赤レンガ様外陰炎

アカレンガヨウガイインエン  【英】brick red vulvitis  →腟外陰カンジダ症

 

腟外陰カンジダ症

チツガイインカンジダショウ

【英】candidiasis vulvovaginalis

【独】Candidiasis vulvovaginalis

【仏】candidiase vulvovaginale

【ラ】candidiasis vulvovaginalis

 

カンジダに起因する腟外陰炎である.帯下,外陰部そう痒感,灼熱感を訴えることが多い.腟外陰部の発赤,腫脹がみられる.白色粒状ないし苔状チーズ状の帯下の付着がみられる.外陰はしばしば赤レンガ様外陰炎brick red vulvitisを呈する.大部分Candida albicansによるものである.妊婦,肥満,糖尿病,エストロゲン投与,副腎皮質ホルモン投与,免疫抑制剤投与などで発生しやすい.また抗生物質投与による菌交代症*によっても発症する.→真菌性腟炎

 

菌交代症

キンコウタイショウ

【英】superinfection

【独】Superinfektion

【仏】surinfection

同義語:交代菌症,重感染

 

ある感染症があって,化学療法薬ことに広域抗生物質を長期間連用すると,目的とする病原体は減少あるいは消失するが,同時にもとの感染病巣,または他の部位で薬剤耐性菌drug resistance bacteriumが異常に増殖してくる.このような現象を菌交代現象*という.時には新しい感染症にまで発展することがあり,このような疾患を菌交代症という.「現象」と「症」の鑑別は,臓器によってはかなり困難である.菌数,感染症状,炎症所見などから鑑別する.実例をあげると,黄色ブドウ球菌菌血症があって,化学療法により軽快した後,新たに緑膿菌菌血症が発生したり,抗生物質の長期経口投与時に黄色ブドウ球菌腸炎,Clostridium difficileによる偽膜性大腸炎,消化管カンジダ症などが続発することがある.英語ではsuperinfection(重感染とも訳される)が菌交代症に最も近い言葉である.しかし昨今の感染症の変貌は,当初の菌交代症の概念のみでは説明しきれなくなった.そこで日和見感染*という言葉が新しく生まれ,広く使用されている.

軟性下疳

ナンセイゲカン

【英】chancroid

【独】weicher Schanker

【仏】chancre mou

【ラ】ulcusmolle

 

軟性下疳菌*(デュクレイ菌Haemophilus ducreyi)を病原体とする性病である.性交によって軟性下疳菌に感染すると,23日後,遅くても7日後に感染部位に小豆大までの小丘疹が発生する.これはまもなく膿疱*となり,破れて境界明確な潰瘍となる.この潰瘍は円形または楕円形で,辺縁は鋸歯状で,下縁は潜食されるが,軟らかく,周辺に紅暈が認められる.自発痛が強く,圧痛もあり,灰黄色の被苔をはがすと出血しやすく,これとともに疼痛が強くなる.男性では冠状溝,亀頭,繋帯など,女性では大小陰唇,腟口,尿道口などに好発する.最初に病巣は単発であるが,膿の自家接種により多発する.軟性下疳の発生に引き続き,鼡径部リンパ節が化膿して有痛性横痃*が発生する.すなわち多数のリンパ節が侵されて腺周囲炎を起こし,表皮に破れて排膿する.膿汁をウサギ血液寒天培地にて培養すると,軟性下疳菌が培養できる.〔治療〕 サルファ剤またはエリスロマイシンによる23週間内服療法が行われる.

 

膿疱

ノウホウ

【英】pustule

【独】Pustel

【仏】pustule

【ラ】pustula

 

皮膚原発疹の一つで,表皮内,あるいは表皮直下に,白血球が集合した状態である.粟粒大から大豆大までの大きさで,扁平,または半球状に隆起し,白色,黄白色を呈し,周囲に発赤を伴うこともある.水疱が二次的に膿疱になる場合もある.膿疱が乾燥すると痂皮crust, Krusteとなる.多くは細菌,真菌感染に伴い生じるが,原因菌の証明されない場合もある(無菌性膿疱aseptic pustule).皮下に白血球が集合した時は膿瘍*という.

