酵素-4(た)

ターンオーバー数

ターンオーバー数(ターンオーバーすう、turnover number)、もしくは 回転数(かいてんすう) という用語は、化学において以下の2通りに用いられる。

代謝回転数

酵素化学において 代謝回転数(たいしゃかいてんすう)は、酵素が活性部位ごとに、単位時間あたりにどれだけの数の基質を生成物に変換できるかの最大数を示す。kcat と表され、下式で求められる。

kcat = Vmax/[E]0

Vmax は反応速度の最大値、[E]0 は酵素の活性部位の全濃度。ミカエリス・メンテン式を参照)

例えば炭酸脱水酵素は 400,000 から 600,000 s−1 の回転数を持つ。すなわち、それぞれの炭酸脱水酵素の分子が1秒あたり 600,000個もの炭酸水素イオンを生み出すことを示す[1]

触媒回転数

触媒化学において 触媒回転数(しょくばいかいてんすう)とは、ある触媒反応において、触媒が不活性化するまでに1モルあたり何モルの基質分子を生成物に変換したかを示す。TON (turnover number) と略される。不活性化しない理想的な触媒では回転数は無限大ということになる。上記の代謝回転数のように速度を表すパラメーターは、回転頻度、ターンオーバー頻度 と呼ばれ、TOF (turnover frequency) と略される。

脚注

^ Hagen J (2006). Industrial Catalysis: A Practical Approach. Weinheim, Germany: Wiley-VCH.

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カテゴリ: 酵素触媒化学反応反応速度論

代謝マップ

代謝マップ(たいしゃマップ)とは、代謝の中でも特に生物における代謝経路(パスウェイ)あるいはそれらからなるネットワークを図式化したものをいう。

代謝マップは有向グラフであり、ノードが代謝を受ける化合物を、エッジが化学反応あるいはそれを触媒する酵素を示す。

ウェブ上で公開されている代謝マップも幾つかあり、図上の酵素をクリックするとその詳細情報へリンクするようにしたものが多い。また類似の図式としてシグナル伝達などの経路・ネットワークを示したものもある。

中でもバイオインフォマティクス研究用ツールとして注目されるのがKEGG(京都遺伝子・ゲノム百科事典)である。これは遺伝子・ゲノムの情報を中心に据えた総合データベースだが、代謝・シグナル伝達等のマップと、各酵素とその遺伝子および基質・代謝物の情報が互いにリンクしており、関連した経路、遺伝子の類似性と機能との関係、生物種による違いなどを検索することができる。

外部リンク

KEGG PATHWAY DatabaseKEGG代謝マップデータベース(1. Metabolismを見よ)

Reactome 各種パスウェイなどの公共データベース。

簡易な代謝マップ基本的な代謝のマッピングとその解説。

ダイニン

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出典を追加して記事の信頼性向上にご協力ください。(201411月)

ダイニン (英語:dynein) は、分子モーターの一種で、ATPを加水分解して得られるエネルギーで微小管上を運動するタンパク質複合体である。真核生物の鞭毛・繊毛の運動を生み出すタンパク質として同定された[1]。このダイニンは現在では、軸糸ダイニン(axonemal dynein)あるいは鞭毛ダイニン(flagellar dynein)と呼ばれる。また後に細胞内での様々な分子の移動に関わっている種類も存在することが明らかとなり、このクラスは細胞質ダイニン(cytoplasmic dynein)と呼ばれる。

これまでで知られる全ての亜種が微小管のマイナス端方向に移動する。つまり、ダイニンは、鞭毛・繊毛内のintraflagellar transport(毛内輸送)では末端から細胞体に向けての逆行性輸送、細胞体内では中心体に向けた向心性輸送に関わる。鞭毛・繊毛内の軸糸ダイニンは、波打ち運動に関わる。

ダイニンの構造

ダイニンの機能単位は複数のポリペプチド鎖から成り、1-3の重鎖、数種の中鎖、及び軽鎖から形成される。その形態は一般に2つの重鎖それぞれが形成する頭部と、頭部から突き出たストークと呼ばれる部位、さらに柄の部分が基本となり、中鎖や軽鎖は柄の部分に結合している。ダイニンはストークの先端で微小管に結合し、微小管上を運動すると考えられている。

重鎖

ダイニン重鎖はダイニンの骨格を形成し、かつATPのエネルギーを運動に変化する機能を持つ。重鎖のアミノ末端が柄の部分となり、これはダイマー形成や、他のダイニン形成分子との相互作用を担う。中央部からカルボキシル末端にかけてはリング状の頭部を形成し、6個のAAA+ ATPアーゼファミリーに属するドメインと、一つのC末端ドメインが形成する7個のサブユニット様構造となる。AAA+ ATPアーゼドメイン45の間に存在する100アミノ酸残基程度の領域がストークとして突き出た部分となって微小管と作用すると考えられている。ATP が結合するのは6個の中でも始めの4個のAAA+ ドメインで、さらに始めの一つのドメインのみが ATPアーゼ 活性を持つとされる。

中間鎖・軽鎖

ダイニン重鎖に強く結合している分子量150~10 kDaの分子種は中間鎖及び軽鎖と呼ばれる。これらのタンパク質はダイニンの構造タンパク質としての機能、あるいは細胞質ダイニンが輸送する分子との相互作用を担うと考えられている。

脚注

^ Gibbons I. R (1963). “Studies on the protein components of cilia from tetrahymena pyriformis”. Proc Natl Acad Sci U S A 50: 1002-1010. PMID 14082342.

 

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カテゴリ: タンパク質タンパク質複合体モータータンパク質細胞生物学細胞骨格酵素

タカアミラーゼA

タカアミラーゼATaka-amylase A)は、コウジカビAspergillus oryzae由来のα-アミラーゼであり、典型的なα-アミラーゼ。

概要

明治26年(1839年)に高峰譲吉がAspergillus oryzaeの小麦麩(ふすま)に麹菌を働かせた麹麩から、タカジアスターゼを発明した。このタカジアスターゼの原末には、タカアミラーゼA、グルコアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼなどの多くの酵素が含まれていた。1951年に赤堀四郎が初めてこの原末からタカアミラーゼAの結晶化に成功し、その30年後(1984)に、松浦らによってX線結晶構造解析がされた。α-アミラーゼのモデル構造[1]

関連項目

アミラーゼ

高峰譲吉

出典

^ 『澱粉の科学と技術』 ISBN 978-4990528706

脱炭酸酵素

ホウレンソウRubisCOの立体構造(リボンモデル)

脱炭酸酵素(Carboxy-lyases)は、有機化合物にカルボキシル基を加えたり除いたりする炭素-炭素結合のリアーゼである。デカルボキシラーゼ(decarboxylass)とも言う。これらの酵素はアミノ酸、α及びβケト酸等の脱炭酸を触媒する[1]

分類と命名

脱炭酸酵素は、EC番号4.1.1に分類される[2]。例えばピルビン酸の脱炭酸を触媒する酵素はピルビン酸デカルボキシラーゼ(ピルビン酸脱炭酸酵素)と呼ばれるように、通常、触媒する基質の名前を取って命名される。

環状L-アミノ酸デカルボキシラーゼ

グルタミン酸デカルボキシラーゼ

ヒスチジンデカルボキシラーゼ

オルニチンデカルボキシラーゼ

ホスホエノールピルビン酸デカルボキシラーゼ

ピルビン酸デカルボキシラーゼ

RuBisCO - 二酸化炭素を固定する唯一の脱炭酸酵素

ウリジル酸デカルボキシラーゼ

ウロポルフィリノーゲンIIIデカルボキシラーゼ

外部リンク

Carboxy-Lyases - MeSH、米国国立医学図書館、生命科学用語シソーラス (英語サイト)

リアーゼ

リアーゼlyase)とはEC4群に属する酵素で、脱離反応により二重結合を生成したり、逆反応の付加反応により二重結合部位に置換基を導入する反応を触媒する酵素である[1]。英語に従ってライエースと表記される場合もある[2]日本語では除去付加酵素〈じょきょふかこうそ〉[3]とも呼ばれる。

