アカントリーゼ

アカントリーゼ

【英】acantholysis

【独】Akantholyse

【仏】acantholyse

同義語:棘融解,棘細胞離開segregation of squamous cells

 

角化細胞の接着をしている細胞間橋intercellular bridgeが消失して,細胞が互いに解離した状態をいう.この過程は尋常性天疱瘡*,

尋常性天疱瘡

ジンジョウセイテンポウソウ

【ラ】pemphigus vulgaris

 

天疱瘡*

天疱瘡

テンポウソウ

【ラ】pemphigus

 

天疱瘡pemphigusという語は,ギリシア語のpemphixからきたラテン語で,はげしい水疱形成を特徴とする状態をさす.現在病因が判明した疾患でも水疱形態を示すものに対してなおこの呼び方,例えば梅毒性天疱瘡,らい性天疱瘡のごときが慣用されている.一方,臨床像,病理組織所見,蛍光抗体法*所見により天疱瘡からジューリング疱疹状皮膚炎*dermatitis herpetiformis Duhring,水疱性類天疱瘡*などが分離,独立した疾患として認められ,今日では尋常性天疱瘡*,増殖性天疱瘡*,落葉状天疱瘡*,紅斑性天疱瘡*(セニアー・アシャー症候群)を天疱瘡と称す.これら天疱瘡群は共通所見として,病理組織像で表皮内に棘融解性水疱,蛍光抗体法直接法でIgG*,C3の沈着,間接法で患者血清中に抗表皮細胞間抗体(天疱瘡抗体)がみられ,棘融解性水疱をつくる自己免疫性水疱症と解される.また臨床像の相違,病理組織学的に棘融解の生ずる表皮内での位置の相違により各病型に分けられ,増殖性天疱瘡は尋常性天疱瘡の一亜型,紅斑性天疱瘡は落葉状天疱瘡の亜型と考えられている.

の代表型.4060歳に発症する.ときに発熱,嘔吐,下痢,違和感,倦怠感などが前駆するが,多くは突然に健常皮面にエンドウマメ大ないし鶏卵大の水疱を生じ,数・発生部位は不定である.水疱は単房性で疱膜が薄く,緊満して内容は無菌・黄色透明であるが,のちに弛緩して混濁,ときに多少の紅暈がある.容易に破れて湿潤性・赤色びらん面を露出し,しばしば血痂・痂皮でおおわれ,触れると疼痛がある.そう痒はないか,あっても軽度,例外的にそう痒の著しいものをそう痒性天疱瘡pemphigus pruriginosusということがある.やがて一過性に色素沈着して瘢痕なく治癒するが,再発を反復して数ヵ月~数年にわたり寛解と増悪がある.粘膜は侵されることが多く,しかも初発病変としてみられることが多い.まれには粘膜だけのことがある(粘膜性天疱瘡pemphigus mucosae).一見健常な皮膚を摩擦すると表皮が容易に剥離する.これをニコルスキー現象*Nikolsky's signという.症例によっては赤沈の促進,貧血*,白血球・好酸球の増加,低タンパク血症*,血清NaCl Caの減少,Kの増加をみる.組織は表皮基底細胞層の直上の棘融解(棘細胞離解,アカントリーゼ*)による表皮内水疱で,内容は多少の好酸球と棘融解性細胞acantholytic cell, Tzanck cellをみる.蛍光抗体法*直接法で表皮細胞間にIgG*,補体の沈着と,間接法で患者血清中に抗表皮細胞間抗体(天疱瘡抗体)がみられ,最近は自己免疫説が有力.〔治療〕 副腎皮質ホルモン,免疫抑制剤,DDS,金製剤,血漿交換療法などが用いられる.〔予後〕 最近では生命に対する予後は比較的良好となった.

落葉状天疱瘡*,

落葉状天疱瘡

ラクヨウジョウテンポウソウ

【英】pemphigus foliaceus

【仏】pemphigus foliace´

【ラ】pemphigus foliaceus

 

天疱瘡*の一亜型.3060歳代に多く,頭部・顔面・前胸部・上背部の健常皮膚面または紅斑面に弛緩性水疱が生じるが,水疱は速やかに破れるため薄い鱗屑・痂皮を付着した紅斑・色素沈着を形成する.尋常性天疱瘡*に比しニコルスキー現象*Nikolsky's signは顕著であるが,粘膜疹は少ない.進行すると全身の皮膚が落葉状の鱗屑・痂皮でおおわれ,剥脱性皮膚炎exfoliative dermatitis様となる.組織は表皮浅層の棘融解性水疱.蛍光抗体法直接法で表皮細胞間にIgG*,補体の沈着,間接法で患者血清中に抗表皮細胞間物質抗体を証明する.

家族性良性慢性天疱瘡,ダリエー病*Darier's diseaseなどのように角化細胞の変性なしに細胞間橋の消失をみる原発性と,ウイルス性水疱,偽腺性有棘細胞癌などのように角化細胞の変性とともに細胞間橋の消失をみる続発性とがある.この変化は疾患により基底層直上,有棘層,あるいは顆粒層に生じてくる.