 

膿瘍

ノウヨウ

【英】abscess

【独】Abszess

【仏】abces

 

組織,臓器に起こった化膿性炎(化膿*)の結果,限局性に好中球*を主とした滲出物の蓄積が起こった状態をいい,まわりの組織は好中球の崩壊によって出てきた種々の水解酵素によって融解し,腔を形成していることが多い.中心部は顆粒状,無定型の壊死に陥った好中球,組織細胞からなる膿を形成するが,周囲にはいまだ死滅していない好中球の浸潤層をもつ.膿瘍が治癒するためには,外部への排膿または完全な内容物の分解と吸収が必要であり,膿が残ったままの時はまわりを血管に富む結合〔組〕織,すなわち膿瘍膜membranewallof an abscessにより分画される.

外陰炎

ガイインエン

【英】vulvitis

【独】Vulvitis

【仏】vulvite

【ラ】vulvitis

 

外陰部(大陰唇,小陰唇,会陰)およびその周辺の炎症を外陰炎という.しばしば腟炎に合併するが,この場合,外陰腟炎(腟外陰炎)vulvovaginitisと呼ばれる.外陰炎には感染によるもののほか,化学的または機械的刺激によるもので外陰に必ずしも特異的でないものと,性感染症*sexually transmitted diseaseSTD)やバルトリン腺炎*のように特異的なものとがある.

 

性感染症

セイカンセンショウ

【英】sexually transmitted diseasesSTD

【仏】maladies sexuellement transmissibles

 

わが国では従来,梅毒*syphilis

梅毒

バイドク

【英】syphilis

【独】Syphilis

【仏】syphilis

【ラ】syphilis, lues

 

梅毒トレポネーマTreponema pallidumの感染によって起こる慢性特異性炎症性疾患である.トレポネーマ*は皮膚,粘膜の小さい創傷部位より入り,やがて全身に散布され,梅毒特有の経過をとる.病期は通常3期にわけられる.〔第一期〕 感染後3ヵ月くらいまでをいい,トレポネーマが局所に限局して存在する時期である.感染後約3週間で,トレポネーマの侵入局所に初期硬結initial sclerosisInitialindurationを生じ,これが潰瘍化して硬性下疳*となるものがある.引き続いて,所属リンパ節に硬性リンパ節炎(無痛性横痃*)をきたす.感染後約4週間でカルジオリピン*抗原による梅毒血清反応*(STS)は陽性となる.〔第二期〕 感染後3ヵ月を経過すると第二期に入る.大体感染後3年くらいまでの間をいう.この時期の特徴は,皮膚,粘膜に生じるいろいろな型の梅毒疹,粘膜疹および脱毛(梅毒性脱毛alopecia syphilitica)である.またこの時期,全身のリンパ節が順次硬く,無痛性に腫大してくる.第二期ではSTS(梅毒血清反応)は必ず強陽性となる.〔第三期〕 感染後3年以上を経過したものをいう.皮膚・粘膜にみられるのは結節性梅毒疹あるいはゴム腫性梅毒疹(ゴム腫*)で,この病期になると皮膚・粘膜のみならず,内臓,心血管系,骨,中枢神経系など,全身の諸器官が侵される.中枢神経系の変性梅毒*はとくに古く,感染後2030年経過して発病するものもあるため,この時期を第四期として区別する人もある.ペニシリン*を主体とした抗生物質療法によく反応するのが梅毒の特徴で,治療経過はSTSの抗体価の消長をみていくのがよい.

淋疾*gonorrhea,軟性下疳*chancroid,性病性リンパ肉芽腫lymphogranuloma venereum(鼡径リンパ肉芽腫症*)の4疾患が,性病venereal diseasesVDとして性病予防法に規定されてきた.外国ではこれに鼡径部肉芽腫granuloma inguinaleを含め,主に性交*により感染する疾患の総称としてVDなる用語が使われてきた.しかし最近,性の開放,性行動内容の多様化に伴い,性交またはこれに類似した性行為の際の皮膚または粘膜の接触により感染するが,従来の性病の範畴には入らない疾患が多発しており,従来の性病にこれらの感染症を含め,広く性感染症と総称するようになった.性感染症の概念では性交に限らず,性器以外の接触など性交に類似した行為も含め,また異性間だけでなく同性間の性行為も含め,これらの行為によって伝染する可能性のある疾患すべてを包括しているため,その種類,病態は多岐にわたっている.現在,性感染症の範畴に入ると考えられる疾患とその原因微生物は表のとおりである.