概要

リアーゼはその触媒する化学反応の種別により大きく6つに分類される

  1. カルボキシリアーゼ類 - カルボキシル基を付加あるいは脱離する。
    • デカルボキシラーゼ 
    • カルボキシラーゼ
  2. アルデヒドリアーゼ類 - アルドール縮合およびその逆反応
  3. ケト酸リアーゼ類 - ケト酸を基質または生成物とする縮合あるいは脱離反応
  4. ヒドロリアーゼ類
    • ヒドラターゼ
    • デヒドラターゼ
  5. アンモニアリアーゼ・アミジンリアーゼ類
  6. その他の合成酵素
    • アデニルシクラーゼ・グアニルシクラーゼ

シンターゼ

リアーゼの別名の一つにシンターゼ〈synthase〉がある。

リアーゼの系統名は基質〈X〉と脱離する分子〈Y〉の名称にリアーゼの語尾をつけて、X:Yリアーゼと命名される。慣用名は語尾リアーゼの他に、生成物名称にシンターゼの語尾を付して命名される場合もある。特に、酵素の平衡が生成物側に偏っているときにシンターゼが用いられる[4]

日本語ではシンターゼに「合成酵素」という語が充てられているが、シンターゼ以外のシンセターゼ〈EC第6〉も合成酵素と呼ばれる為、合成酵素という日本語語尾からシンターゼかシンセターゼかを判断できない。

EC.4.-

EC.4.1.-(炭素-炭素リアーゼ)

EC.4.1.1.-(カルボキシリアーゼ)

  • EC.4.1.1.10 欠番 → EC.4.1.1.12へ統合
  • EC.4.1.1.13 欠番 削除
  • EC.4.1.1.26 欠番 → EC.4.1.1.28へ統合
  • EC.4.1.1.27 欠番 → EC.4.1.1.28へ統合

 

EC.4.1.2.-(アルデヒドリアーゼ)

  • EC.4.1.2.1 欠番 → EC.4.1.3.16へ統合
  • EC.4.1.2.3 欠番 削除
  • EC.4.1.2.6 欠番 削除
  • EC.4.1.2.7 欠番 → EC.4.1.2.13へ統合
  • EC.4.1.2.15 欠番 → EC.2.5.1.54
  • EC.4.1.2.16 欠番 → EC.2.5.1.55
  • EC.4.1.2.31 欠番 → EC.4.1.3.16へ統合
  • EC.4.1.2.37 欠番 削除
  • EC.4.1.2.39 欠番 削除
  •  

 

EC.4.1.3.-(オキソ酸リアーゼ)

  • EC.4.1.3.2 欠番 → EC.2.3.3.9
  • EC.4.1.3.5 欠番 → EC.2.3.3.10
  • EC.4.1.3.7 欠番 → EC.2.3.3.1
  • EC.4.1.3.8 欠番 → EC.2.3.3.8
  • EC.4.1.3.9 欠番 → EC.2.3.3.11
  • EC.4.1.3.10 欠番 → EC.2.3.3.7
  • EC.4.1.3.11 欠番 → EC.2.3.3.12
  • EC.4.1.3.12 欠番 → EC.2.3.3.13
  • EC.4.1.3.15 欠番 → EC.2.2.1.5
  • EC.4.1.3.18 欠番 → EC.2.2.1.6
  • EC.4.1.3.19 欠番 → EC.2.5.1.56
  • EC.4.1.3.20 欠番 → EC.2.5.1.57
  • EC.4.1.3.21 欠番 → EC.2.3.3.14
  • EC.4.1.3.23 欠番 → EC.2.3.3.2
  • EC.4.1.3.28 欠番 → EC.2.3.3.3
  • EC.4.1.3.29 欠番 → EC.2.3.3.4
  • EC.4.1.3.31 欠番 → EC.2.3.3.5
  • EC.4.1.3.33 欠番 → EC.2.3.3.6
  • EC.4.1.3.37 欠番 → EC.2.2.1.7

EC.4.1.99.-(その他の炭素-炭素リアーゼ)

  • EC.4.1.99.4 欠番 → EC.3.5.99.7
  • EC.4.1.99.6 欠番 → EC.4.2.3.6
  • EC.4.1.99.7 欠番 → EC.4.2.3.9
  • EC.4.1.99.8 欠番 → EC.4.2.3.14
  • EC.4.1.99.9 欠番 → EC.4.2.3.15
  • EC.4.1.99.10 欠番 → EC.4.2.3.16
  • EC.4.1.99.15 欠番 削除
  •  

 

EC.4.2.-(炭素-酸素リアーゼ)

EC.4.2.1.-(デヒドラターゼ)

  • EC.4.2.1.13 欠番 → EC.4.3.1.17
  • EC.4.2.1.14 欠番 → EC.4.3.1.18
  • EC.4.2.1.15 欠番 → EC.4.4.1.1
  • EC.4.2.1.16 欠番 → EC.4.3.1.19
  • EC.4.2.1.21 欠番 → EC.4.2.1.22
  • EC.4.2.1.23 欠番 削除
  • EC.4.2.1.26 欠番 → EC.4.3.1.21
  • EC.4.2.1.29 欠番 → EC.4.99.1.6
  • EC.4.2.1.37 欠番 → EC.3.3.2.4
  • EC.4.2.1.38 欠番 → EC.4.3.1.20
  • EC.4.2.1.52 欠番 → EC.4.3.3.7
  • EC.4.2.1.58 欠番 削除
  • EC.4.2.1.60 欠番 削除
  • EC.4.2.1.61 欠番 削除
  • EC.4.2.1.63 欠番 → EC.3.3.2.3
  • EC.4.2.1.64 欠番 → EC.3.3.2.3
  • EC.4.2.1.71 統合 → EC.4.2.1.27
  • EC.4.2.1.72 欠番 → EC.4.1.1.78
  • EC.4.2.1.86 欠番 → EC.4.2.1.98
  • EC.4.2.1.102 欠番 → EC.4.2.1.100

 

EC.4.2.2.-(多糖に作用する)

EC.4.2.3.-(リン酸に作用)

  • EC.4.2.3.14 欠番 削除
  •  

EC.4.2.99.-(その他の炭素-酸素リアーゼ)

EC.4.3.-(炭素-窒素リアーゼ)

EC.4.3.1.-(アンモニアリアーゼ)

EC.4.3.2.-(アミジンリアーゼ)

EC.4.3.3.-(アミンリアーゼ)

  • EC.4.4.1.7 欠番 → EC.2.5.1.18へ統合
  • EC.4.4.1.12 欠番 削除
  • EC.4.4.1.18 欠番 → EC 1.8.3.5
  •  

EC.4.3.99.-(他の炭素-窒素リアーゼ)

EC.4.4.-(炭素-硫黄リアーゼ)

EC.4.5.-(炭素-ハロゲン化物リアーゼ)

EC.4.6.-(リン-酸素リアーゼ)

  • EC.4.6.1.3 欠番 → EC.4.2.3.4
  • EC.4.6.1.4 欠番 → EC.4.2.3.5
  • EC.4.6.1.5 欠番 → EC.4.2.3.7
  • EC.4.6.1.7 欠番 → EC.4.2.3.8
  • EC.4.6.1.8 欠番 → EC.4.2.3.10
  • EC.4.6.1.9 欠番 → EC.4.2.3.11
  • EC.4.6.1.10 欠番 → EC.4.2.3.12
  • EC.4.6.1.11 欠番 → EC.4.2.3.13
  •  

EC.4.7.-(炭素-リンリアーゼ)

EC.4.99.-(その他のリアーゼ)

出典

  1. ^ リアーゼ、『理化学辞典』、第5版、岩波書店

タンパク質酵素

トピックス

タイプ

  1.  ^ 文部科学省監修学術用語集では「学術語の訳字通則」に従いリアーゼが正式となる。投稿雑誌によっては英語読みのカタカナ表記であるライエースは推奨されない場合がある
  2. ^ 除去付加酵素、『世界大百科事典』、CD-ROM版、平凡社
  3. ^ シンターゼ 、『理化学辞典』、第5版、岩波書店

関連項目

EC番号

炭酸脱水酵素

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/40/Carbonic_anhydrase.png/220px-Carbonic_anhydrase.png

