甲状腺ホルモン

コウジョウセンホルモン

【英】thyroid hormone

 

甲状腺で合成されるホルモン活性物質でサイロキシン*(T4)と,トリヨードサイロニン*(T3)がある.甲状腺組織中のサイログロブリン*(チログロブリン)の分子の中でT4やT3は合成されTSH*で甲状腺が刺激されるとサイログロブリンは甲状腺濾胞上皮細胞に取り込まれて水解され,成人でT 1日約80 μg, T 1日約30 μgを血中に放出する.血中にはT 611 μg/dL, T 60190 ng/dLの濃度で存在する.T4は肝などの組織で脱ヨードをうけてT3とリバーストリヨードサイロニン*reverse T3(rT3)となり,さらにT, T1と代謝され,また,ether link cleavageをうけて分解される.この間に体組織においてホルモン作用を発揮する.甲状腺ホルモンは各組織の正常な発育にとって不可欠であり,胎児期,幼児期に甲状腺ホルモンが欠乏すると,諸臓器および身体全体の発育が不十分で,とくにもとのままの発育の障害を伴うクレチン病*となる.また,甲状腺ホルモンが過剰であれば甲状腺中毒症(甲状腺機能亢進症*)の諸症状を呈する.甲状腺ホルモンの作用機序としては, 1)細胞核に結合して,タンパクの合成に必要なDNARNAの合成を刺激し,とくにエネルギー代謝に関連する酵素を誘導し, 2)ミトコンドリア*に作用してミトコンドリアのタンパク合成を高め, 3)細胞膜*に作用してイオンの透過性を高め,神経末端の受容体に結合して神経伝達物質(化学〔的〕伝達物質*)として働き, 4)α, β‐adrenergic receptorに作用してadenylate cyclaseとの共軛を変化させたりする.その結果,生体の組織の熱産生の亢進,交感神経系の感受性増加などが起こる.