亜急性肝炎

アキュウセイカンエン

【英】subacute hepatitis

【独】subakute Hepatitis

【ラ】hepatitis subacuta

 

Lucke1946)らはウイルス性肝炎*

ウイルス性肝炎

ウイルスセイカンエン

【英】viral hepatitis

【独】Virushepatitis

【仏】he´patite a virus

 

肝炎ウイルスの感染による肝臓の炎症で,急性肝炎*と慢性肝炎*とがある.起因ウイルスには,A型,B型,C型,D型,E型が確認されている.A型とE型は経口感染し,B型,C型,D型は血液を介して感染する.すべての型が急性肝炎を起こし,B型,C型は慢性肝炎患者に持続感染している.D型は常にB型と共存する.急性肝炎では発症初期にはウイルス感染症としての全身性の症状が前駆し,次いで,食欲不振,全身倦怠感,悪心,嘔吐,黄疸などの肝炎症状が出現する.軽症のものでは症状が自覚されないこともある(不顕性肝炎inapparent hepatitis).肝機能所見としては血清トランスアミナーゼの著しい上昇と多くの場合,血清総ビリルビン(直接型優位)の上昇をみる.A型肝炎ウイルス*やB型肝炎ウイルス*による急性肝炎は慢性化することはないが,C型肝炎ウイルス*によるものは遷延化ないし慢性化する頻度が高い.慢性肝炎はB型, C型肝炎ウイルスによるもので,臨床的には6ヵ月以上,肝機能異常や自覚症状のあるものである.なお,起因ウイルスの研究は日進月歩しAE型以外(G型など)も報告されている.

急性肝炎

キュウセイカンエン

【英】acute hepatitisAH

【独】akute Hepatitis

【仏】he´patite aigue¨

【ラ】hepatitis acuta

 

肝臓の急性に経過するびまん性の炎症性疾患である.原因としては,肝炎ウイルス*(HAV,HBV,HCV)〔HEV,HDVは日本ではほとんどみられない〕や薬物によるものがあげられる.重症度や臨床経過により定型的急性肝炎,劇症肝炎*,さらに亜急性肝炎*などに分類される.また急性肝炎は,輸血による血清肝炎(輸血後肝炎*)

輸血後肝炎

ユケツゴカンエン

【英】posttransfusion hepatitis

同義語:血清肝炎serum hepatitis

 

血液や血液製剤の輸血に基づくウイルス性肝炎*をいう.原因ウイルスはB型肝炎ウイルス*hepatitis B virusHBV

B型肝炎ウイルス

ビーガタカンエンウイルス

【英】hepatitis virus B

【独】HepatitisVirus B

【仏】virus de l'he´patite B

 

ヒトB型肝炎の病原体である.電子顕微鏡でデイン粒子*として検出される.粒子はDNAポリメラーゼ,プロテインキナーゼおよび遺伝情報としてDNAを含む.DNAは分子量2×106ダルトンで一部単鎖部分を含む二本鎖環状DNAである.ウイルス抗原としては表面抗原であるHBs(オーストラリア抗原*)のほか,ウイルス粒子のコアあるいは感染肝細胞核にあるHBc,血清の感染力によく相関するHBeがある.宿主はヒトかチンパンジーである.核酸の複製にはレトロウイルスの特性である逆転写の段階があることが,このウイルスに似たアヒルの肝炎ウイルスで示唆された.これらのウイルス群に対して, Hepadnaviridaeの名が与えられている.

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C型肝炎ウイルス*hepatitis C virusHCV

C型肝炎ウイルス

シーガタカンエンウイルス

【英】hepatitis C virusHCV

 

1988年アメリカのカイロン(Chiron)社は,非AB型肝炎*に感染しているチンパンジーの血漿中の核酸をcDNAとして大腸菌に発現させたタンパク質を,非AB型肝炎患者の血清と反応させウイルスの遺伝子を同定した.約9,500の塩基配列のすべてがその後明らかになり,一本鎖RNA遺伝子であることが解明された.まだウイルス粒子そのものは発見されていない.その遺伝子配列には高頻度に変異が起こることが知られ,変異の多い領域の塩基配列をもとに46型の亜型に分類されている.これがC型肝炎の臨床的多様性を説明する根拠になっている.わが国ではII型の頻度が高く,II型は血中ウイルス量も多い.インターフェロン*療法

