療法については定義のしようがなく、当然、行われている内容については個人によって大きな違いがある。
カイロプラクティックの名称は、ギリシャ語の Chiro(手)と Prakticos(技術)を組み合わせた造語である[1]。これは、上記のサブラクセーションの調整のためにアジャストメントと呼ばれる手技療法を用いることに由来する。
日本のように法制化されていない国では、未熟なものがカイロプラクティックの施術を行うと神経を痛める危険性がある。そのような危険を避けるためにも、しっかりとした教育を受けたものと、そうでないものを区別するための明確な基準を作ることが急務である。国民生活センターは整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例が発生していることから、2012年には手技による医業類似行為の危害の報告書をまとめた。カイロプラクティックは法的資格制度がないため、施術者の技術水準や施術方法等がばらばらであることが指摘された。業界の対応として国民生活センターから要請を受けた日本カイロプラクターズ協会(JAC)は、カイロプラクティックの安全性に関するガイドラインおよびカイロプラクティックの広告に関するガイドラインを発表した[4]。同時に利用者の安全性を高める目的で、特定の対象者への安全教育プログラムが開始された。カイロプラクティックの施術を行う者をカイロプラクターと呼ぶが、資格として法制化されているのは、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、EU諸国など約40カ国である[5]。日本を含む他の多くの国(中でも国が多いアフリカなど)では、いまだ公的資格等は定められていない[5]。
世界保健機関 (WHO) は、カイロプラクティックを代替医療として位置付けている[6]。2005年には、安全で有用なカイロプラクティックの教育を目的とした「カイロプラクティックの基礎教育と安全性に関するWHOガイドライン(指針)」を発行し、現在は日本語を含む10ヶ国語以上に翻訳されている[7]。
1997年には、世界保健機関 (WHO)にNGOとして世界約80カ国からなる団体、世界カイロプラクティック連合(WFC)がカイロプラクティック団体として初めて認可された。現在のWFC日本代表団体は日本カイロプラクターズ協会(JAC)である。2014年から自主規制として日本カイロプラクティック登録機構(JCR)により世界保健機関 (WHO)の教育基準を満たしたカイロプラクターの登録制度が始まり、登録者名簿は厚生労働省医政局医事課へ提出されている[8]。 日本カイロプラクティック登録機構の登録試験に合格し申請することで登録カイロプラクターとして認定される。
施術技法
詳細は「:en:Chiropractic treatment techniques」、「アジャスト」、および「:en:Spinal adjustment」を参照
NBCEではよく使用される技法について集計を行っており、以下は2003年の集計である[9]。
施術資格
カイロプラクティックの法的資格がある国々では、一般的に国際カイロプラクティック教育評議会加盟の認証機関から認可を受けた教育機関で専門教育を履修し、国や地域が指定する資格試験に合格することでカイロプラクターの資格を取得することができる。
アメリカやカナダにあるカイロプラクティック専門大学では、ドクター・オブ・カイロプラクティック (Doctor of Chiropractic)(D.C)職業学位(First professional degree)が取得できる。学位取得後、各州の指定する資格試験に合格することが義務付けられている。
イギリス、オーストラリア、スイス、デンマーク、南アフリカ、ニュージーランド、マレーシアなどのカイロプラクティック学科のある大学では、卒業時に、DC号ではなく、修士号または学士号の学位が取得できる。卒業後、カイロプラクターとして働くには、各州もしくは各国のカイロプラクティック資格試験に合格しなくてはならない。ヨーロッパの多くの国では資格試験合格の後に数年間の研修期間が義務付けられている。
日本では法的資格が存在しないため、カイロプラクターを自称して開業することになんら制限がなく、学校の設立も自由である。
調査研究と報告
カイロプラクティックの有効性を認めた研究
日本における扱い
日本には、1916年に川口三郎が伝えたとされている。川口は、パーマーの設立したパーマー・スクール・オブ・カイロプラクティック(現在のパーマー・カレッジ・オブ・カイロプラクティック)の卒業生である[21]。
