悪液質肝斑

アクエキシツカンハン

【ラ】chloasma cachexia

 

→肝斑

肝斑

カンハン

【英】moth patches, melasma

【独】Leberfleck

【仏】tache he´patique

【ラ】chloasma

 

主として思春期以後の女子の顔面,とくに額部,眉毛直上,頬,頬骨部に左右対称性に好発.限局性の境界明らかな褐色斑.組織学的には表皮細胞のメラニン*含量が増加.妊娠時の卵胞ホルモン,MSH*(メラニン細胞刺激ホルモン)

MSH

エムエスエッチ

【英】melanocyte stimulating hormone

【独】melanozytenstimulierendes Hormon

【仏】me´lanostimuline, me´lanotropine

同義語:メラニン細胞刺激ホルモン

 

ACTH関連ペプチドの一つ.ACTHと共通の前駆体であるproopiomelanocortinPOMC)が酵素分解をうけるとACTH*とβ‐LPHとに分かれ,さらにACTH139)からα‐MSH113)とCLIP1839)が,β‐LPH191)からγ‐LPH158)とβ‐endorphin6191)が生じ,さらにγ‐LPH158)よりβ‐MSH4158)が生じる.POMC(プロオピオメラノコルチン*ACTH

エーシーティーエッチ

【英】adrenocorticotropic hormone

【独】adrenokorticotropes Hormon

【仏】adrenocorticotropine

同義語:副腎皮質刺激ホルモン,コルチコトロピンcorticotropin

 

下垂体前葉のcorticotrophと呼ばれる好塩基性細胞から分泌されるホルモン.アミノ酸39個からなる直鎖状の単純ペプチドで,分子量は4,500.前駆体はプロオピオメラノコルチン*proopiomelanocortinPOMC)という分子量31,000の糖タンパク質で,N端側よりシグナルペプチド,Nterminal fragment, ACTH139)およびβ‐リポトロピン(191)の順に続いており,酵素により切断されて,ACTHACTH関連ペプチドを生じる.ACTHの分泌は生体リズム,視床下部のコルチコトロピン放出ホルモン(CRH*),血漿コルチゾール濃度による負のフィードバック機構によって調節されている.血漿ACTH濃度は68時に最高となり,以後漸減して0時に最低となる.精神的ならびに身体的ストレスによりACTHの分泌は刺激される.ACTHは副腎皮質に対して肥大作用とコルチコイド*分泌促進作用のほか,約1/30のメラニン細胞刺激ホルモン様作用を示す.ACTHの過剰分泌によりクッシング症候群*Cushing syndrome

クッシング症候群

クッシングショウコウグン

【英】Cushing syndrome

【独】CushingSyndrom

【仏】syndrome de Cushing

 

1932年にアメリカのCushingによって記載された疾患で,慢性のコルチゾール*過剰症によって独特の臨床症状を呈する.〔病因〕 1 ACTH産生下垂体腺腫(クッシング病*),2 副腎腺腫または癌,3 異所性ACTH産生腫瘍*(肺癌,膵癌や胸腺癌など)の3つがある.1:2は3:1で 1 が多く,3 はまれ.3040歳代の中年女性に多い.高血圧患者の0.20.3%は本症であるとの推計もある.〔主な臨床症状〕 中心性肥満,高血圧,月経異常,伸展性皮膚線条,多毛症*,ざ瘡*,筋力低下,骨粗鬆症*,出血性素因,浮腫*,精神障害や成長遅延など.一般検査では低カリウム血症*,高コレステロール血症*,耐糖能異常,白血球(好中球)増多症などを認める.血中コルチゾール値が高値で,正常者にみられる朝高値,夕低値の日内変動が消失している.尿中17OHCS排泄量と尿中遊離コルチゾール排泄量が増加している.尿中17KS排泄量または血中デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)は病因 1,3 で増加,2 では低下傾向を示す.血漿ACTH値も 1,3 で増加し,2 で低下している.クッシング症候群のスクリーニングとして最も有効なのはデキサメタゾン抑制試験*

デキサメタゾン抑制試験

デキサメタゾンヨクセイシケン

【英】dexamethasone suppression test

 

デキサメタゾンが内因性のコルチゾールよりもACTH*の分泌抑制力が遥かに強力であることを利用し,主にクッシング症候群*Cushing syndromeのスクリーニングおよび鑑別診断に用いられる検査法.リドルの原法Liddle standard methodではデキサメタゾン2mg/日を4分割2日間投与して,尿中17OHCS排泄量が2.5mg/日以下に抑制されるものを正常とし,抑制がみられないときは引き続き8mg/2日間投与を行う.最近は手技が簡便な迅速法が普及しており,午後11時にデキサメタゾン0.518mgを内服させ,翌早朝に採血して血中コルチゾール値が5 μg/dL以下に抑制される場合を正常とする.クッシング病*Cushing disease(下垂体性副腎皮質過形成)では0.51mgの少量では抑制されず,8mgないしそれ以上の大量で抑制される.これに対して副腎腫瘍によるCushing症候群や異所性ACTH症候群では1mgでも8mg以上でも抑制されない.なお性ステロイド過剰の由来をしらべる目的で,尿中17KS排泄量を指標としてデキサメタゾン2mg/日を4日間投与すると副腎過形成によるものは抑制されるが,副腎腫瘍や卵巣由来(arrhenoblastomaSteinLeventhal症候群;→セルトリ・ライディッヒ細胞腫,多嚢胞性卵巣症候群)では抑制されない.これをジェイラー試験Jailer testという.

