薬膳
薬膳(やくぜん)とは中医学理論に基づいて食材、中薬と組合せた料理であり、栄養、効果、色、香り、味、形などすべてが揃った食養生の方法である。「薬膳料理」と称されることもあるが、「膳」は「料理」の意味を含んでいるため誤りである。
目次
概要
生薬の原料や材料として用いられる海松子、金針菜、枸杞、紅花、山査子、銀、大棗、蜂花粉、百合、竜眼肉等を用いた料理のみならず自然界にあるものすべてを食物と考え、日本語の造語である医食同源のもとに個々人ごとに異なる体質や臓器に適した食物をどのように摂ることが効果的かを予防医学の見地に立つ中国医学による帰経(きけい)効果がある料理。
起源
食・薬・医の数千年の歴史から見ると、食からの「食薬同源」「食医同源」の思想から始め、中医薬学の発生、発展を促進し、今に至る一貫した伝承をしてきた。『黄帝内経』「素問」臓気法時論篇第二十二において”五穀為養、五果為助、五畜為益、五菜為充、気味合而服之、以補益精気”という言葉がよく引用されている。これらは、食の医療作用を明確に解説している。
このように多くの食材を組合せ、バランスがよく、身体の精気を補うことができると解釈していた。さらに食材によってそれぞれの臓腑に働くことも認められていた。
五穀については、他にも
などの記載がある。
生薬
中国では、中薬(ちゅうやく)という。薬膳に用いられることの多い食品のうち代表的なものを列記する。
また、これらの中薬は効能別によく分類され、大別すると11種類に分けられる。
上記からさらに細分化されていく。
例)解表類〜【辛温解表類】
名称 |
四気五味 |
帰経 |
効能 |
応用 |
紫蘇(しそ) |
辛/温 |
肺, 脾 |
発表散寒, 行気寛中, 解魚蟹毒 |
|
概念
医食同源における五行の考えを取り入れ、食薬を「熱、温、涼、寒」に分け、摂取した際に体内が「熱、温」、「涼、寒」に分類する。どちらも属さないものを「平」という。これらは体質、疾病の寒熱性質と相対して定義され、四気(五気)という。
また、食薬の味覚において、「酸、苦、甘、辛、鹹」の五つにわけ、それぞれ以下の作用があるとする。
上記以外に味のはっきりしないものもあり、これを「淡」という。
以上を五味(六味)という。これらあわせて四気五味(五気六味)という。
医学的見地においてこれら五行の体感は自律神経によるもので、例えば冷え性は血管の収縮や弛緩を調整する働きの不調から起こるため、これらを改善する成分を含む食品を摂ることが薬膳の考えかたになる。
熱温性食品(温性食品)
一般に成長がゆっくりで水分が少なく小さくて硬い食品と言われ、緑黄色野菜や血行を良くするビタミンEや、糖質の分解を助けるビタミンB1等が含まれる食品。
カボチャ、栗、クルミ、ニンニク、ニラ、葱、玉ネギ、ラッキョウ、 山椒、胡椒、唐辛子、芥子、生姜、シソ、パセリ、人参、春菊、 蕗、山菜、ウナギ、ナマコ、マグロ、鯛、蜂蜜、カキ、牛肉、羊肉、鶏肉、餅、味噌、酒、ビール
涼寒性食品(涼性食品)
一般に成長が早く水分が多く大きく柔らかい食品と言われ、腎機能を高め利尿作用を助ける成分が含まれる食品。
茄子、 トマト、胡瓜(キュウリ)、セロリ、牛蒡、ホウレン草、柿、キウイフルーツ、バナナ、枇杷、豚肉、レモン、ミカン、梨、林檎、西瓜(スイカ)、パイナップル、柚子、アスパラガス、チシャ、苦瓜、 蕪、モヤシ、冬瓜、そば、 緑豆、アサリ、シジミ、鮑、蛤、雲丹、蛸、蟹、牛乳、醤油、塩、味噌、豆腐 、小麦、ハトムギ、キンカン、夏ミカン、ポンカン、いよかん、イチゴ、ザボン、干し柿、メロン、マンゴー、サトウキビ、マクワウリ、空心菜、ナズナ、クワイ、たけのこ、ユリネ、蓮根、マッシュルーム、緑豆、小豆、おから、白身、ワカメ、テングサ、海苔、コンブ、ひじき、鰯、タニシ、蜂蜜、緑茶(日本茶)、ジャスミン茶、ウーロン茶、胡麻油、サフラン、アロエ、ハッカ、ドクダミ、葛、粟、ツルムラサキ
平性食品
レモン、大根、納豆、玄米、ジャガイモ、大豆、サンマ、里芋、鶏卵
昇降浮沈
上記以外にも食薬の作用傾向がある。
· 「昇・浮」:上昇、発散の意味。「甘」「辛」の味、温熱性のもの、花、葉のような軽いものは「昇」「浮」の傾向がある。
· 「降・沈」:下降、泄利の意味。「酸(渋)」「苦」「鹹」の味、寒涼性のもの、茎、根、実、石、貝類のような重いものは、「降」「沈」の傾向がある。
帰経
食薬の作用と臓腑、経絡を結び付け、主な作用を定位する説明。食薬の色、性味によって入る臓腑も異なる。食薬自身が機体の某部分に選択的に作用を発揮し、一経或いは多経に帰することができる。
五味でいうと、
· 「酸味」は「肝経」に入りやすいので適量な酸味は肝を養うことができる。
· 「苦味」は「心経」に入りやすいので、夏に心(しん; 心臓の意)の働きが活発な時に摂取し心の熱を取除くと良い。
· 「甘味」は「脾経」に入りやすい。したがって、適量な甘味は脾を養う。
· 「辛味」は「肺経」に入りやすい。適量な辛味は、肺の働きを助けて風邪の予防をすることができる。
· 「鹹味」は「腎経」に入りやすいので、適量な鹹味は腎を養う。
配伍
実際に薬あるいは食物を使用する時は、単体で使うことが少ない。最も多く使用するのは二品以上である。また、それらをお互いに配合する関係が七通りあり、このことを「配伍七情」という。
1. 単行:単味の食薬を使用する。
2. 相須:同じ効能を持つ食薬を一緒に使うと効果を増加させる。
3. 相使:一方を主とし、他方を輔とすることにより他薬が主薬の効果を増加させる。
4. 相畏:主になる食薬の毒性反応あるいは副作用を他の食薬によって削除または軽減させること。
5. 相殺:相畏の裏返しの関係。他の食薬の不良作用が主の食薬により削除、軽減されること。
6. 相反:二種類以上の食薬を合わせて使うことにより副作用が生じること。
7. 相悪:二種類以上の食薬を合わせて使うことにより作用が低減し、無効になること。
※相反と相悪の配伍は日常的によく見かけるが、できるだけ避けたほうがよい。
主な薬膳
台湾では、十全大補の材料を煮込み、スープベースにする料理が存在する。薬膳スープと呼ばれるこのスープには、排骨、鳥、なまず、羊などの肉をいれた各メニューがある。「十全○○」とメニューにかかれてあり、この○○部分に、中身の具が鳥なのか羊なのかを指し示す漢字が入っている。
関連項目
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