インターフェロン

インターフェロン

【英】interferonIFN

【独】Interferon

【仏】interfe´rone

 

長野とIsaacsにより,ウイルス感染細胞が産生しウイルス感染細胞を抵抗性にする物質として独自に発見された.インターフェロン(IFN)は程度の差はあるが種々のウイルスに対して抗ウイルス作用を示すが,それが産生されたのと同種の細胞にのみ有効である.この宿主特異性はIFNレセプターINF receptorにより規定されている.IFN‐α(白血球型)とIFN‐β(線維芽細胞型)はIIFNと呼ばれ,ウイルス感染や二本鎖RNAなどのIFN誘導剤によって白血球と線維芽細胞によってそれぞれ産生される.IFN‐γ(リンパ球型あるいはII型)は免疫された動物の活性化リンパ球によってマイトジェン*mitogen

マイトジェン

マイトジェン

【英】mitogen

 

休止期(G0期)にあるリンパ球を抗原非特異的に(多クローン性)に刺激して芽球化させ,分裂増殖を促す物質の総称. Con A(コンカナバリンAconcanavalin A), PHAphytohemagglutinin), PWMpokeweed mitogen)などの植物レクチンのほか,LPSlipopolysaccharide), PPDpurified protein derivative 〔of tuberculin〕),dextran sulfateなど多くの物質がマイトジェン活性を示す.Con APHATリンパ球を,LPS, PPD, dextran sulfateBリンパ球(マウス)を,PWNT, B両リンパ球(ヒト)を刺激する.

コンカナバリンA

コンカナバリンエー

【英】concanavalin ACon A

 

ナタ豆Canavalia ensiformisから抽出されたレクチンlectin(糖結合性タンパク)で,単一のサブユニットが4つ重合した分子である.オリゴ糖の非還元末端または内部のα‐Dmannopyranosideと誘導体および他の2,3の糖と結合する.血液型特異的に赤血球を凝集させると共に,Tリンパ球や胸腺細胞を芽球化させて分裂(マイトジェン*mitogen活性),分化を促し,インターロイキン‐2 interleukin2IL2*)を放出させる.なお,固相に固定したコンカナバリンABリンパ球も活性化させる.

刺激によって産生される.IFNは分子量17,000のタンパク質で,β型とγ型は糖鎖*を有するが糖鎖は生物活性に必須ではない.α型とβ型はpH 2の酸性条件でも安定であるがγ型は不安定である.IFNは宿主細胞の遺伝子によって決定されているがそれ自体抗ウイルス作用を有するのではなく,いくつかのタンパク質合成を誘導することによって,抗ウイルス作用のほかに細胞増殖抑制,免疫調節,細胞高分子合成調節などの制御作用を発揮するcytokineの一つと考えられている.IFN製剤としては,天然型のIFN‐α,IFN‐β,遺伝子組換え型のIFN‐α‐2aIFN‐α‐2bがある.B型慢性活動性肝炎,C型急性および慢性活動性肝炎,種々の悪性腫瘍の治療薬として臨床的に使用されている.

III, IV型に有効率が高い.まだ予防法はない.

とがある.血中のウイルスマーカー測定系が普及して,献血時の検査が徹底してきたので,B型,C型ともに発生頻度は激減した.一過性感染としての急性肝炎となって1~数ヵ月で治癒するが,C型の一部は経過が遷延して慢性肝炎に移行することが多い.わが国では,過去に肺結核手術と胃潰瘍切除手術とで輸血が頻繁に行われた時代があり,現在のC型慢性肝疾患患者の半数を占めている.輸血後のC型肝炎*では徐々に発症することが多く,症状も他の型の急性ウイルス性肝炎に比べて軽く,検査所見についても異常値の程度が軽度である傾向にある.慢性肝炎*や肝硬変*へと進展する例も多い.

