聴覚

聴覚(ちょうかく、英:Auditory sense)とは、一定範囲の周波数音波を感じて生じる感覚のこと[1]

目次

1 概説

2 可聴域

2.1 加齢による可聴域の変化

2.2 音楽における可聴域

2.3 音響機器の例

3 聴覚系の感覚器

4 聴覚に関連する話題

5 脚注

6 関連項目

7 外部リンク

 

概説

外耳中耳内耳聴神経(バスドラム)、聴覚皮質などの器官を使い、音の信号を神経活動情報に変換し、音の強さ、音高音色音源方向リズム言語などを認識する能力、機能を指す。いわゆる五感の一つである。 なお、この感覚が生じることを「聞く(きく)」といい、聴覚を用いつつ(耳だけでなく)も充分に用いることを「聴く」と言う。特に、積極的な姿勢でこの感覚を用いつつ深い認識をしようとすることは「傾聴する」という。

可聴域

ヒトでは通常、下は20Hz程度から、上は(個人差があるが)15,000Hzないし20,000Hz程度までの鼓膜振動を音として感じることができ、この周波数帯域を可聴域という。可聴域を超えた周波数の音は超音波という。これら可聴域20Hzから20,000Hz以外の音は長らく聞こえないのが定説として多くの教科書等にも記載されてきたが、近年骨伝導で可聴域外の音に反応する例が個人差があるものの確認され可聴域外の研究が進められている。可聴域を下回る、あるいは可聴域下限付近の低周波音は、これまで知られていなかったタイプの騒音被害(低周波騒音)を引き起こすものとして注目されている(低周波音参照)。なお、超音波は骨伝導で、また、可聴域近傍の周波数の音は、振動として皮膚感覚などで感知できる場合がある。

加齢による可聴域の変化

上記の通り、ヒトには限られた周波数帯の音しか聞き取れないが、さらに加齢によって可聴域が縮小する。高周波の聴力から先に失われる傾向にあることを利用して、20代くらいまでのヒトには十分聞き取れるが、それ以上の年代では聞き取りにくい(場合によっては聞き取れない)ことを利用した商品開発も進んでいる(→モスキート音)。さらに、20代を過ぎると、個人差はあるものの、どの周波数の音に対しても徐々に聴力が低下し始め、最終的には老人性難聴になる。しかし、老人性難聴となっても、比較的低い周波数帯の音に対する聴力は良好に保たれている場合がある。

音楽における可聴域

ヒトの可聴音域

ヒトは、様々なアナログ楽器から発する音波を素材として広く音楽に採り入れ、聴覚の範囲を開拓してきた。楽器が発することのできる音波の特徴や周波数帯域は様々であるが、特に低音域については可聴域の限界を超えた試みがなされている。それに対して高音域については、超音波に近づくにしたがい物理的に発生が困難となる理由も相まって、素材として開拓の余地がまだ大きく残されている。

低音域については、西洋音楽におけるコントラバスより低い特殊な音域を大太鼓銅鑼の打楽器で発することができることは古い時代より世界各地で知られており、これらは皮膚に振動を感じさせる特殊な効果を持っているため、独特な扱われ方を呼んできた。それ以外に、通常大型とされているパイプ・オルガンでは、巨大な32'ストップが常設されており、弱音から強音に至るまで全身に振動を感じさせる効果はある意味で聴覚の限界を追求しようという挑戦であるが、更に現代では、アトランティック・シティ・コンヴェンション・ホール(外部リンク:公式サイトによる写真)やシドニー・タウン・ホールにおいて64'ストップも登場し、音とは言いがたいほど超低音の空気振動を発する巨大な管によってより聴覚を超えた音素材の効果を活用しようという挑戦が続けられている。

音響機器の例

音楽CDサンプリング周波数44,100Hzを採用しているが、これは理論上22,050Hzまで再現できるため(標本化定理 実際には音声出力時にローパスフィルタに通すため、22,050Hzよりは帯域が狭くなるが、フィルタによる減衰域を除外しても)ヒトの可聴域は十分カバーできると考えられたからである。

身近な例としては、FMラジオ19kHzのパイロット信号がある。比較的高い周波数であるため安価な機器では除去していないものも多いが、人によっては可聴域を超えるため、聴取にあまり影響を与えない。