炭酸脱水酵素
系統名 carbonate hydrolyase
EC番号 4.2.1.1
CAS登録番号 232-576-6

炭酸脱水酵素(たんさんだっすいこうそ、Carbonic anhydrasecarbonate dehydratase; 略号: CA)あるいは炭酸デヒドラターゼとは金属プロテイン酵素[1]に属する酵素二酸化炭素炭酸水素イオ水素イオンとに迅速に変換する酵素である。この反応は触媒が存在しないときわめて遅い[2] 。炭酸脱水酵素はこの反応速度を非常に増大させる。反応速度はこの酵素の形態により異なり、104から106反応毎秒である.[3]。大抵のCA活性中心亜鉛イオンを含有する。

炭酸脱水酵素の構造と機能

自然界の炭酸脱水酵素は幾つかの形態が存在する[4]。もっとも研究されているものが「α-炭酸脱水酵素」で動物の体内に存在する。亜鉛イオンは His94, His96そしてHis119である3つのヒスチジン残基のイミダソール環が配位している。

動物においてこの酵素の主たる機能は、二酸化炭素と炭酸水素イオンとを相互変換することで、血液や他の組織の酸-塩基平衡を維持し、組織から二酸化炭素を運び出す補助をする。

植物においては「β-炭酸脱水酵素」と呼ばれる形態の異なる酵素が含まれる。その酵素は進化的には起源を異にするが、同じ反応に関与し、活性中心には亜鉛イオンが存在する。植物において炭酸脱水酵素はCO2濃度の上昇を補助し、葉緑体中でリブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ酵素の炭酸固定反応を増大させている。この反応により光合成ではCO2ガスを有機化合物の糖に固定しているが、CO2の炭素のみが利用され、炭酸や炭酸水素イオンでは利用されない。

2000年にはカドミウム含有炭酸脱水酵素[5]が亜鉛が限定される海洋の珪藻から発見されている。大洋では亜鉛はその濃度は定常的に低い濃度であり、珪藻のような植物プランクトン生育の制限になりうる。そうした場合、炭酸脱水酵素は環境中で使用できる他の金属イオンを利用する。この発見以前は一般にはカドミウムは生物学的な機能がない非常に毒性のある重金属であると考えられていた。2005の時点では炭酸脱水酵素に結合する例だけがカドミウムが関与する生化学反応である。

炭酸脱水酵素は次の反応を触媒する。

CO 2 + H 2 O C a r b o n i c   a n h y d r a s e HCO 3 + H + {\displaystyle {\ce {{CO2}+H2O->[{\mathit {Carbonic\ anhydrase}}]{HCO3^{-}}+H^{+}}}} [6](組織中ではCO2濃度は高い)


炭酸脱水酵素の反応速度はすべての酵素の中でも早いもののひとつであり、通常、反応速度の足かせとなるのは基質(二酸化炭素)拡散速度である。

逆反応は相対的に遅い(速度定数は15秒程度である)。炭酸飲料が栓をあけたときにカンやビンでは速やかにガスが抜けずに、口に入れると急にガスが抜けるのは、唾液中に炭酸脱水酵素が含まれるためである。

H C O 3 + H + H 2 C O 3 C O 2 + H 2 O {\displaystyle {\rm {HCO_{3}^{-}+H^{+}\rightarrow H_{2}CO_{3}\rightarrow CO_{2}+H_{2}O}}} ' alt="{\displaystyle {\rm {HCO_{3}^{-}+H^{+}\rightarrow H_{2}CO_{3}\rightarrow CO_{2}+H_{2}O}}}" class=mwe-math-fallback-image-inline aria-hidden=true v:shapes="_x0000_i1026">(尿細管ではCO2濃度が低い。植物細胞ではこの反応が進行する)

反応機構

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/7f/Carbonic_anhydrase_1CA2_active_site.png/200px-Carbonic_anhydrase_1CA2_active_site.png

ヒトのカルボニックアンヒドラーゼIIの活性中心付近のクローズアップ。3つのヒスチジン残基(ピンク色)と亜鉛()に配位した水酸化物イオン(赤と白)が見られる。PDBより.

酵素の補欠分子族である亜鉛3部位のヒスチジン側鎖に配位している。4つ目の配位座は水分子により占められている。水素-酸素結合は分極を生じ、酸素はわずかに陰性を帯びそれにより弱められている。

4番目のヒスチジンが近づくと基質の水からプロトンを受け取る。この例は典型的な酸-塩基触媒モデルである。そして亜鉛から水酸化物イオンが解離する。

活性部位も二酸化炭素に特異的なくぼみを持ち、水酸化物イオンを導入するのに都合が良い。この電子過剰の水酸化物イオンが二酸化炭素に攻撃を加え、炭酸水素イオンが生成する。 

炭酸脱水酵素ファミリー

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/1c/Carbonic_anhydrase_1CA2.png/200px-Carbonic_anhydrase_1CA2.png

ヒト カルボニックアンヒドラーゼIIのリボン図。中心の紫色は活性中心の亜鉛イオンPDBより .

炭酸脱水酵素には少なくとも5つの独立したファミリー (α, β, γ, δそして ε)が存在する。3つのファミリーは.アミノ酸配列にほとんど相同性はなく、平行進化が顕著に現れた例と考えられている。

α-CA

この炭酸脱水酵素は哺乳類から発見され、4つのサブグループに区分されている。

  • 細胞質性炭酸脱水酵素群 (CA-I, CA-II, CA-III, CA-VII and CA XIII)
  • ミトコンドリア性炭酸脱水酵素群(CA-VA and CA-VB)
  • 分泌型炭酸脱水酵素群(CA-VI)
  • 膜結合型炭酸脱水酵素群 (CA-IV, CA-IX, CA-XII, CA-XIV and CA-XV)

β-CA

真正細菌と植物の葉緑体に存在する炭酸脱水酵素はβファミリーに属する。このファミリーは次に示す2種類の配列モチーフにより同定される。

  • C-[SA]-D-S-R-[LIVM]-x-[AP]
  • [EQ]-[YF]-A-[LIVM]-x(2)-[LIVM]-x(4)-[LIVMF](3)-x-G-H-x(2)-C-G

γ-CA

γクラスファミリーの炭酸脱水酵素はメタン菌(メタンを生産する古細菌)より見出されている。

δ-CA

δクラスの炭酸脱水酵素は珪藻より見出された。この区分は最近[7]のもので、独立であるか疑問ももたれている。

ε-CA

εクラスの炭酸脱水酵素は化学合成無機栄養細菌やCSO-Carboxysome[8] を持つ海洋の藍色細菌などの細菌にのみ見出される。 最近の3次元解析[7]によるとε-炭酸脱水酵素は、特に金属イオンサイト部位で、部分的にβ-炭酸脱水酵素と類似性をもつことが示唆されている。しかしこの二つのファミリーはかけ離れており、アミノ酸配列の点ではかなりかけ離れている。

関連項目

外部リンク

出典

1.     ^ 酵素中に1つ以上の金属原子を酵素活性中心に持つもの。metalloenzymes

2.     ^ Badger MR, Price GD. 1994. The role of carbonic anhydrase in photosynthesis. Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Biol. 45:369392

3.     ^ Lindskog S. 1997. Structure and mechanism of carbonic anhydrase. PHARMACOLOGY & THERAPEUTICS. 74:1-20

4.     ^ 酵素の分類命名は機能によってなされる為に、異なるアミノ酸配列のたんぱく質が同一酵素に区分される。

5.     ^ cadmium containing carbonic anhydrase (英語)

6.     ^ 炭酸のpKaはおよそ6.36 (実際の値は媒質に依存する)でありpH 7であり炭酸水素イオンのうちのわずかな部分がプロトン化しているだけである。HCO3- + H+ {\displaystyle \rightleftharpoons } ' alt="\rightleftharpoons " class=mwe-math-fallback-image-inline aria-hidden=true v:shapes="_x0000_i1027">H2CO3 and H2CO3 {\displaystyle \rightleftharpoons } ' alt="\rightleftharpoons " class=mwe-math-fallback-image-inline aria-hidden=true v:shapes="_x0000_i1028">CO2 + H2Oの平衡の詳細は 炭酸に詳しい。

7.     ^ a b Sawaya MR, Cannon GC, Heinhorst S, Tanaka S, Williams EB, Yeates TO, Kerfeld CA. 2006. The structure of beta-carbonic anhydrase from the carboxysomal shell reveals a distinct subclass with one active site for the price of two. J Biol Chem. 281(11):7546-55

8.     ^ So AK, Espie GS, Williams EB, Shively JM, Heinhorst S, Cannon GC. 2004. A novel evolutionary lineage of carbonic anhydrase (epsilon class) is a component of the carboxysome shell. J Bacteriol. 186(3):623-30.