→表

菌交代現象

キンコウタイゲンショウ

【英】microbial substitution

同義語:交代菌現象

 

ある感染症があって,化学療法薬ことに広域スペクトルの抗生物質(→広域抗生物質)を長期にわたって連用すると,目的とする起炎菌は減少し,または消失するが,同時にもとの感染病巣,または他の部位で薬剤耐性菌が異常に増殖することがある.このような現象を菌交代現象という.時には新しい感染症に発展することがあり,このような疾患を菌交代症*という.なお耐性菌は患者のからだに生息することもあれば(内因性),他の患者,物体,環境由来のこともあり(外因性),これらを包含するのが通念となっている.菌交代現象と菌交代症との鑑別は,化学療法の要否とも関係があって重要ではあるが,実際は困難なことが少なくない.元来は1952年フランスのBrisouが発表した論文affection chroniques par microbisme se´lectionne´ et substitue´(選択と交代による慢性感染症)からヒントを得て作られた言葉である.→重複感染

 

好中球

コウチュウキュウ

【英】neutrophile

【独】neutrophile Leukozyten

【仏】polynucle´aire neutrophile

同義語:好中性白血球neutrophil leukocyte

 

中性色素に染まる特殊顆粒をもつ顆粒球で末梢血中の白血球中,最も数が多い.好中性顆粒はリゾチーム*の一種であり,ゴルジ装置(内網装置*)で作られる.好中球の最も大きな役割は細菌などの有害物の貪食・除去である.異物を含む貪食空胞は顆粒と一緒になり,二次リソソームを形成し,顆粒内に含まれるミエロペルオキシダーゼ,リゾチームなどの酵素により消化される.感染などの防御反応として生体に有利に働くだけでなく,組織傷害性に働くこともある.

リボソーム

リボソーム

【英】ribosome

【独】Ribosom

【仏】ribosome

 

タンパク生合成の場となるRNAタンパク質複合体粒子.リボソームはすべての細胞質のほか,ミトコンドリア,葉緑体中にも存在する.真核細胞のリボソームは,沈降係数80 S,分子量4.5×106で,60 S(分子量3×106)と40 S(分子量1.5×106)のサブユニット*から構成される.60 S粒子は28 S, 5.8 S, 5 S RNA1分子と約40種のタンパクからなり,40 S粒子は18 S RNA 1分子と約30種のタンパクを含む.全体としてはリボソームRNArRNA)が60%,タンパク40%であり,真核細胞のリボソームは大部分粗面小胞体に結合し(パラーディの顆粒*Palade granule),一部遊離で存在する.原核細胞のリボソームは70 S,分子量2.7×106の遊離型であり,Mg2+濃度の低下で50 S1.8×106,アームチェアー型)と30 S0.9×106,縦長の非対称形)に解離する.50 S23 S, 5 S RNA1分子と約34種のタンパク,30 S16 S RNA 1分子と約21種のタンパクからなる.ミトコンドリア,葉緑体のリボソームは原核細胞型であるが,ヒトのミトコンドリアのrRNA16 S, 12 Sのものしかない.大腸菌のリボソーム含量は増殖速度に比例して,タンパク合成のさい,mRNA30 Sに結合し順次移動する.アミノアシルtRNAはそのアンチコドンでmRNAと,アミノ酸結合部分で50 SA部位に結合し,ペプチジルtRNAとなり,P部位に移動する.タンパクの生合成には,N‐ホルミルメチオニルtRNA(真核細胞ではメチオニルtRNA)と開始因子(IF1, 2, 3),延長因子(EFTu, EFTs, EFG),終結因子(RF1, 2, 3)が関係する.→タンパク合成,ポリソーム

エスチオメーヌ

エスチオメーヌ

【英】esthiomene

【独】Esthiomene

【仏】esthiomene

同義語:陰唇狼瘡vulval lupus

 