日本においては各種民間療法=無認可手技療法のひとつに位置付けられている。施術および開業については昭和35年の最高裁判決「有害のおそれのないものは禁忌・処罰の対象にならない。」、また「職業選択の自由」により就業している状況である。
現在、カイロプラクティックを直接規定する法律が存在しないため合法、適法ともいえなく、厚生労働省も黙認している状況にある。無論、人体に有害なものであればあはき法第12条違反や医師法第17条違反となり、処罰の対象となり得る。
日本での法的地位
詳細は「医業類似行為」を参照
「マッサージ#日本におけるマッサージ」も参照
上記にもあるが日本では法制化されていないため、法に定められる以外の民間療法行為となる。
政府は「カイロプラクティック療法は、脊椎を調整することにより、神経の回復を図ることを目的とする療法とされており、この点においてあん摩マッサージ指圧と区別されるものと考えられる」との見解を答弁している[22]。
次の療法について、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師等に関する法律の適用上疑義が生じたので折返しご教示願います。
1 カイロプラクチック療法
この療法は一八九五年米国のダニエル・ダヴィッドパーマーによって創案され、手技により脊椎の不全、脱臼を矯正する方法で脊椎矯正療法ともいわれているが、これを指圧に含めてよいかどうか。
昭和四十五年六月二十四日医第三七四号をもって貴県衛生部長から御照会の標記の件について、次のとおり回答する。
1について
御照会のカイロプラクチック療法は、脊椎の調整を目的とする点において、あん摩、マッサージ又は指圧と区別され、したがって、あん摩、マッサージ又は指圧に含まれないものと解する。
— 昭和四五年六月二四日医第三七四号厚生省医務局長あて宮城県衛生部長照会 (抜粋)
日本における問題点
未法制化であるため、誰もがカイロプラクターを自称することが可能である。
過度の頸椎アジャストメントによる事故も報告されている。それにより、前述の通り厚生省はカイロプラクテック各団体に「医業類似行為に対する取り扱いについて」を通知し、その中に禁忌対象疾患の認識や一部の危険な手技の禁止を指摘した。これにより各団体(ただし全団体ではない)により自主規制が設けられることになったが、法的にはカイロプラクティックが禁止されることはなく、問題が起きた時には個別の施術者が傷害などに問われることになる。
業団体の意思の統一が図られることが急務ではあるが、現状ではかなり難しいと思われる。現在でも、厚生労働省はカイロプラクティックの法制化には消極的で、資格化の可能性は低い。平成16年度 保健所行政の施策及び予算に関する要望書(全国保健所長会)においては、「整体術(カイロプラクテック)やエステティック等の施術類似行為に対し早急に法的規制、管理指導を引き続き強化されたい」との要望が出されている。
法整備が未熟なため、数か月のものから2年制、パートタイム、4年制のものまで様々な養成施設が存在する。ただし教育期間が長いからといっても、必ずしも「技術」「知識」「倫理」「安全管理」が優れた業者とは限らない。現状の法解釈では、あくまでも人体に害をなさないことが前提である。
米国で国家資格を取得した者もいるが、病院と提携しない限り、日本ではレントゲン等の検査ができない(なおレントゲン写真の読影を医師以外が行えば医師法違反となる。[23])ため、日本国内での施術は米国のものとは異なる部分がある。また米国でD.C.学位を取得したと言う人と、実際に国家資格を取得した人の区別ができない状況もある。 消費者側はこれを見分けるためには、米国でD.C.学位を取得したと宣伝するカイロプラクターと、国家試験に合格という記載があるかどうかなどで区別することが可能である。米国の国家試験に合格したカイロプラクターであれば、en:National Board of Chiropractic Examinerの合格通知、もしくはいずれかの州の州開業免許などを持っていることになる。
「カイロプラクティック」、「整体」ともに明確な日本国行政による教育基準を持たず、どちらも国家資格等の規準が無い。資格と称されるものは完全な民間資格である。WHOは教育を認可することはしないが、WHOの基準に基づいた教育を受けた等も自由に名乗られる。まったく医学的知識のないものが自由に実施することが可能な状況にある。以上のことから基本的に行政はこれらの手技療法を、特別な専門知識を要せず、あくまで人体に害をなさないものであり、誰でもが行える危険性のない施術と認知していると考えられる。