プロテインキナーゼ

プロテインキナーゼ (Protein kinase; プロテインカイネース) は、タンパク質分子リン酸基を付加する(リン酸化する)酵素である。タンパク質キナーゼあるいは英語風にプロテインカイネースとも呼ぶ。キナーゼ(リン酸基転移酵素)の中でタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと呼ぶが、このプロテインキナーゼのことを特にキナーゼと呼ぶことが多い(本記事では以後単にキナーゼという)。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f9/Ch4_kinases.jpg

プロテインキナーゼがATPからリン酸基を得てタンパク質リン酸化する概念図。

概要

細胞は、その機能を維持するため、細胞内のタンパク質をリン酸化、脱リン酸化する反応を繰り返している。このリン酸化によってタンパク質は酵素活性、細胞内での局在や他のタンパク質との会合状態を変化させる。細胞内の30%ものタンパク質がキナーゼによる変化を受け、細胞内における様々なシグナル伝達代謝の調節因子として機能している。キナーゼ遺伝子ヒトゲノム中に約500種類があり、また真核生物の全遺伝子の約2%を占める。

キナーゼは、ATPのリン酸基をアミノ酸残基にあるヒドロキシ基に移動させ、共有結合させる活性を有する。キナーゼはアミノ酸のうち、主にセリンスレオニンチロシン残基をリン酸化させるが、キナーゼがリン酸化するアミノ酸の99%以上はセリンスレオニンである(セリン/スレオニンキナーゼ)。しかし、0.1%に満たないチロシンのリン酸化(チロシンキナーゼ)の方が生物学的に重要なケースが多い。これら3種類すべてに反応するものや、またこのほかに微生物植物ではヒスチジンイミダゾール窒素原子に反応するもの(ヒスチジンキナーゼ;EC 2.7.13に含まれる)もある。 キナーゼの活性は精密に調節されており、キナーゼ自身もリン酸化によってオン・オフ調節を受ける。これは他のキナーゼのみならず、自分自身によって行われることもあり、“自己リン酸化”という。これらの調節は他の活性化(または抑制)タンパク質や低分子化合物の結合、細胞内での局在変化などによって起きる。

キナーゼの機能異常は病気の原因になることも多い。特にがんに関して詳細な研究が行われており、キナーゼはがん細胞の増殖、移動、浸潤やアポトーシス(細胞死)の調節に関与する。特定のキナーゼを阻害することによって治療に役立てる薬物が開発されており、中にはゲフィチニブ(イレッサ®)やイマチニブ(グリベック®)のように、すでに臨床的に用いられているものもある。

セリン/スレオニンキナーゼ

セリン/スレオニンキナーゼ(Ser/Thr kinase; 読み:セリン/スレオニン カイネース、EC 2.7.11.*)はセリンまたはスレオニンのヒドロキシ基をリン酸化する。これらは

によって調節される。これらのキナーゼの特異性は特定のアミノ酸配列に基づくものではなく、リン酸化される基質はキーとなる数個のアミノ酸(疎水結合イオン結合による)でキナーゼと結合するから、普通、キナーゼはある性質を共有する「基質ファミリー」全体に対して特異的である。ほとんどのキナーゼは、本当の基質のようにキナーゼに結合するがリン酸化を受けるアミノ酸を欠くような「擬似基質」によって阻害される。擬似基質が取り除かれるとキナーゼは機能を取り戻す。これらのキナーゼの触媒部位は高度に保存されている。 セリン/スレオニンキナーゼには以前は一部を除いて独自のEC番号はなく、"EC 2.7.1.37"を用いていた。国際生化学分子生物学連合IUBMBの命名委員会(NC-IUBMB)によって見直しされ、2005年にそれぞれ独自のEC番号が割り当てられた。

ホスホリラーゼキナーゼ

ホスホリラーゼキナーゼ(EC 2.7.11.19)は初めて発見された(1959ドヴィン・クレープスら)セリン/スレオニンキナーゼである。グリコーゲンホスホリラーゼ(グリコーゲンを加リン酸分解する酵素)を活性化する。

プロテインキナーゼA

プロテインキナーゼAAキナーゼまたはPKAEC 2.7.11.11)は2つのドメインからなり、小ドメインはβシートを、大ドメインはαヘリックスを含む。基質とATPの結合部位は2つのドメインの間隙にある。ATPと基質が結合すると、2つのドメインは互いに回転するように動き、ATPの末端リン酸基と基質のターゲットアミノ酸が近寄って反応が起きやすい位置となる。

制御[

Aキナーゼは細胞内でcAMPによる調節を受け、グリコーゲン脂質代謝の調節など、いくつかの機能を有する。cAMPがないときは4量体(調節サブユニット2個と触媒サブユニット2個:R2C2)からなり、調節サブユニットが触媒サブユニットの活性中心を封鎖している。cAMPが調節サブユニットに結合すると、2個のRCに解離し、これが活性を有する。また触媒サブユニット自体もリン酸化によって調節される。Aキナーゼは次のようなフィードバック機構によってダウンレギュレーションされる:Aキナーゼによって活性化される基質の1つにホスホジエステラーゼがあり、これはcAMPAMPに変換し、cAMP量を下げてAキナーゼの活性を低下させる。グリコーゲンの分解においては、Aキナーゼがホスホリラーゼキナーゼをリン酸化して活性化し、さらにこれがグリコーゲンホスホリラーゼをリン酸化して活性化するのである。

プロテインキナーゼC

概要

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/31/Activation_protein_kinase_C.svg/500px-Activation_protein_kinase_C.svg.png

PKC活性化機構の模式図

プロテインキナーゼC(プロテインキナーゼ・シー)あるいはPKCCキナーゼ (EC 2.7.11.13) は少なくとも10種類以上のアイソザイムから構成されるタンパク質ファミリーである。PKCは基質に存在するセリンおよびスレオニン残基のヒドロキシル基をリン酸化する。1977西塚泰美らによって発見された。PKCは、その構造、活性化機構、生理機能によって、在来型(conventionalあるいはclassical:α、βI、βII、γ)、新型(novel:δ、ε、η、θ)、非典型(atypical:ζ、λ/ι)の3つのサブファミリーに分類される。在来型PKCは主にカルシウムイオンCa2+)、ジアシルグリセロール (DAG, DG)、あるいはホスファチジルセリン (PS) などのリン脂質によって活性化される。新型PKCはカルシウムイオン結合活性を失っており、ジアシルグリセロールによる活性化を受ける。ジアシルグリセロールは細胞膜、核膜の構成成分であるホスファチジルイノシトール (PI) からホスホリパーゼCによって産生されるため、在来型・新型PKCはシグナル伝達経路においてホスホリパーゼCの下流に位置する。一方、非典型PKCはカルシムイオンおよびジアシルグリセロール結合活性を持たない。在来型PKC1種であるCαを日本では特にCキナーゼと呼ぶことがある。

アイソザイム

構造と制御

在来型PKCは、N末端側の調節領域とC末端側の触媒領域からなる。通常、PKCは調節領域に存在する偽基質領域による自己阻害作用のため不活性化状態で細胞質に存在し、セカンドメッセンジャー(カルシウムやジアシルグリセロール)によって活性化されると、細胞質に移行し基質をリン酸化する。 在来型PKCの調節領域には、連続した2つのC1ドメイン(ジアシルグリセロール結合ドメイン:C1AおよびC1B)とC2ドメイン(カルシウムイオン結合ドメイン)が存在する。新型PKCは、在来型と同様に連続した2つのC1ドメインを有しているが、在来型PKCC2ドメインとホモロジーを有するC2 likeドメインはカルシウムイオンを結合しない。非典型PKC1つのC1ドメインのみを有するが、ジアシアルグリセロール結合活性は失なわれている。すべてのPKCアイソザイムの触媒領域はATP結合ドメインとキナーゼドメインからなる。