と経口感染による流行性肝炎,散発性肝炎とに分けることができる.肝組織像では種々の程度の肝細胞の変性・壊死(劇症肝炎では広範壊死,亜急性肝炎では亜広範壊死),門脈域や小葉内の細胞浸潤,クッパー細胞の増生と腫大,さらには胆汁色素や胆栓などの胆汁うっ滞の所見がみられるが,線維化はみられない.臨床的には肝炎ウイルスによるものでは発症初期にはウイルス感染症としての全身性の症状が前駆し,次いで全身倦怠感,食欲不振,悪心,嘔吐,黄疸などの肝炎症状が出現する.薬物によるものでは,とくに薬剤アレルギーによるものでは発疹がしばしば先行する.検査所見としては血清GOTGPTの著しい上昇と血清総ビリルビン値(直接型優位)の上昇があり,ビリルビン値の上昇のみがとくに目立ち,1ヵ月以上持続する型として急性肝内胆汁うっ滞*がある.薬物によるものでは好酸球増多がみられる.

の剖検例を,発症10日以内に死亡する群と3週以降に死亡する群とに分け,前者をfulminant hepatitis(劇症肝炎*)

劇症肝炎

ゲキショウカンエン

【英】fulminant hepatitisFH

同義語:電撃性肝炎,急性肝萎縮症acute liver atrophy,急性黄色肝萎縮症acute yellow liver atrophy

 

肝炎ウイルスや薬物が原因となって,肝細胞の広範な壊死と脱落をきたす重篤な肝障害で,致命率が高い.第12回犬山シンポジウム(19818月)の診断基準では,劇症肝炎とは,肝炎のうち症状発現後約8週間以内に高度の肝機能障害に基づいて肝性昏睡*をきたし,プロトロンビン時間40%以下を示すものとする.そのうちには発病後10日以内に脳症が発現する急性型と,11日以後に発現する亜急性型がある.急性型には,fulminant hepatitisLucke Mallory)が含まれ,亜急性型には亜急性肝炎(日消誌)の一部が含まれる,と規定されている.臨床像では肝炎症状発現後,数日以内に黄疸が高度となり,急速に意識障害を伴ってくる.早期から出血傾向を伴い,肝濁音界*の縮小もみられる.血清総ビリルビン値は10mg/dL以上の場合が多く,血清トランスアミナーゼ値は初期には著しい高値を示すが,数日中に著しく下降する.プロトロンビン値は40%以下と著明な低下を示す.脳浮腫,消化管出血,腎不全,血管内凝固症候群,全身感染症を伴いやすく,これらの合併症が死因となることが多い.予後はきわめて不良で,わが国での生存率は2030%である.治療としては,確立された治療法はなく,全身的な管理が必要である.血漿交換(プラスマフェレーシス*),交換輸血,人工肝補助装置,およびインスリン・グルカゴン療法*などが行われている.

インスリン・グルカゴン療法

インスリングルカゴンリョウホウ

【英】insulinglucagon therapy

 

1981年,Bakerらがアルコール性肝炎*の患者にインスリンとグルカゴンを投与して黄疸の改善を認めたのをはじめとする.飢餓後の再摂食が肝細胞におけるタンパク合成を促進することに加えて,これらホルモンがタンパク合成をさらに亢進させるためと考えられる.わが国でも劇症肝炎*の治療に用いられ,コントロールより高い救命率を得た.しかしアルコール性肝障害に比して,ほとんど肝細胞に再生の余地がない劇症肝炎では,その他のgrowth factorの存在が必要であろう.10%ブドウ糖液500 mLに,グルカゴン1mg,レギュラーインスリン10単位を溶解し,112回,23時間をかけて点滴する.

肝性昏睡

カンセイコンスイ

【英】hepatic coma

【独】hepatisches Koma

【仏】coma he´patique

【ラ】coma hepaticum

 

進行した肝疾患にみられる肝細胞機能の不全状態を肝不全*hepatic failureといい,その際にみられる脳症を肝性脳症*hepatic encephalopathyという.この脳症による精神神経症状を広い意味で肝性昏睡といい,その意識障害の程度によって臨床的に5段階に分類している.

 第1度:錯乱状態,人格と行動の変化,睡眠覚醒リズムの逆転.

 第2度:傾眠,不適当な行動,指南力障害,医師の指示には従う.

 第3度:昏迷,よくしゃべり簡単なことは理解できる.言語不明瞭,嗜眠と興奮状態,脳波

  では徐波が多くみられ,三相波が出現しはじめる.

