きちんと体を休ませていてもなんとなく疲れが残ったりだるくて体が重く感じることって、誰でも一度は経験があると思います。
そんな疲労感や倦怠感が長く続いて日常生活にも支障が出てしまう慢性疲労症候群という病気は知っていますか?
1991年に行われた調査では日本人の30万人が発症しているとも言われるメジャーな疾患でもあり、ここ数年は20代女性に急増していると言われています。
今回は、誰もがかかる可能性のある慢性疲労症候群についての説明や対処法とともに、女性に増えている理由についてご紹介します。
慢性疲労症候群とは、その名の通り慢性的な疲労感や体の痛みが続く病気のこと。
1930年代に新しい疾患として初めて医学雑誌に論文が掲載され、その後1988年にアメリカで慢性疲労症候群という名前が付けられた比較的新しい病気です。
英語表記では「chronic fatigue syndrome(コーニックファティーグシンドローム)」となり、頭文字を取ってCFSと呼ばれることもあります。
慢性疲労症候群で特徴的な症状は、原因不明の強い倦怠感が続くというもの。それに加えて、以下のような症状を訴える方が多いです。
こういった症状が長く続くのが慢性疲労症候群です。原因がわからない様々な不調をまとめて、身体的愁訴や不定愁訴と呼ばれることもあります。
誰だって疲れが取れないことや原因のわからない倦怠感が続くことはよくありますが、慢性疲労症候群は普通の人が感じている疲労感とは全く違うものです。
一般的な疲れや体調不良と違うのは、以下の3つの点です。
また、食事やお風呂などの最低限の日常生活をするたびにどっと疲れてしまうような疲れが特徴です。
風邪で熱が出て体が痛んだりだるさがある状態が常に続くようなものに近いです。
慢性的な疲労や全身倦怠感と聞いてもそれほど重大な症状はイメージしにくいのですよね。
しかし、慢性疲労症候群は放置していると寝たきり状態になる可能性がとても高い病気なのです。
慢性疲労症候群の患者のうち、一人では立って歩くことができず介助者が必要な方や寝たきり状態になっている方が3割にも上ると言われています。
確実な治療法がないことばかりが原因ではなく、疲労感や倦怠感のせいで病院に行くことができずに結果的に病気を放置する形になり重症化してしまうケースが多いのだそうです。
普通なら具合が悪ければ病院へ行こうとしますが、慢性疲労症候群になると病院へ行くことすら辛いほどの疲労感や倦怠感に襲われてしまうのです。
これは、寝込んでいる間に筋肉が落ちてしまったために、以前と同じように活動しようとしてもすぐ疲れを感じてしまうという状態です。
慢性疲労症候群は治療法がないので、体調が悪い時は横になっているしかありません。症状が悪化してくると活動する時間が減るため、筋力も低下していきます。
すると、筋力低下によってさらに疲れやすくなり寝込む時間が増え、さらに筋力低下が進行しもっと疲れやすくなる…という悪循環に陥ってしまうのです。
現時点では慢性疲労症候群の原因は特定されていません。発症する方が多く、症状が長期化・重症化しやすいことから、さまざまな機関が日々研究を行っている状況です。
などの誰もが感染したことがあるウイルスが原因で発症すると以前は考えられていましたが、現在はこれらのウイルス感染が原因ではないとされています。
その他、アレルギーが原因なのではないかとの指摘もされています。慢性疲労症候群の患者の内、半数以上がアレルギーを持っていることがわかっており、関連性が研究されています。
また、残りの半数の方は発症前から日常的に強い精神的ストレスや身体的な不調を感じていたと回答しており、心身の疲労が蓄積した結果発症するとも考えられています。
原因がわからないとなると、なぜ疲労感が続くのかが不思議ですよね。
慢性疲労症候群のあらゆる症状が起こるのは、何かしらの原因によって神経系の機能障害が起きているからだと考えられています。
などの働きに異常が起こった結果、通常なら回復できるレベルの疲労もなかなか回復できなくなり、慢性的な疲労感や倦怠感につながるのです。
また、寝たきり状態や一人での歩行も困難なほど重症化した慢性疲労症候群の患者には脳に炎症が確認できるケースも多く、脳の炎症が症状を引き起こす可能性も指摘されています。
厚生労働省が定めている慢性疲労症候群の診断基準を元に、セルフチェックシートを作成しました。
自分の感じている疲労感や倦怠感が慢性疲労症候群なのか、確認してみましょう。
身体的または精神的な持病がないことを前提としてください。持病がある場合、その病気が疲労感の原因として考えられるため、慢性疲労症候群には当てはまりません。
以下の項目のうち、半年以上続く(または頻繁に繰り返す)ものがいくつあるか数えながら読み進めてください。
いくつ当てはまったでしょうか?結果は以下の通りです。
1つでも当てはまるものがあり、その症状が半年以上継続しているのなら、慢性疲労症候群の可能性があります。
