生薬

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生薬のひとつ「紅花」さまざまな生薬

陳皮ミカンの皮を乾燥させたもの)

生薬(しょうやく、きぐすり、: Crude Drugs)は、天然に存在する薬効を持つ産物から有効成分を精製することなく体質の改善を目的として用いる薬の総称である。世界各地の伝統医学では多くの生薬が用いられている。

漢方薬は、生薬であるが漢方医学に基づいたものであり同一ではない[1]。日本において、生薬は、医薬品医療機器等法によって医薬品として扱われるものと、食品として扱われるものの2種類に分類される。前者の製剤化されたものは生薬製であり、後者は健康食品である。

目次

1 漢方薬との違い

2 制度による分類

3 種別

4 医薬品

5 富山大学の保存数

6 生薬の加工

6.1 加工の目的

6.1.1 薬剤として不要な部分を除去する

6.1.2 長期保存

6.1.3 成分を変化させる

6.1.4 抽出しやすくする

6.2 加工の方法

6.2.1 機械的な方法

6.2.2 火を使う方法

6.2.3 水を使う方法

6.2.4 水と火を使う方法

6.2.5 その他の方法

7 医薬品として利用される主な生薬や植物とその成分と薬効

8 脚注

9 参考文献

10 関連項目

 

 

 

漢方薬との違い

日本における生薬は、漢方処方や民間伝承の和薬などの東洋医療で用いられる天然由来の医薬品すべてであるが、漢方医学の影響が大きいため、生薬と漢方薬が同一視される場合も多く、混乱を招いている。生薬は漢方医学以外にも、民間薬として単独で使用する機会もあるが、漢方薬とは複数の生薬を漢方医学の理論に基づいて組み合わせた処方であり、決して同一ではない[1]

江戸時代に、生薬は漢方薬の原料という意味で薬種(やくしゅ)とも呼ばれており、鎖国下においても、長崎貿易対馬藩を通じた李氏朝鮮との関係が維持された背景には、山帰来大楓子檳榔子朝鮮人参などの貴重な薬種の輸入の確保という側面もあった[2]。輸入された薬種は薬種問屋薬種商を通じて日本全国に流通した。

制度による分類

日本の医薬品医療機器等法では、生薬も医薬品として扱っており、ヨーロッパでもドイツなどでは医薬品である。一方、アメリカ合衆国では『薬局方』に生薬が収載されているにもかかわらず、生薬から精製した有効成分は医薬品として認めるものの、その原料である生薬自体は医薬品として認めていない。そのため、生薬を指して未精製薬 (Crude Drug) と呼び表したり、民間伝承で用いられる場合などでは「薬用ハーブ (herbal medicine)」と呼び表すことも多い。

日本における公定医薬品書である『第15改正日本薬局方』(2006)では、生薬と生薬製剤および漢方エキスが「生薬等」に収載されており、『薬局方』に記載された方法で検定したものが医薬品として使用される。すなわち、生薬のすべてが『日本薬局方』で認められているわけではない。

種別

生薬となる天然産物には、植物由来のもの(薬用植物)、動物由来のもの、菌類由来のもの、そして鉱物由来のものが含まれる。そして多くの場合は煎じ薬やエキス剤、チンキ剤など、加工してから薬品として用いる。まれに、貼薬のように原体をそのまま使う場合もある。西洋医学のように注射剤として用いるものはなく、経口剤か貼薬として服用するのである。

生薬は天然物であることから、含有されている薬効成分は一定ではなく、同じ植物であっても、産地や栽培方法、あるいは作柄によっても成分が変わる場合も多い。たとえば薬用人参では、朝鮮半島産のものは「朝鮮人参」や「高麗人参」と銘打たれて重宝されるが、朝鮮半島より導入した国産のものは、「御種人参」(オタネニンジン)と呼ばれ、格が下がるとみなされている。

また、昨今の天然物資源への注目もあいまって、生薬から得られた成分をもとに医薬品が作られる場合も多い。植物資源(薬用植物)がその対象となることが多く、最も古い例としてはアヘンから得られたモルヒネがある。

医薬品

ヨーロッパでは、伝統生薬製剤の欧州指令によって、医薬品として認可されている生薬製剤がある。ヨーロッパでは医薬品と扱われる一方、日本ではサプリメントとして販売されているものがある。

日本では、20世紀からの生薬製剤に加え、日本国外で一般用医薬品として利用されている西洋ハーブの生薬製剤を、日本で一般用医薬品として承認申請する際に、2007平成19年)より、海外のデータを利用して承認申請を省略できることが認められた[3]。これにより2011(平成23年)には、足のむくみを適応とした、赤ブドウ葉乾燥エキス混合物(新有効成分)配合の医薬品が初めて承認された。

また、健康食品として扱われているため外国からの個人輸入も多く、成分や濃度もさまざまであり、ブラックコホシュを調査した例では、近縁種を誤って錠剤にした例も確認された。[4][5]

富山大学の保存数

生薬の保存に関しては、富山大学和漢医薬学総合研究所が中国医学および日本漢方で使われる生薬、インド医学薬物、チベット薬物、モンゴル薬物、インドネシア薬物、タイ古医学薬物、ユナニー薬物など26000点以上保存し、世界第一の保存数である。[6]

生薬の加工

生薬は、摘み取ったり掘り出したりしたままで使えるわけではない。泥を落とすことや日干しにすることなども含めると、何らかの加工を行わなければ使用できない生薬がほとんどである。本節では、中医学で行われる修治(しゅうち)、炮製(ほうせい)を中心に、この問題について取り上げる。