例として、在来型PKCに共通する一次構造を示す:

H2N – 偽基質領域 – C1A - C1B - C2ドメイン – ATP結合ドメイン (C3) – キナーゼドメイン (C4) - COOH

機能

PKCのターゲット配列はAキナーゼのものに似ており、リン酸化を受けるセリン/スレオニン残基の近くに塩基性アミノ酸がある。基質にはMARCKSMyristoylated alanine-rich C kinase substrate)タンパク質、MAPキナーゼ転写因子阻害タンパク質であるIκBビタミンD3受容体(VDR)、Rafキナーゼ、カルパインや上皮成長因子受容体 (EGFR) があり、細胞内シグナル伝達において特に中心的な役割を担っていると考えられる。また、12-O-テトラデカノイルホルボール 13-アセタート (TPA) などの発がんプロモーター抗がん剤として臨床試験が行われているブリオスタチン類の主要なターゲットとしても知られている。 PKCがんアルツハイマー病など様々な疾患に関与していることも明らかになっている。

Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ

EC 2.7.11.17。カルモジュリン(CaM)キナーゼとも呼ばれ、主にCa2+カルモジュリン複合体により活性化される。活性化に関して「記憶作用」、つまり活性化反応が終わっても活性化状態が長続きする性質がある。次の2つのタイプがある:

  • 特異型CaMキナーゼ:例としてミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)がある。これはミオシンをリン酸化して筋肉を収縮させる。
  • 多機能型CaMキナーゼ:CaMキナーゼIIとも呼ばれ、神経伝達物質の分泌、転写因子の制御、グリコーゲン代謝など様々な場面で働く。脳のタンパク質の1ないし2%CaMキナーゼIIである。

構造と自己調節

CaMキナーゼはN末端側の触媒ドメイン、調節ドメイン、および付随ドメインからなる。Ca2+/カルモジュリンがない場合には触媒ドメインは調節ドメイン(基質に似た配列を含む)による自己抑制を受けている。CaMキナーゼはいくつかの分子が会合してホモオリゴマーまたはヘテロオリゴマーになっている。Ca2+/カルモジュリンによって活性化されると、CaMキナーゼ分子は互いにリン酸化しあう。これには2つの効果がある:

  1. カルモジュリン複合体への親和性が増し、キナーゼ活性の持続時間が延長する
  2. カルモジュリン複合体が解離した後も活性化が持続し、さらに持続時間が延長する

MAPキナーゼ

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/5a/Kinase_cascade.jpg/380px-Kinase_cascade.jpg

キナーゼカスケード略図

詳細は「分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ」を参照

Mitogen-activated protein kinases(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ;EC 2.7.11.24)の略。細胞をマイトジェン(細胞増殖促進物質の総称)で処理した場合に活性化したことからこの名がついた。MAPKKKK => MAPKKK => MAPKK => MAPK (これは一般的な表記法でそれぞれKはキナーゼを意味するが、実際には色々な種類がある)というカスケードを形成して順次活性化され、最終的に転写因子をリン酸化して細胞周期や増殖を制御する。

Mos/Rafキナーゼ

RafGTP結合型(活性型)のRasがん遺伝子産物)をはじめとする低分子型GTP結合タンパク質Cキナーゼなどによって活性化され、下流のMEKキナーゼをリン酸化して活性化する。Mosは動物卵の減数分裂で特異的に発現し、その活性(下流のMEK-MAPK-p90Rskを含む)は減数分裂の進行及び減数第二分裂での分裂停止(ヒトデ等の無脊椎動物は減数分裂直後のG1期停止)に必須とされる。これらのキナーゼ自体も元来、原がん遺伝子(c-mosc-raf)産物として同定されたものである。

cdc2

細胞周期の分裂期の制御因子として、分裂酵母、カエル、ヒトデなどいくつかの真核生物から独立に発見された。(2001年のノーベル生理学・医学賞の受賞対象となった研究である。)制御の仕方は生物により異なるが、いずれもサイクリンとよばれるタンパク質と結合することや、それ自身がリン酸化されることによって活性を持ち、特定の基質をリン酸化することで分裂期の特徴的な現象(核膜崩壊、染色体凝集、紡錘体の形成など)を制御する。

チロシンキナーゼ

チロシンキナーゼ(あるいは蛋白質チロシンキナーゼ、Protein Tyrosine Kinase; PTKEC 2.7.10.*)はタンパク質のチロシン残基を特異的にリン酸化する酵素である。多細胞生物のみに存在し、細胞の分化,増殖、接着、あるいは免疫反応などに関わるシグナル伝達に関与する。増殖因子が結合することによって活性化する受容体型と、増殖因子が結合しない非受容体型の2型に大別される。チロシンキナーゼが活性化されると、受容体自身、あるいは標的とするタンパクを特異的にリン酸化する。受容体自身の自己リン酸化により、このリン酸化部位を認識するさまざまなシグナル伝達因子が受容体に結合し、シグナル伝達が始まる。また標的タンパクのリン酸化により、細胞内のさまざまなタンパクが次々と活性化し、シグナル伝達が始まる。がんアテローマ動脈硬化症乾癬などでは、過剰に活性化していることがある。

ヒトのチロシンキナーゼは100種類以上あると予想されている[1]が、その大半は機能が分かっていない。

受容体型チロシンキナーゼ

細胞膜を膜貫する構造であり、細胞外に増殖因子の結合部位をもち、細胞質領域にチロシンキナーゼ活性部位をもつ。EC 2.7.10.1。増殖因子は哺乳動物では50種類以上が知られ、受容体型チロシンキナーゼは、この増殖因子の刺激を細胞内へのシグナルに変換し、細胞の分裂、分化、形態形成で重要な役割を演ずる。代表的なものを以下に挙げる。

構造

受容体型チロシンキナーゼは、3つの領域からなる。増殖因子が結合する細胞外領域、細胞膜を貫通する疎水性膜貫領域、チロシンキナーゼ活性をもつ細胞内領域である。さらに細胞内領域は膜近傍領域、キナーゼ活性領域、C末端領域の3つに分けられる。インスリン受容体やインスリン様増殖因子のように、細胞外領域が分離独立し、ジスルフィド結合で受容体本体に結合する構造をとるものもある。膜貫領域は単一のαヘリックスからなる。

増殖因子が細胞外領域にある受容体に結合すると、受容体は活性化して細胞膜上を移動し、他の受容体に結合して二量体を形成する。同じ受容体同士が結合する(ホモダイマー)ことも、異なる受容体同士が結合する(ヘテロダイマー)こともある。

制御

増殖因子の結合により2つの反応が起きる:

  1. 2個の受容体分子の二量体化、あるいはゆるい二量体の安定化。チロシンキナーゼを受容体とするリガンドは多くが“multivalent”(多価性)、つまり1分子が複数の受容体分子に結合しうる。血小板由来増殖因子受容体 (PDGFR) など一部のチロシンキナーゼは、別の類似したキナーゼとヘテロダイマーを作り、細胞外シグナルに対する様々な応答を導くことができる。
  2. トランス自己リン酸化(二量体の一方がもう一方をリン酸化すること):不活性型ではキナーゼの2つのサブドメインが、ATPが活性中心に入れないような配置を取っている。自己リン酸化によってサブドメインの位置が変わり、ATPが入って反応できるようになる。

リン酸化を受けるアミノ酸がキナーゼドメインにいくつかある場合、リン酸化されたアミノ酸が多いほどキナーゼ活性は上昇する。この場合、最初のリン酸化はシス自己リン酸化といい、これでキナーゼは「オフ」から「スタンバイ」状態に切り替わる。

非受容体型チロシンキナーゼ

代表的な構造は、細胞外領域をもたず、細胞内で細胞膜に結合し、細胞内の末端側にチロシンキナーゼ部位をもつ構造である。免疫グロブリンサイトカイン等の結合部位を持ち,これらの刺激により活性化する。