また、他の病気が潜んでいる可能性もあるため、なるべく早目に医療機関へ受診することをおすすめします。
病院でも利用されている診断基準を元にしていますが、あくまで自己診断ですので目安として考えてくださいね。
もしも慢性疲労症候群かもしれないと思ったら、病院へ行って診察を受けましょう。最初に受診するのは内科がおすすめです。
慢性疲労症候群の診断が下されるのは、いくつかの検査をしても異常が見つからず原因不明の疲労感だと判明した場合のみ。まずは内科で体調不良の原因を探ることから始めるのが適切です。
最低でもこれら全ての検査をして、それでも体調不良の原因が見つからなかった時に、初めて「慢性疲労症候群」という病名が付けられます。
これらの検査は個人病院などの小規模な内科でも全てできることがほとんどなので、体調が悪い中時間をかけて遠くの病院へ行ったり、待ち時間が長い総合病院へ行かなくても大丈夫です。
ただし、担当した医師の見解によってはCTスキャンやMRIなどの精密検査をすすめられることもあり、その場合は検査機器のある大きな病院へ行く必要性も出てきます。
こういった複数の検査をしても体調不良の原因が特定できなかった時に初めて「慢性疲労症候群」という病名が付けられます。
また、疲労感や倦怠感のみが強く他に症状がないケースでも、ガンなどの大きな病気が潜んでいる可能性があります。
検査することで他の病気が見つかれば、そちらの治療ができるので、疲れやだるさが長期間続く時は病院へ行ってみましょう。
慢性疲労症候群の診断を受けた場合、どこで治療を受けるのかが次に問題になります。
適切な治療を受けるためには、慢性疲労症候群に対して理解と知識がある医師や病院を探すことが大切です。
いくつかの大病院では慢性疲労症候群の専門外来を設けていることもあります。ただし、専門外来はとても数が少なく、現実的に通えない方がたくさんいます。
お近くに専門外来がない場合は、
からあたってみてください。
他の診療科よりは慢性疲労症候群を扱うことが多く、適切な治療をしてもらえる可能性が高いです。
最近ではネットからそれぞれの病院の詳しい診療科目を調べることもでき、慢性疲労症候群の治療をしてもらえるかもネット上から確認できます。
慢性疲労症候群は原因もメカニズムもまだまだ研究中の病気で、確実な治療法は見つかっていません。
そんな中で、有効だと考えられている方法が以下のものです。
慢性疲労症候群の特徴でもある疲労感や倦怠感の治療には、
などの投薬治療が有効とされています。
また、薬を使わない治療として、温熱療法が利用されることもあります。
この治療では体を温めることで、
といった効果が期待できます。
体の痛みなど、それぞれの症状を緩和する薬による治療も行われます。
慢性疲労症候群では身体的な疲労だけでなく精神的な疲労も強く、うつ状態や不安感への治療として抗うつ剤や抗不安薬が使われることも珍しくありません。
認知行動療法とは、自分の行動をよく観察し、症状に対してどんな対処をすればいいのか覚えていく治療法です。
などを、日記やメモに書きとめて確認すれば、全てではなくても体調をコントロールできるようになります。
そのため、症状に対しての認知行動療法だけでなく、疲労を感じる自分をどう評価するかなどの精神的な認知行動療法も行われています。
慢性疲労症候群は症状に個人差が大きく、また疲労感や身体の痛みなど他の病気でもよく見られる症状が多いため、誤診されてしまうことも少なくありません。
まず、初診の段階で間違われやすいのが風邪などのウイルス感染です。倦怠感や身体の痛みと言ったら、誰でも最初は「風邪かな?」と思ってしまいますよね。
風邪薬や感染症の薬には痛みや疲労を緩和するものがあります。
服薬している間は症状がある程度おさまるので、慢性疲労症候群の発見が遅れたというケースもあるようです。
また、上でも少し触れたように、慢性疲労症候群はまだ比較的新しい疾患であることと原因不明で治療法も発見されていないことから医師に知識が不十分なこともあります。
数か月たっても症状が改善しない場合は、別な治療法を提案してもらうか、セカンドオピニオンを検討してみましょう。
慢性疲労症候群と間違われやすいのが、以下の病気です。
どれもストレスや元々の体質が原因で体調不良が起こる病気です。これらは検査方法や診断が少々複雑なため、間違われやすいと言われています。
この他にも、疲労感や倦怠感に加え体の痛みが現れる糖尿病や関節リウマチと誤診されるケースもあるようですが、これらは血液検査で判明するためそれほど誤診は多くありません。
また、慢性疲労症候群と同じく、原因不明で身体的な不調が起こる以下のような病気も誤診されやすくなっています。
どれも原因不明で、さまざまな検査をしても原因がわからなかった時に付けられる病名です。
特に筋繊維痛症は慢性疲労症候群と症状が重なりあう部分も多く、医師の中には2つの病気を同じものとして扱う方もいます。
慢性疲労症候群に似た病気の中でも、誤診されやすいのがうつ病です。