厚生省の通知[
厚生省健康政策局医事課長通知において以下のように指導され、また危険性も指摘されている[24]。
「いわゆるカイロプラクティック療法に対する取扱いについて」[25]
近時、カイロプラクティックと称して多様な療法を行う者が増加してきているが、カイロプラクティック療法については、従来よりその有効性や危険性が明らかでなかったため、当省に「脊椎原性疾患の施術に関する医学的研究」のための研究会を設けて検討を行ってきたところである。今般、同研究会より別添のとおり報告書がとりまとめられたが、同報告においては、カイロプラクティック療法の医学的効果についての科学的評価は未だ定まっておらず、今後とも検討が必要であるとの認識を示す一方で、同療法による事故を未然に防止するために必要な事項を指摘している。
こうした報告内容を踏まえ、今後のカイロプラクティック療法に対する取扱いについては、以下のとおりとする。
- 禁忌対象疾患の認識
- 一部の危険な手技の禁止
- 適切な医療受療の遅延防止
- 誇大広告の規制
WHO基準と日本国内のカイロプラクティック教育の現状
WHOは日本の様な「未法制化国」での教育は「正規には繋がらない、限定的な教育」と分類している。
日本の「WHO基準」「国際基準」を標榜する学校は高卒、又は高卒程度で入学が可能であるが、「WHO ガイドラインの正規教育」には入学前基準があり、およそ理系の大卒程度の基礎科学が必要とされている。これは 医学を学ぶにあたり、より高度な知識が必要となる為である。アメリカのカイロプラクティック大学では、就学前に一般教養、基礎科学の単位が必須であり、さらに4年間の学習となる。
日本にカイロプラクティック教育の多くは授業内容も自称であり、時間数だけで優劣は判断が出来ない。卒業後に民間資格が与えられることが多い。また、大学評価・学位授与機構に登録されているCCEはアメリカの認定機関であり、日本のカイロプラクティック学校を認定・認可した事実は無い[26]。しかし、日本で国際カイロプラクティック教育評議会のうちの一つの南洋州カイロプラクティック教育評議会に認可された学校として東京カレッジ・オブ・カイロプラクティックが存在する。アメリカ合衆国においてカイロプラクティックに関する種々の試験を運営する全国カイロプラクティック試験協会(National Board of Chiropractic Examiners)によって、本校の卒業者は同協会による試験の受験資格を有するとされている[27][28]。
日本以外の法制化国に留学し、職業大学を卒業した者は別に存在する。ただし地域によっては学位だけでは、開業は出来ない。その国において学位授与後に、職業試験などが行われる。アメリカにあるカイロプラクティック大学の入学条件は、2学期制で90単位以上の自然科学を含むGPA2.50以上の事前教育(プレ-カイロプラクティック教育)が必要とされている。[29]
関連項目
脚注
1. ^ a b c d 世界保健機関 2006, p. 11.
2. ^ 神戸新聞2013年4月1日
3. ^ ハローワークインターネットサービス 職業分野別検索 - 厚生労働省職業安定局
4. ^ 健康被害防止へ安全指針カイロ療法団体が作成 法制化が今後の課題 - 共同ニュース
5. ^ a b 世界保健機関 2006, p. 6.
6. ^ Traditional Medicine>Traditional, Complementary and Herbal Medicine>WHO
Guidelines on Basic Training and Safety in Chiropractic
7. ^ World Health Organization About WFC - World Federation of Chiropractic (英語) 検索日2010年02月08日
8. ^ カイロ施術者の名簿公開 - 産経新聞
9. ^ Christensen MG, Kollasch MW (2005). “Professional functions and treatment procedures” (PDF). Job Analysis of Chiropractic. Greeley, CO: National Board of Chiropractic Examiners. pp. 121–38. ISBN 1-884457-05-3. http://nbce.org/pdfs/job-analysis/chapter_10.pdf 2008年8月25日閲覧。.