陰唇において,象皮病*様の硬化と増殖を伴って潰瘍を生じる症候群に対して,1848Huguierが命名した用語である.その原因疾患はきわめて多彩であるが,そのなかには結核性潰瘍(陰唇狼瘡),梅毒性ゴム腫,球菌性または真菌性感染などが含まれているが,鼡径リンパ肉芽腫症*のさいに最も好発する.鼡径リンパ肉芽腫症のさいには,クラミジア・トラコマチスChlamydia trachomatis L1L3の感染により女性では腟に原発巣が生じたのち,所属の肛門直腸リンパ節が侵される.そのためその支配領域である大小陰唇を中心として激しいリンパ浮腫が生じてくる.その結果,大小陰唇が象皮病様に腫脹するとともに,弾性を失ってくる.経過が長引くと,硬化が著明となり,表面にポリープ状の腫瘤が生じてくるし,さらに深い難治性の潰瘍が発生してくる.この状態をエスチオメーヌという.この際,尿道,腟,直腸に狭窄が発生しやすい.

垂直感染

スイチョクカンセン

【英】vertical infection

【独】vertikale Infektion

 

妊娠中または分娩時において,母体保有の各種微生物の胎児への感染形態を総称し垂直感染というが,これに対し生後の環境状態からの感染形態を水平感染*という.垂直感染には,血行性の経胎盤感染transplacental infectionと羊水中・子宮内からの感染,および分娩時の胎児の通過管からの経産道感染transbirth canal infectionがある.周産期感染症perinatal infectionの中で垂直感染の胎児への影響は,母体の感染形態や感染時期と妊娠週数の関係によるが,妊娠中の初感染の影響が大きい.胎児奇形,胎児発育異常,胎内死亡などの発生に関与し,臨床的には流早産,preterm PROMの病態にも関係する.また新生児では先天性周産期感染症や新生児死亡など病原微生物による特異的臨床像を呈する.胎内感染intrauterine infectionではトーチ(TORCH)症候群*(トキソプラズマToxoplasma,梅毒,風疹rubella virus,サイトメガロウイルスcytomegalovirus,単純ヘルペスherpes simplex)や,ウイルス性肝炎*(BHBV,CHCV),エイズAIDS*(HIV),ヒトT細胞白血病ウイルス*(HTLV1)などの母児感染mothertoinfant transmissionfetomaternal infection)が重要である.とくにHIVの母児感染では胎内感染,産道感染*,水平感染経路が報告されている現状において,HIVキャリア妊婦に対する対応は最大の問題点である.また垂直感染率の高いクラミジアChlamydia trachomatisや,新生児の致命率の高いB群溶連菌*group B StreptococcusGBS)などの母児感染も重要である.各種垂直感染に対する対策では,妊娠中におけるハイリスク妊婦のスクリーニングと早期診断,および母児感染の予防・治療が個々の疾患において必要である.

 

内網装置

ナイモウソウチ

【英】internal reticular apparatus, Golgi apparatus

【独】GolgiApparat

【仏】appareil de Golgi

【ラ】apparatus reticularis internus

同義語:ゴルジ装置apparatus golgiensis,ゴルジ複合体complexus golgiensis

 

リボソーム*を付着させない単位膜*(滑面膜)が作る扁平な袋の積み重なりと,これに付随する多数の小胞および空胞群からなる小器官であり,細胞核に近い部位に位置することが多い.ゴルジ装置は三日月状の輪郭を示し,その凸部をシス面,凹部をトランス面または成熟面と呼ぶ.ゴルジ装置は糖を合成するほか,そのシス面から受け入れた物質を濃縮・加工してトランス面に放出するという働きを示す(Camillo Golgiはイタリアの組織学者,18441926).

パラーディの顆粒

パラーディノカリュウ

【英】Palade granule

【独】PaladeGranula

【仏】granule de Palade

 

パラーディにより報告された(1955)もので,電顕上,細胞質内にみられる1520nmの高い電子密度を示す顆粒.細胞質内にさまざまの密度でみられると共に,粗面小胞体*の表面に,さらには核膜にも付着している.現在ではリボソーム*ribosomeと呼ぶ.タンパク合成の場であり,mRNA(メッセンジャーRNA*)一分子は多数のリボソームと関連してポリソーム*polysomeを形成し,tRNA(トランスファーRNA*)がアミノ酸をリボソームへ運ぶ.リボソームはアミノ酸からポリペプチド鎖を合成する.細胞外へ放出されるタンパクは粗面小胞体に付着したリボソームにおいて,細胞内で利用されるタンパクは遊離したリボソームにおいて作られる(George Emile Paladeはルーマニア生まれ,アメリカの細胞学者).