加工の目的

薬剤として不要な部分を除去する

収穫したばかりの薬草には、泥、枯れ葉、他の植物、虫などの不要物が付着している。また、全草を用いる生薬は稀で、大多数の植物生薬では、薬効成分の多い一部のみが使われ(人参は根、粳米は実というように)、他の部分は廃棄または薬用以外の用途に利用される。このように、不純物を可能な限り減らし、厳密な計量に耐えるようにしないと、生薬に含まれる薬効成分の量が推測できず、結果として、処方という行為自体が意味を成さないことになる。

長期保存

薬草の組織に水分が含まれていると、重量や容積が大きく、品質が安定せず、また腐敗やカビが発生しやすい。このままでは、遠隔地に出荷することはできない。この問題へのもっとも原始的な対処法は、天日に干すことである。含まれている酵素によって、収穫すると薬効成分が崩壊してしまう生薬もある。このようなものは、収穫したら速やかに熱を加え、酵素を失活させなくてはならない(この点については、緑茶紅茶の製法についても参照されたい)。また、長期保存には、除去し切れなかった昆虫微生物などを殺す加工も必要である。

成分を変化させる

生薬によっては、成分そのものが、収穫したままでの使用に耐えないこともある。附子など猛毒のものは、弱毒処理を行わなければ危険きわまりない。巴豆の種子は大量の油脂を含むため、そのまま投与すると激しい下痢を起こしてしまうので、ぎりぎりまで油を絞ったかすを用いなければならない。また、地黄のように、生のものと加工されたものに、別々の薬効を期待する生薬も存在する。

抽出しやすくする

貝殻化石鉱物などは、そのほとんどが固く、溶けにくいため、何らかの加工を行い、溶媒とは限らない)に溶けやすく、人体に吸収しやすくする必要がある。細かく砕いたり、加熱して組織を壊したり、薬品に漬け込んだりすることが行われている。

加工の方法

 

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 薬研

機械的な方法

選薬(せんやく)

生薬として必要のない部分を取り除く前処理。

粉砕(ふんさい)

搗き潰したり、磨り潰したりする。

切製(せっせい)

規格の大きさに切断する。

火を使う方法

煨(わい)

泥団子か練った小麦粉で包み、熱灰の中で加熱する。

煆(たん)

るつぼに入れて焼き、脆くする。

炮(ほう)

鉄の鍋で黄色くなるまで、あるいは破裂するまで乾煎りする。

炒(しゃ)

炒める。

炙(しゃく)

薬物を液体の補助材料(酒、塩水、蜂蜜など)と一緒に炒め、補助材料を染み込ませる。

烘烤(こうこう)

炙り焼き。

焙(ばい)

とろ火で乾燥させる。

水を使う方法

洗(せん)

水洗い。

漂(ひょう)

水に晒して不純物を除去する。

泡(ほう)

形を整えるための前加工として、水に浸して柔らかくする。

潤(じゅん)

霧を吹く。

水飛(すいひ)

水簸とも書く。細かく研磨してから水で洗い、沈殿させる。

水と火を使う方法

蒸(じょう)

蒸す。水以外の液体で蒸すこともある。

煮(しゃ)

煮る。

茹(じょ)

茹でる。

淬(すい)

赤熱するまで焼き、水か酢で急冷する。

その他の方法

発芽(はつが)

種子に水分を与え、芽の状態にまで育てる(麦芽など)。

発酵(はっこう)

温度や湿度を管理して、微生物を繁殖させる。

製霜(せいそう)

油を絞り、細かくする(巴豆など)。

医薬品として利用される主な生薬や植物とその成分と薬効

植物名、生薬名

成分名

薬理作用

インドジャボク

アジュマリン

抗不整脈

インドジャボク

レセルピン

血圧降下

ロートコンベラドンナコン

アトロピン

副交感神経遮断

ロートコン、ベラドンナコン

スコポラミ

副交感神経遮断

オウレンオウバク

ベルベリン

健胃、整腸

カカオコーヒーノキ

カフェイン

中枢興奮、利尿

d-カンファー

局所刺激、強心

コカノキ

コカイン

局所麻酔

アヘン

コデイン

鎮痛、鎮咳

アヘン

モルヒネ

鎮痛

アヘン

ノスカピン

鎮咳

アヘン

パパベリン

鎮痙

イヌサフラン

コルヒチン

抗痛風

ジギタリス

ジゴキシン

強心、整脈

ジギタリス

ジギトキシン

強心、整脈

マオウ

エフェドリン

交感神経興奮

麦角菌

エルゴメトリン

子宮収縮、止血

麦角菌

エルゴタミン

鎮痛、子宮収縮

マクリ

カイニン酸

回虫駆除

アンミ実

ケリン

冠動脈拡張

ハッカ

l-メントール

消炎

カラバル豆

フィゾスチグミン

抗コリンエステラーゼ

ヤボランジ

ピロカルピン

副交感神経興奮

キナノキ

キニジン

抗不整脈

キナノキ

キニーネ

抗マラリア

ミヨブヨモギ

サントニン

回虫駆除

ストロファンツス

G-ストロファンチン

強心、整脈

タチジャコウソウ

チモール

殺菌(外用)

クラーレノキ

ツボクラリン

骨格筋弛緩

脚注

  1. ^ a b 花輪寿彦 2003, pp. 286-288.
  2. ^ 小山幸伸「薬種」『日本歴史大事典 3小学館2001
  3. ^ “【厚労省】西洋ハーブ製剤の承認申請‐海外データ活用を容認”. 薬事日報. (2007328). http://www.yakuji.co.jp/entry2615.html 2015101日閲覧。 
  4. ^ 第43回生薬分析シンポジウム食品と医薬品の境界
  5. ^ DNA配列情報を利用したブラックコホシュ国内市場品の基原鑑別
  6. ^ 富山大学和漢医薬学総合研究所民族薬物研究センター民族薬物資料館

参考文献

関連項目