  • がん遺伝子産物c-Src
  • Jak:活性化された受容体と複合体を作るとまず受容体をリン酸化し、次に受容体に結合した下流分子もリン酸化することから、二面神ヤヌスにちなみ"Janus kinase"ヤーヌスキナーゼ)と呼ばれる。JakSTAT (signal transducers and activators of transcription) をリン酸化し、リン酸化したSTATは二量体を形成して核内へ移行、転写を活性化する。このシグナル伝達系をJak-STAT系という。
  • ブルトン型チロシンキナーゼ: リンパ球B細胞受容体のシグナル下流にあり、pre-B細胞の成熟に必須の酵素である。

ヒスチジンキナーゼ

ヒスチジン特異的キナーゼ(EC 2.7.13.x)は構造的に他のキナーゼと異なりGHKLkinase/ATPase スーパーファミリーに分類される。ヒスチジンキナーゼは原核生物のほか菌類植物に見られ、「2成分系シグナル伝達」で機能する。ATPのリン酸基はまずキナーゼ分子のヒスチジン残基(イミダゾール環窒素原子)に移され、その後他のタンパク質(同じキナーゼ分子内のばあいもある)の「レシーバードメイン」にあるアスパラギン酸残基に移される(この段階ではATPのエネルギーは必要ない)。このようなリン酸の受け渡しがさらに繰り返されるばあいもある。その結果として転写制御などが行われる。リン酸化アスパラギン酸が活性型としてシグナルを伝達する。微生物では細胞外の状態(浸透圧酸素や栄養分など)を感知するいろいろな受容体、植物では植物ホルモンサイトカイニンエチレン)受容体や受容体などが知られる。

動物にあるピルビン酸脱水素酵素キナーゼは構造的にヒスチジンキナーゼに類似しているGHKLkinaseであるが、ヒスチジンを介した2成分系シグナル伝達は行わず、ピルビン酸脱水素酵素のセリン残基を直接リン酸化する。

アスパラギン酸/グルタミン酸キナーゼ

EC 2.7.12.x

脚注

1.     ^ Plowman GD, Sudarsanam S, Bingham J, et al. "Review. The protein kinases of Caenorhabditis elegans: a model for signal transduction in multicellular organisms." Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 1999;96:13603-13610. PMID 10570119

関連項目

外部リンク

ホスホトランスフェラーゼ/キナーゼ (EC 2.7)

2.7.1 - OH アクセプター

ヘキソ- - グルコ- - フルクト- - ガラクト- - ホスホフルクト- - チミジン - NAD+- - グリセロール- - パントテン酸- - メバロン酸- - ピルビン酸- - デオキシシチジン- - PFP - ジアシルグリセロール- - ブルトンチロシン - ホスホイノシチド-3 - スフィンゴシン

2.7.2 - COOH アクセプター

ホスホグリセリン酸 - アスパラギン酸

2.7.3 - N アクセプター

クレアチン

2.7.4 - PO4 アクセプター

ホスホメバロン酸 - アデニル酸 - ヌクレオシド二リン酸

2.7.6 - P2O7トランスフェラーゼ

リボースリン酸ジホスホキナーゼ - チアミンピロホスホキナーゼ

2.7.7 - ヌクレオチジル-

インテグラーゼ - PNPアーゼ - ポリメラーゼ - RNアーゼ PH - UDP-グルコースピロホスホリラーゼ - ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ -ターミナルトランスフェラーゼ - RNAレプリカーゼ - リバーストランスクリプターゼ (テロメラーゼ) - トランスポザーゼ

2.7.8 - 他のリン酸基

N-アセチルグルコサミン-1-リン酸トランスフェラーゼ

2.7.10-11 - プロテイン

チロシン - セリン/トレオニンプロテイン

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プロテアーゼ

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/05/TEV_protease_summary.png/250px-TEV_protease_summary.png

TEVプロテアーゼの構造。基質とのペプチド結合を黒、触媒残基を赤で表す。(PDB 1LVB)

プロテアーゼProteaseEC 3.4群)とはペプチド結合加水分解酵素の総称で、プロテイナーゼ(proteinase)とも呼ばれる。広義のペプチダーゼ(Peptidase)のこと。タンパク質やポリペプチド加水分解酵素で、それらを加水分解して異化する。収斂進化により、全く異なる触媒機能を持つプロテアーゼが似たような働きを持つ。プロテアーゼは動物、植物、バクテリア古細菌ウイルスなどにある。ヒトでは小腸上皮細胞から分泌する。

機能

アミノ酸ペプチド結合によって鎖状に連結したペプチド(一般に100残基未満、比較的分子量が小さい)やタンパク質(一般に100残基以上、比較的分子量が大きい)のペプチド結合を加水分解する酵素で、様々な種類のものが、生理的役割として、栄養吸収、タンパク質の廃棄とリサイクル、生体防御、活性の調節、などの幅広い分野で働いている。

分類

プロテアーゼの分類は歴史的に様々な変遷を経ている。今日では切断位置によるエキソペプチダーゼないしはエンドペプチダーゼの分類が広く用いられる[1]

古くはタンパク質を基質にするものを「プロテイナーゼ」、合成ペプチドを基質にするものを「ペプチダーゼ」としていたが、分類の境界が不明瞭である。現在のエンドペプチダーゼには従来プロテイナーゼに分類されていた大半の酵素が含まれ、エキソペプチダーゼには従来ペプチダーゼに分類されていたものの多くが属する。

エキソペプチダーゼのうち、基質のN末端から1残基ずつ切断する酵素をアミノペプチダーゼC末端側から1残基ずつ切断する酵素をカルボキシペプチダーゼと呼ぶ。

ペプチダーゼのうち、アルカリ性領域に至適pHを持つものは、洗剤補助剤として日用品に利用されるため、アルカリ(性)プロテアーゼとよばれることがある。

基質特異性

プロテアーゼには切断する配列をあまり選ばない(基質特異性が低い)ものや、特定のタンパク質・ペプチドの特定の部位だけを特異的に切断するという切断する配列に対する高度な選択性を持つ(基質特異性が高い)タイプのものがある。ペプシンpepsin)やキモトリプシンchymotrypsin)などが前者の、ケキシン(Kexin)やフューリン(Furin)のようなプロセッシングプロテアーゼ、Xa因子のような血液凝固因子などが後者の例として典型的なものである。前述のHIVプロテアーゼはその基質特異性故にHIV治療の重要な標的となり、阻害剤による治療が大きな成果を上げている。

植物

植物には、プロテアーゼを豊富に含むものがある。

菌類

細菌類

納豆菌 - ナットウキナーゼを含む。

脚注

1.     ^ a b 「プロテアーゼ」、『岩波生物学辞典』第4版、岩波書店、1996年。

関連項目

プロテインキナーゼ

プロテインキナーゼ (Protein kinase; プロテインカイネース) は、タンパク質分子リン酸基を付加する(リン酸化する)酵素である。タンパク質キナーゼあるいは英語風にプロテインカイネースとも呼ぶ。キナーゼ(リン酸基転移酵素)の中でタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと呼ぶが、このプロテインキナーゼのことを特にキナーゼと呼ぶことが多い(本記事では以後単にキナーゼという)。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f9/Ch4_kinases.jpg

プロテインキナーゼがATPからリン酸基を得てタンパク質リン酸化する概念図。

概要

細胞は、その機能を維持するため、細胞内のタンパク質をリン酸化、脱リン酸化する反応を繰り返している。このリン酸化によってタンパク質は酵素活性、細胞内での局在や他のタンパク質との会合状態を変化させる。細胞内の30%ものタンパク質がキナーゼによる変化を受け、細胞内における様々なシグナル伝達代謝の調節因子として機能している。キナーゼ遺伝子ヒトゲノ中に約500種類があり、また真核生物の全遺伝子の約2%を占める。

キナーゼは、ATPのリン酸基をアミノ酸残基にあるヒドロキシ基に移動させ、共有結合させる活性を有する。キナーゼはアミノ酸のうち、主にセリンスレオニンチロシン残基をリン酸化させるが、キナーゼがリン酸化するアミノ酸の99%以上はセリンスレオニンである(セリン/スレオニンキナーゼ)。しかし、0.1%に満たないチロシンのリン酸化(チロシンキナーゼ)の方が生物学的に重要なケースが多い。これら3種類すべてに反応するものや、またこのほかに微生物植物ではヒスチジンイミダゾール窒素原子に反応するもの(ヒスチジンキナーゼ;EC 2.7.13に含まれる)もある。 キナーゼの活性は精密に調節されており、キナーゼ自身もリン酸化によってオン・オフ調節を受ける。これは他のキナーゼのみならず、自分自身によって行われることもあり、“自己リン酸化”という。これらの調節は他の活性化(または抑制)タンパク質や低分子化合物の結合、細胞内での局在変化などによって起きる。