 第4度:昏睡,脳波は徐波化が進行し,三相波が多くなる.

 第5度:深昏睡,痛み刺激に反応せず,脳波はデルタ(δ)波が主体.

13度は前昏睡,45度を肝性昏睡と分けていう場合がある.肝性昏睡を肝性脳症や肝不全と同義語に用いる人もいる.急性型は劇症肝炎*などでみられ,肝細胞自体の障害が肝内短絡を形成し,慢性型では肝硬変*などでみられ,門脈,全身短絡と肝細胞傷害が重要因子で肝の解毒処理能が低下し,腸管その他からの窒素化合物(アンモニア,アミン,アミノ酸)が脳神経系に蓄積して偽神経伝達因子として精神機能を障害し,また短鎖脂肪酸(酪酸,吉草酸,カプロン酸)が増加して脳代謝を抑制し,TCAサイクルの障害によりα‐ケトグルタル酸,焦性ブドウ酸が昏睡時増加し,呼吸性・代謝性アルカローシス*はアンモニアの発生を増す.一方,脳の感受性が亢進している.高タンパク食,消化管出血,アルコール中毒,感染,鎮静薬や強力な利尿薬投与,便秘,低酸素血症,大量腹水穿刺などが脳症の誘因となる.

肝不全

カンフゼン2

【英】liver failure

【独】Leberinsuffizienz

【仏】insuffisance he´patique

 

肝細胞の広範な壊死,または重篤な肝機能障害の結果出現する症候群を肝不全と呼ぶ.先行する肝障害がなく,急激にそのような病態の出現する場合を急性肝不全というが,慢性肝炎*や肝硬変*の経過中に突然に意識障害,腎不全*,出血,黄疸などの出現する場合もある.さらに,肝硬変や肝癌*の末期,閉塞性黄疸*が長期持続した後にも同様の症状が出現し死亡する.肝不全の主な症状は, 1)黄疸の急激な出現とその増強, 2)精神神経症状として見当識の喪失,興奮,羽ばたき振戦,せん妄状態,昏睡などが出現する, 3)腹水や浮腫, 4)血液凝固因子の肝細胞による産生が行われないための出血傾向, 5)尿量減少から無尿に至る腎不全,などである.急性肝不全の原因としてはウイルス性肝炎*のうち,とくに劇症肝炎*や亜急性肝炎*があるが,同様の病像は中毒性肝障害でも起こることがある.肝不全の症状は肝臓の組織学的所見と必ずしも並行しない.脳内圧の亢進や全身の循環障害,感染症の合併などの有無によっても影響されるからである(肝性脳症*hepatic encephalopathy).慢性肝不全では肝細胞の機能脱落が必ずしも高度でないことがある.門脈‐大循環系の短絡率が高い場合には,便秘,高タンパク食摂取,消化管出血などの際に血中アンモニア値が高値となり肝性昏睡*hepatic comaを呈することがある.このような場合を門脈‐大循環性脳症portalsystemic encephalopathyと呼ぶこともある.

後者をそのsubacute formと呼び,前者にはない再生現象が後者には存在することを報告した.Tisdale1963)はfulminant hepatitisと定型的急性肝炎の中間にある肝炎をsubacute hepatitisと呼び,広範壊死とbridge形成を組織学的特徴とした.わが国では「亜急性肝炎とは,急性肝炎の症状が23週間程度続き,次第に精神神経症状,腹水,高度の黄疸,消化管出血などの症状が現れ,しばしば死の転帰をとるもの」(日本消化器病学会,1969年)と定義した.一方,急性型と亜急性型とに分類した劇症肝炎の定義(第12回犬山シンポジウム,1981年)には,「急性型にはLuckefulminant hepatitisが含まれ,亜急性型には亜急性肝炎(1969)の一部が含まれる」との(注)を付けた.近年欧米では,fulminant3週以内),subfulminant8週以内),lateonset hepatic failure6ヵ月以内)と分類している.いずれにしても,これらの病態を包含する重症肝炎の概念は,形態学のみならず成因,臨床症状,臨床検査所見,治療法とのかかわり,予後などから総合的に検討されるべきものである.現在はオーバーラップした部分がかなり多いと理解すべきであろう.→急性肝炎