亜急性腎炎

アキュウセイジンエン

【独】subakute Nephritis

 

=急速進行性糸球体腎炎

急速進行性糸球体腎炎

キュウソクシンコウセイシキュウタイジンエン

【英】rapidly progressive glomerulonephritisRPGN

同義語:亜急性腎炎subakute Nephritis

 

かつての亜急性腎炎に相当し,臨床的には月数をもって数える経過で不可逆性に腎不全に進行し,病理学的には糸球体周の50%以上の大きさの半月体*が50%以上の頻度で出現するものをいう.この意味で近年は半月体性糸球体腎炎crescentic glomerulonephritisとも呼ばれる.

半月体

ハンゲツタイ

【英】crescent

 

主として糸球体疾患の結果,増殖したボーマン嚢上皮細胞がボーマン腔の一部または全部を満たしているもの.多くはボーマン腔の一部を覆って三日月様の形態をとるため.半月体と呼ばれる.細胞が2層以上である必要がある.ときにフィブリンを含む.細胞を主体としたものを細胞性半月体cellular crescentと呼び,この細胞成分に基底膜様物質やコラーゲンなど,線(繊)維性物質を含んでいるものをfibrocellular crescentと呼ぶ.さらにボーマン腔が主として結合織で埋まったものを線(繊)維性半月体fibrous crescentと呼ぶ.これは,cellular crescentあるいはfibrocellular crescentが瘢痕化したものである.糸球体の炎症性病変において最も高度な病変である.半月体が半数以上の糸球体にみられる場合,半月体形成性糸球体腎炎crescentic glomerulonephritisと呼ばれる.臨床的には,多くの場合,急速に進行して1年以内に腎不全*renal failure

腎不全

ジンフゼン

【英】renal failure

【独】Niereninsuffizienz

【仏】insuffisance re´nale

 

腎の血流障害,機能ネフロンの減少,尿路の閉塞により,窒素代謝物や水,電解質の排泄が十分にできなくなり,体液*

体液

タイエキ

【英】body fluid

【独】Ko¨rperflu¨ssigkeit, Ko¨rpersaft

【仏】humeur

 

生体内に存在する液体をいう.次の3つの区画に分けられる.すなわち血漿*plasma

血漿

ケッショウ

【英】blood plasma, plasma

【独】Blutplasma, Plasma

【仏】plasma sanguin

 

血液*から有形成分すなわち血球*(赤血球*,白血球*,血小板*)を除いた液体成分をいう.血漿を採取するには,ヘパリン*,クエン酸ナトリウム*,EDTA(エチレンジアミン四酢酸*),二重シュウ酸塩などの抗凝固剤を加えて,遠心により血球を除去する.健常者の血漿は淡黄色を呈し,比重は1.0241.029.体重当たりの量は男女で大差なくおよそ45 mL/kgである.血漿の9192%は水からなり,この中にタンパク,非タンパク窒素化合物,脂質,ブドウ糖,無機質(ナトリウム,カリウム,カルシウム,鉄,銅,ヨードなど)が含まれている.タンパクはアルブミン*,グロブリン*(α1, α2, β, γ),フィブリノーゲン*,トランスフェリン*など80種類以上からなる.非タンパク窒素化合物には尿素,尿酸,アンモニア,クレアチニン*,クレアチン*,アミノ酸*などがある.脂質は中性脂肪,リン脂質,コレステロール*などからなる.血漿は栄養素を組織に運び,組織で代謝産物を腎に運ぶ役割をしている.抗体*や補体*,ホルモン*,血液凝固因子*を含み,生体防御や生体機能の調節に重要な役割を行っている.

組織間液interstitial fluid,および細胞内液*intracellular f.である.前二者をまとめて細胞外液*extracellular f.と呼ぶ.これらすべてを加えたものが全体液total body f.である.各区画の体重に対するおおよその割合は血漿5%,組織間液10%,細胞内液45%で,全体液量としては体重の60%を占める.この割合はいずれの区画も新生児で高く,成長とともにこの値に近づく.また女性は男性に比し全体液量で5%程度少ないがこの違いは主として細胞内液量の差による.体液はあらゆる生体反応の場でありClaude Bernardのいう内部環境milieu inte´rieurそのものである.各区画は大きく異なるイオン組成を示すが,互いに密接に関連しつつ生体の恒常性を維持している.その量的,質的変動はさまざまな病態で出現し,その迅速な把握,是正は臨床上きわめて重要である.