10. ^ Manga P, Angus D, Papadopoulos C, Swan W. The Effectiveness and Cost-effectiveness
of Chiropractic Management of Low-Back Pain, Commissioned by the OCA. Funded
by the Ontario Ministry of Health, 1993.
11. ^ Bigos, S, Bowyer, O, Braen, G, et al. Acute low back pain in adults. Clinic Practice Guideline No.
14. AHCPR Publication No. 95-0642. Rockville, MD: Agency for Health Care
Policy and Research, Public Health Service, US Department of Health and
Human Services. December, 1994 (英語)
12. ^ United Kingdom back pain exercise and manipulation (UK BEAM) randomised
trial: cost effectiveness of physical treatments for back pain in primary
care. BMJ (Clinical research ed. 2004 Dec 11;329(7479):1381(英語)
13. ^ 世界保健機関 2006, p. 24.
14. ^ EUROPEAN GUIDELINES FOR THE MANAGEMENT OF CHRONIC NON-SPECIFIC LOW BACK
PAIN - COST B13 Working Group on European Guidelines for Prevention in
Low Back Pain
15. ^ Chou R, Qaseem A, Snow V, Casey D, Cross JT, Jr., Shekelle P, et al. Diagnosis
and treatment of low back pain: a joint clinical practice guideline from
the American College of Physicians and the American Pain Society. Annals
of internal medicine. 2007 Oct 2;147(7):478-91.(英語)
16. ^ Simon Singh libel case droppedThe Guardian Thursday 15 April 2010 12.28
17. ^ The Bone and Joint Decade 2000–2010 Task Force on Neck Pain and Its Associated Disorders: Executive
Summary. Spine 15 February 2008 - Volume 33 - Issue 4S - pp S5-S7(英語)
18. ^ Low back pain in adults: early management. NICE guidelines 2009 May(英語)
19. ^ Spinal Manipulation, Medication, or Home Exercise With Advice for Acute
and Subacute Neck Pain: A Randomized Trial. Ann Intern Med. 2012;156(1_Part_1):1-10.(英語)
20. ^ [1]J Man Manip Ther. 2014 May;22(2):59-74.
21. ^ 同校初の日本人卒業生は森久保繁太郎、川口は2人目の卒業生である
22. ^ 内閣総理大臣宮澤喜一 (1992-01). 参議院議員堀利和君提出カイロプラクティック取扱いに関する質問に対する答弁書 (Report). 第122回国会. http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/122/touh/t122015.htm.
23. ^ 医師法違反、診療放射線技師及び診療エックス線技師法違反, 刑集第45巻2号32頁 (最高裁判所第一小法廷 平成3年2月15日).
24. ^ 医業類似行為に対する取扱いについて医事発第58号各都道府県衛生担当部(局)長あて厚生省健康政策局医事課長通知 (Report). (平成3年6月28日). http://8917.com/ihan/siryo/mumenkyo.pdf.
25. ^ 厚生労働省○医業類似行為に対する取扱いについて(平成三年六月二八日)(医事第五八号)(各都道府県衛生担当部(局)長あて厚生省健康政策局医事課長通知) (Report). http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/hourei/061115-1a.html.
26. ^ Council for Higher Education Accreditation CCEを評価する米政府高等教育アクレディテーション評議会(CHEA)内検索ページ(英文)
27. ^ NBCE代表取締役、「TCCの学生と卒業生はNBCEを受けられます」::国際承認DCプログラムの東京カレッジオブカイロプラクティック(TCC)
28. ^ Written Test Sites(英語)
29. ^ /2007_January_STANDARDS.pdf#page=32 Standards for Doctor of Chiropractic
Programs and Requirements for Institutional Status January 2007 - Council for Higher Education Accreditation(英文pdf)
参照文献
外部リンク
厚生労働省 カイロプラクティック
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