キナーゼの機能異常は病気の原因になることも多い。特にがんに関して詳細な研究が行われており、キナーゼはがん細胞の増殖、移動、浸潤やアポトーシス(細胞死)の調節に関与する。特定のキナーゼを阻害することによって治療に役立てる薬物が開発されており、中にはゲフィチニブ(イレッサ®)やイマチニブ(グリベック®)のように、すでに臨床的に用いられているものもある。

セリン/スレオニンキナーゼ

セリン/スレオニンキナーゼ(Ser/Thr kinase; 読み:セリン/スレオニン カイネース、EC 2.7.11.*)はセリンまたはスレオニンのヒドロキシ基をリン酸化する。これらは

によって調節される。これらのキナーゼの特異性は特定のアミノ酸配列に基づくものではなく、リン酸化される基質はキーとなる数個のアミノ酸(疎水結合イオン結合による)でキナーゼと結合するから、普通、キナーゼはある性質を共有する「基質ファミリー」全体に対して特異的である。ほとんどのキナーゼは、本当の基質のようにキナーゼに結合するがリン酸化を受けるアミノ酸を欠くような「擬似基質」によって阻害される。擬似基質が取り除かれるとキナーゼは機能を取り戻す。これらのキナーゼの触媒部位は高度に保存されている。 セリン/スレオニンキナーゼには以前は一部を除いて独自のEC番号はなく、"EC 2.7.1.37"を用いていた。国際生化学分子生物学連合IUBMBの命名委員会(NC-IUBMB)によって見直しされ、2005年にそれぞれ独自のEC番号が割り当てられた。

ホスホリラーゼキナーゼ

ホスホリラーゼキナーゼ(EC 2.7.11.19)は初めて発見された(1959エドヴィン・クレープスら)セリン/スレオニンキナーゼである。グリコーゲンホスホリラーゼ(グリコーゲンを加リン酸分解する酵素)を活性化する。

プロテインキナーゼAプロテインキナーゼAAキナーゼまたはPKAEC 2.7.11.11)は2つのドメインからなり、小ドメインはβシートを、大ドメインはαヘリックスを含む。基質とATPの結合部位は2つのドメインの間隙にある。ATPと基質が結合すると、2つのドメインは互いに回転するように動き、ATPの末端リン酸基と基質のターゲットアミノ酸が近寄って反応が起きやすい位置となる。

制御[

Aキナーゼは細胞内でcAMPによる調節を受け、グリコーゲン脂質代謝の調節など、いくつかの機能を有する。cAMPがないときは4量体(調節サブユニット2個と触媒サブユニット2個:R2C2)からなり、調節サブユニットが触媒サブユニットの活性中心を封鎖している。cAMPが調節サブユニットに結合すると、2個のRCに解離し、これが活性を有する。また触媒サブユニット自体もリン酸化によって調節される。Aキナーゼは次のようなフィードバック機構によってダウンレギュレーションされる:Aキナーゼによって活性化される基質の1つにホスホジエステラーゼがあり、これはcAMPAMPに変換し、cAMP量を下げてAキナーゼの活性を低下させる。グリコーゲンの分解においては、Aキナーゼがホスホリラーゼキナーゼをリン酸化して活性化し、さらにこれがグリコーゲンホスホリラーゼをリン酸化して活性化するのである。

プロテインキナーゼC

概要

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/31/Activation_protein_kinase_C.svg/500px-Activation_protein_kinase_C.svg.png

PKC活性化機構の模式図

プロテインキナーゼC(プロテインキナーゼ・シー)あるいはPKCCキナーゼ (EC 2.7.11.13) は少なくとも10種類以上のアイソザイムから構成されるタンパク質ファミリーである。PKCは基質に存在するセリンおよびスレオニン残基のヒドロキシル基をリン酸化する。1977西塚泰美らによって発見された。PKCは、その構造、活性化機構、生理機能によって、在来型(conventionalあるいはclassical:α、βI、βII、γ)、新型(novel:δ、ε、η、θ)、非典型(atypical:ζ、λ/ι)の3つのサブファミリーに分類される。在来型PKCは主にカルシウムイオンCa2+)、ジアシルグリセロール (DAG, DG)、あるいはホスファチジルセリン (PS) などのリン脂質によって活性化される。新型PKCはカルシウムイオン結合活性を失っており、ジアシルグリセロールによる活性化を受ける。ジアシルグリセロールは細胞膜、核膜の構成成分であるホスファチジルイノシトール (PI) からホスホリパーゼCによって産生されるため、在来型・新型PKCはシグナル伝達経路においてホスホリパーゼCの下流に位置する。一方、非典型PKCはカルシムイオンおよびジアシルグリセロール結合活性を持たない。在来型PKC1種であるCαを日本では特にCキナーゼと呼ぶことがある。

アイソザイム

  • conventional - DAGCa2+、リン脂質が活性化に必要。
  • PKCβII
  • novel - 活性化にDAGを必要とするが、Ca2+は不要
  • atypical - 活性化にDAGおよびCa2+は共に不要

構造と制御

在来型PKCは、N末端側の調節領域とC末端側の触媒領域からなる。通常、PKCは調節領域に存在する偽基質領域による自己阻害作用のため不活性化状態で細胞質に存在し、セカンドメッセンジャー(カルシウムやジアシルグリセロール)によって活性化されると、細胞質に移行し基質をリン酸化する。 在来型PKCの調節領域には、連続した2つのC1ドメイン(ジアシルグリセロール結合ドメイン:C1AおよびC1B)とC2ドメイン(カルシウムイオン結合ドメイン)が存在する。新型PKCは、在来型と同様に連続した2つのC1ドメインを有しているが、在来型PKCC2ドメインとホモロジーを有するC2 likeドメインはカルシウムイオンを結合しない。非典型PKC1つのC1ドメインのみを有するが、ジアシアルグリセロール結合活性は失なわれている。すべてのPKCアイソザイムの触媒領域はATP結合ドメインとキナーゼドメインからなる。

例として、在来型PKCに共通する一次構造を示す:

H2N – 偽基質領域 – C1A - C1B - C2ドメイン – ATP結合ドメイン (C3) – キナーゼドメイン (C4) - COOH

機能

PKCのターゲット配列はAキナーゼのものに似ており、リン酸化を受けるセリン/スレオニン残基の近くに塩基性アミノ酸がある。基質にはMARCKSMyristoylated alanine-rich C kinase substrate)タンパク質、MAPキナーゼ転写因子阻害タンパク質であるIκBビタミンD3受容体(VDR)、Rafキナーゼ、カルパインや上皮成長因子受容体 (EGFR) があり、細胞内シグナル伝達において特に中心的な役割を担っていると考えられる。また、12-O-テトラデカノイルホルボール 13-アセタート (TPA) などの発がんプロモーター抗がん剤として臨床試験が行われているブリオスタチン類の主要なターゲットとしても知られている。 PKCがんアルツハイマー病など様々な疾患に関与していることも明らかになっている。

Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ

EC 2.7.11.17。カルモジュリン(CaM)キナーゼとも呼ばれ、主にCa2+カルモジュリン複合体により活性化される。活性化に関して「記憶作用」、つまり活性化反応が終わっても活性化状態が長続きする性質がある。次の2つのタイプがある:

  • 特異型CaMキナーゼ:例としてミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)がある。これはミオシンをリン酸化して筋肉を収縮させる。
  • 多機能型CaMキナーゼ:CaMキナーゼIIとも呼ばれ、神経伝達物質の分泌、転写因子の制御、グリコーゲン代謝など様々な場面で働く。脳のタンパク質の1ないし2%CaMキナーゼIIである。

構造と自己調節

CaMキナーゼはN末端側の触媒ドメイン、調節ドメイン、および付随ドメインからなる。Ca2+/カルモジュリンがない場合には触媒ドメインは調節ドメイン(基質に似た配列を含む)による自己抑制を受けている。CaMキナーゼはいくつかの分子が会合してホモオリゴマーまたはヘテロオリゴマーになっている。Ca2+/カルモジュリンによって活性化されると、CaMキナーゼ分子は互いにリン酸化しあう。これには2つの効果がある:

  1. カルモジュリン複合体への親和性が増し、キナーゼ活性の持続時間が延長する
  2. カルモジュリン複合体が解離した後も活性化が持続し、さらに持続時間が延長する

MAPキナーゼ

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/5a/Kinase_cascade.jpg/380px-Kinase_cascade.jpg

キナーゼカスケード略図

詳細は「分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ」を参照

Mitogen-activated protein kinases(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ;EC 2.7.11.24)の略。細胞をマイトジェン(細胞増殖促進物質の総称)で処理した場合に活性化したことからこの名がついた。MAPKKKK => MAPKKK => MAPKK => MAPK (これは一般的な表記法でそれぞれKはキナーゼを意味するが、実際には色々な種類がある)というカスケードを形成して順次活性化され、最終的に転写因子をリン酸化して細胞周期や増殖を制御する。

Mos/Rafキナーゼ

RafGTP結合型(活性型)のRasがん遺伝子産物)をはじめとする低分子型GTP結合タンパク質Cキナーゼなどによって活性化され、下流のMEKキナーゼをリン酸化して活性化する。Mosは動物卵の減数分裂で特異的に発現し、その活性(下流のMEK-MAPK-p90Rskを含む)は減数分裂の進行及び減数第二分裂での分裂停止(ヒトデ等の無脊椎動物は減数分裂直後のG1期停止)に必須とされる。これらのキナーゼ自体も元来、原がん遺伝子(c-mosc-raf)産物として同定されたものである。

cdc2

細胞周期の分裂期の制御因子として、分裂酵母、カエル、ヒトデなどいくつかの真核生物から独立に発見された。(2001年のノーベル生理学・医学賞の受賞対象となった研究である。)制御の仕方は生物により異なるが、いずれもサイクリンとよばれるタンパク質と結合することや、それ自身がリン酸化されることによって活性を持ち、特定の基質をリン酸化することで分裂期の特徴的な現象(核膜崩壊、染色体凝集、紡錘体の形成など)を制御する。

チロシンキナーゼ

チロシンキナーゼ(あるいは蛋白質チロシンキナーゼ、Protein Tyrosine Kinase; PTKEC 2.7.10.*)はタンパク質のチロシン残基を特異的にリン酸化する酵素である。多細胞生物のみに存在し、細胞の分化,増殖、接着、あるいは免疫反応などに関わるシグナル伝達に関与する。増殖因子が結合することによって活性化する受容体型と、増殖因子が結合しない非受容体型の2型に大別される。チロシンキナーゼが活性化されると、受容体自身、あるいは標的とするタンパクを特異的にリン酸化する。受容体自身の自己リン酸化により、このリン酸化部位を認識するさまざまなシグナル伝達因子が受容体に結合し、シグナル伝達が始まる。また標的タンパクのリン酸化により、細胞内のさまざまなタンパクが次々と活性化し、シグナル伝達が始まる。がんアテローマ動脈硬化症乾癬などでは、過剰に活性化していることがある。

ヒトのチロシンキナーゼは100種類以上あると予想されている[1]が、その大半は機能が分かっていない。

受容体型チロシンキナーゼ

細胞膜を膜貫する構造であり、細胞外に増殖因子の結合部位をもち、細胞質領域にチロシンキナーゼ活性部位をもつ。EC 2.7.10.1。増殖因子は哺乳動物では50種類以上が知られ、受容体型チロシンキナーゼは、この増殖因子の刺激を細胞内へのシグナルに変換し、細胞の分裂、分化、形態形成で重要な役割を演ずる。代表的なものを以下に挙げる。

構造

受容体型チロシンキナーゼは、3つの領域からなる。増殖因子が結合する細胞外領域、細胞膜を貫通する疎水性膜貫領域、チロシンキナーゼ活性をもつ細胞内領域である。さらに細胞内領域は膜近傍領域、キナーゼ活性領域、C末端領域の3つに分けられる。インスリン受容体やインスリン様増殖因子のように、細胞外領域が分離独立し、ジスルフィド結合で受容体本体に結合する構造をとるものもある。膜貫領域は単一のαヘリックスからなる。

増殖因子が細胞外領域にある受容体に結合すると、受容体は活性化して細胞膜上を移動し、他の受容体に結合して二量体を形成する。同じ受容体同士が結合する(ホモダイマー)ことも、異なる受容体同士が結合する(ヘテロダイマー)こともある。

制御

増殖因子の結合により2つの反応が起きる:

  1. 2個の受容体分子の二量体化、あるいはゆるい二量体の安定化。チロシンキナーゼを受容体とするリガンドは多くが“multivalent”(多価性)、つまり1分子が複数の受容体分子に結合しうる。血小板由来増殖因子受容体 (PDGFR) など一部のチロシンキナーゼは、別の類似したキナーゼとヘテロダイマーを作り、細胞外シグナルに対する様々な応答を導くことができる。
  2. トランス自己リン酸化(二量体の一方がもう一方をリン酸化すること):不活性型ではキナーゼの2つのサブドメインが、ATPが活性中心に入れないような配置を取っている。自己リン酸化によってサブドメインの位置が変わり、ATPが入って反応できるようになる。

リン酸化を受けるアミノ酸がキナーゼドメインにいくつかある場合、リン酸化されたアミノ酸が多いほどキナーゼ活性は上昇する。この場合、最初のリン酸化はシス自己リン酸化といい、これでキナーゼは「オフ」から「スタンバイ」状態に切り替わる。

非受容体型チロシンキナーゼ

代表的な構造は、細胞外領域をもたず、細胞内で細胞膜に結合し、細胞内の末端側にチロシンキナーゼ部位をもつ構造である。免疫グロブリンサイトカイン等の結合部位を持ち,これらの刺激により活性化する。

  • がん遺伝子産物c-Src
  • Jak:活性化された受容体と複合体を作るとまず受容体をリン酸化し、次に受容体に結合した下流分子もリン酸化することから、二面神ヤヌスにちなみ"Janus kinase"ヤーヌスキナーゼ)と呼ばれる。JakSTAT (signal transducers and activators of transcription) をリン酸化し、リン酸化したSTATは二量体を形成して核内へ移行、転写を活性化する。このシグナル伝達系をJak-STAT系という。
  • ブルトン型チロシンキナーゼ: リンパ球B細胞受容体のシグナル下流にあり、pre-B細胞の成熟に必須の酵素である。

ヒスチジンキナーゼ

ヒスチジン特異的キナーゼ(EC 2.7.13.x)は構造的に他のキナーゼと異なりGHKLkinase/ATPase スーパーファミリーに分類される。ヒスチジンキナーゼは原核生物のほか菌類植物に見られ、「2成分系シグナル伝達」で機能する。ATPのリン酸基はまずキナーゼ分子のヒスチジン残基(イミダゾール環窒素原子)に移され、その後他のタンパク質(同じキナーゼ分子内のばあいもある)の「レシーバードメイン」にあるアスパラギン酸残基に移される(この段階ではATPのエネルギーは必要ない)。このようなリン酸の受け渡しがさらに繰り返されるばあいもある。その結果として転写制御などが行われる。リン酸化アスパラギン酸が活性型としてシグナルを伝達する。微生物では細胞外の状態(浸透圧酸素や栄養分など)を感知するいろいろな受容体、植物では植物ホルモンサイトカイニンエチレン)受容体や受容体などが知られる。

動物にあるピルビン酸脱水素酵素キナーゼは構造的にヒスチジンキナーゼに類似しているGHKLkinaseであるが、ヒスチジンを介した2成分系シグナル伝達は行わず、ピルビン酸脱水素酵素のセリン残基を直接リン酸化する。

アスパラギン酸/グルタミン酸キナーゼ

EC 2.7.12.x

脚注

1.     ^ Plowman GD, Sudarsanam S, Bingham J, et al. "Review. The protein kinases of Caenorhabditis elegans: a model for signal transduction in multicellular organisms." Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 1999;96:13603-13610. PMID 10570119

関連項目

外部リンク