の量的,質的恒常性が維持できなくなった状態をいう.臨床的には血中の尿素窒素やクレアチニンが持続的に上昇する状態と定義される.発症の経過により急性腎不全*と慢性腎不全*とに分けられるが,前者は短期・可逆性の障害であるのに対し,後者は非可逆性のネフロン*の喪失を起こし,数ヵ月から数十年かけて形成される.また急性腎不全は原因により腎前性,腎性,腎後性に分けられるが詳細は急性腎不全の項を参照されたい.腎不全の初期には血清尿素窒素やクレアチニンが上昇するだけであるが,腎機能が30%以下になると水・電解質代謝,酸塩基平衡の調節にも障害を生じ,溢水状態,高カリウム血症*,代謝性アシドーシス*などをきたす.さらに腎から分泌されるホルモン(エリスロポエチン*,レニン)の異常や活性ビタミンD*の減少や種々の毒性物質の蓄積をきたし,腎機能が10%以下の高度の腎不全では多彩な全身症状を呈する尿毒症*となる.→萎縮腎

に陥る可能性の強い,急速進行性糸球体腎炎*である.

原因疾患は, 1)一次性(特発性), 2)溶連菌感染後性腎炎,細菌性心内膜炎,内臓腫瘍などの感染性疾患に伴うもの, 3)全身性疾患に伴うもの,の3種に大別される.全身性疾患としては,グッドパスチャー症候群*Goodpasture's syndrome

グッドパスチャー症候群

グッドパスチャーショウコウグン

【英】Goodpasture's syndrome

 

この名称は1919年 Goodpastureがインフルエンザ感染後に喀血と急性腎不全で死亡した症例を記載したことに由来する.肺病変は出血性肺胞炎で肺胞内出血,多数のヘモジデリン含有貪食細胞を認める.腎は初期には巣状増殖性腎炎(増殖性糸球体腎炎*),次いで急速進行性腎炎(急速進行性糸球体腎炎*)

増殖性糸球体腎炎

ゾウショクセイシキュウタイジンエン

【英】proliferative glomerulonephritisPGN

 

糸球体内に細胞増殖を伴う糸球体腎炎をさし,巣状増殖性腎炎とびまん性増殖性腎炎に分かれる.ともにタンパク尿*,

タンパク尿

タンパクニョウ

【英】proteinuria, albuminuria

【独】Proteinurie, Albuminurie

【仏】prote´inurie, albuminurie

 

健常者におけるタンパクの尿中排泄量は110100mgである.尿タンパクが1150mgを超えた場合は異常であり,通常タンパク尿と呼ぶ.しかしタンパク尿が認められても必ずしも病的ではなく,安静臥床時では尿タンパクが認められないが起立することによって尿タンパクが出現する若年者に多い起立性タンパク尿*や,熱発時や運動後にみられる生理的(機能的)タンパク尿*などのように病的でないタンパク尿もある.病的なタンパク尿は,その出現部位および機序から糸球体性と尿細管性に大別される.糸球体性タンパク尿glomerular proteinuriaとは, size barrierおよびcharge barrierによって規定される糸球体基底膜の透過性の変化によって血中からタンパクが尿に排出されるものであり,1日の尿タンパクが1.0 gを超えるときは糸球体性のものを考えるべきである.アルブミンのみでなくIgM*などの巨大な分子量のタンパクまで尿中にみられる時,その選択性は低いといえる.尿細管性タンパク*尿とは通常は尿細管でほぼ再吸収されるため尿中には出ない低分子タンパクが尿細管障害のため尿中に排出するものである(低分子タンパク尿lowmole cular proteinuria).また多発性骨髄腫*時の免疫グロブリン*や横紋筋融解時のミオグロビンのように血中にタンパクが異常に増加するために尿細管での再吸収能を超え尿中に出てくるようなものも病的なタンパク尿に含まれる.尿タンパクの検査法として定性法と定量法があるが現在は試験紙法によって行われることが多い.疑わしいときには煮沸法やスルホサリチル酸法で確認すべきであり,正確な定量には種々の定量法が用いられる.アルブミン*,グロブリン*測定には電気泳動*法やBiuret試薬で発色させ比色する方法も行われる.また最近では微量アルブミン尿microalbuminuriaの定量も行われ糖尿病性腎症*の早期診断に有用とされている.

血尿*からなる腎炎性尿所見を特徴とする.びまん性増殖はさらに糸球体係蹄内増殖(管内性増殖)と係蹄外増殖(管外性増殖,つまり半月体*形成と同義)に分類される.管内性増殖を呈するものには急性腎炎の組織型である管内性滲出性増殖性腎炎があり,また慢性腎炎に属するメサンギウム増殖性腎炎と膜性増殖性糸球体腎炎*がある.