粗面小胞体

ソメンショウホウタイ

【英】roughsurfacedgranularendoplasmic reticulum

【独】granula¨res endoplasmatisches Retikulum

【仏】re´ticulum endoplasmatique granulaire

【ラ】reticulum endoplasmicum granulosum

 

リボソーム*を付着させた単位膜が形成する中空性の細胞内小器官であり,細管状あるいは扁平な袋状の形をした多数の部分からなり全体として見ればきわめて不規則な輪郭を示す.粗面小胞体膜に付着するリボソームが産生したタンパクは粗面小胞体の内腔に進入し,次にゴルジ装置(内網装置*)をなす膜系の内部へと運ばれるが,その際に粗面小胞体膜の一部が内容物を含んだままちぎられて小胞を作り,その小胞の膜がゴルジ装置膜と癒合する.

鼡径リンパ肉芽腫症

ソケイリンパニクゲシュショウ

【英】lymphogranuloma inguinale

【独】Lymphogranuloma inguinale

【仏】lymphogranulomatose inguinale

同義語:第四性病fourth venereal disease,ニコラ・ファーヴル病NicolasFavre disease

 

クラミジア・トラコマチスChlamydia trachomatis L1L3を病原体とする性病である.性交による感染から714日に陰部疱疹に似た粟粒大のびらんが単発するが,自覚症状を欠いている.びらんは男性では冠状溝,包皮内板,繋帯など,女性では大小陰唇,腟口,腟壁などに発生する.びらん発生後12週ごろに発熱など全身症状が生じる.男性では鼡径部リンパ節が腫脹して,腺周囲炎を起こして腺塊となる.さらに皮膚に癒着したのち,瘻孔より排膿してくる.女性では肛門直腸リンパ節が侵されることが多いので,リンパ流が逆流して,そのリンパ節の支配域である大小陰唇,会陰,腟,肛門などに象皮病様のリンパ浮腫が起こり潰瘍が生じてくるので,エスチオメーヌ*と呼ばれている(性病性リンパ肉芽腫症lymphogranuloma venereum).病原体であるクラミジアは原発巣またはリンパ節からの膿から鏡検または培養される.治療としてサルファ剤またはテトラサイクリンによる34週間の内服療法が行われる.

広域抗生物質

コウイキコウセイブッシツ

【英】broad spectrum antibiotics

 

広い範囲の病原細菌菌種に効力を発揮する抗生物質*をいう.1941年に実用化されたペニシリンG penicillin G(ベンジルペニシリン*)は,グラム陽性菌やナイセリアNeisseriaに劇的な強い抗菌力を発揮したが,グラム陰性桿菌には有効でなかった.ペニシリンGは狭域抗生物質narrow spectrum antibioticsと位置づけられる.その後の化学療法chemotherapyの歴史は,常に,より広い抗菌スペクトル*animicrobial spectrumをもった広域抗生物質の検索と開発の歴史であった.クロラムフェニコール*chloramphenicolとテトラサイクリン*tetracyclin系抗生物質が広域抗生物質の典型で,グラム陽性・陰性菌,マイコプラズマmycoplasma,リケッチアrickettsia,クラミジアchlamydiaや原虫protozoaの一部にも有効である.グラム陽性・陰性菌に幅広く効力をもった広域抗生物質は,ペニシリンGやセファロスポリンcephalosporinを化学修飾した半合成抗生物質としても得られ,ピペラシリン*piperacillinや第三世代セフェム剤(ラタモキセフlatamoxefなど)がそれぞれの代表である.また最近開発された合成抗菌薬であるニューキノロン*new quinolone剤も広い抗菌スペクトラムをもったものである.アミノグリコシド系抗生物質*にもグラム陽性・陰性菌に広く有効なものがあるが,嫌気性菌には無効である.