古い時代のブラウン管テレビでは、走査線の走査回数は15,750Hz525本×30フレーム/秒、NTSCを採用している地域)であるため人によっては可聴域内に入り、走査に伴って生じる高周波の雑音が聴こえてしまうことがあった。近年のテレビではノッチフィルタを入れており、この高周波は除去されている。また、デジタル放送ではこの種の高周波は含まれない。

 

聴覚系の感覚器

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b1/Hearing_mechanics.jpg/300px-Hearing_mechanics.jpg

聴覚系 外耳から聴覚皮質まで

外耳は耳介(じかい)、外耳道からなる。耳介は、パラボラアンテナのように空気中を伝わる音声の音圧をあげて集音する機能を持つのみならず、その複雑な形態から、音源の方向によって音響伝達特性が変わることで上・前後・左右といった音源定位に役立っている。外耳道は約20 - 30mmの長さを持っており、鼓膜で終わる。

中耳は、鼓膜、つち骨、きぬた骨、あぶみ骨の3つの耳小骨(じしょうこつ)よりなる。空気振動による鼓膜の振動が内耳のリンパ液に伝わる際、3つの耳小骨を伝わることで、鼓膜とあぶみ骨の面積比の関係とてこの原理により圧力が約22倍に上昇する。つまり天然の物理的変圧器の役割を果たしている。ベートーベンは耳小骨の動きが悪くなる耳硬化症に罹患していたといわれている。

内耳は側頭骨の中に位置し、直径1cm程度で2回り半巻いておりカタツムリのような形をした蝸牛(かぎゅう)、半規管、前庭よりなる。蝸牛は内部が3層構造になっており(上から前庭階、蝸牛管、鼓室階)それぞれリンパ液などで満たされている。あぶみ骨の振動が蝸牛の入り口の小窓(卵円窓:らんえんそう)に伝わり、内部のリンパ液を振動させ、コルチ器を載せた基底膜を振動させる。このとき最も強く振動する基底膜の位置が音の周波数により異なり、高い音の方が入り口付近、低い音の方が入り口から遠い位置の基底膜を振動させる。この振動がコルチ器のうちの内有毛細胞の不動毛を変形させ、イオンチャネルを開かせ細胞を電気的に興奮させ、内耳神経へと伝えられる。

このような基底膜の物理的な周波数特性に加え、内有毛細胞の特定の周波数への「チューニング」という生物的な要素により、我々は音声認知の初期から、周波数情報を神経細胞興奮という情報に変換しているのである。基底膜の周波数特性を発見したベケシーGeorg von Békésy)はその業績で1961年のノーベル医学生理学賞を受賞している。

その後内耳神経に伝達された神経興奮は背側と腹側の蝸牛神経核を経て、ほとんどは対側の(一部同側の)上オリーブ核に中継され、外側毛帯、下丘内側膝状体を経て大脳の聴覚皮質に伝達される。

聴覚に関連する話題

慢性中耳炎等により耳小骨の機能が失われると、中耳のインピーダンス整合がうまくいかなくなり、難聴になる。耳小骨の代わりに人工骨を外科的に取り付けることで難聴が軽減する。

内耳に障害があるために難聴になっている患者に対して、人工内耳を埋め込む手術がなされることがある。これはマイクロフォンで拾った音を小型のコンピュータにより電気信号に変換し、内耳に挿入した電極から音の高さに応じて違う箇所を刺激することで聴覚を補助するものである。

内耳の基底膜において音が周波数分解されているのと対応するように、聴覚皮質においても音の高低に対応する配列があることが以前から電気生理学的に知られており、近年の脳機能イメージング研究でも確認されている。この周波数に対応する中枢神経系の配列を「トノトピー(tonotopy tono:音の、topos:場所)という。

人間が音や重力を感じるメカニズムと、ショウジョウバエが、触覚で、それらを感じるメカニズムが、類似しているとの研究がある。

脚注

  1. ^ 広辞苑 第5 p.1738
  2. ^ a b c d オリバー・サックス『音楽嗜好症』(早川書房 2010)。

関連項目

外部リンク