であり,メチラポン試験*も鑑別診断に有用である.〔治療〕 1 のクッシング病は経鼻的下垂体腺腫摘除術(Hardy operation),2 のうち副腎腺腫は外科的摘除,副腎癌や異所性ACTH症候群にはo,p′‐DDDの投与を第一選択とする(Harvey Williams Cushingはアメリカの外科医,18691939).

分泌不全により副腎皮質機能低下*を起こす.ACTHは中枢神経系,消化管,気管支にも微量に存在するが,生理的意義は明らかでない.これらの組織にまれながらACTH産生腫瘍*が発生する.

→図)のN端側にはγ‐MSHの構造が存在する.ヒト以外の多くの脊椎動物の下垂体には中葉が存在してMSHを産生するが,ヒトでは中葉は痕跡的であり,MSHの産生はみられない.MSHの分泌は弓状核に発するドパミンニューロンによって直接的に抑制されており,強力なMSH分泌抑制作用を示すProLeuGlyNH2は生理的に重要なMSH分泌調節因子でないとされている.MSH放出因子の存在も推測されているが本体はまだ不明である.種々の動物の皮膚などにメラニン細胞(変温動物ではメラノフォアmelanophoreと呼ぶことが多い)があり,細胞質中のメラノソームでメラニン*という黒色色素を産生している.またメラニン細胞は体色の変化に関与しており,メラノソームの凝集・拡散を調節して体色の暗化と明化を行っている.この過程はMSH,メラトニンなどのホルモンと色素胞神経によって支配されている.メラニンは過剰の光線に対する防御機構として役立っている.

の増加など,内分泌変調が基礎にあるといわれ,日光により増強する.妊娠で生じるもの(妊娠性肝斑*),子宮,卵巣疾患があって発症するもの(子宮肝斑chloasma uterinum),癌の末期に生ずるもの(悪液質肝斑chloasma cachexia)などもあり,また経口避妊薬連用によっても生ずる.

メラニン

メラニン

【英】melanin

【独】Melanin

【仏】me´lanine

同義語:メラニン色素melanin pigment

 

ヒト生体内のメラニンには黒色メラニンと黄色メラニンがあり,混在している.皮膚,毛,眼,脳軟膜などに存在する色素,メラニンは,アミノ酸チロシンtyrosineからチロシナーゼ*tyrosinase

チロシナーゼ

チロシナーゼ

【英】tyrosinase

【独】Tyrosinase

【仏】tyrosinase

 

カテコールオキシダーゼcatechol oxidaseともいう.1, 2benzenedioloxygen oxidoreductase 1 とmonophenoldihydroxy phenylalanineoxygen oxidoreductase 2 の両者をさす.後者はCu2+を必要とする.メラニン合成細胞においては,前駆体LDOPAはチロシン水酸化酵素によってでなく,チロシナーゼによって合成され,さらに酸化されてDOPAキノンを経て,メラニンに至る.本酵素の欠損症が白子albinismである(チロシナーゼ陽性の白児症*

白児症

ハクジショウ

【英】albinism

【独】Albinismus

【仏】albinisme

同義語:白皮症leukopathia,先天性メラニン欠乏症congenital melanine deficiency, kongenitaler Melaninmangel, de´ficience conge´nitale en me´lanine

 

メラニン色素生成に関する先天的な異常である.眼,毛髪,皮膚の色素が減少または消失する眼皮膚型では眼振,羞明,視力低下,日光照射に伴う紅斑を示す.メラニン細胞での色素生成に関与するチロシナーゼ*の欠損または低下は,1) チロシナーゼ陰性型,2) 黄色変異型で認めるが,本酵素活性の存在する,3) チロシナーゼ陽性型,4) Che´diakHigashi, HermanskyPudlak, Crossなどの症候群に伴うものが知られており,これらはいずれも常染色体性劣性遺伝を示す.このほかに視力症状を示さず,常染色体性優性遺伝を示す眼皮膚型類白児症がある.色素欠損は,1) で最も著明で透明な虹彩,乳白色の皮膚,黄白色の毛髪を示す.網膜色素上皮の色素欠損または減少と羞明,眼振,視力低下を示すが皮膚毛髪は正常,眼型はX染色体性劣性(一部常染色体性劣性)遺伝を示す.皮膚毛髪の部分的色素欠乏を認める皮膚型では常染色体性優性遺伝を示す.

もある).β‐チロシナーゼとは,大腸菌などに存在し,チロシン+HO→フェノール+ピルビン酸+NH3を触媒するピリドキサル酵素,Ltyrosine phenollyaseをさす.

→図

の酸化作用により生じるド〔ー〕パ*DOPA,次いでドーパキノンdopaquinoneを経て生成されるが,アルカリ難溶性の黒色メラニン(ユーメラニンeumelanin)は,5,6‐ジヒドロキシインドール5,6dihydroxyindoleが主となった重合体である.メラニンの生成はメラノサイト*melanocyte内でメラノソームと呼称されるチロシナーゼを含有する細胞内小器官中で行われる.メラノソームはその成熟過程でメラニン生成を行い,これを自己の内部構造に沈着させる.したがって生体内では黒色メラニンはメラノソームという細胞内小器官の構成成分として存在している.黒色メラニンは光線に対する防御作用を有している.黄色メラニンはドーパキノンよりシステイン,グルタチオン*,γ‐glutamyltranspeptidase(γ‐GTP)の関与のもとに別の代謝路を経てシステイニールドーパcysteinyl dopaを主中間代謝物として生成され,アルカリ易溶性のフェオメラニンpheomelaninである.黒人は黒色メラニンが多く,北欧の白人ほど黄色メラニンの割合が多い.