水平感染

スイヘイカンセン

【英】horizontal infection, horizontal transmission

【独】horizontale Transmission

【仏】transmission horizontale

同義語:水平伝播

 

水平感染(伝播)という言葉は垂直感染*(伝播)vertical infection, vertical transmissionと対比して用いられる.母から子と縦に伝播するのを垂直感染というのに対し,不特定多数に伝播する一般的な感染は同世代間で横に広がるという意味で水平感染と呼ばれる.とくに伝染性ウイルス疾患は人口密度が高い都会では直接伝染immediate contactや間接伝染indirect infectionによって水平伝播性に流行を起こしやすい.→伝播

 

伝播

デンパ

【英】transmission

 

病原体が一つの個体からほかの個体へ伝えられることをいう.同じ世代の個体の間で起こる水平伝播horizontal transmission(→水平感染)と,親から子へ伝えられる垂直伝播vertical transmission(→垂直感染)に大きく分けられる.前者にはヒトからヒトへ直接伝播し飛沫感染,経口感染,水系感染,性交感染,経皮感染,手から口,鼻または目への感染と節足動物を介する感染が存在する.後者の場合,感染の時期ないしは場所によって胎盤感染,産道感染,母乳による感染,経卵感染が存在する.→感染

真菌性腟炎

シンキンセイチツエン

【英】mycotic vaginitis

【独】Mykosis der Sheide

【仏】vaginite mycosique

 

真菌性腟炎の起炎菌のうち最も重要なものはカンジダ・アルビカンス Candida albicansである. C glabrata, C tropicalisなども起炎菌となることもあるが,出現頻度も低く,病原性も低い.病変は腟入口部にみられることが多く,外陰炎*を伴うことが多いためしばしば腟外陰炎となる.帯下,そう痒感,疼痛,灼熱感などの自覚症状があり,外陰部,腟粘膜に白色~チーズ状の剥離困難な帯下の付着をみる.症状その他は腟外陰カンジダ症*に代表される.診断の確定は直接鏡検または培養法によりカンジダの検出が必要である.すなわち直接鏡検で球形,卵円形の分芽胞子と仮性菌子を認めればよいが,見落とされることも多いので,水野・高田培地,CATG培地,サブロー培地などによる培養法を行うのが望ましい.妊娠中はカンジダ症の発生率が高く,新生児への垂直感染*が成立し,新生児鵞口瘡皮膚カンジダ症などをみることがある.性感染症*(STD)としてもみられる.

淋疾

リンシツ

【英】gonorrhea

【独】Tripper, Gonorrhoe

【仏】blennorragie

【ラ】gonorrhoea

 

淋菌Neisseria gonorrhoeaeによって起こる性病の総称である.〔男性の場合〕 ほとんどすべて性交によって感染し,急性前部尿道炎として発症するのが一般的である(淋菌性尿道炎*).放置すると炎症が後部尿道にも波及して後部尿道炎を併発する.合併症として亀頭包皮炎*,前立腺炎*,精巣上体(副睾丸)炎*などがあるが,化学療法の発達した現在ではむしろまれである.〔女性の場合〕 大多数は性交により感染するが,ごくまれに幼小女児が浴室などで間接的に感染する場合もあり得る.女性ではまず〔子宮〕頚管炎*として発症し,時に尿道炎を併発することもある.また子宮内膜炎,卵管炎,骨盤腹膜炎等の骨盤内炎症性疾患pelvic inflammatory diseasesPID)に進展することもあり,このPIDは女性の不妊,子宮外妊娠*などの原因として重要である.女性の場合,半数近くが無症状であるため,潜在感染源として問題になる.〔その他の淋菌感染症〕 淋菌性咽頭炎は大部分がフェラチオ行為により起こる.また淋菌性直腸肛門炎gonococcal anoproctitisはホモセクシャルの男性における肛門性交により感染する場合が多いが,女性では頚管分泌物による汚染の結果二次的に感染することがある.淋菌性結膜炎gonococcal conjunctivitisは淋菌により汚染された手指,タオルなどを介して間接的に感染する.また,新生児が産道で感染する場合もある.〔治療〕 ペニシリン剤が有効であるが,ペニシリナーゼ産生淋菌にはセフェム剤やスペクチノマイシンが用いられる.→淋菌