を呈する.病因的には抗糸球体基底膜抗体が肺胞基底膜と交差反応するためとみなされ,蛍光染色で両基底膜に沿うIgG*,C 3の線状沈着をみる.致命的な肺出血には血漿交換法(プラスマフェレーシス*)が著効を示す(Ernest William Goodpastureはアメリカの病理学者,18861960).

ループス腎炎*,

ループス腎炎

ループスジンエン

【英】lupus nephritisLN

 

全身性エリテマトーデス*に合併する糸球体腎炎glomerulonephritisで免疫複合体*型腎炎の典型とみなされている.WHO分類では, 1)正常糸球体, 2)メサンギウム増殖性変化, 3)巣状分節状糸球体腎炎, 4)びまん性増殖性糸球体腎炎, 5)びまん性膜性糸球体腎炎, 6)末期硬化性糸球体腎炎の6型に分類され,これに巣状壊死,ヘマトキシリン体,半月体形成,ワイヤー・ループ病変,微小血栓などの活動性病変の有無を併記して病変を記載する.

多発性動脈炎*,

多発性動脈炎

タハツセイドウミャクエン

【英】polyarteritis

 

多数の動脈が同時に炎症性病変に侵される病態である.最も代表的なものは,結節性多発動脈炎*polyarteritis nodosaである.これは全身の中~小動脈に区域性の壊死を伴う炎症を生じ,このために多臓器の機能障害をもたらすものである(MOF*).本疾患は主に血管の膠原線維組織に炎症と壊死をもたらす原因不明のものである.骨・骨格筋・消化管・心臓などの血管が好発部位で,これらの部位が多発性に侵される.血管は中膜と外膜に炎症や壊死性病変が強く,内腔への血栓形成や区域性に動脈瘤*様の拡張をみるため,血管は結節状の形状を呈するためこの名称がある.症状としては,発熱・易疲労感や侵される臓器障害による症状を呈する.赤沈の亢進・血清γ グロブリン値上昇,抗核抗体陽性,リウマチ因子陽性のみられることもあるが,生検で活動性の動脈病変が認められれば診断の決め手となる.多くは慢性の経過をとり,うっ血性心不全*,高血圧*,腎不全*などを合併してくる.ステロイドが一時的に有効なことがある.

紫斑病性腎炎*,ウェゲナー肉芽腫*Wegener granulomatosis,混合性クリオグロブリン血症などがある.予後は感染性疾患に伴う場合が最もよく,一方,特発性RPGNの予後は不良で,全身性疾患に伴うものは原疾患の予後に規定される.〔治療〕半月体形成が糸球体内血液凝固に由来することより抗凝固療法を含むcombined therapyが試みられ,かなりの効果をおさめており,また必要に応じてパルス療法*,

パルス療法

パルスリョウホウ

【英】pulse therapy

【独】Stosstherapie

 

ある期間を置いて,間欠的に薬剤を投与する療法をいう.制癌剤,免疫抑制剤などのパルス療法はしばしば行われるが,とくにパルス療法として有名なのは,全身性エリテマトーデス*の腎症に対するメチルプレドニゾロン*の大量衝撃療法である.1976年にE. S. Cathcartにより報告された方法で,1,000mg3日間,点滴で投与する方法である.タンパク尿減少が速やかに得られるが,通常のステロイド療法と長期的に比較した場合の優劣には結論が得られていない.

血漿交換法(プラスマフェレーシス*)

プラスマフェレーシス

プラスマフェレーシス

【英】plasmapheresisPP

同義語:血漿アフェレーシス,血漿交換療法plasma exchange therapy

 

循環血漿中に何らかの病因物質が存在すると考えられる場合,その物質を除去することにより病態が改善するという考え方は古くからあった.これは以前行われた全血交換と同等の意味を有する.近年では血液透析*療法の進歩に伴い,透析膜の研究開発が盛んに行われ,希望する分子量の物質を選択的に除去することが可能となってきている.このような膜(強膜)を用いて,体外循環*により血漿を除去し,代わりに正常血漿により置換するという治療法を血漿交換療法という.原理的には血液成分の比重差を利用する遠心法と分子量別に分離する膜式法がある.また,単に血漿を交換するだけでなく,原因物質を特異的に除去するために二重濾過方式という方法や,血漿を冷却してクリオグロブリン*cryoglobulinを生じさせて除去するcryofiltrationなどの方法がある.現在の血漿交換療法の適応症例として薬物中毒*,劇症肝炎*,慢性関節リウマチ*やSLE(全身性エリテマトーデス*)などの免疫性疾患,多発性骨髄腫*,重症筋無力症*などが報告されている.

も適用される.