うつ病は気分的問題だけでなく、疲労感や体の痛みなど慢性疲労症候群と同じような症状があり、慢性疲労症候群の患者はうつ病のようにセロトニンの分泌が減っていることが多いため間違われやすいのです。
それぞれの病気の大きな違いは、特徴となる症状です。
また、うつ病は喜びや興味が薄れるのに対して、慢性疲労症候群ではそのような症状はあまりないのが違いだと言われています。
1999年に厚生労働省が、2004年に文部科学省が行った調査では、数千人におよぶ調査対象者のうち約0.3%が慢性疲労症候群の自覚症状があると回答しています。
これを日本人全ての人口に当てはめると、なんと20~30万人以上が慢性疲労症候群を発症しているという驚きの数字になります。
そのうちの約6~7割は女性で、罹患率(病気にかかる確率)は男性の約1.5倍にも登ります。
さらに、慢性疲労症候群を発症している女性の年代は、ほとんどが20代から40代までの若い世代なのです。
なぜ若い女性に慢性疲労症候群が増えているのかの理由を見てみましょう。
よく女性の方が男性より勢いが良いと言われますが、女性は瞬発力があっても持久力がなく長期的なストレスには弱いという側面を持っています。
また、女性がストレスに強いと言われるのは自分の境遇や感情を口に出して共感されることで癒されてストレスを解消できるからです。
ところが、ゆっくりと会話を楽しむ時間がなかったり共感してくれる人がいなければ、ストレスがどんどんたまっていってしまうのです。
さらに、20代から30代にかけての女性には以下のような、大きなストレス要因があります。
仕事でキャリアを積むために無理をしたり、結婚していれば仕事と家事の両立で自分の時間を取れなくなるのはよくあることですよね。
さらに、今まで仲が良かった友達ともそれぞれが違うライフステージに立つようになり、話が合わなくなって誰にも愚痴や悩みを打ち明けられなくなってしまうことも多いです。
アメリカで行われた調査では、同年代の男性に比べて女性の方が2倍近く疲労を感じやすいと判明しています。
筋力差からくる体力の違いももちろんありますが、それ以上に女性は感覚的な部分が非常に優れていて、人の気持ちを悟る能力が高いです。
その結果、精神的なストレスがたまりやすく、
などへつながっていきます。
質の良い睡眠が取れないと心身の疲れも癒されず、慢性的な疲労感や倦怠感が長期化してしまいやすいのです。
また、女性には毎月生理があり、生理周期に合わせてホルモンバランスが変化します。
20代の女性ならほとんどの方がダイエットを意識していると思います。痩せるため、体型を維持するために、無茶な食事制限ダイエットをして栄養が偏っている方も多いですよね。
栄養が偏ると細胞の修復やセロトニンなどのホルモン分泌が正常にできなくなり、心身の疲労がどんどんたまっていってしまいます。
また、食事量が少ないとエネルギ―を生み出せず、慢性的な疲労を感じやすくなります。
慢性疲労症候群という名前や「疲れが取れない」という症状からは、とても本来の慢性疲労症候群の症状は想像できないと思います。
私自身も、今回こうして記事にまとめるまではもっと軽い症状の病気なのだろうと勝手に思っていました。
しかし、実際の慢性疲労症候群は起き上がることや歩くことも辛く、仕事にも行けないほどのひどい疲労感や倦怠感に悩まされています。
こういった辛さが伝わらず、周囲から怠けもの扱いされてしまうことがとても多いのです。
などと嫌味を言われたり、病気の症状すら軽く見られて辛い思いをしている方がたくさんいます。中には家族にも理解されないという方も…。
病気で気が弱くなっているところへ、家族にも理解されず支えてもらえないとしたらすごく辛いですよね。
周囲から理解されない辛さやイライラからさらにストレスが増えると慢性疲労症候群の症状は悪化しやすくなります。
さらに、精神的なストレスからうつ病などの気分障害や不安障害を併発してしまうケースも多いです。
元々、慢性疲労症候群の方はセロトニンの分泌に異常が見つかることが多く、うつ病は慢性疲労症候群の併存疾患として考えられています。
そもそも、慢性疲労症候群の症状が軽く見られやすいのはその名称にあると言われています。
そのため、現在は
などへの変更が検討されています。
慢性疲労症候群は発見されてから100年近く経つにも関わらず、未だに原因も治療法も見つかっていない病気です。一度発症すれば自然治癒の可能性も低いと言われています。
しかし、現在も研究は進んでおり、それぞれの症状を緩和する対症療法や病気の進行を食い止めるための治療を受けることができます。
なるべく早く、症状が軽い段階で治療を始めることができれば、症状を緩和することは十分にできます。
仕事や日常生活を送ることも辛いほどの、強い疲労感や倦怠感が続く時は無理せず病院へ行ってみましょう。
また、慢性疲労症候群を防ぐには、普段からこまめに体を休めてストレスを取り除くことが有効とされています。
がんばるのはとても良いことですが、自分を労わってあげるのも忘れないでくださいね。